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Mad Nugget 第五話

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 「Mad Nugget」 第五話

  リリル・ルラ・ラ・ロロはニュータイプ養成機関の出身で、同年代の中では並ぶ者が無い程の高い能力を持っていた。
しかし、彼女とガンダムヒマワリが緊急討伐隊に派遣された理由は唯一つ、実戦データを取得する為。
 ニュータイプの訓練生が、嘗ての英雄達と同じく、実戦で即戦力に成り得るか。ニュータイプ専用機に搭乗した場合、
予定通りの性能を発揮出来るか否か。

 単に高い能力を持つパイロットが欲しいなら、多少不安定な精神に目を瞑り、強化人間を使った方が良い。
 それでもニュータイプの幻想に縋る理由は、英雄が単独で戦局を変えるという夢物語が過去、現実に起こったからに
他ならない。所が、先の大戦ではエース不在の量産機がコロニー連合軍を押し返してしまった。
 幻想が崩れつつある今、ニュータイプ研究関連機関は存亡の危機に晒されている。

 リリルは自分の使命を理解していた。連合のエースを倒し、自らの、そして機関の存在意義を証明する。
 他人に対する侮蔑的な態度は、背負わされた期待の大きさ故。押し潰されない様に、自信と功名心の鎧を纏う。
 連合のエースを倒す。誰より先に……賞金稼ぎより、撃墜王より!

 レーダーより鋭いニュータイプの感が知らせる。標的は近いと!
 全天周囲モニターがズーム画面に切り替わり、彼方のギルバートとバウの姿を捉える。
 獲物を目にし、リリルは冷酷な口調に豹変した。

「見付けた! 先ずは小手調べ……これで!」

 ガンダムヒマワリはロケットブースターを切り離し、背面の36基のフィン・ファンネルの内、9基を発射する。
 目にも留まらぬ高速でバウに向かうファンネル!

 ヴァンダルジアの後方で迎撃態勢に入ったハロルドは、視界に映る小さな点に目を凝らした。点の正体は噴射炎か、
それとも粒子か、遥か遠方で仄かに明るく光る。

(こいつは何だ? 1つ、2つ、3つ……全部で9つ……)

 一糸乱れぬ統率の取れた動き。誘導ミサイルにしては異常。彼は記憶の糸を手繰り寄せ、類似の例を思い出す。

「……ファンネルか! 何て距離から攻撃して来やがる!」

 視界、レーダー共に敵影を捉えず。本体を攻撃するのは不可能。
 フィン・ファンネルの群は、その形状が目視で明確に判別出来る距離まで接近すると、鋭角に進行方向を変えて
散開した。同時にダグラスがハロルドに声を掛ける。

「ハル、動きを止めるな!」
「解ってるよ! 高みの見物なんかさせるか! 全部撃ち落としてくれる! ダグ、回避は任せた!」
「了解! ハル、撃ち漏らすなよ!」

 バウは自らファンネルの群に突っ込む!

「こんな玩具で俺の首を獲ろうってか!? 先ずは1基!!」

 ハロルドの声と同時に、バウのライフルからビームが放たれ、高速移動中のファンネルを1基撃墜した。
 次の瞬間、バウの上半身が180度回転する!

「2基!」

 そして背後に回り込んでいたファンネルに向かって1発!

 バウ・ワウは合体分離時の半固定状態を維持する事で、上下半身が無制限に回転する。
 2人乗りだから熟せる、前進しながら後方の標的を狙撃という矛盾した芸当!
 ハロルドは命中を確認する事無く、再び機体の上半身をグルグルと回転させ、次々とファンネルを墜として行く。

「3基、4基! どうしたどうした! 夜店の射的屋の方が未だ当て難いぞ!」

 動目標射撃はハロルドの最も得意とする所。機体だろうが、ミサイルだろうが、ファンネルだろうが、彼にとっては
大差無い。怒涛の勢いでファンネルの包囲を突っ切る。

「こいつで6基、とっ!?」

 しかし、6発目のビームは“避けられた”。そして生じる一瞬の隙。逃さず一斉に攻撃を仕掛けて来るファンネル!
 ビームの包囲網を、バウは巧みに潜り抜ける!

「ダグ!」
「未だ未だ余裕! それより気付いてるか?」
「ああ、御代わりは要らないんだが……」

 撃墜された分のファンネルは、何時の間にか補充されていた。取り囲まれない様に、ハロルドは再びファンネルを狙う。

 バシュッ……キィン!!

「弾かれた!? Iフィールドバリアーか!!」

 しかし、ライフルのビームは分散し、三角形のバリアを浮かび上がらせた。1基を守る様に、3基が編隊を組んで
バリアを張るフィン・ファンネル。ビーム攻撃から互いを守り合う!

「……ハル、そろそろ厳しいぜ」

 落ち着いた声ではあるが、ダグラスは弱音とも受け取れる言葉を吐いた。機動性ではファンネルが上、加えて数が
一向に減らないのでは、避け続けるのにも限界があった。ビーム以外で撃ち墜とそうにも、ミサイルやグレネードでは
高速移動するファンネルに先ず当たらない。

 絶え間無く方々から放たれるビームを、ダグラスは次第に避け切れなくなり……遂に、1基のフィン・ファンネルが
放ったビームが、バウに向かって真っ直ぐ伸びる!

「んなら、こいつでどうだぁあっ!!」

 ハロルドは雄叫びを上げ、ビームを放ったファンネルに向かって盾を突き出した。防御と同時に、反撃のメガ粒子砲!

 ドオォッ!!

 ライフルを上回る威力のビームがIフィールドを突き破る!

 その様をモニターで見ていたリリルは、独り言を呟いた。

「流石にエースと言われるだけはある。この程度では仕留められないか……」

 易々とファンネルに追い付かれ、そのビームを受ける防御力も無く、画期的な新武装がある様にも見えない。
 彼女の目に、バウ・ワウの性能は御世辞にも高いとは言い難かった。それでも36基のフィン・ファンネルの内、
6基が墜とされ、残るは30基。単純に操縦者の腕と考えて良い。

「しかし……所詮、そこまで」

 リリルは口元を歪めてニヤリと笑った。ガンダムヒマワリの背中にある22基のフィン・ファンネルが展開し、粒子を
蓄え黄色く光る。その様は宇宙に咲く向日葵!

「連合のエースは、この私が倒す!」

 リリルの意志に従い、全てのフィン・ファンネルが一斉にバウに向かう!

 8基のフィン・ファンネルを6基にまで減らして善戦していたバウだったが、追加の22基のフィン・ファンネルに瞬く間に
追い詰められる。計28基のファンネルを相手に即撃破されないだけでも大した物だが、バウは回避と防御で精一杯で
反撃にまで手が回らない。

 絶対安全な位置にあるリリルは、焦らず決定的瞬間を待つ。ファンネルの攻撃に逃げ道を作ってバウを誘導。
 罠と知ろうが知るまいが、バウは追い立てられ、詰みに陥る。

「掛かった! 墜ちろ!」

 ファンネルがバウを完全に包囲し、リリルは勝利を確信した。シールドで防げるのは1面のみ。全面から同時に
攻撃を仕掛け、蜂の巣にする!

 その時、リリルは我が目を疑った。何が起こったのか、理解不能だった。
 フィン・ファンネルがビームを撃った直後……初めに3基のファンネルが“消えた”と感じた。次に見た物は、
ファンネルの包囲を突破したバウ・ワウ。
 バウはライフルの代わりにバズーカを担ぎ、ファンネルを上回る速度でガンダムに向かっている!

 ハロルドとダグラスのモニターには、既にガンダムの姿が映っていた。
 窮地を乗り切ったハロルドは、大きな溜息を吐き、ダグラスに話し掛ける。

「危ない危ない。ダグ、土星ロケットエンジンの調子は?」
「良好だ。班長は良い仕事をしてくれる」
「班長様々だな。さぁて、こっから反撃だ!」

 勢い込むハロルドとダグラス。対照的に、リリルは迫るプレッシャーに恐怖を感じた。
 命が危険に曝される、初めての体験。強固な自信の鎧が綻び始める。

「く、来るな……来ないで!」

 リリルの悲鳴はサイコミュを通じて、空間一帯に広がった。

「ぐっ……」
「ダグ、どうした?」

 呻き声を上げたダグラスを気遣い、ハロルドは声を掛けた。ダグラスはメットの上から額を押さえ、モニターの
ガンダムを見ながら答える。

「……いや、何でも無い。それより後ろに気を付けろ」

 ダグラスの言葉に反応し、後方を振り返ったハロルドが見た物は、異常な量の粒子を噴出して加速する25基の
フィン・ファンネル!
 リリルの恐怖心にニュータイプ能力が過剰反応し、フィン・ファンネルの出力の限界を超えさせたのだ。

「チッ、振り切ったと思ったが!」

 舌打ちし、声を荒げるハロルド。一方のダグラスは、ガンダムから伝わって来るリリルの心を感じ取っていた。

「相手は相当焦っている様だ。実際に敵機に迫られた事が無いと見える」
「そいつは何となく解るぜ」
「感じるのか? 怯える心を」

 彼は時々、ハロルドの理解を超えた事を口にする。ハロルド自身、勘が良い方だが、ダグラスの“それ”は確実に
何かを察知している様子で、常人とは一線を画す。“それ”が高いニュータイプ能力を持つ者に、よく見られる性質だと
ハロルドは知っていたが、その事については深く考えない様にしていた。

「悪い、それは解らん」 

 ハロルドは興味無い風を装い、バウの上半身を回転させ、追い上げて来るファンネルにバズーカを向けた。

 この時、リリルは土星の魔王の実力を思い知った。
 どのファンネルに狙いを付けていた様子も無いのに、ジャイアントバズーカから発射されたロケット弾は、見事に
ファンネルを破壊した。そしてバウは反動で吹っ飛び、同時に繰り出されたファンネルの攻撃を躱す。

 反動を計算に入れたバズーカでの狙撃。砲口から予測出来ない攻撃は回避困難。
 28基の包囲から逃れた時は、ブーストエンジン発動と同時にバズーカを撃ち、反動を利用した瞬間的な爆発力で
予測不可能な動きをしたのだ。

「あ……有り得ない! 有り得ない! こんな動き!」

 バウは高速で移動しながら、攻撃と同時にファンネルのビームを避ける。最早、フィン・ファンネルだけでは
仕留められないと直感したリリルは、ハイパーメガライフルを構えた。
 しかし、ロケット弾を発射する度に、突風に煽られる紙切れの様に舞うバウに、全く狙いが付けられない。
 恐怖と緊張で照準が揺れる。そうこうしている間にも、バウは距離を詰めて来る!

 リリルはパニックに陥り、冷静な思考を欠いていた。窮地に在りながら、ギルバート撃墜を諦める事など判断の外で、
後退の選択肢を自ら絶っていた。今は向かい来る敵機を墜とすしかない。追い詰められた彼女が取った行動は……。

「来ないで! 来ないで!」

 ハイパーメガライフルを下げ、ビームライフルを持つ。ハイパーバズーカを肩に乗せる。シールドを左腕に固定する。
両腕をバウに向けて真っ直ぐ伸ばす!
 左腕シールドのビームキャノンとミサイル、右手のライフル、右肩のバズーカ、全て一斉発射!!

「うわああああー!!」

 ドドドドドドッ!!

 襲い来る攻撃の嵐。流石のハロルドとダグラスも、これを避ける事は出来ないが……。

「自棄を起こしたか?」
「その様だな。ファンネルの動きも粗くなった。ハル、一気に決めるぞ」
「了解!」

 2人は全く焦らない。ハロルドはガンダムに向けてシールドを構えた。

 ドオッ!!

 シールドの対ビームコーティングがビーム攻撃を弾き、反撃のメガ粒子砲がロケット弾とミサイルを撃ち墜す。
 メガ粒子砲は真っ直ぐガンダムに向かい、右肩のバズーカを破壊した。
 
「きゃああぁっ! お願い……止めて……」

 目を瞑って甲高い悲鳴を上げ、弱々しい声を出すリリルに、戦闘開始直後の勇ましさは欠片も無い。瞳は涙に
潤んでいた。それでも閉ざした目を再び開き、敵機を探す辺りは訓練の賜物か。

「……え!?」

 そのリリルの視線を遮り、モニターに迫る黒い影。それが何なのか、弱った精神状態の彼女には判別出来なかった。
反射的にライフルを持った右腕でフェイスを庇う。

 ガコッ……。

 機体の右腕に当たったのは、弾を撃ち尽くしたジャイアントバズーカ。
 利き腕でガンダムの頭部を防御した事により、ライフルでの攻撃が封じられ、同時に死角が生まれた。

 ガンダムの右半身が無防備になった隙を突き、バウは急接近!

「止めて……って、言ってるでしょうがっ!!」

 瞬間、リリルの精神は土壇場で狂乱から復活した。泣き喚いても無駄だと理解し、開き直ったのだ。
 遅れた反応ながら、バウにシールドのビームキャノンを向ける!

 ガシンッ!

 しかし、シールドはバウの右足に押し止められた。密着した状態で、ガンダムにライフルを構え直す余裕は無い。
バウはビームサーベルを右手に持ち、大きく肩を開く。
 リリルは会心の笑みを浮かべた。バウの背後には1基のフィン・ファンネル!

 ドォン!

 ……だが、爆発したのはバウの背中ではなく、ファンネル。バウはファンネルが来る位置を知っていたかの様に、
サーベルを持った右腕からグレネードを発射していた。

「バルカン!」

 思惑を見抜かれていた事はショックだったが、リリルに落ち込む暇は無い。空かさず頭部バルカンで至近距離から
バウを攻撃!

 ガガガガガガッ!

 無数の弾丸が発射されるが……リリルの目に映った物は、モニターの前面を覆うシールド。弾かれるバルカン。
次の瞬間、シールドの中央部が横一文字に避け、砲口が露になる。

 この時、バウの右足は前方でガンダムのシールドを止め、右腕は大きく肩を開いて後ろに伸ばされ、左腕はシールドを
前に突き出し……バウは通常の操縦では有り得ない格好をしていた。
 リリルを上回る先読み。想像も付かない動き。彼女は敗北を悟り、モニターの正面から顔を背けて目を閉じる。

(ああ……負けた……)

 バゴォ!!

 ……ガンダムヘッドは吹っ飛んだ。
 そして、バウのビームサーベルがガンダムの胸部中央を貫く……。
 全てのフィン・ファンネルが動きを止め、勝敗は決した。

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