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創発の館と数多の無限桃花

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創発の館と数多の無限桃花


「今回の相手は無限桃花だ」
ふと気づくと海沿いの道を歩いていた。隣のハルトシュラーも今日は歩いている。
今回に関しては私でも相手が誰かはわかっていた。既に気配がするからだ。
「ひとつ、というよりも集団としての気配のようだが」
「うむ。その通りだ。しかも今回はこんなものまで用意されている」
どこからか薄い本を取り出す。表紙は固めの紙で筋書きと書かれていた。
ページを捲るとハルトシュラーや無限桃花、それに私の名前が出ている。
「なんだこれは」
「そうだな……。予言書と言うべきものだろうか。これから行われる戦いの内容ややり取り
 は既に発生したものとして書かれているんだ」
「誰がそんなことを?」
「今ではないつか、ここではなどこかの我々ではない誰かだよ。
 この筋書き通りにやる必要はないがまぁおそらくはこの通りになる」
私は持っていた本をハルトシュラーに返す。
折角の楽しみが全て書かれているなんて楽しさ半減だ。
「なんでもいいさ。相手はあの館にいるんだろ?」
「そうだ。さてと、跳んでいくから捕まっていろ」
言われたとおりハルトシュラーの肩に手を乗せる。
視界が暗くなり、体の重力が失われる。この感覚は懐かしき転送陣の感覚。
やがて視界に光が戻り、足で立っている感覚が戻る。
どうやら館の内部に入ったようだ。上階にいるようで少し前に進むと大きな空間を見渡すことが出来そうだ。
ハルトシュラーから静止を意味するように行く手を阻んだので物影で待つ。
だが転送できたのなら海沿いを歩く必要もなかったような。
打ち合わせするためだったのだろうかと考えているとハルトシュラーが前へ出た。
「さて、これで全員集まったわけだ。総勢173名の無限桃花たちよ」
確かに多数の気配はしたがこんなにいるのか。得物を変えながらどうやって戦おうか考える。
さすがにこれだけいると苦戦を強いられるだろうしわくわくしてきた。
決して苦しいのが楽しいのではなく命の危機に瀕しながら戦うのがいいのだ。
「この館について疑問に思う人間が出たようだからな。丁度いい機会だし説明してやろう。
 最初に言葉が生まれた。即ち『無限桃花』という名前だ。そして三つの設定を加えた。
 即ち、『黒い刀を所持』『ポニーテール』『18歳程度の女』の三つだ。これはお前達も知っているだろう」
黒い刀を持った無限桃花など今までいただろうか。刀剣を得物とする無限桃花はいたが
それが黒かったかどうかなんて覚えていない。そもそも設定とはどういうことだろうか。
「しかしここに私はもう一つ、言うなれば裏設定を付け足した。
 その設定は最初に出した三つの設定よりもとても簡単に越えることが出来る設定だ。
 逆にこれほど簡単な設定を乗り越えることが出来ない無限桃花は他の設定を乗り越えることなど
 到底出来やしない。その時点でそれらの無限桃花は創作物としても、そして無限桃花としても成長
 を望むことは出来ないし、何の魅力も感じやしない。悪く言えば失敗作と言ったところか」
無限桃花は人間とは根本的に異なる画一化された存在である。
あの時の言葉がハルトシュラーの言葉と結びつく。これが亀の言っていたことなのか。
亀を始め無限桃花たちは設定というものを与えられた生命体。創作者であるハルトシュラーが
創ったいうならば創作物なのだ。そうなると私もまた創作物のひとつなのだろうか。
自分の存在に対する疑問。あの問いかけの真の意味はこれのことだったのか。
突然声が上がる。怒声とも悲鳴とももしくはそれが混じったような声だ。
ハルトシュラーが何か言ったのだろうか。聞き逃してしまった。
「本来ならば予定にはなかったがこの裏設定に気付きそうな無限桃花がいた。
 この裏設定がこの館外にまで知れ渡ったら選別の意味がなくなってしまう。
 なので情報が漏れる前に処理することにした。今回集まったもらったのはそのためだ」
階下から一人の少女が飛んできた。狙っているのはハルトシュラーだ。
物陰にいた私と目線が合う。得物を剣に変え、驚いている彼女を半分に斬った。
「私自身が相手するのも面白いかもしれないがどうせなら無限桃花、
 いや『元』無限桃花が相手をしたほうがいいだろう」
元、か。よもや誰かが創った存在だとは思わなかった。でもここで悩んでも仕方が無い。
自分の存在に疑問を抱いても腹はすくし、欲求は止まることはない。
ならば何も考えなくていい。何も考えず欲求のまま。
「我が名は異世界の騎士シカ・ソーニャ。私と同じ源流を持つ者たちよ。いざ勝負だ」
人殺しを楽しむことにしよう。

階下に飛び降りて回りを見渡すと揃いも揃って同じ顔ばかりだ。見てて嫌になる。
得物を大剣に変えてなぎ払う。いっぺんに何人もの人間が斬られて行く。背筋がぞくぞくする。
果敢にも自らの得物を持って挑んでくる彼女たちをどんどん切り伏せて行く。
さすがは失敗作と言われただけのことがある。血の詰まった人形を斬っている感覚だ。
抵抗というにはあまりにも貧弱すぎる。だいぶ片付いたので剣を小さくする。やはり大剣だと
負担がかなり大きい。ここで殺しつくせるとも思えないし体力は温存しよう。
足元に光の線が走る。床が血まみれで気づかなかったが誰かが魔法陣を書いたようだ。
まだ仲間も陣の中にいるのに私ごと攻撃するのだろうかと身構えているとそのような攻撃は
飛んでこない。周りを見ると、斬った死体がもぞもぞ動き始めている。
気配もなしに背後から襲ってきた桃花を切り裂く。その個体には左腕がなかった。
「魔術師というのはこういうのがお好きなのかな」
ばらばらになった体が近くのと繋がっていく。死者復活の呪文だ。
しかしあの時と違い、ただ体をくっつけるだけで見た目も悪いし時間稼ぎにしかならない。
もちろん世界が違う以上は魔術の構造が根本から違うのかもしれないがどうせやるなら
あのぐらい綺麗にやってくれないかと思わずため息をつく。
生きているか死んでいるかも判別せず立っている者を斬りながら光の線を分断していく。
ほどなくして線は光を失い、立っていた桃花たちが崩れ去った。
あとは生きているのを殺すだけだと見渡すが誰も立っていない。どうやら死者と戯れている間
に逃げられたようだ。ここでは気配が強すぎて探せないので館の内部に進入する。
何階構造になっているかはわからないがとりあえず一階から始末することにした。
曲がり角で待機していた個体を角ごと破壊して殺したり、左右に扉が続く廊下を逃げる個体を殺したりと
生き残りはそこそこいた。しかし中には部屋に入ったと思ったらいなくなっていたりと逃げられる
ことも多々あった。転送系の能力を持っているのかもしれないがそれにしては数が多い。
逃げ込んだはずの部屋に埃が積もっているのを見てドアを閉じる。
呪文と言うよりもこの館のギミックとしてあるのかもしれない。館自体が巨大な魔法陣か何かで
特定の行動をすることで呪文が起動する。ただでさえ地の利はあちらが上回っているのに
これでは追いつくことも出来そうにない。
最も圧倒的な力の差を考えるといいハンデになる。思わず笑みがこぼれる。
そうこうしていると再び桃花の気配を感じた。暗いので目を凝らすと正面にいるのが見えた。
走り出すと相手も気づいたのか逃げ始めた。獅子はウサギを狩るのも全力を出すのを
見習って全力で走って追いかける。部屋に逃げ込んで呪文を発動させる様子もなく追いついたので
背後から貫く。呆気ないものだ。
死体から剣を抜いて血を払っていると前後の左右の扉が開いた。
中からはぞろぞろと無限桃花が出てくる。挟み撃ちにされてしまった。数は前後合わせて三十人
ほどいるだろうか。大剣を振り回したいが少々狭いので難しい。
「少し聞いていいかしら」
正面にいた桃花の一人が前に出る。眼鏡をかけているし魔術師なのだろう。
「あなたはもう創作者の手から離れた存在なのになぜハルトシュラーに従うの?」
自分が創作物だという事実もさっき知ったのに創作者の手から離れていることになっている。
そうなると私は創作物とは言えないのか? まぁどうでもいいか。
「従ってないさ。協力関係と言った所だな」
「それじゃああなたは無限桃花を殺戮するとわかった上で来たわけ?」
「知ったのはさっきだけどな。どちらにしろ来ていたさ」
ひしひしと殺意を感じる。針のむしろとはこのことだ。むしろ襲い掛かってこないのが
不思議なくらいだ。
「なんのために?」
人殺ししないと落ち着かない体質なんですと言っても理解はしてくれないだろう。
どう答えようか少し悩む。
「己の鍛錬と……暇つぶしになるのかな」
「そう……」
一瞬後ずさりしそうになる。それほどの魔力が彼女から放たれている。
亀と同じか、それ以上。素晴しい魔術師だ。彼女は私を睨み付ける。
「もういいわ」
得物を手の中で変形させ続ける。相手の出方にあわせてすぐさま形を変えるためだ。
彼女が刀を抜くとそれを合図に抜刀する音が続く。
「自らの行動を呪いながら死ね」
「来い。お前らの無限の力を見せてみろ」

刀を地面に刺すと同時にいくつもの魔法陣が廊下中に展開された。
効果はわからない。だがその前にやることは勢力の削減だ。
得物を床に向かって投げる。床に当たってボールのように跳ねた後、空中で壁になった。
前の勢力は壁の向こうだ。ついでに魔法陣も壊せた。その代わり得物は使えない。
転がっていた死体の刀を頂戴する。細長く反りがある。なるほど、切れ味はよさそうだ。
壁の向こうで叫び声や何かがぶつかる音が聞こえる一方でこちら側は静かだ。
私が残っている連中を見渡す。憤怒や殺意と戦いの意思を見せる者がいる一方で
わずかながらに恐怖、畏怖の感情も見える。
「さてと。この魔法陣は何か答えてもらえるか?」
私の言葉がきっかけになったのか何人かの桃花が突っ込んでくる。ため息をつきたくなる。
相手の攻撃を避けながら首を撥ねて、最後の奴は心臓に刀を差す。
刀というのは血糊が付くと切れにくくなるそうだからここで使い捨てて新しい刀を貰っておく。
死体が動く様子もないしあれとは違うようだ。
「わからないのか? お前らなんて私にとっては取るに足らん力しかないんだよ。
 わかったらさっさと答えろ」
死体から刀をもう一本拾うが誰も答えない。拾った刀を相手に投げつける。
得物で防御すればいいのに腕で防御しようとした個体に刀が刺さる。
「こ、個々の身体能力強化や逃亡封じの魔法陣だ!」
悲鳴を聞いてやっと違う個体が答えてくれた。近くの扉を開けようとするが確かに開かない。
自分たちも逃げれないことを考えると背水の陣になるわけだ。それに身体能力強化もある。
それでやっとあの程度か。
「そうか。わかった。ありがとう。
 で、お前らは戦って死ぬ? それともなにもせず死ぬ?」
刀を構え始める。その表情にはありありと恐怖が見て取れる。でもあいつらには戦うしか選択肢がない。
そのうちの一人が雄たけびを上げて突っ込んできた。それに他の人間も続く。
しかしあれだけの集団で襲ってきても私は無傷なのだ。最後にフードを被った桃花を斬り、立っているのは私だけになった。
能力を使うものがいたがこちらは一ヶ月に一度は実戦をしてきたのだ。そこそこの対応と判断は出来る。
先ほどから壁を叩く音はなくなった。数分間であったがよく耐えてくれた。
得物を私の手元に戻す。残っているのは十人ほどの桃花だ。
「あとはお前らだけだ」
先ほどと同じように叫びながら突っ込んでくる。もう少し工夫をしないのか。
足元の血が妙な動きをした。慌てて前に跳ぶ。何かが空を切る音がした。振り向いている暇はない。
血を操作して何かしている。そういった能力か、それとも。奥にいる眼鏡をかけた桃花を見る。
突っ込んできた個体を捌いていく。しかし足を止めてはいけない。さらに前へ進む。
最後の血溜まりから抜け出してようやく足を止める。相手は残り五人。
前に三人が立ち、後ろには眼鏡をかけたのと白衣を着たのが待機している。
どんな手を持っているかはわからない。しかし対峙しているだけでは相手に魔法を唱えさせるだけ。
一歩、大きく跳ぶ。勢いそのままに横凪に振るった得物が相手の剣を弾く。後ろに飛んで衝撃を逃したようだ。
その隙に左側から一人飛んでくる。右手を完全に振り切っている状態なので普通の得物なら防御するのが精一杯だ。
右手の得物を体を伝わせて左手へ。後は体勢を少し立て直せば迎撃体勢に入る。
相手の動きが何の前触れもなく加速した。咄嗟に盾に変えて防御する。
衝撃は大したことは無いがもしもあのまま迎撃姿勢に入っていたらかなりの深手を負ったかもしれない。

加速能力だと仮定したらだいぶ危険な能力だ。盾を武器に変えて攻撃をしようとしたところに残りの一人の追撃が来る。
後ろに下がって避ければ血溜まりに再び突っ込む。それは回避したい。盾をさらに大きくして相手の攻撃に備える。
そして相手の攻撃にあわせて左手に着けた盾で振り払った。大きなダメージは与えられないが後ろにはいかずに済む。
攻撃は想定以上の効果を見せて、盾で殴られた桃花は大きく吹きとび、仲間にぶつかった。重なり合って倒れる。
顔面に当たったのか痙攣して動かない。これは好機だ。盾を得物に変え襲い掛かろうとした私はありえないものをみた。
白衣を着た桃花が自分の得物らしき金槌状の武器で痙攣していた桃花の頭を叩き潰した。廊下に血が飛び散る。
すると今度はどういうわけか飛び散った頭が元の位置に素早く戻り、気づけば綺麗な状態になっていた。
何事もなかったかのように立ち上がる。もしやと思うがこれが回復能力なのか? 金槌で叩き潰すのが。
そうだとしたらまずい。相手に回復能力者がいる上で人数差で負けていると一撃で大きなダメージを与えないと
ジリ貧になるだけだ。
得物を三つの玉状にして、天井に投げる。その動きにつられて相手たちが上を見る。どういうわけか人というのは
見上げると口を少しだけ開くことが多い。
天井に留まっていた玉が急発進する。狙うのは前三人の口の中。予想通り加速能力者だけ寸でで交わす。
それを見て私は間合いを詰める。外れた玉は地面に当たると私の手元に飛んできた。交わすのに精一杯の
桃花に得物を剣に変えながら斬りつける。肩から斜めに斬れたがこの程度では確実に回復される。
止まっている暇は無い。二人の体に入れた獲物を一気に巨大化させる。これで二人は木っ端微塵だ。
私はさらに近づいて追撃を加える。何かが弾ける音と同時に肉体の欠片が飛び散り、得物が私の手元に飛んでくる。
得物が戻った分間合いが伸びる。それを避けるために後ろに下がれば白衣の桃花とぶつかって体勢を崩す。
そうなったら二人まとめて斬れる。後は眼鏡の桃花が何かしらの詠唱を始める前に殺せばいい。
斬られて後ろに下がっていた桃花が加速した。彼女だけが早送りになったかのように動く。
横凪に振るった私の得物を屈んで避ける。得物が通りすぎると低姿勢のまま剣を振るう。
体を無理やり後ろへ飛ばせる。首元を剣の切っ先が過ぎた。どうにか避けれたがそのまま体勢を崩して尻餅を着く。
幸いにも血塗れの床ではないが先ほど破裂させた二人分の血が散らばっている。止まっていれば的にされる。
立ち上がって駆け出す。加速する桃花の傷は治療されていない。即死にはならないがかなりの血液は流れている。
加速能力がどの程度の間隔で使えるかはわからないが様子を見るに持続時間も短く連続では使えない。
言ってるそばから飛び散った血が弾となって襲ってくる。近くに落ちていた刀を一本拾う。
それを目の前の桃花に投げつける。得物で防御すればその隙に首を撥ねる。避ければ後ろの白衣の桃花にいるし
私はそのまま後ろの二人をまとめて殺す。加速して弾けば私と接触したときに能力は使えない。もしも相手が
能力を小出しにしてたなら私がやられるかもしれない。
桃花は避けなかったし防御もしなかった。投げた刀は彼女の右わき腹を切り裂いた。怪我をしても治療は出来る。
しかし金槌で叩き潰してからの再生は時間が掛かるので先ほどは見てるだけだった私もとどめを刺しに行ける。
得物の間合いに入った。彼女が加速する。はっきりと苦悶の表情が出る。それでも突きを放ってきた。
その攻撃を走りながら得物で受け流そうとしたとき、彼女の剣先が明後日の方向へ向いた。
踏ん張っていた足の片方が崩れている。体力的か、それとも能力の連続使用が祟ったか。ここに来てそれが表面に出た。
受け流すために構えていた得物を相手の頭に振り下ろす。得物は相手の眉間まで切り裂いた。

白衣の桃花が向かってくる。もしかしたらこの状態からでも再生できるかもしれない。
得物を抜いて、死体を横に蹴り飛ばす。間にあった邪魔なものが消えて、相手と一直線に結ばれた。
白衣は死体のほうに走らず私へ向かってきた。握っているのは金槌。間合いは短い。
牽制するように得物を突き出す。それを右手の金槌で振り払った。叩かれた瞬間、得物が手から抜け落ちそうになる。
恐ろしい力だ。油断していたら得物が吹き飛ばされていた。あれで叩かれたらかすっただけでも致命傷になりえる。
伸びきった右腕を力任せに戻し、相手に振るう。それにあわせて相手が金槌を当てる。
金属と私の得物がぶつかる独特な音と共に両者が反動で体勢を崩しそうになる。それを踏みとどまって再び斬りかかる。
反動が大きすぎて鍔迫り合いにはならない。ぶつかり合うたびに衝撃で手が痛み、体が飛びそうになる。
そんなやり取りを十回ほど繰り返したときからぶつかったときの音が変わった。なにかヒビが入っているような音がする。
自分の得物に目を配っている暇はないがこの衝撃で私の得物が壊れてもおかしくはない。それより先に手が壊れる
かもしれないほどだ。早く決めなければいけない。
相手が大振りに振り下ろした。覚悟を決める。それを下から振り上げるようにぶつけようとする。
当たる瞬間、手を離す。今まで反動で振り切られることの無かった金槌が私の得物を弾き飛ばして振り切られる。
素手をそのままの勢いで相手に伸ばす。振り下ろした腕が戻るよりも早く右手で首を掴んで持ち上げる。
いくら利き手といっても酷使しすぎた。早く絞め落とさないと金槌で右手がなくなる。渾身の力を右手に込めて、首を握る。
ごきんと鈍い音がした。相手の持ち上がっていた腕が下がり、金槌が床に落ちる。
呪文を唱えていた桃花に死体を投げつける。相手が体勢を立て直すまでに私の得物が手元に戻るには十分の時間だった。
仲間の死体を跳ね除けて立とうとする桃花の首に剣を突きつける。右手が震えるので剣は左手で持つ。
彼女の目は深い絶望に染まっていた。恨み言のひとつやふたつ言いたいかもしれない。
でも私がそれを聞かなければいけないということはない。
剣に付いた血を払って先に進む。わずかながらに上のほうから気配を感じる。たぶんそれで終わりだ。
階段を上っていると声が聞こえてきた。どういうわけか階段を上ったら屋上で昇降口がなくなっている。
「ここまで必死に来たのに……」
「まぁそう言うな。騎士はあいつらが今頃倒したところさ」
「残念ながらそうはいかなかったな」
おそらく私のことを話していたので反応してあげる。
天気は良く晴れていた。風が気持ちのいい日だ。心が穏やかになる。
「後はお前たちだけだ」
屋上は隆起しているわ、岩だらけだわとひどい有様だ。誰と戦闘していたのだろうか。
私は丁度いい大きさの石を拾う。呆然として動かない二人をよそ目に得物に石を取り込ませる。
剣先を相手に向ける。
一発。並んでいた片方を打ち抜く。呆気なく倒せた。相手方も疲労しているのだろうか。
残ったほうが走り出す。狙って撃つが刀でうまく弾いている。撃ち終えた後、得物を剣に変える。
人とは思えぬ声と表情をしながら迫ってくる。勝負は一瞬。
私は人を殺すのに大切なものはそれを成し遂げるために意思だと思っている。
例えボタン一個引き金一つで人が殺せてもそれを成し遂げる意思がなければそれはただのガラクタなのだ。
でもただ意思だけがあればいいわけではない。そこに力がなければ。やはり成し遂げられないからだ。

音楽が聞こえる。美しく何かの終わりを飾るような曲だ。私はその音源へと向かう。
壁に大穴の開いた場所を見つけたので入る。探し人はそこでピアノを弾いていた。
荒廃した部屋に大きい漆黒の楽器は不釣合いのはずなのに一枚の絵画のように見えた。
やがて曲が静かに終わる。
「終わったよ」
「そうか」
彼女が顔を上げて私を見る。そして珍しく優しい微笑みを浮かべた。
再びピアノで曲を弾き始める。先ほどと同じ曲のようだ。
「すっきりした顔をしているな。何かあったか?」
自分の顔を触ってみる。普段と変わりはない。
もしかしたらごちゃごちゃと考えるのをやめたからかもしれない。
創作者だとか創作物だとか無限桃花だとかハルトシュラーだとか。
わからないことはいっぱいある。でもそれを知らなくてももういいんだ。
「わかった気がするんだ」
私の返答に納得したのか目線をピアノに戻す。楽譜でも置いてあるのだろうか。
何も飾らなくていい。ただ私は人と戦い、殺すことが生きがいになったのだ。
こんな単純明快なことだったのになぜ今までごちゃごちゃと考えていたんだ。
「何か質問しないのか?」
例えば筋書きとは一体何なのか。なぜ無限桃花を創ったのか。
そういった疑問がないわけではない。でもそれを知っても私は満たされない。
むしろ疑問を持つことで答えを知るべく違うやり方を取ってしまうかもしれない。
そして得た知識がもしかしたら私の剣を鈍らせるかもいしれない。
そういった危険性があるならば、私は知らないままでいい。
「ああ。ないよ。さぁ帰ろう」
ピアノの音が鳴り止む。転送の闇が私を包んでいく。
ただ自らの欲望に従い行動する。そう心でわかったとき、とても気持ちが静かになった。
凪いだときの池のように一切の揺れも波紋もない。もしかしたらあれが最高の一瞬という
のかもしれない。
「墓を作らなきゃ……」
ハルトシュラーのそんな呟きが聞こえた気がした。



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