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act.28

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act.28


リジュの手から風が生まれた。
疾風の烈波は衝撃波となって空間を一閃する。
たちどころに空気を切り裂いて、ファーガスへと迫り来る!!

光に届くような業風。それがまるで、コマ送りのように見えた。

……ふざけるなよ。こんな所で殺されてたまるか。
まだあの女を殺してないっていうのに、死ねるかよ――!!

死を覚悟できないまま、遅い来る波がファーガスを包み込まんとした刹那。
漆黒の影がファーガスの前に立ちはだかった。真空の刃に飲み込まれた二人の視界は白濁する。
その最中、風が――残酷な狩り手として二人を食らう!!

「ふっ!!」

それを、影は、――斬った。
文字通り、刀で一文字に切り裂いた。
波を真っ二つに断たれた風は、分断され、軌道を変える。
凄まじい勢いで駆けていき、後方で爆発を起こした。
砂煙が舞い上がる。
砂の霧が晴れ、影とリジュは向かい合った。


「……貴方は、ファーガスさんのお仲間というわけですか」
「……」
「ふう。答えるつもりはなさそうですね。名を名乗るのが礼儀なのでご挨拶します。
僕はリジュです。一応こう見えても騎士なんですけど――名前を伺ってもよろしいですか?」
「……」
聞いても無駄でしたか。そうリジュが思考した後、
影は薄手の装束を風にたなびかせながら、よく通る声で言った。

「我が名はシチリ。ノクト様に使える従僕だ」
「従僕……ね、どちらかというと諜報員さんというか忍びの方に見えるんですが……まあいいです。お聞かせ頂きありがとうございました」
「礼はいらぬ。貴様はここで死ぬのだからな。この地を貴様の墓場としてやろう」
「それは、ちょっと遠慮したいですねえ……僕の風を刃で斬るとは……どんな魔法を使ったんですか?」

リジュはニコニコとしているが、口調とは裏腹にあの一撃は本気で放った。
シチリはそれを刃で切り裂いて、防ぎこうして向かい合っている。

う~ん成る程……中々やりますね、この人。
リジュは前方のシチリを見据える。
「魔法など不要。我ら影にとって風は我が身のようなもの。道筋を読み、軌跡を変えることなど己を掌握するのと同義よ。造作もないことだ」
「ほう……それはそれは」
忍びは駆ければ風。舞えば月。身を潜めれば影となる。
自然と一体になることが忍びの極意、と以前書物で聞きかじったことがあったが――
それは案外、本質を射た教えなのかもしれない。
現に目の前の忍びはリジュの生み出した風の太刀筋を読み、見事にそれを切り裂いて振り払った。
となると風は効かないですねえ、とのんびり考えるリジュ。

シチリは、振り向きもせず庇ったファーガスに言葉を投げつけた。

「……行くがいい、蛇よ。まだ立てるのならばな」
「…………チッ、礼は言わないですよ」
「元よりそのようなものは不要だ。我が主は貴様の存命を所望されている。
後方へ退き、背の隊と合流するがいい」
シチリが全て話し終わる前にファーガスは駆け出した。遠くなっていく背中。
リジュははあ、とため息を吐く。
「ああ、行っちゃいましたか」
「追わせぬぞ。……奴を殺したくば私の屍を超えていくがいい」
じり、と構えあう二人。
「承知の上ですよ、シチリさん」
「惜しかったな。もう少しで裏切りものを抹殺出来ただろうに」
「ですね。ちょっと惜しかったですねえ。もう少しで殺せる所でしたのに」
尚余裕たっぷりに、微笑んでみせるリジュ。忍びはいけ好かないものでも見るような視線を浴びせる。
「ふっ、とんだ道化だな貴様、その笑顔の下にどんな獰猛な表情を隠している」
「いやいや、そんなもの隠し持ってませんよ。平々凡々な騎士隊長ですから」



「平々凡々? 戯言を……」
その時、ぱさりと音を立てて、忍の顔を覆っていた布が剥がれた。
正確には、<切り裂かれていた>

「……先程の風、断って尚、我が身まで到達していたとは……凡俗にそのようなことはできまい。貴様一介の騎士ではなさそうだな」
リジュが先刻生み出した風の刃は、シチリまで届いていたのだ。
シチリの白い頬を紅い一筋が流れる。
素顔を晒した忍は、心が凍るほどに美しかった。

「こんな綺麗な女性に刃を向けるのは趣味じゃない、とでもクーフさんなら言うんでしょうけどねえ……僕、結構鬼畜なので。
遠慮なく攻撃させて頂きます」
「――来るがいい」
言うと同時に影は飛ぶ。リジュの頭上から刃を振り降ろす。
リジュのフランベルジュがそれを受けて弾き返す!!
「ια μασ」 ―我は命ずる
その間も詠唱は続いていた。
剣を振るい、攻防を交わしながら、魔術を完成へと近づけていく。 

「I φωσ」 ―光よ


「Απο την αλυσιδα και αρρωστνσετε」―仇を繋ぐ鎖となせ


呪文は完成した。
リジュの指先から放たれた光は白い糸を紡ぎシチリを覆う。白が黒を侵食する。
体に絡まってくる糸を断ち、逃れるシチリ。
着地し、動き出そうと足を前に出そうとして違和感に気付いた。
足が、動かない。

――見れば、地面に伸びたシチリの影を、糸が縛っている。影縛り。魔術、若しくは呪術の初歩的な攻撃呪文。

「これは……影を縛ったのか……」
「ご名答です」
だが、何故だ。私は放たれたものは確かにかわしたはずだ。
それなのに、どうして……。
リジュはシチリの疑問の答えをあっさりと口にした。

「不思議なことじゃありません。簡単ですよ、シチリさん。同時に同じ術を二個発動させたんです」
「な……っ」
「ちょっとひとつの術の錬度は落ちちゃいますけど、まあ使えなくはないですからね」
言うのは誰でも出来る。だが。
そんなことが果たして常人に可能なのか。魔術をひとつだけでも発動させるには凄まじい集中が必要となる。
それを易々と二つ発動させておいて、まだぴんぴんしているとは……。
衝撃的な告白をあっさりと言ってのける目の前の騎士に、底知れぬものを感じた。
自分が相手にしているのは騎士であって魔術師ではない。
剣を生業とする者の筈。
それなのに、何だこの桁外れの強さは……!
こいつ、一体何者だ……!!




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