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Mad Nugget 第四話

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 「Mad Nugget」 第四話

    地球、南アメリカ大陸中央、コーデリア。地球連邦軍本部にて。

 白い月が見える昼下がり、人の疎らな渡り廊下で、地球連邦政府高官ベルガドラ・マッセンは一人の老将校と
擦れ違う。

「これはこれは、マッセン女史。この様な所に何の御用ですかな?」
「連合のエースが逃亡したとの報せを受けまして」

 老将校の問い掛けに、マッセンは愛想良く答えた。相手は戦争再開反対派の大物、シューダー少将。
 互いに互いを快く思っていない者同士、感情を抑えて和やかに会話する。

「おお、存じて居ります。護送シャトルが聖戦団の襲撃を受けたとか……果て、連邦警察は何処の管轄でしたか?
 御粗末な事で」
「物忘れですか? 御高齢なのですから、無理をなさらず」
「ははは。貴女も数年後は……」
「私は未だ耄碌する気などありません」
「これは失礼……ミス・マッセン」
「ええ、全く」

 何気無く交わされる言葉の端々に潜む棘。冗談めいた皮肉を言い合う様は、如何にも愉しそうであった。
 一呼吸置いて、シューダー少将は態とらしく思い出した様に言う。

「そうそう……連合のエースと言えば、賞金が懸けられましたぞ。賞金稼ぎ共に先を越されぬ様、連邦からも部隊を
 送り出します」
「はい、聞き及んで居ります」
「しかし公には戦争は終了したとかで、民衆の不安を煽らぬ様、人員は最小限に止めよと」
「現場は苦労なさいますね」
「……全くです」

 その苦労は誰の所為なのか……。やや表情を険しくするシューダー少将。
 再び会話が途切れ、今度はマッセンが先に口を開いた。挑発する様に、軽く。

「相手は土星の魔王、仕留められますか? 返り討ちに遭えば良い笑い者。“私達”は構いませんけれど」
「……ベルガドラ・マッセン」

 それまでの雰囲気から一変、シューダー少将の重く低い声に、マッセンは身を硬くする。
 彼女は平静を装って尋ねた。

「何でしょう?」
「アーロ・ゾットを甘く見るな」

 射殺す様な鋭い視線、脅し口調。
 直後、シューダー少将は笑顔に戻り、固まるマッセンに軽く会釈をして別れる。
 マッセンは去り行く彼の背を一瞥し、嘲る様に言った。

「シューダー少将……アーロ・ゾットが何する者ぞ。彼奴が如何に策謀に優れようと関係無い。勝利に必要な物は
 知略では無い。大胆な決断と実行力だ」

 時と所は変わり、月、キャピタル・フォン・ブラウン。月周辺宙域警備隊駐屯地格納庫。

 警備隊巡査長セイバー・クロスが帰還したのは、巡回に出発してから約6時間後の事だった。
 ドックに機体を置いた後、コクピットハッチを開け、メットを外して大きく息を吐く。

 負けたとは思っていないが、強い相手……そして、心躍る戦いだった。互いに命を削った瞬間を一つ一つ思い出す。

(次に戦う時は……)

 そこで思い至って、頭を振った。有り得ない。彼は一人の警備隊員に過ぎないのだから。
 戦闘の余韻に浸り、薄暗いコクピット内で茫然としていると、歳の若い男性警備隊員が覗き込んで来た。

「巡査長、遅かったですね。機体の背中、魔王にやられたんですか?」
「……逃げられた。こいつは戦利品だ」

 遅い帰りを心配して駆け付けた後輩に、溜息をつきながら無愛想に返す。同時に暗い影が横切った。

 視線を上げる後輩警備隊員。音も無く動いた機体の右手に、確り握られているバウのビームライフル。
 後輩警備隊員は、がっくりと肩を落とした。

「流石の先輩でも、土星の魔王は墜とせませんでしたか……」
「どうかしたのか?」
「政府が連合のエースに賞金を懸けたんです」
「……幾ら?」

 セイバーの問いに、後輩警備隊員は片手を広げて見せる。

「ハーフミリオンか」

 直感で当たりを付けたセイバーだったが、後輩警備隊員は首を横に振った。

「5ミリオン? 成る程……」

 独り頷くセイバーに、後輩警備隊員は首を横に振り続ける!

「先輩、違います! 50ミリオンです!」
「50だと!?」
「軍が5ミリオンの懸賞金を発表した後、政府が追加で45ミリオン出すと……」
「……それは惜しい事をしたな」

 逃した魚は余りに大きい。セイバーは何度も溜息を吐き、ガシガシと乱暴に頭を掻きながらコクピットから出た。

 既に勤務時間外。格納庫を後にしたセイバーは、後輩警備隊員と別れ、始末書と報告書を作成する為に、独り詰所に
向かった。無人の筈の詰所には、彼が戻る事を期待してか、未だ灯りが点っている。
 セイバーは更衣室で警備隊の制服に着替えてから、詰所に足を踏み入れた。

「初めまして、撃墜王セイバー・クロス」
「……君は?」

 詰所には人が居た。予想外の事に驚いたセイバーは動きを止める。
 彼を迎えたのは、連邦軍の制服を着た少女。年の頃、10代前半。ティーンエイジを迎えているかすら怪しい。
 不思議な雰囲気の少女は、セイバーに恭しく礼をした。

「私は連邦軍緊急討伐隊のリリル・ルラ・ラ・ロロ少尉です。セイバー・クロス少尉、貴方を迎えに来ました」
「……待ってくれ。緊急討伐隊とは何だ? 俺に軍属に戻れと言うのか?」
「はい。緊急討伐隊とは、逃亡した連合軍のエース、ハロルド・ウェザーとダグラス・タウンを仕留める為に、新しく
 編成された部隊です。人員不足に悩んで居りまして、撃墜王の力を是非、お借りしたいと」

 敬語ではあるが、少女の淡々とした話し振りは何処か高圧的で、異論を許さない迫力があった。

 セイバーは少女の言葉に腕を組む。御役所の公認で連合のエースを追撃出来る等、セイバーにとっては願っても
無い事だったが、二つ返事で了解する程、軽率では無い。

「討伐隊のメンバーは他に誰が居るんだ?」
「艦のクルー以外では、スイーパーが4人と、新人パイロットが1人。MSの操縦者で正規の軍人は私だけです」
「……それで討伐隊?」
「色々と政治的な事情が故です。非常に重要な任務である事に変わりありません。嫌と仰るなら、それはそれで」

 軍とは思えない人選に対して不信感を露にするセイバーに、少女は変わらぬ口調で答える。
 彼女の瞳を見ながら話を聞いていたセイバーは、悪寒に肌を粟立たせた。

 少女から感じる、得体の知れない圧迫感の正体。彼女はセイバーが拒否しないと確信している。
 理解したと同時に走った、心臓の辺りを探られた様な嫌悪感。まるで全てを見透かされている様な……。

(この歳で少尉、という事は……)

 セイバーは目を閉じ、顎に左拳を当てた。

「……隊長の名前を教えてくれ」
「ミッハ・バージ大佐です」

 その名を聞いたセイバーは、ゆっくりと目を開く。

「あの爺さんが俺を御指名か……。良かろう。解った」

 ミッハ・バージとは、大戦中にセイバーが所属していた部隊の指揮官だった人物である。セイバーのパイロットとしての
手腕を見込み、軍経験の浅い彼を教え導き支えた、言わば恩人。
 信頼出来る人物が、己の力を必要としているならば、応えるに吝かでは無い。
 静かに肯くセイバー。それを見たリリルは口元を歪め、凡そ子供らしくない笑みを浮かべた。

 その翌日、月から巨大な白い鳥が火星に向かって飛び発った。

 緊急討伐隊の母艦、スザ級輸送艦ペリカン。ガルダの系統で、宇宙空間で活動可能。従来艦と比較して小型では
あるが、長距離航行能力と機動性に優れる。白を基調としたカラーリングは連邦軍の伝統。

 MS格納庫で、セイバーは艦長のバージ大佐と久し振りの会話をしていた。
 戦争中の思い出話、戦争後の生活の話、そして今回の任務の話……。

「有り難う。そして、済まない。再び君に頼る事になってしまって……」
「気になさる必要はありませんよ。地球から動かない腰の重い連中に、俺の実力を本物と認めさせる良い機会です」

 強気のセイバー。バージ艦長は嗄れた声で嬉しそうに笑う。

「君は相変わらずだねえ……。頼りにしているよ」
「蒼碧の流星群、貴方に戴いた二つ名です。必ずや、その名に恥じない戦果を上げて見せましょう」

 セイバーは撃墜王の勲章を付けた胸を張り、堂々と言った。

 ミッハ・バージは物腰柔らかな好々爺で、人の扱いに長ける。寄せ集めの討伐隊で、果たしてヴァンダルジアを……
戦争の再開を止められるのか? あらゆる意味で、全ては彼の双肩に掛かっていた。

「御談笑の所、申し訳ありません。バージ艦長、出撃許可願います」
「ん? ロロ少尉か。ああ、良いよ」

 話の最中、横からバージ艦長に声を掛けて来たのは、淡いピンク色のパイロットスーツに身を包んだリリル。
 バージ艦長は、あっさり了承した。傍で聞いていたセイバーは何事かと焦る。

「敵襲!?」
「いや、彼女にはギルバートを足止めして貰うんだ」

 落ち着いて説明するバージ艦長。リリルは小馬鹿にした様な笑みを浮かべている。

「バージさん、どういう事ですか? 奴等が何処に居るのか判って……」
「では、行って参ります!」

 リリルは姿勢を正して敬礼し、セイバーのバージ艦長への問い掛けを意図的に遮った。
 そして自身が搭乗するガンダムに目を向ける。

「艦長……足止めと仰いましたが、別に墜としてしまっても宜しいんですよね?」
「出来る事なら、お願いしたい」
「フフ、御任せ下さい」

 バージ艦長の答えを聞き、意気揚々と自機に乗込むリリル。
 彼女のガンダムは背中に大きな輪とロケットブースターを負っている。
 白銀の機体に、黄色のアクセント。ニュータイプ専用機、ガンダムヒマワリ。背中の輪は36基のフィン・ファンネル!

 カタパルトに乗って発進準備を終えたガンダムを、セイバーは厳しい目で見ながらバージ艦長に告げる。

「土星の魔王を見縊らない事です。あの子供は機関の出でしょう。新型試作機の性能が如何程の物かは知りませんが、
 実戦経験の浅い素人では力量不足」
「構わんさ。負けて帰るのも経験の内だよ。鼻っ柱を折られたら、聞かん子も少しは素直になるだろう?」
「貴方という人は……」
「はっはっ! 案外やってくれるやも知れん。期待せずに待とうじゃないか」

 バージ艦長は呆れるセイバーの肩を叩き、豪快に高笑いした。

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