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ややえちゃんはお化けだぞ! 第2話

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eroticman

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ややえちゃんはお化けだぞ! 第2話




「おいおい……マジで死んじまったってのか」



 少し前、不可抗力で殺人を犯してしまった高校生カップルを主役にした、鬱展開ドラマ
があった。
 当時色々と世間を騒がせたものだったが、流行り物から目を背けてしまう傾向にある俺
にとって、話題作りのために見なければならないそれは苦痛以外のなにものでもなく、
とても苦い思い出となっている。

 そして今、なんの因果かそのドラマの中で行われていた会話と全く同じやりとりが、
自室で交わされていた。

「ど、どうしよう……」

 ただ被害者が俺自身であるという部分が、ある種ユニークと言えなくもない。

 まあユニークという一言で済まされるほど俺の人生は安いのかというと、自信を持って
「ノー」とも言いがたく、とはいえ「そう気にするな」などと言える状況でもない。
 ぴくりとも動かない自分の死体を見下ろしながら頭を抱える一方で、その原因となった
夜々重といえば、ちぢこまって謝るばかり。

「……怒ってる?」
「いや、そういう問題じゃねえ」

 とにかく今は蘇生することが第一だ。このバカ幽霊を叱るのはその後でいい。床に落ち
ていた死徒手帳を拾い上げ、もう一度さっきのページに目を通す。

「担任教師に連絡って書いてあるぞ」
「か、書いてあったね」

 なぜか目を逸らす夜々重を覗き込むようにして、もう一度同じ言葉を繰り返した。

「担任教師に連絡しろってよ」
「いやあ……そうなんだけど」

 再び腰をよじって視線を避け続ける夜々重。不思議に思い壁際まで追い詰めると、観念
したかのように信じられないことを言い放った。

「せ、先生ね。ものすごく怖いの」

 俺はゆっくりと目を閉じて、たっぷりの空気を吸い込む。
 恐らく肺を満たしたであろう空気は怒りという名のエネルギーで膨張し、やがて臨界点
に達する。

「お前、バカか!」
「ひゃっ!」

 しゃっくりみたいな声と同時に夜々重の鈴が、がらりんと鳴った。

「じゃあなにか? お前は先生が怖くて連絡を取りたくないから、俺に死ねってのか?」
「そそそうじゃないけど、本当に! で、できれば穏便に済ませられないかと!」
「冗談じゃねえぞ! そんなもんクソクラエだ、責任とれよ、このバカ幽霊!」
「バカ幽霊……ってひどい!、怒ってないって言ったくせに! 嘘じゃん!」
「お前な! っていうか……ああ、もう!」

 この緊急事態がまるで子供の口喧嘩のようになってしまい、言葉に窮した俺は思わず
両手で顔を覆った。その手はひんやりと冷たく「ああそうか、俺も幽霊だからな」などと
納得していると、不本意ながら頭の方も冷えてきたようだ。

 指の隙間から覗く自分の死体からはよだれなどがたれ始めており、大変痛々しい表情の
中で見開かれた瞳は、ぼんやり白くにごり始めていた。
 マズイ、何かマズイ。それほど人体に詳しいわけではないのだが、このままでは非常に
マズイのではないかと、頭の中でエマージェンシーコールが鳴り響き始める。

「わ、悪かった。怒ってるわけじゃないんだ、すまん」
「絶対ね?」
「とにかくこれを――というか俺の身体を何とかしてくれ。このままじゃ腐っちまう」
「うんわかった、調べてみる」

 夜々重は薄汚れた巾着袋から何冊かの本を取り出すと、それを丁寧に床に並べて腕を
組み、何度か唸ってから一冊の本を指差した。

「これ! これに書いてあったはず!」
「やさしい保健屍育?」
「私、この成績はいいのよ!」

 出掛かったツッコミを口元で殺す俺の気持ちなど知らず、夜々重は目で目次を追うと、
ぴたりとその動きを止めて本をめくった。
 どうもこの巾着袋は夜々重の通学カバンであるらしく、中には幽霊学校のものと思われる
教科書や道具が満載されているようだ。

「いい? 読むよ?」
「お、おう」

 その内容がどういったものかは分からないが、今はそれにすがるしかない。

「まず内臓と脳を丁寧に取り出し、内表面を熱いコテなどで焼きます」
「よしわかった、まず内臓だな。――って内臓?」
「うん、そう書いてある。それで表面が乾燥したら、取り出した内臓は瓶に保管します」
「瓶?」

 ぱたんと教科書を閉じて、したり顔の夜々重。

「壷でもいいみたい」

 俺は夜々重の手から教科書をふんだくり、窓に向かって投げ捨てた。

「ミイラか!」
「え、なにが!」
「何がじゃねえよ! ちょっとそれ貸せ!」

 悲しいほどの怒りに身を任せて巾着袋を逆さに振ると、奇妙な物品がばらばらと床に
落ちる。俺はその中から、和風柄にデコレーションされた携帯電話を見つけ出した。

「あっ! それはだめっ!」
「うるせえ!」

 コイツは恐るべきバカだ。もはや天然などという萌え要素を含んだ言葉は相応しくない。
俺は自分の運命を呪った。既に呪い殺されているというのに、自分でも呪った。

 そして強く首を振る。こうなってしまっては自分を頼るしかないのだ。

 遅刻常習犯で教師恐怖症という二つのキーワードから、この携帯電話に教師の着信履歴
がある可能性は高い。
 掴みかかってくる夜々重を片手で制しながら、ぱちんと木製の携帯を開いて、人間の
ものとは少々――いや、結構違う部分もあるのだが、竹筒でできたダイヤルをぐるぐる
回し、果たしてそこに「鬼先生」なる履歴を見つけ出すことに成功した。

「かけろ! どうすればいいか聞け!」
「わ、わかったわよ……もう、本当に怖いんだからね!」
「知るか!」

 夜々重はしぶしぶといった表情で携帯を耳にあてていたが、どうやら電話が通じたらしく、
何度も「しゅみません」を繰り返しながらぺこぺこしていた。
 時折携帯から漏れ聞こえる野獣の咆哮みたいなものに疑問を感じつつ、俺はさらに巾着
袋の中を漁る。

 死徒手帳に書かれていた解呪というものが、死んでからも効果があるかはわからない。
だからといって他の方法を探している余裕もない。つまり「効果はある」という前提の上
で次なる行動の準備をせねばならないのだ。

「ち、違うんれす! 今日遅刻したのはおなかの調子が悪かったからで……その」

 閻魔大帝もしくはその親族との謁見。
 それを夢だと思っていた俺はついつい笑い飛ばしてしまったが、不正や賄賂にまみれた
手続きの上にそれが成り立っていることは想像に易い。恐らく謁見の順番など、弱者には
永遠に巡ってこないのだろう。

 どうする、どうすればいい?
 いっそ自分で言ったみたいに、殴りこみにでも行くか?
 いや、そもそも地獄ってどうやって行くんだ?

「せせ、先生。しょれで、もう一つ大事なことが……」

 考えれば考えるほど不安はつのり、焦りが思考を気化させていく。そんな途方もない
時間の末、俺は一枚の奇妙なちらしを発見するに至る――



《ゲヘナ・ゲート開通記念☆幽霊カップル限定ラブラブ地獄巡りツアー ¥4,980》

 そこに書かれたコース内容の一文に、俺は目を止めた。

《閻魔大帝ご子息殿下の宮殿観光(トイレ休憩含)》


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