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act.26

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act.26




光が消滅する。

「な……に」
シアナの剣は龍の鱗に弾かれて、内部まで届かなかった。
龍殺しの剣が、龍に防がれた。
そんなことはあり得ない。それなのに、現実にこうして起こってしまっている――。
何が起こったのか分からない。
確かに自分は刻印を開放したはずだ。
それなのに、何故、力が――光が消えている。
「何で……」
着地ざま、蒼黒龍から距離を取るシアナ。
刻印が発動しなかった?……いや違う。刻印は確かに発動した。
それにも関わらず、直後【私の意志とは無関係に力を収束させた】
断行的に。強制的に。絶対的に。
まるで、何かの力で無理やり上書きされたように。
「やめておけ龍殺しよ。貴様の力はこの龍には――いや、私には通用しない」

その言葉に、心臓が震えた。

まさか。
まさか。
こいつ。
「ひとつ、忠告しておこう。刻印を持つのはお前だけでない」
龍の傍らに存在するノクトに眼を向ける。
ノクトの右腕は高々と掲げられ、手甲からは眩い光が放出されていた。
問うまでもない。見飽きたあの光は。
シアナは冷や汗が頬を零れると同時に言葉を発する。
「……刻印」

「そうだ。理解が早くて助かる。
私の刻印は――刻無の刻印、ベルゼ。
ありとあらゆる刻印の行使を防する絶対の盾。どんな刻印であろうが、それが刻印である限り、ベルゼはそれを封じる。
……私を敵にしたのが運の尽きだったようだな龍殺し。
お前は私には勝てない、絶対にな」
ノクトの声が耳の奥でこだまする。

「この蒼黒龍を殺せるのは人ならざる領域に踏み込んだ者のみ。
龍殺し、お前がいかに強くとも刻印の力を封じられればただの人に過ぎぬ。
お前も騎士の身なれば、戦力差が計れぬ程、愚ではあるまい? ……私は無駄な殺戮は好まない。
降伏を誓うならば、貴様達に手は出さないと約束をしよう。
さあ、もう諦めて降伏するがいい」
「――……」

退くか。退くものか。こんな所で。
しかし、龍殺しの力を封じられたら。私はどうやって戦えばいい。
最強の龍と幾千もの龍を前にして、決定的な攻撃の要を封じられるとは……っ!!
シアナは顔をあげて、強がりにも似た笑いを零す。

「成る程ね。ファーガスが私の力を探っていたのはそういうことだったワケ」
ここまで来てようやく奴の意図が掴めた……この為か。
部下を虐め私を挑発し、誘いに乗らせ、龍と戦わせ――そして刻印の力を暴いたのも全て。
ゴルィニシチェが龍でフレンズベルを攻める為の策の一環か。
戦は――とうに始まっていたのだ。ファーガスに食堂で問われた時から、いやもしくは、そのずっと前から。

「……左様。あれは良く役に立ってくれた。戦い方はどうあれお前の力が刻印だと暴いたのだからな。
その意味では我々は僥倖だった。龍殺しの力の源がもし――ただの実力、それが努力で築き上げた力であったなら
私の刻印は意味をなさなかったであろうからな」
シアナは気付かれないように再度、刻印の使用を試みた。
刻印に全神経を集中させ、解放させようと足掻く。だが。
「無駄だ。何度やっても同じこと。言ったであろう龍殺し。お前は私には勝てない」
「ぐ……ッ、く……う」

ベルゼはシアナの刻印を封じ続けている。
刻印の能力を覆い、内部へ逆変換し、押しとどめる。
それこそが刻無の刻印――絶対防壁の力の真骨頂。
シアナが絶対に龍を殺すのと同じことだ。刻印を封じる。それこそが呪い。
故に龍殺しの刻印は、ベルゼに敵わない。
シアナは悔しさに歯軋りする。

敵を前にして――戦えないのか。
この龍は私にしか倒せないと分かっているのに。
だがこのまま、おめおめと敵の侵攻を許してなるものか。


「勝てないなどと……決め付けるな」

龍殺しの刻印は封じられた。
手段は失われた、か?
――いや、手段はまだある。
シアナはノクトを睨みつける。
そう、刻印の主さえ倒してしまえば、いくら刻無の刻印だろうと、力は失われる。
こいつさえ倒せば……!!
「先ずは……お前から倒す!!」

シアナは、一瞬でノクトへ接近した。
ギイインッ!!
弾ける剣と剣。火花が散り、風が裂かれる。
その一瞬の遣り取りに、相手の実力を垣間見る。

……重い。やはりそこいらの兵とはワケが違うか。
これがゴルィニシチェの将軍。知謀だけでなく武力も優れているとは噂に違わない裁量ぶり……!!!
「……面白い」
その刃、相手にとって不足なし!!
続け様、横薙ぎにふるわれた剣先を押し返す!!
「ぐ……っ、はああっ!!」
カチカチと合わさった刃が、震えて音を立てる。
二つの刀身を挟んで、敵同士の将の顔が近い。

「……敵わぬと知り尚戦うか。勇猛も過ぎればただの無謀ぞ」
「無謀? 言ってくれるわね……私は無理をしているつもりはこれっぽっちもないわ」
「そのような蒼白の顔で何を言う。怪我を負った身で私が倒せるとでも思ったか? 甘く見られたものだ」
拮抗した押し合いの中、シアナの肩に痛みが走る。そこに僅かの隙が生まれた。
「っ……」
将がこの好機を逃すはずもない。ノクトの刃がシアナの剣を高く救い上げる。
刃は弧を描き宙を舞う。
剣はシアナの背後に滑り転がっていく。
ノクトの刃が、シアナの眼前へ突きつけられる。

「く……」
「さて。どうする、シアナ・シトレウムス。徒手空拳で私とやりあうか?
我が兵も随分消耗した。そろそろ決着を着けたいところなのだがな。
そうだな……」
ノクトは蒼黒龍を仰ぐ。
「ここで見世物でも行うか龍殺し。……この龍にお前を食わせる所でも見せれば
騎士達も戦意を喪失するだろう」
「……!!」
「おあつらえ向きと言っていいか、この龍は餓えている。今ならばさぞ残酷にお前を平らげてくれるだろう」



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