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act.16

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act.16



「リジュの知り合いかあ。リジュ元気にやってますか? あ、適当に座ってください」
紅茶を優雅にすすりながら、少女はちょこんと首をかしげる。
どうでもいいが、紅茶が入っているのがビーカーなのが激しく気になった。
しかも本人が腰掛けているのは、何段にも重ねられた本の山の上である。
座れといわれても、部屋の中は難しそうな本や資料で埋め尽くされており足の踏み場がない。
混沌とした研究室だ。仕方ないので立ったままで話をすることにする。

「ええ。いつも変わらず元気よ」
「そっかあ。よかったです、で、私に話ってなんですか?」
「……じゃああなたが本当に」
「はい。シェスタ・バルテルムですよ。さっきから言ってるのにい~。
よくお姉さんみたいに疑う人がいますけど、シェスタは正真正銘院生です。飛び級で大学に入って、大学院まで進んだんですよ、えっへん」
胸を張って、誇らしげに自慢する少女。どうやら本当にこの人物がシェスタで間違いないらしい。
想像していたイメージとちょっと(かなり?)違ったが、リジュの推薦だ。知識は本物なのだろう。
早速本題に入る事にする。

「刻印の事を聞かせて欲しくて、ここまで来たの」
「……そうですか。お姉さん、刻印持ってる人?」
「分かるの?」
「はい、なんとなく。後ろの悪っぽい人もそうですよね?」
「わ、悪っぽい人って……」
エレはむすっと口を閉ざしたままだ。イザークはシアナとシェスタの会話を真面目に聞いている。
「いいですよ。シェスタに答えれることなら何でも聞いてください」
「本当?!」
「はい」

なんだ、リジュ、変わった人とか言っていたけど、案外素直でいい子じゃないの。
シアナがお礼を言おうとした時、シェスタはぐぐいっとシアナに近づいて「ただーし!!」と人差し指を天井に向けた。


「私、あだなつけるのが趣味なんです。
……もし皆さんにあだなを付けて良いって言うなら、教えてあげてもいいですよ」
「交換条件ってこと? なんだ。それくらい自由にしていいわ」
シアナはシェスタの出した条件を、あっさり了承した。それがどんな事かも知らずに。
くるくる回って喜ぶシェスタ。

「わーい!! 嬉しいです。皆嫌がるんですよ、シェスタのネーミングセンスは最悪だって。
つけられるくらいなら死を選ぶって」
「えっ?」
嫌な予感がする。こういう時の直感は有無を言わさず当たるものである。
騎士として鍛えられた直感か、それとも女の勘がそれを感じ取るのか。
シアナに生まれた「嫌な感じ」を全く察しないイザークは、「へえ~じゃあ、僕につけてみてよ」などと自分を指差した。
シェスタはじいっとイザークを覗き込んで、うんうんと頷く。

「そうですね。貴方は、うーん。とても弱そうなので、へたれです。今日からへたれと名乗るといいですよ、嬉しいですか? このへたれ」
「…………」

なんと言う的を得たネーミングセンス。イザーク=へたれと瞬時に見破るとは。シアナは驚愕した。
この少女、只者ではない。
いや、それはさておき、今更気付いたが、にこにこ笑いながらきつい一言をいうあたり、かなりの毒舌者である。
「そうですねー、そこの悪っぽい人は、赤い眼をしてるので、ウサギちゃんです!!」
「…………おい」
静かなる怒りを湧き立たせるエレ。
「ま、まあまあいいじゃない。所詮子供の言う事だし、大目に見てあげましょうよ」
シアナが必死にエレを宥めるのを無視し、今度は、シアナに矛先を向ける。
「お姉さんは、なんだかとっても強そうなので、ゴリラ女です!!」
「ふふふふ。調子に乗らないでね? 子供といえど容赦なく殴るわよ?」
シアナはエレに言った言葉も忘れて、青筋を立てた。




激しく怯えるシェスタ。ぷるぷると小動物のように身体を震わせて、シアナを見上げる。
「はやあ、怒らないで下さいっ!! ゴリラ女さん、ウサギちゃん!!」
「誰がゴリラ女よ!!」「誰がウサギだっ!!」
シェスタは二人があまりに凄まじい剣幕で迫ってきたので、拳を顔の前まであげて――涙声で「いじめないでください~!!」と呟いた。
「ちょっと隊長、このままじゃあ、らちがあきませんよお。いい加減話を聞きましょうよ」

イザークに窘められてハッとするシアナ。シェスタはいつの間にか、イザークの後ろに身を隠している。
こほん、とひとつ咳払いをして、「そうね……じゃあ、刻印について聞かせて頂戴」と話を促した。

「ぷーん。シェスタ今ので怒っちゃいましたあ。シェスタの機嫌を損ねたらどうなるか思い知らせてあげます」
「……この糞餓鬼……。口を開かんと今すぐ斬って捨てるぞ」
「きゃーー!! 野蛮です!! うう、分かりましたです。百歩譲って聞かせてあげます、耳の穴かっぽじってよく聞くがいい愚民共、です!!」
変人とリジュが言っていたのはまさしくその通りだった。
全く、とんでもないおこちゃまだわ。下手に頭が良くて口の達者な子供はこれだから困る。シアナは心の中で溜息を吐いた。
「刻印っていうのは……そうですねえ。一言でいってしまえば、呪いです」
ずずずーっと紅茶をすするシェスタ。
「呪いでもあり、力でもあります。ただし、魔術的なものではありません。魔術は世界に干渉して力を解放するものですが、
刻印は違います。刻印は自身に干渉して力を解放するものです。特殊能力といった方が分かりやすいでしょうか。
早く走るとか、泳げるとか、そういったことと本来は変わらないんです。ただそれが強制的に力を発揮するので、
本来は出来ない人も出来るようになってしまう。例えるなら……泳げない人に無理やり泳げる機械をつけて、泳がせる。
刻印はその“泳げない人も強制的に泳がせる機械”なんです。
生まれた時からもっている人と、何かがきっかけで刻印を後天的に開花させる人がいますけど……後天的に持つ人なんて
殆ど事例にありません。私が知っているのは世界でも数名です。刻印を持つ人は先天的に持っている人が大半です」


「……」
「強制的に能力を植えつけて、かつ植えつけた能力とは別種の副次的な能力を生む。
うーんそうですね、例えば炎を指先から出す刻印があったとします。炎を出す力が源の能力ならば、
さらに生まれる能力は炎に対しての耐性。炎を所有者が扱うわけですからね、耐性がなければ火傷しちゃうでしょう?
だから、炎の刻印を持つ人は、炎に対しての耐性と、炎を生む力を持つわけですね。
そんな風にして、刻印の持つ一つの能力を軸にして、様々な力を生み出すのが刻印なんです。ここまではいいですか?」

「……まあなんとなくわかったような」
「じゃあ続けますよ。でも刻印の特徴はそれだけではなくて――必ずしもプラスの方向へ力が働くわけじゃないんですよね。 ただの人間の身に刻まれた刻印。その使用には必ず犠牲が伴います」
龍も言っていた。忌まわしき力を使うには、代償が必要であると。
「さっきもいいましたけど、本来できないことを刻印は強制的に行います。
だから、その分対価が必要となる。
表向き、刻印は便利ですが、それと同時に大きなリスクも生んでしまうんです。それは刻印によっても様々な形で現れるので、
どれがこう! とは言えませんが……良い面と悪い面があるってことは覚えておいてください」
シェスタは空になったビーカーをテーブルに置いた。











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