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小さな物語の小さな結末

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小さな物語の小さな結末


「この世界は他の世界よりも風がよく吹いている」
「涼しそうだな」
「夏はそうだろう。ほとんどの風は気象現象としての風なのだが中には魔法が関与しているものがある」
「魔法の風? 人肌を切り裂いてくるのか」
「そういったものもある。その中の一つで途切れることなく世界を巡回する世界風と呼ばれるものがあるんだ」
「世界中を? そんなのがわかるのか?」
「風に探知出来るモノを乗せて飛ばせばいい。吹き止むことがないからずっと風に乗って世界を廻るわけだ。
 研究の結果、発生する場所はかなりの数に上るが行き着くところは一箇所であることがわかった」
「世界を廻る風の行き着く先か」
「そうだ。永遠に吹くわけではないからな」
「つまりここがその風の行き着く先と」
「ああ、そうだ」
薄暗く長い洞穴。風は止むことなく私の背中を奥へ奥へと押している。
風が吹く音は狭い洞穴内で反響し、低くうなるような音を出している。
まるで洞穴の奥に何かが住んでいてそれが発する声のようだ。
もちろんそれはそれで面白い。むしろそれかもしれないとちょっと期待している。
今のところは無限桃花の気配はしない。毎月ハルトシュラーと何かを殺しに異世界へ行くが
正真正銘の化け物というのはあまり戦闘したことがない。丁度いいのがいないのかわざとなのかはわからない。
個人的には人間を斬るのが一番楽しいのだが化け物というのも予想だにしないことをしてくるので楽しい。
しばらく歩くと奥のほうに明かりが見えてきた。終点は近い。
「シカ・ソーニャ。お前とは随分と長い付き合いだ。
 もしも何でも一つだけ教えてやると言ったら何が知りたい」
ハルトシュラーの奇妙な質問に私は小さく笑う。
「お前らしくもないな。頑張ったご褒美ってことか?」
「そうだな。それに近い」
一体何を言っているんだ、そういいかけて私はピンと来た。
「この奥にいるのか。寄生の大元が」
「ああ、そうだ」
ハルトシュラーは呆気なく言う。数年かけて追いかけた大元がやっと見つかったというのに。
そう考えるとこの薄暗い洞穴も今まで歩いた道のりに思えてくる。
やってきたことを考えれば人から見るとこんな薄暗い話だ。
ひたすら人を斬り、刺し、撥ね。途中からただ私の欲望を満たすためだけに命を奪い。
もしも世界を救うということが良い事で人を殺すことを悪いこととしたらその天秤はどちらに傾くだろうか。
そこでふと思い出した。
「そういえば亀はどうしたんだ? あいつも寄生退治をしているとか言っていただろう」
「だいぶ前にやめたぞ。聞いてないのか」
「ああ、今は森の中で野生生物みたいに暮らしているからな。こっちじゃ綺麗だがあっちじゃ動物と変わらん。
 てっきり知っているものかと思ってた」
「私とて暇ではない。いちいちお前がどんな生活をしているかなんて把握してない。
 こっちでの姿は魂のイメージだからな。創造されるのはいつも綺麗な姿だ」
だいぶ前とは言っても亀と最後に連絡したのはいつだか覚えていない。それどころか亀とこっちの話をすることは
なかったためもしかしたらまだ私が町にいるときにやめているかもしれない。
何にしろ私には不向きであろうものは全て終えているのだろうから私がどうこう言うこともない。
そんなことを考えている間に私たちは明かりの場所へたどり着いた。
今まで薄暗くどこもかしこも暗かった視界に緑を始め、あらゆる色が映る。
上を見上げると青い空が見えた。かなり下ったつもりだったが空は近い。ここだけ天井が低いのかはわからない。
「ここが風の墓場だ。世界中を廻った風の終点」
「そうか。風に乗った種子がここで発芽するのか。墓場という割には命に溢れているな」
終点は平坦だが丁度真ん中くらいに岩があった。岩と言っても私の腰ぐらいしかない。
その岩に一本の小さな木が生えている。木には薄い紫色の花が生えていた。
見つめるまでもない。あの木には大きな影が見える。
私はその岩に近づく。本当に小さな木だ。まさか大元がこんな小さな生き物だとは思わなかった。
前に倒した大樹とかあんな感じを想像していたが案外終わりというのはこういうものかもしれない。

「そういえばさっき何でも教えてくれるって言った割りには亀については教えてくれなかったな」
「既にお前はその権利を行使したからな」
記憶を探ってみる。何か他に質問しただろうか。ハルトシュラーを見た後、目の前の寄生の大元を見る。
「ああ、もしかしてこの奥に寄生の元がいるのかって質問か」
「それとこれはご褒美なのかというのだ。ほれ、二つも答えてやったぞ」
「そうだな」
私が笑うとハルトシュラーが笑った。気がした。笑った瞬間、ぎょっとなって見たらいつもの顔だった。
いや、確かに今少女らしい外見にあった可愛らしい笑顔を浮かべた気がしたのだが
でもこのいわゆるロリババァの一種に近いハルトシュラーがそんな無邪気に笑うはずが。
「お前、すごい失礼なこと考えているだろ」
「いや、これは普通に叩き潰していいのか思案してたんだ」
さらっと嘘をついてかわす。だが実際に叩き潰していいのかわからない。
実は防御魔法のようなものがぎっちり展開されているかもしれない。
「普通に斬って大丈夫だ」
杞憂だったようだ。太鼓判を貰ったので遠慮なく、切裂く。
本当に呆気なく大元は真っ二つに切れて塵となり消えた。
これが幾重もの世界を又にかけて滅ぼそうとした寄生の大元とは思えない。
「寄生というのも誕生が少々特殊なだけの生物群だ。この種の場合、生存競争に生き残るため
 弱者である親が出来るだけ強者の個体に寄生するように進化したと言える」
私が疑問に思っていたことにピンポイントで答えてくれる。口には出してはいないはずなのだが。
「そういえば名前はあるのか?」
ハルトシュラーはふんと鼻で笑う。
「絶滅した種に名はいらない」
そうか。これでこの種の寄生は絶滅したのか。当たり前のことながら関心する。
私は今、一つの種を終わらせたのだ。言い換えれば私の世界の人間を滅ぼすようなものだ。
あの破滅する世界にいた私と同じ罪を背負ったと言えよう。最も命の重みは生物によって変わってしまうが。
転送の闇が包んでいく。私はまだ彼女に大事な質問をしていない。
「また向かえに来てくれるんだよな」
「安心しろ」
闇の向こうから聞こえた心強い言葉に安心して私は現実へと帰還した。

穴倉の中で目を覚ます。熊の皮を剥いで作った外套を纏って外を覗く。
寝ている間にまた雪が降ったようで辺りには深い雪が積もっている。身震いした後、外に這い出る。
池を覗き込むと氷が張っていた。なのに魚は普通に泳いでいる。彼らは寒くはないのだろうか。
手製の木彫りの入れ物に水を掬い取り、火にかける。暖めたら飲食や生活の様々のことに使うのだ。
空にはまだ灰色の雲が掛かっており、いつ雪が降ってもおかしくはない。食料はまだあるが
雪が降っていないうちにさらに集めたほうがいいかもしれない。お湯が沸くまでぼーっと考える。
大げさではなくこれでこの世界を含めた多くの世界が救われたのだ。
だというのに私を取り巻く環境は変わらないしそれどころかこの世界の人間はそのことを知らない。
実は私の知らないだけでこの瞬間もどこかで世界を救うための戦いが起こっているのではないだろうか。
別になんら不思議ではない。私の寄生との戦いが知られていないのだからそれが証拠だ。
私もその人知れずどこかであった英雄譚の一つに加えられただけだ。
いつの間にか沸いていたお湯を小さなカップに移し、香草を加え解かす。これがおいしいのだ。
ここから始まる物語はさしずめ後日談、もしくは物語の影の部分に当たるのだろう。
だからと言ってどうこうということはない。これからも私は野生動物のように暮らし、異世界に出向いて
自らの暗い欲望を満たすだけだ。寄生を退治したのに私に付き合ってくれるハルトシュラーには感謝したい。
カップに入った褐色の液体が湯気をたてているのを眺める。
この先もまた寄生との戦いのような物語が待っているのだろうか。
そして一人でほくそ笑む。それは楽しみだと。



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