創作発表板@wiki

殿下と侍女長 第3話

最終更新:

eroticman

- view
だれでも歓迎! 編集

殿下と侍女長 第3話




サンスクリット語ならばナラカ。
ギリシャ語ならばタルタロス。
舞台の闇が嫉妬と憎悪に澱んで渦巻く暗鬱の場所。
そう、ここは底なし奈落の有り得ざる底、魂のターミナルステーション、地獄。
その生命の旅の最果てにおいて、一際豪奢な築造物があった。
閻魔大帝殿下の御殿である。
赤々と燃えたぎる地獄の空色が差し込む自室にて、殿下はDSをやっていた。
「うむ、あざといツラだ。男に媚びる女の顔を良く表現しているな」
ひとりごち、ニヤと笑う。
部屋の床に適当にうっちゃってある殿下のランドセルからは、黒い靄が溢れ、殿下の背後の空間に滞留して居る。
殿下の肩越しにDSを見ているらしい。
心なしか靄が和やかな気配を醸しているのは、ゲームのキャラに萌えて居るからに違いない。
プレイしているソフトの名前はラブプラス……ではなくアプサラス。
乳海攪拌の海に生まれた天女アプサラーとデートを重ね、本来夫となるべきガンダルヴァから略奪するゲームである。
決してザ○頭の付いた粒子砲搭載機ではない。
タッチペンでそんなもん撫でれても反応に困る。
殿下は、動物園で見た片牙の折れたガネーシャにはしゃぐアプサラスをタッチペンで撫でる。
『もう、私じゃなくて象さんを見なきゃ』
「ふふふ、良いではないか、良いではないか」
いやいやと頬を染めてかぶりを振るアプサラーに、殿下の魔の手(タッチペン)が伸びる。
何度も撫でて嫌がられそれでも飽きずに撫で続ける。
嫌がる姿を見るのが好きなのだ。いわゆるドS。
と、ゲーム中のヒロインすら置き去りにして一人で悦に浸っていた殿下は、自室の扉から響く重々しいノックで我に帰る。
外側に付いて居るノッカーの鉄輪がゴンゴンと鳴らされた。
紫亶の板材に黒塗りの鉄鋲を打ち漆朱塗で仕上げた部屋の扉は、
地獄のイメージにも閻魔の子息のイメージにもぴったり。
が、これは殿下の父・閻魔大帝の趣味であり、殿下自身は家電やゲームの馴染む洋風建築にしたいのだった。
ノッカーはガンガン鳴るが、殿下は部屋から出ない。
鍵は掛けてあるしなにより人様にお見せできないゲームだ。
だが、ノッカーが鳴りやむと同時、鍵穴の辺りでなにやらガチャガチャと。
ガチン。開いた。
「殿下~、居ますかにゃー? 誰か来たっぽいニャ」
メイド服を着た侍女長が部屋にズカズカ入って来る。
背後には一つ目鬼に蝙蝠の羽根を生やしたみたいな、侍女長の使い魔が重そうに鍵束を持って飛んで居た。
「なんで鍵が掛かってるかとか考えないのかお前は」
殿下は怪訝を隠さず表情にし、ランドセルから溢れてゲームを覗いてた靄は慌ててランドセルに戻っていった。
「男の子が鍵掛ける理由ニャんて一人エッチくらいニャ。そのゲーム、妄想ネタでしょ?
閻魔大帝殿下ともあろうお方が情けないニャ。言ってくれればいつでもお手伝いするニャ」
侍女長は手でいやらしい動きをして見せた。
赤い舌をチロと出し、何かを舐める仕草をする。
いつものことなので殿下は気にも止めない。
「ゲームの邪魔されないために鍵掛けただけっつの」
と言いつつ、プレイする姿を人に見られたくないゲームであることが、鍵を掛けた理由の大部分ではあった。
「じゃー、とりあえず出かけてるってことにするニャ。一人エッチ済んだら応対してあげて欲しいニャ」
「だから違うっつの」
聞いているのかいないのか、侍女長は
「鍵戻してスク水持って来いニャ」「キー!人使い荒いキー!」
とか使い魔と話しながら部屋を出ていった。
ちなみに殿下が訪問者と謁見したのはゲームが一段落した後だったが、その事実は誰も知らない。
一段落までの時間が猫一匹のいかがわしい誤解を増長させたなんて事実は、尚更誰も知らない。


+ タグ編集
  • タグ:
  • シェアードワールド
  • 地獄世界

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー