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夢の終わり

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夢の終わり


後頭部が柔らかい何かに触れている。ゆっくりと目を開けると見覚えの無い人間がいた。
どうやら膝枕をしてくれていたようだ。目を覚ました私を見て、驚いている。
体を起こし、立ち上がる。いつも通り汚れた軽鎧を着ているし右手には得物が籠手になっている。
いつも通りだ。いつも通りなのだ。これが。
振り向いて、私の枕になっていてくれた彼女と対峙する。
白いスカートと上から青い布を羽織っている。紙は後ろでまとめているようだ。眼鏡の奥から見える眼差しは
悲しみの色を帯びていた。
「初めまして。シカ・ソーニャさん。私は夢を管理する者です」
「夢……。あれは夢なのか……」
「ええ。ですが私の見せる夢はあくまでもその人間がたどり着くことの出来た未来の夢だけです。
 シカさんの場合はどこかで大きな分岐が発生したと考えられます」
「それでお前は私にあの夢を見せたわけか」
「はい。……正直言いますとあなたはあの夢を見続けるべきだったと思います。
 それだけ傷つきながら戦う理由なんでないはずです」
彼女は私に対して悪意を持っていたわけではない。本当に人のことを思い、行動しているのだろう。
故に私が彼女を恨む理由など何一つない。私の本当に恨むべき相手は。
「ハルトシュラー」
「なんだい」
彼女がどこからともなく沸いて出る。私の真後ろにいるようだ。
どうせ相変わらずふわふわと浮いているのだろう。
「なぜ私をここに連れてきた」
「物語が終わったからだ。ご褒美にと思ったのだがな」
「そんなもの私が望んだか?」
「ご褒美とはその人間の意思に関係なく与えられるものさ」
振り向き様に得物を振るう。しかしそこに魔王の姿はいない。
「それで、どうだったかな? ご褒美は」
一瞬で私の後ろに移動した彼女はそう尋ねてきた。
この魔王はその人間の気持ちなどどうでもよくその反応を見たがる。
その行為に悪意も善意もなく、ただ純粋な興味心と気まぐれでこれからも周りの人間を困惑させ、振り回し続ける。
ここで奴を殺すことが出来ればもう誰も私のような思いをしなくて済む。しかしそれは出来ない。
「見たくなかった。こんな夢」
私はうつむきながら答える。
夢だというのにまるでこの身を持って体験したかのように全てを覚えている。
机に突っ伏して寝ている感覚。静かに降る雨の音。夏の日差し。海の煌き。あっちの私の苦悩。彼の告白。
「知らなければ私は幸せだった。ただ何も考えず剣を振るい、命を奪っているだけだったんだ」
あの頃にはもう戻れない。でも身の内にある暗い欲望は消えない。殺したいのに殺したくない。
矛盾した葛藤が胸の中を占めていく。呪いのように私に絡みつき、運命を蝕んで行く。
だからもう全部終わりにしよう。
「臆病なものだ。あれだけ命を絶って置きながら自分の命はこんなにもかわいく思える。
 そんな私の願望がもしも叶うとするならば私は剣士として死にたい。
 ハルトシュラー。私を恨んでいる人間の中で最も強い奴のところへ連れて行け」
「遠回りな自殺がしたいのか。もしもお前が勝ったらどうする?」
「また一つ罪を背負って死地へ行くだけだ」
そしていつしか私がその罪で押しつぶされるまで戦い続けるだけ。
狂った歯車はもう直らない。失ってしまったものはもう取り戻せない。



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