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あるお茶会

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あるお茶会

 とある冬の日の昼下がり。
 いつの時代とも、どこにあるとも知れぬ屋敷の庭での、一風変わった少女達による、
 それは奇妙なお茶会。


 先ず言葉を発したのは、黒いドレスの少女でした。

「紅茶は口に合いましたか、フェアリー・テールさん」

 言って嫣然と微笑み、小さく首を傾げます。
 少女の小柄な肩から長く繊細な銀髪の一房がこぼれ、音もなく揺れました。

「ええ、ハルトシュラーさん。とても美味しいですね……少し不思議な味ですけど」

 フェアリー・テールと呼ばれた少女が、それに答えます。
 口をつけたティーカップをソーサーに戻す際、かちりとも音を立てないのは英国淑女の嗜みです。
 そんな彼女の装いは、ブルーのワンピースに真っ白なエプロン。いわゆるアリススタイルです。

「わかりますか?
 これは特殊なフレーバーをつけているのですよ。オリジナルの創作紅茶でね」
「はあ。オリエンタルな香りですね。
 それにしても……着る物を貸して頂けるならまだしも、よもやハルトシュラーさんに服を作って頂けるなんて」

 何故だか彼女は恥ずかしそうなご様子。いかにも少女然とした格好なのだから、それもそうですよね。
 それに気付いているのかいないのか、ハルトシュラーさんは厳かに答えます。

「淑女に軍服を着せるのも、粋ではありませんからね。
 服飾もまた創作です。これは私の業のようなものでね、お気になさらずに。よくお似合いですよ?」
「いえ、とても嬉しいです。ありがとうございます」

 照れながらお礼を述べるフェアリー・テールさん。
 そしてそれを見て、悪戯っぽく笑うハルトシュラーさんです。
 ひょっとして、わざとやってるのかもしれません。

「ふむ……しかし流石にフェアリー・テイル嬢は英国の方ですね。
 残念ながら日本茶に慣れているわたくしには、紅茶の違いはわからぬらしい」

 最後に口を開いたのは、小さな少女でした。
 女の子チックな衣装の二人とうってかわって、彼女が纏うのは燕尾服です。そんな彼女には、しかし最も目立つ相違がありました。
 彼女は、手のひらサイズの少女だったのです。

「フフッ、倉刀?」
「はい師匠。
 どうぞはさみさん、日本茶です。こちらにも同じ香りをつけてますよ」

 執事……もとい、弟子の少年が代わりのお茶を運び、はさみさんの前におもちゃの様に小さな湯呑を置きました。

「あ……忝い。わたくしは気を使わせてしまったようですね」
「フフッ、お気になさらずに。これは初めから用意していたものです」
「はい! どうぞ、是非召し上がって下さい」

 師匠と弟子は、にこにこと微笑みながらはさみさんを見ます。
 そんな二人を見て、はさみさんも照れ笑いです。

「いかがですか?」
「はい。とても、美味しいです」


 それは。
 とても長閑なお茶会でした。

「…………ハッ」


 ……おやおや?
 どうしたのでしょう。どうやら、誰かが鼻で笑った模様。

「……フェアリー・テールさん? 如何されたのですか」
「ま。聞こえてしまいましたか?
 いえね? 紅茶の味もわからない未開人に、味を云々する資格があるのでしょうかと」

 ……あれあれ?

「……ストレートの味も確かめず、ミルクをどばどば入れていたお嬢さんにだけは、云われたくないものですが」
「ロイヤルミルクティーの作法もご存じないなんて。
 ハッ、やはりその燕尾服も劣悪な模倣に過ぎなかったのですね」

 ……え~と。

「これだから、欧羅巴辺境の内弁慶国民は度し難い。
 先程の紅茶の香りの正体も、君は結局わからなかったのだろう。あれはハッカと四季柑のブレンドだ!」
「内弁慶! 貴女がそれを言いますか!
 それに、紅茶にはマスカットも入っていた筈です!」

 ……二人の罵り合いと睨み合いが始まっちゃいました。
 屋敷の中庭。テーブルセットを中心に渦巻く、穏やかでない魔力と妖力。
 ハルトシュラーとその弟子は、それを仲裁する事も出来ません。

「あ、あの師匠……どうしましょう?」
「……フフッ、アハハハハッ」
「師匠! 笑ってないで、二人を止めなくていいんですか?」
「クククッ、別に放って置いて良いのではないか? フッ、アハハハッ」

 暫く盛大に笑ってから、ハルトシュラーは言いました。


「……何しろ、箱庭生活はまだ始まったばかりなのだからな」

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