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PHASE-51「閃光は運命をのせて」

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 PHASE-51「閃光は運命を乗せて」(種死if)

 「副長、全軍に向けて停戦勧告が……副長?」

 呆然とモニターを見詰めるアーサーは、オペレーターの声で我に返った。振り返ればそこには、指示を求めるアビー・ウィンザー。不安げな瞳は確かに、今この場での最高責任者を見詰めていた。他ならぬアーサー・トライン本人を。
 今もうこの船に、ザフトが誇る高速艦の面影は何処にも無い。
 推進機関に直撃を受け、クルーの奮戦虚しく、月面へとその身を横たえるミネルバ。指揮を執る艦長の姿も今は無い。否、もう永遠に失われてしまった…崩壊するメサイアを目の当たりにして、アーサーはそう痛感していた。

「停戦勧告? ……わかった、艦内に放送して」
「了解」

 タリア・グラディスが去り際に、退艦を厳命したにも関わらず。いまだ艦内には多くのクルーが残っていた。
 誰もが皆、己の意思で持ち場に留まり、賢明の復旧作業に追われている。既に無駄と知りながらも、出来る限りを尽くさずには居られない……ここが暮らし生きる、居場所だから。
 ここへ帰るべき者がまだ、帰り着いていないから。

「ザフトの皆さん、私はラクス・クラインです。既にもう勝敗は決しました。これ以上無益な……」

 かつてザフトの歌姫だった、ラクス・クラインの声。
 言葉を選びながらの物悲しい響きが、ただ淡々とスピーカーから艦内に流れる。ある者は血が滲むほど拳を握り締め、ある者は嗚咽を噛み殺しながら……ミネルバの各所で各々が、戦いの終結を飲み込んでいた。
 戦争の根絶と約束された未来……その夢も今、この瞬間に見果てたのだ。

「私達は今、自由な未来を取り戻しました。二度と帰らぬ犠牲と引き換えに」
「……二度と帰らぬ、か。我々にとっては犠牲だけど」

 彼女にとっては全てが、対価に過ぎぬのでは? らしからぬ疑念を巡らしながらも、アーサーは手早く付近の艦隊分布を把握する。
 一応の終結を見た今、彼は大きな義務を負う。出来る限りの将兵を生還させ、故郷のプラントへ帰すという義務が。幸いにも後詰の艦隊は無傷で、ゴンドワナを中心に残存戦力の回収作業を行っているらしい。
 総員退艦の後、月面離脱を立案しかけた時、再びアーサーの思案をアビーが遮った。

「副長、救難信号キャッチ……インパルスです!」
「! ……回線、繋いで!」

 手近な端末を求めて、艦長席へと駆け寄るアーサー。肘掛に噛り付くようにして、小さな液晶画面を食い入るように覗き込む。そこに映るのは、ザフトレッドのパイロットスーツ。
 ルナマリア・ホークの無事が今は、何よりも朗報に感じた。ノイズが入り混じる画像と音声が、シン・アスカの無事も伝えてくる。僅かな安堵と希望…直ぐに救援を差し向けなければ。
 指示を出すべく面を上げたアーサーはしかし、メインスクリーン上の不吉な光点の瞬きに、再び絶望へと突き落とされた。

26 名前:PHASE-51「閃光は運命をのせて」2/5[sage] 投稿日:2009/06/30(火) 12:47:07 ID:YoSD0tuw
「ミネルバ、応答せよ。こちらルナマリア……え?嘘、そんな……」

 大破したインパルスのコクピットで、ルナマリアがミネルバを呼び出している。その姿をぼんやりと眺めながら、シン・アスカは自問自答を繰り返していた。
 先程両軍に発せられた、ラクス・クラインの停戦勧告……自分の預かり知らぬところで、また戦争が通り過ぎてゆく。何もかも自分から奪いながら。
 それがお前の欲した力か、と。かつての盟友、アスラン・ザラは叫んだ。
 ザフト最新鋭のモビルスーツに、特務隊フェイスという地位……名実共に申し分ない、エースとしての自分。その全てを問われて、シンは揺らいでしまった。
 結果、アスラン・ザラに遅れを取り、完膚なきまでに叩きのめされ……デュランダル議長の理想を奉じて戦う、その心が折れたのだ。

「欲した力、か……」

 先の大戦で家族を失い、その身を復讐の炎に焦がした。ザフトレッドとして今まで、争いを憎み戦ってきた。だがしかし、失ったモノは余りに多い……疑念拭えぬ我が身の力も、今は欠片さえ残ってはいない。

「違うよな……きっと違う。本当は……」

 深く沈むシンの思考を、ルナマリアの悲鳴が現実へ引き戻した。コクピットに座る彼女は、すがるような視線をシンへ投げかける。ヘルメット越しでも真空を伝う、絶望と不安。
 すぐさま立ち上がり、寄り添うべく地を蹴るシン。

「ルナ、ミネルバは? 無事だったんだろ……ルナ?」
「ミネルバは大破、航行不能……でもクルーは大半が無事。今から救援、出すって……」

 僅かな重力を感じながらも、シンはインパルスのコクピットへ飛び上がる。身を乗り出したルナマリアは、両手を広げてシンを抱き止めた。無線を通して伝わる泣き声が、シンのパイロットスーツ内に満ちてゆく。

「艦長が……グラディス艦長が……」
「……そうか、メサイアに……レイは?」

 答える代わりに首を振るルナマリア。シンもそれ以上は、何も言葉を紡げなかった。
 声を詰まらせ押し黙る…次の一言を聞くまでは。ルナマリアの声は震えながらも、戦慄と恐怖を静かに告げる。

「副長が今……一部の敵艦隊が、撤退中のザフトに……」

 コズミック・イラの宇宙にまだ、平和の静けさは訪れない。
 統制を乱しながらも、撤退作業に追われるザフトの部隊へ、今まさに復讐の牙が向けられつつある。体を入れ替えインパルスのコクピットに収まり、シンはミネルバから送信されたデータを睨む。
 無秩序に散らばるザフトの部隊へ、明らかな敵意を向ける流れがあった。消えない怨嗟の炎、終わらない憎しみの連鎖……だが、シンの迷いは霧散した。

「ミネルバ、チェストとレッグはまだ有るか? 有るなら射出して欲しい……艦長!」

 本当は力なんて一度も、これっぽっちも欲しくは無かった。
 今なら解る……そして望まなかった力が、まだ自分に残っている事も。守るべき大事な、代え難い存在と共に。

 艦長と呼ばれた、その一言に動揺して。身を乗り出して端末を覗きながら、決して艦長席には座ろうとしないアーサー。
 だがしかし、肩書きがどうであれ、この場の責任者は自分をおいて他に無い。突飛とも言えるシンの応答に、たじろぎながらもアビーに目配せ。通信内容を聞いていた彼女は、すぐさまモビルスーツデッキを呼び出した。

「すぐそっちに救援を出す。そして総員退艦の後、残存艦隊に合流する予定だけど……」
「その残存艦隊が危ないんでしょ? 反撃の素振りを見せる友軍もいる」

 ザフトの指揮系統は今、混乱の様相を露にしていた。
 中枢であるメサイアが陥落し、掲げるべき旗を失ったのだ。混乱に乗じて牙を向けられ、爪を剥いて応じてしまう……互いに退けぬ程、多くの物を奪い合い過ぎた両軍。
 デュランダル議長の熱烈な支持者達には、停戦勧告を無視して戦闘を継続する者さえ居た。

「もしかしたらオレにも……まだ出来る事があるかもしれないから」

 そこにもう、不遜で傲慢なミネルバのエースは居なかった。まだ年端もいかぬ少年の面影が、以前より顕著に見て取れる。あまりに脆く、頼りなげな……しかし真っ直ぐ、一点の曇りも無い真紅の瞳。

「モビルスーツデッキより! 予備が一対、10分後に射出可能との事です……艦長!」

 ヨウランやヴィーノを始めとする、整備班一同の答え。
 その想いも交えて、アビーの報告がアーサーの耳を打つ。
 艦長……その言葉は殊更強く響き、その意味はずしりと双肩に重い。既に翔ばぬ船で、既に居ない人に代わって。僅かに苦笑を零すと、アーサーは制帽を被り直し……意を決して艦長席に腰を据えた。
 全艦内へ向けてマイクを握り、高まる動悸を感じながら息を吸う。

「艦長代行のアーサー・トラインだ。全クルーに告ぐ……これより本艦は、最後の作戦行動を開始する」

 無論、既に総員退艦の命令が下っているから……意思無き者には去るよう、アーサーは何度も説得を試みる。だがしかし、その声を聞く誰もが、早くも行動を開始していた。
 非常電源の薄暗い艦内に、再び活気の火が灯る。たった一人のブリッジ要員を振り返れば、アビーは力強く頷き返してきた。

「よ、よし! コンディションレッド発令、ブリッジ遮蔽!」
「艦長、現在コンディションレッドは発令中、ブリッジは依然として遮蔽中です」
「……言ってみたかっただけだ。さぁミネルバ、もう一仕事だ。頼むっ!」
「予備電源、全投入。破損区画の人員は退避してください……送電止めます」

 残存する全てのエネルギーが、最優先でカタパルトへと送られてゆく。女神の名を冠する船は今、最後の力を搾り出そうとしていた。遥か上空、月軌道上で燻る戦火…その炎が再び燃え上がるのを阻止する為に。

「シン、これよりチェストフライヤー、レッグフライヤーを射出します」

 計器の数値を確認しながら、アビーの通信に頷くシン。開け放たれたハッチからは、不安げにルナマリアが見守る。
 彼女はデュートリオンビームの照射を一度受けており、その乗機であるインパルスにはまだ、充分なエネルギーが残されていた。機体そのものは大破しているが、中心となるコアスプレンダーは無傷である。
 ただ……

「フォース・シルエットは……無いよな、もう。届くか? 艦隊まで」

 インパルスは各種シルエットパーツを装備する事で、様々な局面に対応する機体。そして今、機動力とスピードを特化させた、フォース・シルエットの選択がベストではあるが……唯一ミネルバに配備されていた物は、既に大破している。
 新たなチェスト、レッグと合体しても、翼がない。

「問題ありません、試験用のシルエットを回しました。エネルギー配分に気をつけて下さい」
「試験用?何でそんな物がミネルバに……了解、使ってみる。使いこなしてみせる!」

 予想に反して、アビーはシルエットパーツも射出し終えていた。しばらくインパルスからは遠ざかっていたが、どうやら第四のシルエットが配備されたらしい。

「……前に私が申請して、急いでミネルバに回して貰ったの」
「ルナ……そっか、ルナの機体だもんな。今のインパルスは」

 もうすぐ上空へ、インパルスのパーツ群が飛来する。少し遅れて、救援の内火艇も到着するだろう。死に逝くつもりは毛頭無かったが、しばしの別れを惜しんで。シンはルナマリアと抱擁を交わした。
 必ず戻る……そう呟く言葉が、真空を隔てる硬質硝子を僅かに曇らせる。

「私のインパルス、ちゃんと返しに戻ってよね……シン」
「ああ……ルナ、行って来る。みんなで一緒に、プラントに帰るんだ」

 第二の故郷、プラント……仲間達と過ごした日々。
 もう帰る事のない、友への想いも乗せて。ルナマリアがふわりと離れると、シンはハッチを閉じる。インパルスは細かな振動と共に僅かに浮かび、最後の力で虚空へと飛翔した。分離レバーを押し込むと同時に、背を押すような衝撃が走る。

「シン・アスカ、コアスプレンダー……行きます!」

 破損したパーツを振り解き、コアスプレンダーは漆黒の宇宙を切り裂き馳せる。
 救援に駆けつけたヨウラン達も、見送るルナマリアに倣って空を見上げた。引き絞られた運命の一矢は、今再び放たれたのだった。

「駄目です、応答ありません……右翼、連合より合流した艦隊が前に出ます!」

 悲痛な叫びと共に、艦長席を振り返るメイリン。だがしかし、虚ろな瞳を虚空に向けたまま、ラクス・クラインは微動だにしない。

「やはり人は皆、憎しみの連鎖を断ち切れないのでしょうか…」

 ぽつりと一言。ラクスは呟くと同時に、目元に一片の輝きを零したように見えた。だが、それを拭いながら立ち上がると、再び全軍に向けてマイクを握る。
 慌ててメイリンは通信の周波数を切り替えると、固唾を飲んでラクスの言葉を待った。
 既にもう、ラクスには最初から解りきっていた。ディスティニープランという前代未聞の試みに対して、対話と対案を捨てた時から。
 今というタイミングでしか、暴走したデュランダル議長は止められなかった……もし話し合いのテーブルに付けば、長引く議論の影で、ザフトはより支配力を強めただろう。
 ロゴス崩壊後の混沌とした今こそが、磐石の態勢を築く前の議長を討つ、唯一にして最後の機会だったのだ。

「連合の皆さん、既にもう大勢は決しました。無用な追撃はおやめ下さい」

 落ち着いて言葉を選び、諭すように呼びかける。
 感情も露に泣き叫びたい、その気持ちを鎮めて。
 敵を示して旗を振り、自由を守れと力を奮わせた……それは紛れもない彼女自身。だからこそ今は、有り余る力の矛先を、再び収めなければならない。

「駄目です、艦隊止まりませ……あ、ザフト側が迎撃体勢に移行します!」

 ラクスの呼び掛けも虚しく、再び武力の応酬が繰り広げられようとしていた。力に応えるのはやはり、力でしかない……彼女が灯した戦火の炎は、激しく燃え盛って宇宙を照らす。
 あたかもそれが、人を導く光であるかのように。己が選ばせた未来の、その歪な輝き……その前では、言葉は余りにも無力。

「ラクス、僕が行く。もう誰も……誰にも撃たせない」

 不意にエターナルのブリッジに並ぶ、蒼い翼のモビルスーツ。それはラクスが解き放った、パンドラの箱の最後の希望。
 思わず立ち上がるラクスは、戸惑いながらも小さく頷く。憎悪渦巻く戦場へと、大切な者を送り出す……その痛みに耐えながら。数え切れぬ多くの者へ、その痛みを強要した自分だから。

「ごめんなさい、キラ……気をつけて」

 祈るような呟きに応えるように。ストライクフリーダムは身を翻すと、瞬く間に視界から飛び去った。一条の光を引き連れ、怨嗟の鎖を断ち切る剣となって。

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