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はさみさん入館

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はさみさん入館

 人気の全くない郊外で、彼はバイクを停めた。
「え~と。ここ、なのかな?」
 そこは、古めかしい屋敷であった。
 バイクの荷物を探りつつ目だけで表札を探すが、それは一向に見つからない。
 不安げに地図と周りの風景を見比べるが、見渡せる範囲に目印になりそうなものもない。
 だが逆にその事が、上司に教えてもらった情報に一致していた。
 ここで間違いない。彼はそう思った。

 金属製のゲート付近にはインターホンすらなかった。
「す、すいませ~ん。ごめんくださ~い」
 そう呼びかけてみるが、返事はない。
 恐らくは、屋敷に届いていないのだろう。声が小さすぎるということは、彼もわかっていた。
 だがどうしても腹に力が入らない。
 それは彼自身も無意識下でしか気付けなかった、何者かの気配のせいであるかもしれなかった。
 もう一度だけ、頑張って声を張り上げようかと思ったところで、彼は門扉横の小さな箱に気付いた。
 その箱の表面、箱の蓋部分にはこんな張り紙がされていた。

<御用の方はこちらを開けてください>

「…………」
 開けなければ、ならないのだろう。
 彼は意を決して、蓋を開けた。
 その中には――小さな印鑑が入っていた。
「……え~と」
 考える。
 それは、彼が仕事を終えるのに十分な道具。
 恐らくは――そういうことなのだろう。

「た、宅配便、置いときますよ~!」
 そう叫び、配達員である彼は逃げるようにその場を立ち去った。


 バイク音も完全に遠ざかったしばらく後のこと。
 屋敷の前の、箱詰めされた小さな荷物である。
「……ふむ? そろそろ着いたのだろうかな?」
 くぐもった声が包みの中から聴こえた。
 そして次の瞬間――箱の上部から刃が生えていた。
「ふむ」
 箱は瞬く間に解体される。
 パタンパタンと、外装が地に落ちて一呼吸の後。
 そこには人に似た小さな影があった。
「果して長いのか短いのか、よくわからない道程であったものだ」
 呟きながら、小さな手で燕尾服の埃を叩く。
 やがて裾と襟元の皺に妥協すると、小さなその影は屋敷を見上げ、小さな溜息をついた。
「此処か……わたくしが、暫く厄介になる館は」

 その姿は、さながら童話に出てくる妖精か、小人の少女のように見えた。
 ――その両脚が、鋏になっていること以外は。


   ―はさみさん入館―

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