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白狐と青年 第4話

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白狐と青年 第4話






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 匠は開門を待たず自治街を囲む壁に飛び乗り、一息に外へと飛び下りた。
 外では既に戦闘が開始されていた。
「多いな」
 視界の中、獣型が三十体以上、更に二足で歩行する巨体の異形もいくつか姿が窺える。
 これだけの数が居るのに統率している異形がいない?
 そう疑問を抱きつつ近くの番兵に声をかける。
「どんな感じ?」
 気付いた番兵が前方、急ごしらえの柵を挟んで銃撃を行っている仲間を示し、
「数は多いんですけど基本的に突撃してくるだけなので問題なし。といったところですかね」
 番兵が言う通り、柵を挟んで行われている銃撃は確実に異形に怪我を負わせ、数を減らすことに成功している。
「このままなら俺たち前衛はあの巨体相手だけで行けそうだけど」
 なにかおかしい気がする。そう番兵は言う。匠も頷き、
「頭があまりよろしくなさそうなのしかいないのになんでこんなに組織だってコイツら動いてんだ?」
「隊長も言ってましたけど、なにか裏でもあるんでしょうか?」
 話していると驚き混じりの敵影発見の叫びが聞こえた。
 瞬時に場に緊張が走り、現在銃撃を行っていた者以外が一斉に声が示す方向に顔を向けた。
 異形が回り込むように現れている。壁の外周に掘られた堀に沿って番兵たちに対して横殴りに進んでくる。
「やっぱりなんかヤバい感じしてたんだって!」
 言い、そちらに対して柵が用意されていないのを見るや、
「門谷隊長はそっちに対策してないのか?」
「信太の森封印以後あまり異形の大量発生は目撃されてないので兵自体あまりいないんです。
だから堀を広く掘らせてこっち側の出入り口は橋でつないだ壁にある扉だけだし、たまにそういうの無視して飛んだり跳ねたりしてるビックリ人間がいますけど!」
 言って己の持つ槍を確認する番兵。横殴りに現れた異形に対応したいようだが正面から来る二足歩行の巨体には銃弾があまりよい成果を上げていない。どうやら≪魔素≫で体を強靭にしているようだ。
 このままでは正面の巨体相手に白兵戦を挑まなければならない公算が高い。
「あーくそ、持ち場を離れられねえ!」
 もどかしそうに言う番兵に匠は声をかける。
「俺が行く」
「坂上さんが?」
「武器はあるし、まあたぶんいける。門谷隊長に言っておいてくれ」
 そう告げ駆ける。
 ずっと携えていた金属製の棒の中程を片手で握って軽く振る。使い慣れた武器の感触。
「実戦テストと行くか」
 呟き、≪魔素≫を棒を伝い流す。棒全体を≪魔素≫が伝い、淡く発光しだすそれを振りかぶり、
「っ!」
 異形の群れの先頭の一匹の頭を砕き伏せた。
 頭を割られ沈黙したそれを跳び越え、匠の姿を認めて突っ込んでくる後続に対して棒を両手で槍を扱うように構える。
 頭部に角を持つ異形がその角を向けて迫っている。
 匠は腰を落とし、≪魔素≫を更に棒に流し込む。と、棒に≪魔素≫の輝きで複雑な模様が浮かび上がる。
 棒の先端と獣の角がぶつかる。
 異形の、疾走の速度を持った突撃。それは匠が構えた棒を砕き、匠本人をも貫くかに見えた。
 しかし異形は見た。棒にまとわりついた≪魔素≫が変化し、個体となり、棒の先端から刃が形成され、自らの頭部を貫いていく様を。棒を構えた匠は異形の与える衝撃にびくともしない。
異形はそれでも本能のままに匠への突進を止めず、そのまま絶命した。
 棒から伸びた刃が異形を貫いた。しかし次の、更に次の異形が既に匠へと接近している。刃を抜いている時間は無く、
「なんの!」
 だから匠は深々と異形に刺さった≪魔素≫製の刃を自壊させた。
 ガラスを割るような澄んだ音色が響き、刃で貫かれていた異形が支えを失って横倒しに傾いていく。
 次いで棒の尻に当たっていた部分から槍の穂先状に形成された≪魔素≫の刃が突き出て異形を刺し貫いた。
 再度澄んだ砕音。
 前後で異形が地面に倒れる音を聞きながら棒に≪魔素≫を流し込み棒の半ばから刃を形成、鍔無しの直刀となったそれで更に一匹を屠る。
 そして最後の一匹、二足の巨体へと走り込む。相手は見上げるような巨体。
 匠は地を蹴り、膝を足場にし、肩に至り、両手で棒の両端近くをそれぞれ握りこむ。≪魔素≫が流れ込み、刃が形成される。
 先端から伸びた刃は白く光る幅二メートル、長さ七メートル程の巨刃。
 一振りで異形の首が落ちた。
 地面に飛び下りると刃が自壊して固まった≪魔素≫が周囲で解かれていく。それを見ながら匠は吐息を一つ吐く。顔に付いた返り血を拭っていると、森の奥から先程と同じような巨体が現れた。
 匠を無視して猛然と番兵の方へと向かう。
「まだいたか!」
 匠は刃を作り追う。それを振るおうとした所で炎弾が飛来した。≪魔素≫で個体と化した炎が巨体の顔にぶつかり、爆発が起こる。
「これは……」
 異形の頭部は粉々に吹き飛んでいる。倒れてくる体を避けるようにして炎が飛来した先を見る。
 視線の先には、
「クズハ?」
 よく見知った長い銀髪の少女がいた。
 クズハは匠の方へと歩いてくる。匠は表情を努めて厳しい物にして問う。
「何でここに来た? 危な――」

 クズハの足元から土が槍になって匠を貫いた。

「っ……が、……な……?」
 腹に来た灼熱感、それを受けてなお痛みよりもなによりもクズハに対する疑問が頭を占めた。
「……ほら」
 クズハは微笑んで告げる。
「これでもう、私を置いていけませんよ?」 
 微笑んだまま、頬を涙が伝っていた。
 ……ああ、なるほど。そうか。
 その涙に、クズハの行動に対する疑問を匠は解消した。
「誰……だ?」
「何を言っているんですか? 私です、クズハですよ?」
「クズハは」
 ≪魔素≫の刃が土の槍を半ばから切断し、土が崩れる。
「そこで泣いて……る方だ。……クズハの中に居る……お前、は……っ、だれだ?」
 言葉と同時、銃撃がクズハの周囲の地面を跳ねさせる。
「?」
 目を向けると門谷たちが銃口を向けていた。襲撃をかけていた異形たちは全て倒れている。
 クズハはそちらを見ると舌打ち混じりに手に≪魔素≫を現した。それは腕を中心にして複雑な紋様を描く。そして常とは違う口調、声音で言う。
「邪魔をするな」
 手を堀に向けると堀から水の柱が複数立ち上がる。それは宙で門谷たちに狙いを定める。
 門谷たちが目を剥き動揺した。まさかクズハが彼らに攻撃するそぶりを見せるとは思わなかったし、彼ら自身が銃をクズハに向けることにも迷いがあるのだ。
 しかしクズハの動きに停滞はない。水柱が門谷たちへと飛びだそうと≪魔素≫を集中させる。その間際、クズハが跳ね飛んだ。
「誰も、攻撃するな」
 棒を振り抜いた匠が告げる。クズハは匠を見ると、
「…………」
 周囲を見回し、村から離れるように森に向かって走り出した。
「待、て……」
 言う言葉は細く、届かない。
 棒を支えにして立っていると門谷がやって来た。
「坂上、大丈夫か!」
 声に匠は朦朧とする意識で顔を向け、
「……かど……さ、上に、何も……言わないで、頼みま……」
 それだけ告げて意識を失った。
「……何がどうなってやがる」
 気を失った匠を支える門谷が困惑のままに吐き出す言葉に返事はない。

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