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act.17

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act.17



「……お姉さんの刻印は何の刻印なんですか?」
「私の刻印は、龍殺しの刻印よ」
「そう、ですか……珍しい刻印ですね。初めて聞きました、そちらのうさ……いえ、お兄さんは?」
うさぎといいそうになって慌てて言い直すシェスタ。エレは低い声で「悪魔の刻印」と呟いた。
「それも初めてです……どちらもレアな刻印だと思います。シェスタ四千種類の刻印を知ってますが、その中に含まれていません」
「そんなにあるの?」
「ええ。過去の資料にはそうあります。といっても今では持ってる人は殆どいないですけどね」
「……そう」
「私が教えてあげられることはこれくらいです。……それだけじゃちょっとシェスタみっともないので、二つの刻印について調べておきます」
「調べられるの? 見た事ないんでしょ?」
シェスタは自信満々にない胸を叩いた。
「任せてください!! まだ解読してない古文書漁って必ず探してみせます」
「……わかった。じゃあまた日を置いて改めるわ。今日は世話になったわね」

三人はそろって部屋を出ようとする。
「お姉さん」
ふいに真剣な声で呼び止められて振り向いた。
先程までの陽気さがひそめ、知性を感じさせる面立ちになったシェスタがそこにいた。

「……刻印、あまり使わない方がいいですよ」
「代償が必要って奴? ……それならとっくに」
貰っている。龍を狂わせ獲物として狙われる。それが龍を殺せる力の代償だ。
そう続けようとすると、シェスタはゆるゆると首を振った。長い髪が揺れる。

「違うんです。そういうことじゃ……ありません。刻印の力はとても強大なもの。特にお姉さんの刻印
と、お兄さんの刻印は……おそらく別格です。利用の仕方を考えば兵器として使えることだって出来るでしょう。大きな力というのは人を呼びます」
「フン、成る程な。そこの餓鬼は刻印の力を利用されないように、使用を控えろといっているのだろう」
無意識に刻印に触れていた。これは力。背負わされたもの。そして――呪い。
「はい。それに刻印にはまだまだ秘密が多いんです。だから、それがはっきりするまで刻印は使わないで下さい。
まあ、その全貌もシェスタが今後一生をかけて解明してみませますけどね」
無邪気にえへへと笑う少女。
「そう。わかった。忠告感謝するわ」
じゃあね、と言い残して部屋を出るシアナ。
三人が部屋を出て行ってしまうと、シェスタはうーんと背伸びをして、本を漁り始めた。


城に帰ってきた三人。エレは城門のあたりで一人さっさと別方向へ立ち去ってしまった。
「あ。先に行くなんて冷たいなあエレ隊長」
「まあ、ああいう奴だから。さて、私達も帰りましょうか……あれ?」
そこに、第三騎士隊の隊員が息を切らせながら駆けて来る。シアナを見つけると大声で名を呼んだ。
ただ事でない様子を感じ取り、馬から飛び降りる。
ここまで全力で走ってきた隊員は、苦しげに肩で息を繰り返し――その場で立ち止まった。
「どうしたの。そんなに急いで」
「な、中庭で……!! 中庭でファーガス隊長と、隊員が……!」
「……え?」
ファーガスの名前を聞いた途端、嫌な予感――が胸をざわりと駆け抜けた。
シアナは話を最後まで聞かずに、走り出した。
「た、隊長!! 自分も行きます!!」
イザークも後を追った。



ギイン、ギインッ!!
剣が火花を散らせて鳴る。

中庭では、ファーガスと第三騎士隊の隊員が剣闘を行っていた。
閃光のように繰り返される斬撃、疾風のようなそれに、騎士は必死に耐えていた。
「ほらほら!! 耐えていばかりじゃ勝てないですよ!? 反撃はしてこないんですか」
「ぐう……っ!!」
剣を一太刀凌いでも、次の攻撃がすぐにやってくる。かわし、守り、防ぐのが精一杯で、とても手が出るような状態ではなかった。
こちらは一刀、そして相手は二刀流。手数では圧倒的にあちらが勝っている。
それに加え、相手は実力もかけ離れた相手だった。例え下位ランクに属しているといえど、相手は隊長なのだ。
そう容易く、反撃の機会をくれるはずもない。一刀を目で追おうとすると、もう一刀からどうしても意識が外れる。
そこへもう一つの刃がすぐさまこちらを狙いに来る。二つの刃は生きているかのように踊っていた。
刃は双頭の蛇のように、若き騎士を狩りに来る。騎士は、蛇そこにを見た。対峙する男と、その卑劣な剣技に。

事の始まりはおよそ数十分前。騎士は一人黙々と訓練に励んでいた。
そこへ突然中庭に現れたファーガスが、「私が稽古をつけてあげましょう」と声を掛けたのである。
他所の隊長の申し出である。断るのは礼儀に反する。そう思った清廉な
騎士は何の疑いも持たず――それをありがたく受け取った。健気に礼まで述べながら。

それが卑怯な男の、八つ当たりだとも知らずに。


はい、と答えた途端、男は蛇のような眼でにやりと哂う。
シアナ部下の隊員だ。本人には当たれないが、憂さを晴らすにはちょうどいい相手だと、暗い悦びを噛み締める。
(……ヒヒヒ、馬鹿な野郎だ。頭の悪いところは上司そっくりだなあ、よし、少し遊んでやるか)

――そして今に至る。運が悪い事に、城には隊長が全員不在であった。総長も雑務で同じく不在。
咎めるもの一人いない、一方的な稽古は延々と繰り返されていた。
それを目撃した別の騎士が、シアナに知らせようと走ってきたというわけだ。

「ほらほらほら!! どうしたんですか!? 貝みたいに縮こまって!!」
ギイン、ガギインッ!!
ファーガスの左剣が風を薙ぐ。斬と断の嵐。
まともに視認していたら、目が眩みそうな応酬に、騎士は苦痛の色を滲ませる。
騎士の表情をを確認して、ファーガスはますます悦楽を感じる。
――そうだ、もっと苦しめ!! 俺がお前の上司に受けた辱めの分だけ、お前に苦痛を与えてやる!!

徐々にじりじりと追い詰められ、騎士はとうとう中庭の壁にまで追いやられた。
「私が稽古をつけてあげてるのに、それじゃあ期待はずれもいい所ですよ!!」

ここで行われているのは、最早稽古などではなかった。一方的な蹂躙。――それは、加虐である。
隊長と名を持つ者は、自分よりも弱い相手に対して剣を向け、遊んでいるのだ。
それは全て欺瞞と自己満足のため。隊員の為を思っての事などでは決してない。
ファーガスは歪な得意顔のまま、眼前の騎士を見た。
「ヒヒヒッ。大した事ないですね、隊員がこのような有様では――隊長の程度も知れるというものですよ」
クツクツと哂うファーガスに対し、
今まで沈黙していた騎士は、初めてそれを破り、反論した。



「取り消してください」
「……なんですって?」
騎士は、怯まない。もう一度ゆっくりと繰り返す。
「取り消してくださいとお願い申し上げた。いくらファーガス隊長であろうと、シアナ隊長を侮辱するならば、黙ってはいられません」
「お前……っ!! 誰に向かって口を聞いているのです!! 忠誠を誓った隊長に対してそんな口の聞き方――」
「私は貴方に忠誠を誓った覚えはない」
「何い」
騎士は、目の前の隊長を恐れもせず、凛と告げた。
「私がこの騎士隊で忠誠を誓ったのは一人のみ。それは我が隊の長、シアナ隊長だけだ。
我が魂も、我が命も、全ては隊長のためにある。貴方に譲る忠誠も魂も私にはない」

勇ましく言ってのけた騎士は隊長に何処か似ていた。……いくら虐げても、抗ってくる瞳。

それが気に食わない。素直に敗北を認めればいいものを。素直に秘密をもらせばいいものを。
夢想だと? ふざけるな!! 女の癖に女の癖に俺よりも上のランクにのさばりやがって。
お前にそんな資格はないんだ。元々そこのランクは俺が入るはずだったんだよ!!
それを――
ギリッ、と歯軋りをしてファーガスは目の前の騎士をシアナと重ねる。
生意気な視線までそっくりだ。
……残像が合わさるように、目の前はシアナと化した。ファーガスにしか見えない、幻。
ああ、なんて可愛くない可愛くない可愛くない憎らしくて殺したくなる!!



剣を、殺意を込めて――騎士へと打ち下ろす!!
それは、横から出現した太刀に払われた。空へと回転して跳んでいく剣。
くるくると回り、地面に転がる。
「……ファーガス。私の部下を苛め抜いた言い分を聞かせてもらいましょうか。話次第によってはタダじゃおかないわよ」
「シアナ隊長……」
私服姿のまま、剣を手向ける。
ファーガスは途端に腰を低くして、へらへらと媚びへつらった表情になった。
「い、いやですねえ。私はただ単純に、稽古をつけてあげたんですよ。ねえ、そうですよね? 君」
視線を向けられた騎士は、今までの酷い仕打ちなどを述べる事なく「……ええ」とただ一言だけ発した。
隊長といざこざを起こしては、隊の名誉に関わる。それは即ちシアナの名誉にも関わる事だ。……だから、頷いたのだ。
「というわけですよ。分かっていただけましたか?」
「……。私は納得したわけじゃないわ、もし許されるなら今すぐ貴方の額をグーで殴りたいくらいよ」
「おやおや。やばんなのはいけませんね。……そうですねえ。私も今のは少しやりすぎたかなあと反省しているんですよ」
真実味もこれっぽっちも感じさせない釈明が、耳をよぎる。シアナはそれを厳しく切り捨てた。
「誠意のない弁明は聞きたくない。それで?」
「厳しいですねえ。じゃあ本題です。……演習をしましょう」
「演習?」
「そうです。私と貴方で、戦闘の演習を行うんです。どうですか? それなら合法的に、貴方の望む試合が出来るでしょう?」

男は誘うように目配せをした。シアナは逡巡する。蛇の甘言か。
卑劣な男の提案だ。何もないわけがない……何かあることは間違いない。
だが、部下を虐げられて見過ごせるわけもない。
罠にはめようというなら、あえてはまってあげる。乗せようというのなら、乗ってやるわ。
でも、私を乗せた以上、無傷で済むとは思わない事ね――

「分かったわ。それで、日程はいつ?」
「そうですね。準備もありますし、明後日の昼頃はいかがでしょう」
「平気よ。一日空けとくから忘れないでよね」
「勿論ですよ。……それでは私はこれで」
ファーガスは逃げるようにそそくさと中庭から姿を消した。

「隊長……本当にやるんですか」

騎士とイザークがシアナを心配そうに見る。大丈夫だと頷いて、シアナは自室へ向かった。










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