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正義の定義 ~英雄/十二使徒~ 第5話 2/2




 「なんだよそれぐらいの事で!別に遊ぶくらい良いじゃんかー!」
 少年は薄汚れたTシャツに丸坊主の頭のいかにもやんちゃな子供だった。少年の言葉に他の子供達も「そーだそーだ」と口々に
反抗する。そんな彼らの態度に腹が立ったのか
 「子供は黙っていろ!!」
と怒鳴り散らす大人達。子供達は一瞬にして黙り込む。先程の少年も、大人の怒声に恐れ慄きながらも懸命に抗議する。
 「な、なんでそうやって一方的にコイツらのことをいじめんだよぉ…なんで大人はコイツらの話を聞いてやんないんだ!!」
 「異形は…我らの街を滅茶苦茶にしたとき…我らの言葉に耳を傾けたか?」
 「そんなの昔のことじゃんかよぉ…こいつらはカンケーねーよ…」
 「もういいよ…私達が帰れば収まるんだから…」
 異形の少女の一人が丸坊主の少年にあきらめの表情を見せて言う。少年は納得出来ないのか拳を強く握った。
 「でも…コイツらにちゃんと話を…なぁ、少しくらい聞いてくれたって」
 「黙れい!!化物の言葉なんぞ聞く余地はない!」
 「ちきしょー…大人だからってえらそうに…お前なんか俺の剣術で…!」
 「生意気な!言う事を聞かねばこれだぞ!」
 大人の一人が空に一発、銃弾を撃つ。これは"どんな抵抗をしても無駄だ"という脅しである。
 この時、トエルの中では様々な考えが渦巻いていた。助けるべきか、傍観すべきか。人間に危害を加え、異形の肩を持つのは
いけない事だ。だが銃声により"危険は未然に防ぐべき"という事項が優先され、弱い立場である子供達を助けるという結論に至
ったのである。勿論、これにも感情的な意思は干渉してはいないのだが。
 気づいた頃には、トエルは大人たちを気絶させて、ワイヤーでぐるぐる巻きにしていた。
 「…はっ!?やっちまった!ふぇふぇ!」
 「なんだおまえ、スゲーな!!」
 丸坊主の少年は、突然現れ自分達の窮地を救ったトエルに興味を示していた。
 一方、咄嗟の事とはいえ、異形の肩を持ってしまった事を反省するトエルであったが、なぜだかこの異形を殺す気にはなれず、
悶々とするばかり。先程の不可思議な声を聞いた後からどうも調子がおかしい。トエルは、帰ったら何処か故障していないか官兵に
調べて貰う必要があるなとトエルは思った。
 「ありがと…あなたのおかげで助かったよ…」
 異形の少女はそう言ってトエルに感謝の気持ちを伝える。異形に感謝されるのは、ある意味トエルの存在の根本を揺るがす事で
あるのだが。
 「ふぇ!たいしたことじゃないですし!こどもはおうちにかえってウニメでもみてな!ふぇふぇ」
 「いや、お前も子供だろ…」

―――…

 「トエルちゃーん…」
 いなくなってしまったトエルを探す陰伊と白石。
 「何処いったんだあのちびっこは~…」
 「やっぱり、こっちで勝手に楽しみすぎたのかな…」
 見渡したところ、辺りにトエルらしい幼女の姿はない。金髪ツインテールの生意気幼女は何処へ消えてしまったのかと途方に
くれる二人。そんな二人に近づく影が一つ。
 「ちょっと、いい?」
 「はい?」
 陰伊に話しかける謎の人物。顔はフードで良く見えないが、肩に乗せているペンギンがプルプルとバランスを取っているのが
嫌でも目に入った。何でこの人ペンギンを肩に乗せているんだろう?重くないんだろうかと呆けに取られる陰伊であった。
 「ねぇ、聞いてる?」
 「はい!なんですか?」
 「森喜久雄…と言う男を探しているんだけど…知らない…?」
 知らない名前だ。陰伊が「ちょっとわかりませんっ…」と答えると、「ああそう」と一言だけ述べて去っていった。一体、何者だった
のだろうか?思い出せるのはペンギンの必死な表情だけであった。
 「陰伊ちゃん…さっきの人…何?」
 「なんだったんだろ…?」

………………

 「くそ…この私に歯向かうとは…一体どこのどいつだ…!私の首を狙う愚か者どもは!」
 「"森様"、例の開発計画の件ですが…」
 「あぁ、分かっている。それより英雄の方々の様子はどうだ?」
 「お変りなく、見張りに付いているようです。一応、我が警備隊の者にも見回りをさせています」
 「そうか…頼むぞ…私はまだ死にたくないのだからな…」

………………

 「ふえー、ここがひみつきち…」
 「助けてもらったお礼だ!特別に見せてやるよ!」
 少年たちに連れられるがまま来た場所は街の外れにある山の一角。落ち葉も枯葉もそこら中に散らかり放題な秘密基地へと
案内されたトエル。正直自分の所属する機関の本部に比べたら「ホームレスハウスや!」なんてレベルだけど。いや、別に
ホームレスの方々を馬鹿にしている訳じゃあないさ。ただ、ダンボールだの、針金だので形作られるそれはホームレスの人の
お城と何ら変りないよねっていう。
 「おい、お前ぶっちゃけショボ!とか思ってんだろ?」
 「ふぇ!そんなことはおもってないし!ただ『ちょwこれであまかぜをどうやってふせぐの?w』とかはおもった」
 「やっぱり馬鹿にしてんじゃねーか!」


 「はい、お茶どーぞ」
 「ふえぇ…」
 秘密基地の中は案外広々としていて思ったより快適な空間だった。おそらく自分たちで作ったであろう不恰好なテーブルや、
お世辞にも上手いとは言えない絵画の真似事をした落書き。それでも子供達にとって、ここは大切な場所であるということは
ひしひしと伝わってきた。因みに、トエルは機械なので異形の少女の出したお茶には手をつけなかった。

 「そういや、お前このへんじゃ見ない顔だな、なんて名前だ?」
 「ふぇ!トエルというなまえをせんじつ、ちゅうにびょーのおとこからさずかった」
 「トエルか…俺は屋久島タケゾー。ここいらの連中をまとめるリーダーだ」
 どうやらこの丸坊主の少年がリーダーであるらしい。一見ただのはなたれ小僧にしか見えないが。なるほど確かに腕っ節は立ち
そうな、喧嘩っ早そうな、ガキ大将に必要な要素は揃っている。
 「私は…焔。こっちの無口な子は火燐」
 「…ふん」
 異形の少女は自分の自己紹介と、自己紹介をする気のないもう一人の少女の代わりにトエルに紹介した。
 「私達二人は…次元龍の末裔なの」
 「じげんりゅー?」
 「なんでも、次元に干渉する力があるんだってさ。難しーことはわかんないけどねー。あ、あたしはカナミっていうから。よろしくね」
 子供の一人が横から口をはさむ。ショートヘアーの活発そうな女の子だ。
 「私達は、この地域一帯を守る龍神の一族だったんだー…」
 焔はそう言い、今まで頭にかぶっていた帽子を取る。その頭に隠されていたものは…白銀の角であった。トエルはその美しい角に
これといった感想は持たなかったが、強い魔素の流れがその角からは確認できたのを見逃さなかった。
 「ふえー、だったらさっきみたいにまちのにんげんにおいやられることはないはず、ふぇふぇ」
 「大人は…異形の話なんて信じないんだよ…昔とは違う」
 無口な方の次元龍、火燐はそう語る。
 「しょうがないと思う…あの街は…一度異形達に襲われて、街を滅茶苦茶にされたんだから…異形をよく思わないのは仕方ないもの
…」
 今も結構滅茶苦茶な街並みではあるが…。それ以上に悲惨な状況だったのだろうか?
 「それに…今の私達には、人々を守るほどの力はない…今ここ一帯を災害から守っているのは…この山の地脈なの…」
 「でもよぉ…この山…もうすぐ街の連中が地域開発で更地にするつもりなんだってよー…ふざけてるよな…」
 もしそんな事になれば…この一帯を大災害から守るものはなくなる。それに…
 「秘密基地もなくなっちゃうし、二人の住処もなくなっちゃうし、ああもう役所の連中さえいなかったら…!」
 「そんな事をいうのはやめて…かなみちゃん…」
 「焔は悔しくないのかよ!役所の人間に好き勝手されて…!」
 タケゾーはドンっと地面に拳を叩き付け、憤怒を露にする。そんな彼の問い掛けに、焔は静かに首を横にふった。
 「私は…」

 「私は…私の役目は…人間を守る事…だから…」

 「…!」
 それはトエルたち英雄と何も変わらない。"人を守るということ"…異形でありながら人を守ろうとするなんて、トエルには全く以て
理解ができなかった。トエルのデータにある異形像のどれにも当てはまらぬ、異例。
 「私は人間が好きだし…少数だけど今も信仰してくれる人はいる…そう、ここの皆みたいに」
 「焔…」
 「だから私は、人を憎むとか、そういうの…できない」
 焔に人々を守る力がなくとも、彼女は立派な守り神であった。

 「……焔…」
 「ほむっち…」
 子供達は口々に彼女の名を呟く。そこに異形だとか人間だとか、そういったしがらみは一切感じられなかった。
 「ほら、何皆しんみりしてるの?今日はお客様も来てるんだから、こんな染み臭い話はおしまい!みんなで楽しく遊ぼー!」
 「ふえ、よーしいまからホモからにげきれたらごまんえんおにごっこするぞー」
 「ははは!フツーの鬼ごっこでいいじゃん~!」

 こうして、楽しい時間は過ぎていった… 

―――…

 「ふえー、ただいま」
 「トエルちゃん…どこいってたのー!?」
 夕方。街へと戻ってきたトエルを見つけた白石と陰伊は何処に行っていたのかとトエルに聞いたが「ようじょとマウスのなかのひと
のことだけはしつこくきくな!」とだけ言い残し、全く取り合わなかった。いつもと変わらない様子ではあったが、心なしか少し服が汚
れているように思えた。

 (…あのいぎょー…けっきょくたおしそこねた…)

―「トエルちゃん、また明日も遊びましょ?私達は――…」―

 …まぁ、ひとりぐらい。いいよね?だって…



―――…

 「ねえ、明後日の事…本当にやんの…?」
 カナミとタケゾーは各々の自宅への帰路へと着いていた。彼らは焔達と違って街の人間。親たちが彼らの帰りを待っている。
 「ああ…だってよ…このままじゃ焔達が…大丈夫、騎龍の力とお前の魔法。そして俺の剣術さえあれば…一応他の皆だって…」
 「でも、子どもだけでそんな…今までの悪戯とは訳が…」
 「やるっきゃねーだろ!正しい事をすれば、それは必ず報われる…じっちゃんも言ってた!」
 タケゾーの目に迷いはなく、その意気にカナミも押し負けてしまう。
 「わかった…けど…どうなってもあたしは知らないかんね」

―はるかに数えたヤシの木は、ただの、きみの助けを借りてー…

 「!?…だれだ!?」
 どこからともなく聞こえてくる歌声。得体の知れない声に警戒するタケゾー達。

―あしたにとぶすきなきみだけに僕の、呼ぶペーンギンかかか…

 歌声が途切れ、それと同時に突然二人の目の前に現れたのはペンギンを肩に乗せた怪しげな人間。

 「今の話…詳しくきかせてもらえない…?」
 「あんたは…?」
 「私?私はねぇ…」

―――…

 「ふぇ!りょーさんがたとかでたらそれ、しぼうフラグだから、マジかんべんな!」
 「確かにお前みたいなのがたくさんいたらウザそうだなー」
 「んだとこのムッツリが!ぬかにつけるぞコラ!ふぇ!ケツだせオラ!オラオラ!」
 日も落ち、用意された宿に宿泊する英雄一行。食後は特にすることが無いので暇つぶしに他の連中とじゃれ合っていたりしてい
る。こうして見てみると、修学旅行中の学生のようである。部屋は畳の十分な広さの部屋が4部屋も。これだけあれば全員が無理
なく寝泊りができる。
 窓からは夜の街並みが自由に見回せ、風通しも良い。数日過ごすには申し分ない旅館だ。夜は夜で、街は日中とは違った姿を
見せる。和洋折衷とはよく言ったものだが、これは正にその言葉の通りの風景と言える。
 「というか…武藤さんは一人部屋なんだね…」
 部屋割を覗く陰伊がポツリと呟く。
 「まぁ…そうだろうよ…一緒に寝たくないしなあの人とは…こえーこえー…」
 「ふぇ?ほられるてきないみで?」
 「どーこでそういう知識をたくわえてくんのかなーこの幼女は!」
 青島は最近の小学生はどこからそういう知識を身につけてくるのか予てよりの疑問であった。そしそれはてトエルの情報元と
イコールなのでは?などという青島にはよく解らん根拠があったが、まあ大体あってる。
 「ふぇ!ようじょのじょうほうもうなめんな!かくしてるようだけどおまえのせーへきとかばればれだぞ!ふぇ!」
 「なにィ!?俺がヨダレフェチであることがバレるなどそんな筈が…!」
 「え…?」
 「青島くんそれは引くしょやー」
 一気に冷たい視線に包まれる青島。トエルはそんな彼をにやりと笑い。
 「バカがみるー」
 「な…ハメたなぁァァぁぁ!!」
 「ヨダレとかーまじひくわーふえー」
 「おかーさーん!俺こんなんだけど今日も頑張って生きてまーす!」

 青島はムッツリスケベで変態だということがわかり、炎堂が「夜中にうっせぇんだよ!もう寝ろ!」とキレてきたので今宵はお開きと
なりました。

 皆が寝静まり、窓から月明かりが差し込む中、トエルは一人、今日の出来事を振り返る。

 (きょうは…なにかおかしかった。へんなこえはきこえるし、いぎょうはころさないし…こしょーだなこれは。ふえ。でも…)

 「わるいきぶんじゃ…なかった」

 トエルは機械。この思考もただのプログラムでしか無いのかもしれない…

 「あした…またあえるかな……?」

 それでも…この気持ちに偽りが無いことは確か。プログラムでもいいじゃないか。人工物でもいいじゃないか。

 ここにたしかにある思いは紛れもない彼女自身の物なのだから…


                                             ~つづく~


―次回予告

―それは、偶然で必然の出来事でした…―

―誰もが自分の正義を持っていて、誰もが誰かを助けたいと思っている―

―互いに譲れないものがあって、それを理解していても―

―一度戦いが始まれば、もう止めることは出来ない―

―"自分が正義だ"そんな思いを胸に、戦場へといざゆく君は―

―どうして涙を流しているの?―

―争いって、悲しいね―

―次回、正義の定義第六話
       『テロリストのウォーゲーム』



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