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act.47

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act.47


「だが、そうだな。……多分、俺は奴が拾わなければ、行く場所もなく野垂れ死んでいたのだろう。
……俺は、そのズイマを、奴を殺した。これ以上の罪が何処にある? 刻印のせいなどということは関係がない。
俺がズイマを殺した。それだけが事実だ。
刻印が罪だというのなら、おそらくそうなのだろう。
これは罪だ。所有することが罪悪ならば、使い続けることも罪悪なのだ。
“刻印”という罪の存在を許すこと、それがすなわち罪なのだからな」
「罪……?」
「ああそうだ。お前もとっくに自覚しているだろう?
何故、刻印を使えば使うほどに力が増し、対価が重くなるのか。
答えは簡単だ。刻印を使えば使うほどに、俺達の罪もまた重くなるからだ。
俺もお前も、咎人だ。罪を負い、罪を犯しながらしか進むことが出来ない。
許されようなどと考えるな。救われようなどと甘い夢を見るな。
気休めに逃避したとしても待ち受けているものは一つ。それは死だ。
俺は……自らの罪によって滅ぶならそれでいい。この身はいつか滅ぶ。それが早いか遅いかだけのこと」

存在を許されない証。呪われた印。
魂に刻まれた、罪の記憶。
許されないと知っておきながら、穢れた刻印を使い続けた。
それが罪なのだと、エレは言う。

それこそが罪悪、罪を許そうとする行為自体が、また罪に他ならないのだと。

「じゃあ……どうすればよかったの」
シアナは喉の奥から声を絞り出して言った。
「じゃあ、諦めればよかったの?! 全部投げ捨てて龍に食われろって? 御免だわ。
生きたいって思うのがそんなに悪いことなの? 私は……私は……っ。……あんただって、エレだって……」
ただ、生きたかっただけじゃない。
それだけ、なのに。たったそれだけ。
他には何も望んでいないのに。――望むことすら、許されなかった。
世界は全てを静かに押し付け、救済の手すら差し伸べてくれない。

ああ、それならば、一人でも戦おうと誓った。業を負い罪を成し続け龍殺しの騎士と悪魔の騎士、道は違えど目指した場所は同じだった。
「あんたは……それでいいの」
「……それでとは、何がだ」
「私は全然納得してないわ。あんたが刻印で苦しむことにも、この処罰にもよ!! 答えてよ、それで満足なの!?」

必死の叫び声に、悲しみに満ちた目の奥が、僅かに揺らいだ。
だがそれも、少しの時間のこと。
感情は色を変え、徐々に収まっていく。
エレは無表情になり、シアナと正面から睨みあった。

「……満ち足りることなど、生まれてから一度も有りはしない。
俺は、いつも乾いていた」
「……」
「だから……分からない。今も酷く、乾いているのだろう。渇望が感じられないほどに」
「どうしたらいいのよ……」

シアナは項垂れて、ぎゅっときつく目蓋を閉じた。
浮かぶのはズイマの最期。
シアナを庇い、重症を負いながら、エレを頼むと告げた最後。
初めてズイマに頼みごとをされたのだ。
自分はウィナからの伝言を告げられなかったのに。
だから……せめて、あの願いだけは叶えてあげたかった。
ズイマはこんな未来は、望んでいないはずだ。
そして自分も。
「どうしたら、あんたを救える……?」
「分からぬ奴だな。俺にもお前にも救いはない、と言っただろう」
「……そんなの、不条理だわ」
「今更、何を言う。この世界は不条理だらけだ。条理の通ったものの方が遙かに少ない。
クッ、良かったではないか。一つ賢くなったな」
「アンタって……嫌な奴」
「それも、今更だな」
言葉が止まる。この先、何と続けていいか分からない。
エレに生きてて欲しいと思う。
だがそれは、エレにとっては救済ではないのだろう。
……自分に、何が出来るのだろう。
ズイマとの約束を守るために。
「……俺は、もうすぐ龍に変わる」
「……エレ……!!」
「おそらく、後一回、力を使った時が限界だ。もうこの先はない。それもいつ刻印が発動するか分からない。
……俺は龍に変わり、刻印に自意識を奪われお前達を食らい尽くすだろうな。刻印は暴走し、フレンズベルを死の森へと変えるだろう」
「――っ!!」

「龍殺し。それでもお前は、俺を救うというのか?」

……ああ。
最初から、こうなることは決まっていたのかもしれない。
逃げる道も選ぶ道も、行くか戻るかの二つしかないのならば。
私はいつだって、――進む方をとるしか出来ないのだから。
龍になったエレを生かし続けることが救済だとは思わない。
そんなのは救いじゃない慈悲でもない。……ただの傲慢だ。
そうなった時、私に与えられるのは生じゃない。
シアナは、エレを間近で捉える。

そして――告げた。壮絶な決意を込めて。


「……もし、そうなった時は――私が貴方を殺すわ、エレ。
私が全力で……殺してあげる」



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