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Mad Nugget 第11話

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「Mad Nugget」 第十一話


 バウ・ワウとガンダムエピオンⅣの戦いは、膠着状態に陥っていた。

 何度も接近を試みたガンダムエピオンⅣだったが、バウ・ワウは距離を保って近付けさせなかった。
 バウ・ワウの攻撃はビームライフルの狙撃のみ。大威力のバズーカとメガ粒子砲は決して使わない。

(こいつ……判っているのか? いや、それにしては反応が鈍い。“未だ”捉え切れていない)

 ジェントは心を落ち着ける為、静かに深呼吸をした。焦らずとも、弾切れにさせれば幾分有利になる。ブラドとズーが
墜とされた今、ギルバートは他に譲っても、ここは確実に魔王を仕留めると決めていた。

 対するハロルドのフラストレーションは溜まる一方だった。
 射撃は命中しない。接近し様とすると、ダグラスが正体不明の敵意を感じ、彼を制止する。同じ理由で、大きな隙が
出来る大威力兵器を使わせて貰えない。牽制の為に、当たらないライフル狙撃を続けるしか無かった。

「全く、よく避けやがる。奴もニュータイプか……」
「……判らない。そこまで強力なプレッシャーは感じないが……」

 ハロルドの独り言に答えるダグラスの声は惑いを含む。“その程度”の相手なら先読みも容易い筈なのだが、何故か
“命中する瞬間”が浮かばない。“見えない敵”と相俟って、自然と用心深くなる。

 ガンダムエピオンⅣには、OZシステムというニュータイプ能力を補助する機能が備わっている。ゼロシステムを基に
完成したOZシステムは、感知能力の拡大と予測補正を行って操縦者に伝える。能力の高い者には余計な荷物で、
非能力者には無用の長物だが、ジェント・ルークとは非常に相性が良かった。それでも……。

(“見えていた”のに、裏切られる。行動が予測と違う。何故……くっ、他所事に気を回すな。優位には変わり無い)

 思い通りの結果が得られない。その度に、ジェントは小さな不安を募らせる。
 逃げの一手を嫌ってランダムに無謀な突撃を試みるハロルドは、OZシステムの予測外だった。

 互いに仕掛ける素振りを見せては、後退を繰り返す。先に限界を迎えたのはハロルドだった。

「どうにも性に合わん。ダグ、未だ捕捉出来ないのか?」
「難しい。気配を完全に消している。それに敵意を隠すのが上手い。こちらが隙を見せた瞬間、辛うじて殺意が判る
 程度だ。位置を把握出来ない……。可也の手練れと見て間違いない」

 深刻な面持ちで答えるダグラスに、ハロルドは笑顔で言う。

「良し。隙を見せれば良いんだな?」

 その自信に満ちた声に、焦りの色を露にするダグラス。彼にはハロルドが何をする気なのか解った。
 シールドをガンダムエピオンⅣに向けて突き出すバウの上半身。背面スラスターが炎を噴く!

「止せ、ハル!! 上だっ!!」

 ダグラスはバウの両脚を前方に投げ出し、足裏のスラスターと脚部バーニアを全開にして、突進を止めた。

 カンッ!!

 同時に、バウの角飾りと左腕が、奇麗に斬り落とされる。

「何っ!? こんな近くに!?」

 ハロルドは背面スラスターを停止させ、ダグラスに合わせて胸部バーニアを全開。即座に後退姿勢に入った。

 バウ・ワウの左腕を肘から切断し、シールドと機体の間に割って入ったのは、フーマガンダム。両腕部に畳まれた
ブレードをパタの様に展開し、後退するバウ・ワウを追撃する。

「やってくれたな! よくも自慢の鶏冠を!」

 ハロルドは後退姿勢を保ちながら、ビームライフルを前方に差し出して構えた。

 フーマ・ガンダムのパイロット、ミノ・カレンは落ち着いていた。必殺の一撃こそ避けられたが、既に得意の距離。
加速して密着すれば、ライフルは無力。後はブレードで機体を貫くだけ……。

 バウがエピオンと対峙している間、ミノは幾度も奇襲を掛けようとしていたが、その度に感の鋭いダグラスに攻撃の
タイミングを外されていた。先のハロルドの迂闊な行動は、意外な好機。それでも彼女は気負わず、焦らず。過ぎた
事を気に留める様子は全く無かった。忍耐強さと醒めた感覚が彼女の長所。

 当たらないバウ・ワウのビームライフルは無視。隠し腕を警戒しながら、先ずは上半身、ハロルドの居るコクピット、
首の付け根を狙う。

 確かに、バウ・ワウのビームライフルはフーマガンダム“には”当たらない。ハロルドが狙うのは……。

「危ない!!」

 ミノの後方から状況を俯瞰していたジェントの声が、彼女の耳に届く。しかし、遅かった。

 メガ粒子砲内蔵、左腕大型シールド。裏面には対ビームコーティングが施されていない。ハロルドは大量の武器を
シールド裏に隠し持つ。ジャイアント・バズーカ、ショットランサー、ハイドボンブレイヤー……当然、その弾薬も。そこに
ビームが当たれば、どうなるか!?

 ドオォン!!

 木端微塵に散るシールド。八方に飛び散る弾。バウ・ワウはフーマガンダムを盾代わりにする。

 拡散弾とシールドの飛礫が、背後からフーマガンダムを貫いた。背を押され、予定外の速度が加わる。同時にバウ・
ワウは後退を止めて前進。装甲の隙間からコクピットを狙ったフーマガンダムのブレードは、バウの後頭部を掠める!
 バウはフーマガンダムと正面衝突。折れた角がセンサーゴーグルを貫いて左目を抉る。

 バキッ……メキッ。

 フーマガンダムは糸の切れた操り人形の様に、完全に沈黙した。

「貴様、リーダーをっ!!」

 ジェントは逆上して、大出力のビームソードを伸ばし、バウ・ワウに急接近。
 バウは迫るガンダムエピオンⅣに向けて、フーマガンダムを蹴っ飛ばした。
 意外な事に、ジェントは速度を緩めず、フーマガンダムごとバウを両断するかの様にビームソードを振るう!

 暗緑色に光る巨大なソードが、フーマガンダムを……避ける!
 ショーテルの様に曲がり、襲い来る刀身。ハロルドは思わず叫んだ。

「何っ!? そんなの有りかよ!!」

 ズバッ!!

 ビームソードはバウを横一文字に切り裂いた。
 しかし、緊急回避が間に合い、上半身と下半身に分かれただけ。

「おお、危ない危ない。ダグ、あれは何だ?」
「……知らない。推測だが、ビームソードを形成するIフィールドをサイコミュで変形させたんだと思う」
「自在に変形するビーム兵器か……。迂闊な接近は避けたい所だ」

 敵の新兵器を冷静に分析するハロルドとダグラス。各々、乗機をアタッカーとナッターに変形させて、エピオンの
攻撃が届かない距離を保ちつつ撹乱する。

 フーマガンダムを避けたガンダムエピオンⅣは、飛び回る2機をメインカメラで追って周囲を見回した。

「目障りな!」

 ジェントが狙うのは、左腕を失ったアタッカー。弱った相手から仕留めるのは戦闘の常識。
 接近してビームソードを振るうと、変化した刃がアタッカーを追跡する!

「ゼロからは逃れられん!」
「くっ、流石に無理か……」

 ハロルドは回避を諦めた。サーベルで受け止め様にも、刃が変形するのでは無意味。
 追い詰められたハロルドが取った行動は……左のウィングを先に斬らせる!

 ドォン!!

 アタッカーは翼に固定されていたミサイルの爆発で吹っ飛び、ガンダムエピオンⅣから離れる事に成功した。

 ジェントは驚嘆と苛立ちを混ぜ、低く唸る。

「ゼロの予測を上回る!? しかし、高々数秒の命拾いだ!!」

 己を鼓舞する様に気を吐いた彼は、秒の迷いも無くアタッカーを追撃!

 左翼と左腕を失ったアタッカーでは、逃げ切る事は難しい。ハロルドの危機に、ダグラスはナッターで背後から
エピオンに迫る!

「こっちを忘れるな!」
「それで奇襲の積もりか? ゼロが俺を導く!」

 ジェントは振り向き様にヒートロッドを振るった。OZシステムの予測通りに、鞭がナッターに向かって伸びる!

「貫けっ!」

 しかし、ヒートロッドはナッターの機体をcm単位で掠めた。ハロルドがロッドを切断した為、予測に際して僅かな
誤差が生じたのだ。それは本来ならば無視出来る程度の物だが、ダグラスには通用しなかった。彼のニュータイプ
能力は、OZシステムを上回る!

 ヒートロッドを振り切って、接近するナッター。強力なプレッシャーがジェントを襲う!

「ゼ、ゼロ……これは、どういう事だ!?」

 焦るジェントに、OZシステムは絶望的な結末しか映し出さなかった。
 ガンダムエピオンⅣが幾らヒートロッドとビームソードを振り回しても、ダグラスのナッターには絶対に当たらない。
どう足掻いても撃墜される。それがOZの答え。
 撃墜のイメージから逃れられず、動きを止めてしまったガンダムエピオンⅣの首を、ナッターの隠し腕が刎ねる!

 ザンッ!

 モニターが消え、ジェントは死を覚悟した。暗黒の中、計器だけが仄灯る。レーダーには何も映らない……。

 エピオンと擦れ違ったナッターは止めを刺さずに、アタッカーを回収してヴァンダルジアを追っていた。
 敵が既に追撃する力と意志を失ったと見抜いての事。

 ダグラスに助けられた格好になったハロルドは、彼の戦い方に注文を付けなかった。内心は快く思っていないが、
無闇に人の命を奪いたくないダグラスの感情も、理解出来ない事は無い。そして何より、彼の実力を評価している。
己の命を預けるに足る者であり、決して“重要な判断”を誤らないと信じているのだ。

 ……正直な所を言えば、ダグラスが“特殊な能力”を持つ者である事も、彼を信頼する理由の1つに入っている。
 “己が持ち合わせぬ物”への微かな嫉妬が混じり、ハロルドは不満を隠す様に軽い調子で礼を述べた。

「助かったぜ、相棒」
「お前は俺の寿命を何年縮めれば気が済むんだ……」

 窮地を救われた者とは思えない彼の態度に、ダグラスは呆れ顔で溜息を吐くのだった。

 ローマンが火星で入手した情報に依ると、ヴァンダルジアを追う討伐隊の母艦はスザ級。
 これから向かうアステロイドベルト暗礁空域さえ抜ければ、簡単に振り切れる。
 ヴァンダルジアと討伐隊は、運命の大きな分かれ道に差し掛かろうとしていた。

「また壊しましたね……。これで何度目ですか!?」

 ヴァンダルジアの格納庫で怒鳴り声を上げているのは、ファルメ整備班長。
 シールド2。同じく左腕2。バズーカ4。ショットランサーとハイドボンブレイヤー、各1。左翼1。ハロルドが破壊、或いは
破棄した回数である。

「そう怒るなよ。火星で補給を受けたから、大丈夫だろう? 命あっての物種って言うじゃないか」
「戦闘中のモニターを拝見しましたが、相変わらず機体と武器を粗末に扱い過ぎです! 予備の機体は無いんですよ?
 何の為に乗機をコヨーテからバウに替えたのか、思い出して下さい!」
「俺が半分壊しても、相方が半分無傷で戻るから。修理の手間は半分だろう?」

 悪びれないハロルドに、ファルメは怒りで顔を真っ赤にする。

「少しは中将を見習って下さい! 考え無しに突貫するから、こうなるんですよ!」
「……いや、だって、あいつは……」

 ハロルドは言い訳し様として口を噤んだ。“それ”を理由にしては、いけない。黙って首を横に振る。

「解ったよ。以後、気を付けるさ」
「お願いしますよ」

 ファルメは急に大人しくなった彼を不信に思いながらも怒りを納めた。
 そのタイミングを逃さず、物陰から一部始終を見守っていたダグラスが姿を現す。

「……お説教は終わったかな? 班長、今回の戦闘記録を見てくれ」

 そう言って彼が携帯ディスプレイで見せたのは、ガンダムエピオンⅣのビームソード。自在に曲がる刃。

「このビームソード、どんな技術か判るかな?」

 ダグラスの問いに、ファルメは食い入る様に小さな画面を見詰めて呟く。

「D・Iフィールド……」
「ディー、アイ、フィールド?」

 聞き慣れない単語を鸚鵡返すハロルド。ファルメは顔を上げて、説明を始めた。

「支配的ビーム歪曲空間。Iフィールド発生装置にサイコミュを組み込み、“ビームを意の儘に操る”技術です」

 無言で驚いた表情を見せたハロルドとダグラスに、ファルメは早口で補足する。

「しかし、Iフィールドの有効範囲は限られていますし、何よりサイコミュですから、搭乗者に掛かる負担の大きさ故に
 採用は見送られて来ました。仮に実装されても、この様に近距離ビーム兵器を短時間変形させる程度です」
「大した事は出来ないんだな」

 詰まらなそうに小さく息を吐くハロルド。

「成る程。有り難う、班長」

 丁寧に礼を述べるダグラス。対照的な2人の態度。
 ハロルドは気の無い振りをしながら、頭の中で何度もD・Iフィールドに対抗するシミュレーションを繰り返していた。
 一方のダグラスは……D・Iフィールドという技術その物に、得体の知れない不安を感じていた。

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