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ハルトシュラー・倉刀入館

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ハルトシュラー・倉刀入館

 田舎という言葉を地形に置き換えれば、このような景色が広がるのだろう。
 まさしく、ここはそんな集落だった。
 地図でみれば、一体どのような座標に位置するのか。僕は知らない。

「師匠、ここはどこなんですか?」
「駅名を見なかったか? 箱庭だ」

 先ほど改札を抜けた木造の無人駅を思い出す。
 自分の記憶の中には、そんな奇妙でインパクトのある地名は入っていない。
 途中、惰眠を貪り目覚めた辺りから、気がつけば全く覚えのない地域を電車は駆けていた。

「それで、ここはどの辺なんですか? どうにも電車の中の記憶が曖昧で……」

 僕の納得しかねている表情を見て、師匠である少女はしばし思案する。
 黒いスカートが、銀色の髪が、風と歩く所作にフワフワと踊っていた。
 キャリーバッグのタイヤとアスファルトとが、小気味の良い音を奏でる。

「そうだな。強いて言えば、ここは舞台だ」
「舞台? 演劇でもやるんですか?」
「似て非なるものだ。生活に近い」
「ええ!? 引越しするなんて聞いてませんよっ!」

 師匠が小さく笑みを浮かべ、無言を肯定として返す。
 寂れた橋を過ぎる。周辺はだんだんと、閑散とした光景に変わっていった
 やがて、集落の外れにある大きな屋敷の前で、少女は足を止める。

「さて、ここだ」
「……いい場所ですね」

 古いが手入れが行き届いた木造建築の洋館は、なかなかの趣がある。
 そして、まるで世界を倒錯したかのような、不思議な雰囲気も同時に纏っていた。

 館の門には、木製の看板で、「箱庭館」と書かれていた。



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