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眠れる物語

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眠れる物語


「これが昨日のアレですか」
「ああ」
襲撃者撃退の翌日。破損した館の修理(主に電磁砲のせい)をしているとハルトシュラーがやってきた。
いつも通りどうでもいい話をするハルトシュラーにさっさとお願い事をして、桃花たちを蘇生させ修理の続き
に取りかかろうとするとハルトシュラーが一冊の本を寄越した。
こんなことは今までなかったのでまた何か悪巧みをしているのかとハルトシュラーを疑っていると
なにやら純粋に創作物が出来たから暇があれば読むといいと言う。
去って行くハルトシュラーと本を交互に目をやり、ため息をつく隊長。
ということがあったそうで私も本の話は噂では聞いていたのだが事の顛末と本自体は初めて見る。
「なにやら噂を聞きましたよ。二十戦連続防衛のご褒美にハルトシュラーが魔術書をくれたとか」
「残念だが単なる伝記みたいなものだ。前回の襲撃者についてのな」
「シカ・ソーニャのですか。ちょっと読んでいいですか」
隊長の許可を得てからぱらぱらと捲る。主人公は彼女でなんか色々頑張るお話のようだ。
当然ながら最後は力尽きてバットエンドな感じになっている。
「なんだか我々が悪者みたいですね。これだと」
「自己防衛のために戦っただけだ。仕方あるまい」
「やっぱりこう……隊長と一騎打ちの果てに敗れる! 的な盛り上がりを見せたほうが面白かったのでしょうか」
「そんな見せ場を作っている余裕なんて我々には無い。
 ああ、でも今までの襲撃者をまとめたら面白いかもしれないな」
ふふっと隊長が笑った。珍しいものが見れた。これで一日元気でいられる!
「いろいろいましたからね。印象にあるのはやはり歴代最強と言われている九番目ですかね」
「十四番目も捨てがたいがな」
ちなみに九番目は隣接する海の果てから歩いてきた巨人で館に到達する前に遠隔攻撃で撃破したのだが
時折背中にある巨大な槍を投げてきて、館は大損害を受けることになった。
今でも「もしあれが館に到達していたら全滅していた」と言わしめる襲撃者だ。
十四番目の襲撃者は人に化ける能力を持っていて、最初に食事に毒を混ぜ、大半を殺した後
一人ずつ殺してはその桃花に化けるという手法で残り十三人まで減らされたところで一人の桃花が
このカラクリを見破り、襲撃者を突き止めるというサスペンスな戦いだった。
どちらともわりとみんなの話題にあがる襲撃者だ。人気があるとも言える。敵だったけど。
「でもこの本のタイトルの白亜記って……」
「最初は白騎士物語とかにしたかったらしいが後半が騎士っぽくないからそうなったと言っていた。
 後半そうなったのはハルトシュラー自身のせいなんだがな」
「あの人って本当に創作の神様なんでしょうか」
「我々からすれば憎きマックスコーヒー好きの変人でしかないな」
白亜記を机の上に置く。真っ白なハードカバーでタイトルの白亜記は縁取りして表現している装丁だ。
厚みは少しあるがなんだか汚れが目立ちそうな外装をしている。
この物語からすればあの人は神様の気まぐれに翻弄される数奇な運命を辿った戦士なのかもしれないし
最後はその想いが救われること無く死んでいったのかもしれない。
ただそれは彼女を主人公にしているからだ。
この館の人間からしてみれば、意味のわからない理由で集められ、意味のわからない理由で殲滅されそうになり
意味のわからない変人が時々化け物を送ってくるこの状況のほうがよっぽど悲惨なのだ。
私達からしてみればちゃんと物語となって、世界のどこかで読まれている(かもしれない)だけ十分に
救われていると言える。人知れず命がけで戦う私達の気持ちになってほしい。
でも逆に言えばこの物語は私達にとって脇役の物語とも言える。
いろんな戦いを生き残り、大切なものを失いながらも戦ってきた人が私達主人公ズに呆気なく殺されるのだ。
そんな風に物語を別の方面から見るとなんだか普通に可愛そうな人に思えてきた。
「ところでしんみりしているのはいいがお前にも大量の仕事が残っているのだぞ」
だが現実を前にしてそんなのはどうでもよくなった。館の修理のための書類などあるいは現場監督だの
仕事は山積みなのだ。彼女にすればここは終点かもしれないが私達かすれば通過点だ。
私はため息をついて、机に山積みにされた書類に手をつけた。



『白亜記』 おわり



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