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act.41

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act.41



さあ、刻印よ、龍殺しの刻印よ。
お前が敵を嬲るのにうってつけの機会はここに。
聞け!! そして記憶を辿れ!!
私は今、全身全霊の力を持って――龍を討つ!!

刻印は発動した。紫の光が周囲を埋め尽くす。
剣は向かってきた龍の腹を抉り、ひと刺しで骨身を貫通する。
断末魔を叫ぶ龍。切り裂かれた腹部から内臓がばらばらと散らばり、体液が雨となってシアナへ飛散する。
龍は一際高い声をあげて、落下した。
惨たらしい遺体が地面の上に仰向けに横たわる。
紅蓮の龍は息絶えた。それでも奴が吐き出した炎の勢いは未だ衰えない。

「……はあっ……はあっ……」

呼吸を繰り返しながら、シアナは剣を地面に突き刺して膝をついた。
刻印の力が収まっていく。――ズクン、内部から心臓を丸ごと掻き毟られる感覚にシアナは呻いた。
龍の魂が、シアナの刻印へと吸引されていく。そうと知った今では、ありありとその様子が分かるようだった。

「隊長、大丈夫ですか……」
「……へいき、よ。私に構わないで皆の手伝いに回って」
「で、でも」



シアナは撥ね付けるようにイザークに言った。
「いいから、行きなさい!!」
イザークは心配そうにまだシアナを見ていたが、言われた言葉に意を決したのか消火活動へ向かった。

「消せーー!! 水をバケツに汲んで運べ!! 早く!!」
「誰かホースを持ってこい!!」
「こっちに救援を頼む!!」


火が燃えている。
火は苦手だ。
何もかも飲み込んで、消していってしまうから。

「う……っ」

気持ちが悪い。せりあがる不快感にシアナは顔を歪めて、口を押さえた。
消火活動を行っていた騎士達が、ざわめき出す。何事かとシアナは顔をあげた。

「おい、そういえばウィナさんがいないみたいだけど……」
「え? まさか中から出てきてないのか?」
「ど、どうするんだよ、中に取り残されてるんじゃ……」
「探したけど外にはいない。……中だよ!! まだおばちゃん中で逃げられないでいるんだよ、やべえよ。どうするんだ、こんな火の海の中」

ウィナが中にいる……!!

それを聞いた途端、殆ど反射的と言ってもいい。シアナは後先考えずに飛び出した。燃え盛る火の寄宿舎の中へ、全速力で飛び込んでいく。
騎士達が何人か、シアナの無謀に気付いて止めようとするが、遅かった。
寄宿舎の中は、灼熱だった。熱風が絶えず行き交い、次々と溢れてくる黒煙と火焔のおかげで視界も最悪に悪い。
「……っ、げほっ」
迂闊に息を吸い込むと、尋常でない熱気のせいで喉が咽返る。
口を押さえたまま、シアナはウィナを探す。

熱くて今にも焦げ付きそうだ。
我が身を危険に晒してまで、こんな所まで来て馬鹿だと自分でも思う。
でも、もう嫌だった。
こんな風に誰かを失うのは。
誰かが死ぬかもしれないのに、それを黙って震えて見ていることしか出来ないのは。

「ウィナ、お願い……っ、いたら返事して……!!」

崩れていく寄宿舎。天井から落ちてくる小粒の瓦礫がシアナを直撃する。
構わず走った。
探し続けて結構な時間が経過した。入ってきた玄関口も通れない程に火は広がっている。

「ウィナ……」



酸素不足でだろうか。目の前がぼうっとする。
炎が風に煽られてシアナに迫る。意識が落ちる瞬間、誰かの足音を聞いたような気がした。
胡乱に包まれていく思考で、見上げると。
懐かしい人間がいた。――絶対にいない人間の筈なのに。

疲労した頭が、幻影を見せたのだろうか。
それとも亡霊となって甦った?
いいえ、あり得ない。


火が爆ぜる音。舞う火の粉。
背中を向けてシアナの前に立ちはだかる人。
それはあの日の再現だった。

シルクレイスの大災禍と言われた――悲劇の夜の。
シアナは完全に意識を失った。それでも夢の中では在りし日の出来事が刻々と続けられていた。






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