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act.23

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act.23




「その昔、ある国に一人の騎士がいました。
騎士の住んでいる国には沢山の龍がいました。
騎士は森に住んでいる一匹の龍と友達になりました。
龍は賢く聡明で、沢山のことを騎士に教えました。
騎士も人間のことや、家族のこと、天気のこと、沢山のことを龍に話しました。
二人は友人と呼べるほどに、とても仲良くなりました。
ですが、龍はある時から騎士を遠ざけるようになります。
騎士は何故だと龍に聞きました。龍は言いました。
お前とは仲良くなりすぎた。これではいけないのだ。私の本能が徐々に目覚めている。
そして本能を完全に思い出してしまったとき、私はお前を殺してしまうだろう。
だからもうここに来てはいけない。人間は人間の住処がある。そこへ帰るのだ。
騎士は龍の言うとおり、自分の住むべき場所へ帰ることにしました」

「それで? それで龍はどうなったの? 騎士はどうなったの?」

「さあ。どうなったんだろうね。話は今日はここで終わりだよ。もう今日はゆっくり休みなさいシアナ」
「そんなの嫌だよ。続きが聞きたいの。だって龍が可哀想なんだもの」
「可哀想?」

「うん。友達が遠くに行っちゃったら悲しいよ、ひとりぼっちになっちゃうもの」
「そうだね。……きっと悲しかったと思うよ」

「それで? ねえ、騎士はその後どうしたの? 教えて!!」
「……ふう。シアナは頑固だなあ。言い出したら聞かないんだから。お母さんそっくりだ」

「えへへ」
「じゃあ話すよ。騎士はその後――」


それでも、毎日龍の元へ行きたくてたまりませんでした。
ある日、騎士に命令が下ります。それは凶暴化した龍の討伐でした。
命令に従い、騎士は龍のいる場所へ向かいました。それは騎士と仲が良かった龍のいる森でした。
龍は、龍の本能に目覚めてしまったのです。沢山の人を食らい、それでもなお人間を食べようとしていました。
騎士は、龍に自分のことを気付かせようとしました。龍は騎士のことを忘れてしまったようで、
騎士がいくら叫んでも何も反応してくれません。龍は討伐に来た騎士達の沢山を殺しました。
騎士は悲しみました。もう目の前の龍は自分の知っている龍ではなかったのです。
龍は騎士に牙を剥き襲い掛かってきました。騎士はその時決意しました。自分がこの龍を殺そうと。
長い戦いの末に、ようやく騎士は、涙を流しながら、龍に最後の一撃を与えました。
龍は倒れて動かなくなりました。もう二度と、起き上がることはありませんでした。

殺気を感じて目が醒めた。
咄嗟に身体を思い切りねじって、寝台から飛び退いた。
切り裂かれる枕。羽毛が飛び散る。自分の寝ていた場所に短剣が突き刺さっていた。

「ほう……熟睡していたと思っていたのだが。中々勘は悪くないようだな」
真っ黒な装束に身を包んだ影が、囁く。
壁に立てかけてある剣を掴んで、シアナはそいつを睨み付けた。

「女性の部屋に入ってくる時は、ノックを忘れないようにって習わなかったの?」
「生憎だが、職業柄なるべく物音を立てるようにと言われているものでな」
「ふん。そのわりにべらべらと口うるさいじゃない」
相手の力量を計るように観察する。部屋に入って攻撃を放たれるまで、気配に気付かなかったとは。
おそらくは、生半可な相手ではないのだろう。この状況で冷静さを保ちシアナと向き合っている所を見ると、奴は相等の手馴れだ。

「――暗殺者か。どこの国の者だ」
「……答える義務はない」
「だろうと思ったわ。答えないなら……口を割らせるまでよ!!」
隊長という職務柄、標的にされることも珍しくない。暗殺の危機は常にある。
しかし、よりにもよって、こんな時に限ってやってくるとは。
ああ、丁度いい、剣も振えず苛苛していた所だ。
思う存分、相手になってやろう!!
シアナは溜まった鬱憤を晴らすように剣を鞘から抜く。

その時だった。部屋に満ちた緊張感を割る、のんびりした声が響いたのは。
「隊長~? いらっしゃるんですか?」
コンコン、とニ回ドアを叩く。イザークだ。
「隊長? シアナ隊長? どうかされたんですか――?」
「――っ」
何故こんな時に。不味い。今入って来られたら――
扉が開く。影が動いた。一瞬の間。それでも、忍ぶ者にとっては十分過ぎる程の時間だ。
暗殺者は、部屋に侵入してきたイザークの腕を引いて、首元に刃を突きつける。

「えっ」
まだ事態の飲み込めていないイザーク。それも無理はない。
シアナの体調を確認しに部屋に入るなり、人質に取られたのだから。
影は能面のような表情を貼りつかせたまま、低く告げる。
「……形勢逆転、だな」
影の宣告する通り。――こうなっては迂闊に手が出せない。敵の手中にはイザークがいるのだから。
「……くっ、……こんのバカ!! 何で私の部屋に入ってくるのよ!!」
「そ、そんなこと言われましても、隊長の体調はどうかなって思いまして。
あ、今の駄洒落じゃないですよ。ていうか、この人誰ですか?」
「聞けるなら私が聞きたいわ……」

イザークは暗殺者に抱えられたままシアナと会話している。
傍からみると滑稽だが本人達はいたって真剣なので、益々おかしい図だった。
そんなやり取りを横目で眺めつつ、暗殺者は、臆することなく話し出す。


「取引をしてもよい。もし私と一緒に指定された場所へ向かうというのならば、この男は傷つけることなく無事に離そう」
「場所ね……嫌だって言ったら?」
「答えるまでもないだろう、龍殺し」
鋭く尖った刃を、イザークの首元へ押し付ける。ひやりとした凶器の冷たさが、じかに伝わってイザークは震えた。
それを間近で見たシアナの頭に血が上る。
謹慎処分に降格に、この上なく苛苛している時に私の部下を人質に取ろうなんて――死にたいの?
誰であろうと、部下に手出しする者に容赦はしない。私の守るモノに刃を向けたなら許しはしない。徹底的に、叩きのめす!!

「提案は聞かないわ。イザークを、離しなさい」
「交渉は決裂のようだな。……ならば」

シュン!!
刃は迷いなくイザークの首元へ吸い込まれていった。

しかし。刃は弾かれる。
暗殺者は目を疑った。
絶対に殺せると踏んだ標的が、攻撃を防いだ。――艶やかな技も、巧みの術も使うことなく、一流れの動きだけで。
刃に刃を持って抵抗する必要はない。手甲を着込んだ腕を差し出すだけで、細い刃を受け止めるにはそれで十分なのだ――!!
イザークは先程見せた穏やかな表情を湛えたまま、後ろへ跳ぶ。

「成る程……見た目よりは出来るということか」
「お褒めいただいて光栄です」
「イザーク、それ褒められてないわよ別に」

軟弱そうな男と見た目で判断し、実力を見誤ったか。……影は本質を視、殺すのが生業だというのに。
少し優越を感じすぎたようだ。――暗殺者は感情を殺し、再びシアナと向かい合う。



「それくらい防げて当然でしょう、私の部下なんだから。
……さて、どうする? 貴方は一人、こちらは二人。ほうら、見事な形勢逆転ね」

「……左様、本日は日が悪いようだ。これにて失礼する」
「させるか……っ」
イザークとシアナが影に接近する――剣が触れそうか否かの所で、影は身を翻し、窓に向かって跳躍した。
ガシャアナアン!!!
窓ガラスが盛大に割れて、四散する。
「――っ、待て!!」
窓から下を覗く。そこにはもう影の姿もなく、柔らかな夜気に闇が漂うだけだった。

「ちっ……逃がしたか」
風が部屋へ流れ込んでシアナの髪を揺らす。
忌々しげに暗殺者の去っていった方向を一瞥すると、シアナは床に散らばった硝子を片付け始めた。
「ああ、僕がやりますよ。隊長は大人しく休んでてください」
「……襲われた割には気丈ね」
「あはは、慣れてるんで」
「…………ああ、そう」

そういえば、以前盗賊に襲われたことがあると言っていたっけ。この間は龍に浚われるし、
何か変な物を引き寄せるオーラでも出てるんじゃないだろうか。
割れた窓から風が吹き込んでくる。イザークは硝子をかき集めて拾い上げる。


「全く、どこかの物語のお姫様じゃあるまいし、何回も悪者に攫われないでよ。助けるのも中々骨が折れるんだから」
「ははっ、そうですね。男としてかなり情けないですね隊長に助けてもらってばっかりは」
「そうね。情けないわね」

ズバリ言われて沈黙せざるを得ないイザーク。その横顔があんまりに哀れだったので、ついシアナは口を開いた。
「ま、……まあ、今の立ち回りは冷静でよかったんじゃない」
「本当ですか!?」
「ちょっとだけね」


「ちょっとだけ……」
「不服なの?」
いえ、と返すイザーク。
「ちょっとだけでも隊長に認められたってだけで、嬉しいです」
掻き集めた硝子の欠片を手に抱え、照れくさそうに、凄く嬉しそうに。
笑った。
小言のひとつやふたつでも言ってやろうと思っていたのに、そんな顔をされては何も言えないではないか。

「……手、怪我してるわよ」
「あ、本当だ。硝子で切ったんですかね」
「全く世話の焼ける……ほら、貸しなさい」
慣れた手つきでイザークの手に布を巻いていく。

「ほら、終わったわよ。後でちゃんと消毒しておくこと。いい?」
「はい、ありがとうございましたシアナ隊長」
「どういたしまして。それから……隊長はもうやめて。私はもう隊長じゃないんだから。副隊長と呼びなさい」
「……あ、……そう、でしたね、すいません」
「別に……いいのよ」
自分で隊長じゃないと言っておいて。
その一言が今頃、胸に突き刺さるなんて、本当に馬鹿げている。
「私は、今の件を報告しにいくわ。殺し屋が基地に進入しただなんて大問題だもの。何処に雇われて私を狙ったのかは分からないけど……」
ただ一つはっきりしていることは、あの暗殺者は自分が龍殺しであることを知っていたということだ。
……それは特に問題ではない。標的の素性を調べるのはさして不自然ではないし、龍殺しという二つ名故にそこそこ有名らしいから。
だからあの暗殺者が自分の事について知っていてもおかしくない。問題は、何故自分を狙ったのかということだ。
――何か、私に消えてもらいたい理由があった。それは、一体何だ。














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