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act.15

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act.15



昼過ぎの中庭。空は快晴で穏やかな陽気である。第四騎士隊と、第二騎士隊が時を同じくして訓練を行っていた。
第四騎士隊の隊長、リジュは中庭の隅で、自隊の様子を観察している。
一方、第二騎士隊の隊長、エレはというと、不在だった。
大勢と訓練することを好まないエレは、訓練時、頻繁に姿を消すことが多い。
決してさぼっているわけではなく、本人は隊員とは個別に訓練を行っているらしかったが、エレが訓練を行っているのをみたものはいない。
それを、隊員は「隊長は訓練姿を見られるのが嫌なのだろう」と考えていた。プライドが高く不遜な男である。自分の訓練の姿を他人に 見せたくない、というのはあっても良さそうな話だった。そしてそれは、実際の所、大半当たっている。
エレの訓練はスパルタもいい所なので――何しろ死者が出たくらいだ――不在してくれた方が隊員の身の為ではあるが、
隊員の訓練に長がいない、となると、やはり隊内の士気にも影響が出るし好ましいことではない。
そんなわけでリジュは、忙しい合間を縫い、わざわざ第二騎士隊の様子まで眼を向けていた。

「やはり皆さん腕がいいですねえ。……欠点を指摘しようにも、突っ込みどころがないんですよね……流石はエレ君の隊という所でしょうか」
そんなことを呟きながら、周囲を見て回る。
隊員同士で戦闘の模擬訓練が始まった。リジュはにこにこ笑顔のままで、訓練の様子を見守る。
打ち合う剣と剣の音、高らかに響く隊員の声。一本!と審判が勝敗を告げる。
そこに、シアナがやってきた。

「やってるみたいね」
隊員が訓練に励むのを眩しそうに見やる。腕には真新しい包帯が巻かれていた。
「見てると、剣を取りたくなっちゃうんでしょう。でもまだ駄目ですよ。きちんと完治するまで激しい運動は禁止です」
「バレたか」
「そりゃあ、戦うの大好きな貴方のことですからね」
リジュはくすくすと笑った。シアナは言い当てられた気恥ずかしさから、わざとらしく空咳をする。
そしてシアナと同じ方向を見る。騎士が一対一で剣を振り合い鳴らしあう。白熱した斬撃戦が目の前で行われていた。
「それで、今日はなんの用でしょう?」
「あのね――私の刻印の事なんだけど。リジュ大学で魔術を専攻してたんでしょう? 何かこういったものに詳しいんじゃないかなって」
「刻印ですか? どうして急にまた」
「……ちょっと気になることが出来たのよ」

龍の遺した言葉、それに龍を殺すたびに増えていく刻印の線。
きっと自分はまだ、この刻印について全て知らないのではないだろうか、そんな気がした。
正体のよく分からないものに頼るのは居心地が悪いし、その居心地の悪さがあまり好きではない。

「残念ですけど僕は刻印については専門外です。でも知っていそうな方ならひとり存じてますよ」
「本当? 出来たらその人に会いたいんだけど……」
「いいですけど……あの、びっくりされないで下さいね?」
「え?」
「ちょっと……、いやかなり変わった方なので。あと、ヘソを曲げるとふてくされて話を聞いてくれなくなるので
くれぐれも怒らせないようにしてください」
リジュはしつこい程に念を押す。どんな人物なのだろうとシアナの中で想像が膨らむ。
とりあえずまともそうな人物ではないことは伺えた。
「わかったわ。で、その人はどこにいるの?」



ラーサーヘルク大学。フレンズベルの名門中の名門で、リジュの大学である。そこに刻印に詳しい人物がいるという。
名は、シェスタ・バルテルム。大学院で刻印の研究をしているらしい。
リジュは地図を用意してシアナに渡してくれた。
馬に乗り、早速大学へ向かおうと城を出る。
城門にたどり着いた時、前方から見慣れた顔がやってくるのが見えた。
「……エレ」
黒い悪魔の騎士。……先程の一件を思い出すと、思わずまたお腹が捩れそうになる。
シアナがにやにやしていると、エレはギロッと赤い眼を光らせて威嚇した。
「フンッ。いつにも増して阿呆面な事この上ないな」
「……失礼ね」
そもそもあんたがおかしいのがいけないんでしょうとは言えなかった。
そんなことを言ったら最期、ここで斬りかかられるかもしれない。馬をその場に止まらせる。
よしよし、と馬の頭をなでると、嬉しそうに尾を振った。



「このような刻限に何処へ行く」
「え? 大学よ。ラーサーヘルク大学。刻印の事に詳しい人がいるから聞きに行くんだけど」
「……成る程な。自分の刻印に疑問を持ったか」
「そうよ。悪い?」
「別に。貴様がどんな疑問を持とうと俺には関係がないからな――ただし、刻印のこととなると話は別だ。俺も連れて行くがいい」
「うげええ。勘弁っ」
予想外の事に思わず本音が口から飛び出す。エレは――脅しを含めるように、歪んだ笑みを向けた。でも眼は笑っていない。
「貴様の部下の救出は骨が折れたな。……龍を倒したのは誰だか忘れていまい?」
「う……。わかったわよ、仕方ないわね」
「最初からそうしていればよいのだ」
そんな会話を交わしていると、後ろから聞きなれた声が大音量で迫ってくる。振り向く。
「隊長~!! 外へ行かれるんですか! このイザーク、護衛にお供しますーー!!」
「はあ……またお荷物が増えたわ……」
ガックリと肩を落とすシアナ。結局三人で大学へ行く事になった。

ラーサーヘルク大学に到着した。

イザークがせわしなくあたりに視線を彷徨わせる。
それも無理もない。豪華で荘厳華麗な大学舎はまるで城のようなたたずまいである。
「えーっと。ここの研究棟って所にいるはずなんだけど、行ってみましょう」
三人はそろって馬から降りる。研究棟へ向かった。
シェスタ・バルテルムがいるという、研究室を目指す。
研究室は一階の隅にあった。……扉には子供が書いたような字で、でかでかと
しぇすたのお部屋。ノック厳守!! と書かれている。
コンコン。二回ノックをすると「はあーい」と可愛らしい声が中から聞こえた。扉が開く。
女の子が顔を出した。ふわふわの髪をした、小さな女の子だ。
ふりふりのメルヘンチックなドレスに身を包んで、不思議そうにシアナを見上げている。

「あ……貴方、お手伝いさんか何か? 私シアナって言うの。リジュって人の紹介でバルテルムさんって人を尋ねてきたんだけど、
中にいる?」
「シェスタは私ですけどお」
「え?! 貴方が?!」
リジュの話だと大学院生ということだったが、どう見ても見た目十~十四才といったところだ。
いや、下手をしたらもっと幼いかも。身長はシアナの頭三つ分以上離れている。
大きな瞳がじっとシアナを映し出していた。
もしかしてからかわれているのだろうか……シアナがきょとんとしていると、シェスタは「入っていいですよ~」と言い残して
部屋の中へ引っ込んでいった。
あまりの事態に顔を見合わせる三人。


「どうみてもちっちゃな女の子、ですね……」
「……フン。餓鬼じゃないか。あれでまともな話が出来るのか怪しいものだな」
「ちょっとエレ、それは言いすぎよ」
部屋の中から、「聞こえてるんですけど~」というのんびりした声。
とりあえず、言われたとおり室内へ入る事にした。





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