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記憶喪失した男入館

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記憶喪失した男入館

「つまリ、こういうこトだ!」
緑に包まれた巨大な屋敷の門前に、青年の姿がある。イリノイの埃とキリマンジャロの砂にまみれた身体。
彼はずんずんと中へ入ってゆく。
「ちょっと!いいのか勝手に入って」
行動と矛盾したことを口走りながら彼はエントランスを歩く。扉を開くと、あの声が口を開いた。
「やハりな!このタリバンの目に狂いナし!ここがベイこックノ最前拠点!」
玄関のホールは吹き抜けで、そこには大きな水槽があった。
円柱形をした広い水槽の中に、人の手のひらくらいの人間が列をなし、両手を左右に大きくゆっくりと揺らしながら歩いている。
彼らの頭部は鯵であった。
「魚人?嘘だ!何これ!?」
その時、後ろで異なる声がした。
「『記憶喪失した男』様ですね?お待ちしておりました……」    (完)



 「記憶喪失した男」入館――







「おかシい。実に面妖ナことだ」
 青年の口が開いた。
「彼奴等はとウに展開したと報告を受けテいたのだが、まだ毛ほドも痕跡を見出さん。気に食ワんな」
 機械じみた電子音声のようである。女性の声らしくもある。不自然にミュートのかかった声。
銀杏が両側に並ぶ通り、歩いているのは、ただ彼一人。それもそのはず、時刻は午前三時を回る。
「何がだ。大体歩きながら喋くるな。不審だろうが。伝わるんだから内言で話せ」
 と、これは流ちょうな日本語。同じく発したのは歩いている青年である。
「うるさイ。気が散ルから少し黙っテいろ」
奇怪な声が答えた。青年は地下鉄の駅へと歩く。生ぬるい風が吹き上げてくる入口の階段を降りながら、なおも声は呟く。
「電子の世界。想像上ノ場所。しかして具現化しタ共通概念……箱庭……」

ガスが止められてしまった薄暗いアパートの一室に、あの奇妙な問答が続く。
「彼奴等の居場所がわカったぞ。つまりこの次元の場所ではナいのだ。それはデータとしての場所」
「で、どうするんだ?」
「こノ次元のれベルなら、この肉体はどコへでも存在できる。コノよウニ!」
寝床の上に横たわっていた青年の影がかき消える。

 青年の姿はイリノイの路傍に見られる。ちょうど、地平線の向こうに赤い夕陽が、徐々にその姿を消していく。
あの声が叫ぶ。
「コのヨウニ!」

 彼はキリマンジャロの麓にいる。
「わかったよ。わかったから帰ってくれないか」
「コノよ」
「やめてくれって!!」
「……つマり、相対座標さえアればどコにでも存在でキるのだ!」
「結果下半身が岩の中にあるんだがな」
 灰色の砂をかぶった岩から、青年はくたびれたように横ざまに生えている。
「まあ待テ、元の位置だロう?今から……オっと」
「どうした」
「精度が期待でキないが、それでモいいか」
「どういうことだ」
「つまリ、地球は公転シているってコとだ。正確な座標ガ取れなくなった」
「知らんぞ」
「そんナ無慈悲な!貴様のメッかハどこにある!」
「秋葉原のことか?お前と違ってメッカには縁もゆかりもないがな。今や電気街としての面影は半減しているし。早くここから出せ」
「アッラー総監から怒ラれる!!大体貴様はベいコックの諜報員だったノだ。そク処分してイいところを記憶を消シて生かしておいてルんだぞ!誠意ヲ」
「記憶ないんなら問題もないだろう。それからフィギュアは返してくれ。お前だろう?親父にあれらを送ったのは。おおかた俺の意識がない睡眠時に梱包したな?」
 岩から生えた青年の上半身は風と砂に煽られている。
「偶像礼拝反対!偶像礼拝反対!」
「いいからさ、どこかへ行こうぜ」
「どこかッてどこサ?」
「ここではないどこかさ!!」
「…………」
「…………」
「待てよ?行ケるぞ!お前携帯ヲ出せ!」
「自分で出せ。どちらにせよ変わらんだろう」
「インたーネットにワイやレス接続しロ」
「自分でやれ。以下略」
「やれヤれ……よし、できそウだな」

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