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決意

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決意


十月。
夏が終わってからも残暑というには少々厳しい暑さが続き、今年は暖冬なのだろうかと
誰もが冬支度を怠っていたらと突如冬が襲ってきた。
テレビでは連日風邪がどうのというニュースが流れ、学級閉鎖する場所も出てきている。
我が校もとい我が創作部も例外ではなく神楽坂を最初に無限、そして聖も風邪を引いてしまった。
しかし目前には文化祭というイベントが待ち構えている。部活を休むわけには行かない。
そんなわけで今日もソーニャと二人っきりで作業をしている。
作業と言っても基本的には各々の創作物を発表する場となるので聖は絵画を、無限は水槽を
俺は小説を、神楽坂は時間を決めてミニコンサートをすることになっている。
ただ一人。ソーニャだけがいまだに何をやるか決めていない。
やることがないので雑務担当になっているが机の手配だとかそんなに時間のかかるものではない。
もしも思いついたらそれにすると本人は言っているが文化祭まで残り一週間ほどになっても思いつく様子はない。
というか最近は授業中もぼーっとしていることが多い。
春頃は全授業を睡眠学習で済ませる勢いで寝ていたのに段々と寝ることがなくなり、夏休みを明けた
くらいからは先生に「お前寝なくなったな」と名指しで言われるほど寝なくなった。
代わりにいつもどこか上の空で二度三度呼ばれてやっと反応するようになってしまっている。
体育でもぼーっとしてて顔にボールが当たったりしているのを何度も見た。
今こうして小説の読み直しをしている横で日光に当たって彼女はぼーっとしている。
「ソーニャ」
「……」
反応しない。肩を掴んで揺り動かす。
「んん? ああ、呼んだ?」
「本当にどうしたんだ、お前。調子でも悪いのか?」
「いや、平気だよ? 秋だからのんびりしているだけだよ」
嘘だ。そう言って問い詰めることは出来る。お前が何かに悩んでいるのなんてばればれなんだ。
そんな姿を見ているのは嫌なんだ。お願いだから頼ってくれ。俺はお前に笑って欲しいんだ。
どうせそう言っても彼女は茶化すだけだ。茶化すにしても前とは違う。何かをひたすら隠すようにする。
あの夏以来みんなの接し方は変わっていないが確実に彼女と他四人の間に溝が出来た。
前はもっと近かったはずの距離が突き放されてしまったのだ。
特に俺に関しては意図的に距離を取っているように思える。露骨に取るのではなくさりげなく離す。
そう考えると今この状況はかなりチャンスではないか。でも何を話せばいいのか。
やはり文化祭のことか? 何か話せる様なことはあるか?
「無理に話題を考える必要はないよ」
驚いて顔を上げると彼女が微笑んでいた。そんなに表情に出ていたのかと顔を撫でる。
ばれている以上は仕方ない。思っていることを単刀直入に言おう。
「悩み事があるな」
彼女がため息をつく。おそらく他の相手にも散々聞かれているからだろう。

「悩み事がない人間なんていないよ」
「話してはくれないのか?」
「たいしたことじゃないからね」
「お前は自覚してないのかもしれないけどな。みんなお前を心配しているんだぞ。
 最近はずっとぼーっとしているだけだし訊いてもいつもはぐらかして答えない。
 なんでお前は俺達を頼ってくれないんだ」
彼女は再び外を見る。そろそろ陽が暮れてきて空に赤みが差して来ている。
「私も出来ればみんなを心配させたくはないと思ってる。
 これはみんなに話して解決出来るような話じゃないんだ。
 いや、みんなだけじゃない。たぶん誰に話しても変えることが出来ない大きな流れなんだ」
陽が照らす彼女の横顔はどこか悟ったように落ち着いていた。
とても静かでまるで老人が子供に話を聞かせているような話し方だった。
「安心して。おそらく文化祭前には全てが片付く。そんな気がする。それこそ今日にも」
「全部片付いたらお前はどうなるんだ」
内心それを聞くのが怖かった。何か壮大なことを語っている彼女にふざけている様子は微塵もない。
その大きな流れの終わりが来たら彼女はどうなってしまうのだろう。
「そりゃ何も無いよ。おそらく前みたいに授業中はぐーすか寝て騒がしい私が戻ってくるだけだろう」
「それは本当なのか?」
「根拠も証拠もないけど信じてほしい」
彼女がこちらを向いて、頷く。俺も頷く。
今までこのことに逃げてばかりだった彼女が初めて言及して信じて欲しいと言ったんだ。
だから俺は彼女を信じることにする。
その後、特に会話もなく下校時刻を迎え、俺達は揃って帰ることにした。
既に陽は落ちて、外は暗い。俺は自転車を押しながら、駅まで彼女と共に歩いていく。
さっさと帰ればいいじゃん、と彼女は言ったが何かあったらどうするんだと言って説得した。
車のヘッドライトが俺達を追い越していくのを見ながら黙って歩く。
横で同じく黙って歩いている彼女は今何を考えているだろうか。俺と同じように何を話すか悩んでいるのだろうか。
話題が浮かばないがこうして二人っきりで下校するチャンスなんて滅多に無い。何か話さないと。
「今年もまた後夜祭やるんだろうな」
「あー、またあのよくわからないアレをやるのか……」
文化祭の後、生徒だけが参加できる後夜祭というのが我が校では存在する。
昔は本物のキャンプファイヤーを作って、その周りをペアで踊っていたのだが安全がどうこうという
問題から現在は照明などを使って赤い光を放つキャンプファイヤーもどきになってしまった。
だいぶ情けない代物ではあるがそれでも多くの生徒がペアを作って楽しんでいる。
ほぼ全てが男女のペアなのでたいていは恋人同士や気になる誰かを誘ってといった具合なのだが
たまに男男で周りとかけ離れたダンスをして笑いを取る生徒もいる。
思いついた物を口にしてしまったがこうなったらもう流れに乗るしかない。
「もしもさ、もしも良ければ俺と踊らないか?」
「そりゃないな」
「即答かよ」
俺が突っ込むと彼女はけらけらと笑った。楽しそうだ。
「お前は神楽坂と踊ればいいんじゃないか? 桃花はきたのと踊らせよう。なんか面白そうだし」
彼女の動く理由はそんなのばっかりだ。楽しそうとか面白そうとか。
俺や聖がそれに乗っかるときもある。しかし今回はそういうのではない。
流れとはいえふざけて誘ったわけじゃない。俺は彼女が――。
「ソーニャ。俺はお前と一緒がいいんだ」



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