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Report'From the AnotherWorld 第2話

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mintsuku

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Report'From the AnotherWorld 第2話




「いい眺めだ……」

 空は一面の星空だった。
 生い茂る草は毛布のように身体を柔らかく支えてくれる。露がおりている為に身体が心地よく冷えていく。

「これが罰か」

 クリーヴは言った。壁の手前で彼は寝そべって居る。身体の自由は既に効かなくなっていた。
 唯一、かろうじて動くのは口だけだ。それもそのうち動かなくなり、呼吸は止まるだろう。彼はそう予測している。
 随分と残酷な殺害方法だが、下手に手を下すよりはいい。綺麗な死体ならばただの変死体だ。

「空だ……。同じ空……」

 譫言のように繰り返す。
 彼らの攻撃はクリーヴの肉体を確実に機能停止に追いやって行く。もう時間は無かった。
 空には渡り鳥が飛んでいるのが見える。それを追う光線はまるで流れ星のように空に軌跡を描き、そしてチカチカと空を輝かせて行く。
 どうせなら俺もあれがいい。クリーヴはそう思った。

 唇の動きが緩慢になっていく。舌が重力に従い下りて来る。
 そしてクリーヴは呼吸を止め、ひっそりと苦しんでいる。
 これが罰。クリーヴが死の間際に思った事の一つ。
 奇跡を。これがもう一つ、クリーヴが最後に考えた事。 彼は奇跡を信じて、ゆっくりと自身にとって三つ目の世界へと旅立っていった。


※  ※ ※


 室内が慌ただしい。赤いカーペットの廊下は人が慌ただしく駆け回り、ここまで人が居たのかと思わせる程の混雑振りだ。戦争でもここまで騒がしくはならない。
 体格のいいスーツ姿の男性が扉を開く。
 扉の奥に居た人々は一斉に彼を見て、そして皆、同じ事を言った。

「大統領」

「レポートが届いたってのはウソじゃ無いだろうな?」
「もちろんです。メモリーの大半は何者かの攻撃でダメージを受けてましたが、復旧出来たデータも有ります。それだけでも途方も無い容量で……
 回収出来ただけでも奇跡的な事です」
「インサイダーはどうした?」
「……いえ、メモリだけです」
「レヴィン少将は来ているか?」
「執務室に。届いた音声データの再生準備をしています」
「よろしい。早速聞いてみよう」

 大統領とその側近達は一斉に小さな会議室のような場所に移動し、それぞれの席に着く。そして、イヤホンを耳に突き刺し、音声の再生をする。

 最初に聞こえて来たのは、冒頭のメッセージ。それは個人へ向けた物だった。
 では、聞いてみよう。彼のレポートを。

『友へ。
 あれから十年が立った。こっちでは時間はそちらと同じように流れるが、季節の行事やなんかはメチャクチャだ。最初は一年計るだけでも一苦労だ。
 俺は今、閉鎖都市の中の雑居ビルに部屋を借りている。こっちで生活する為の仕事も見つけたよ。
 中はいわゆる都市となっている。人々のほとんどは外の事など知らないし、興味も無い連中がほとんどと言っていい。

 ……どちらがいい世界か。
 それは解らない。こっちもそっちも変わらないと思う。所詮、世界を造るのは人という事だ。
 笑い、泣き、争い、そして血を流して死ぬ。これだけは人の本能なんだろうと思う。


 ……前置きが長くなった。
 結論から言おう。調査はまったく進展していないと言っていい。いや、正確には膨大過ぎて調べても調べてもキリが無い。
 今までに集まった資料だけでも既に途方も無い量だ。
 お前達が懸念していた安全保障に関する問題は無いと思う。
 お前達の世界と中の世界は違うんだ。中の世界は『中の世界が全て』なんだ。
 こっちでも戦争は起きている。平和な場所もある。
 かと思えば街ではギャング連中の抗争が起きたり、やたらと裕福な連中が居たり。何も変わらない。変わらないんだ。ただ一つ言える事は、もう俺はこの世界の住人だと言う事だ。

 最初に閉鎖都市に入った夜、俺は見たんだ。この世界の始まりに関与している連中を。
 奴らは来る者は拒まないだろう。だが、出ていく事は許さない。侵入に使った穴は一晩で最初から無かったかのように消えていた。人の業ではない。
 俺は連中の正体が知りたい。
 世界の始まりを、世界を別けた理由をだ。

 おそらく一生かかっても難しいだろう。ここの人達は何の疑問もなく壁に囲まれ生活している。俺も少しずつそうなっている。
 『世界そのものに疑問を持つ事』
 これは異端者の思考だ。そっちでもこんな奴は精神病院に入れられるかカルト教団の親玉に仕立て上げられる。
 こちらでも同じだ。
 くどいようだが、こちらはもう別世界だ。
 俺の事は死んで天国にでも行ったと思ってもらって構わない。
 あの資料をめくる時にお前は言ったな。『もう戻れない』と。皮肉にも言葉通りになったよ。

 俺が今まで集めた資料の中で、外に持ち出したいという物をピックアップしてホログラムメモリーに記録した。
 圧倒的な容量だ。いくらでも入る上にとても小さい。
 内容としては人々の生活や内部での政治形態。戦争や犯罪に至るまで。サンプルになりそうな物を選んだ。
 そうそう。俺はこっちでもカメラマンとして生きている。もはや天職というより呪いだ。逃げられない。

 結婚もした。彼女は俺が外から来た事を知らない。いつか話せる時がくればいいが。
 ……あと、十年で僅かに手に入れた『世界の創設者』達に関係すると思われる情報も入っている。
 オカルト話に近い物から割かし具体的な物まで、意味が有りそうな物を纏めた。

 最後に、これだけは言いたい。俺は後悔はしていない。
 こっちでそれなりに幸せに、そしてスリルに満ちた生活をしている。
 唯一、気にかけている事といえばレヴィン。お前に会えない事くらいだな。元気にやっているか。俺は元気だ。

 このホロメモリは渡り鳥の脚に括り付ける。山を越える連中なら壁も関係ないはずだ。
 もし奇跡が起きるなら、きっとお前の手に渡っているだろう。

 さよならだ。レヴィン。

 以上、クリーヴ・サラハンより。個人的な報告だ。


 さて、それでは何から話そうか――

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