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滅び行く世界と救世の英雄

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滅び行く世界と救世の英雄


静かに雪が降る日だった。
天幕を張って森の中で過ごしていた私の元へ手紙が一通届いた。
小さな鍋に雪をいれ、手持ちの炉の火にかけてかじかんだ手で手紙を開くと簡潔に一文だけ書かれていた。
一度読み、もう一度読み直した後、私は手紙を火にくべて燃やした。
戦争が終わった。
たったそれだけが書かれていた。
私が森林の調査と称して野外に住むようになってから半年。
出るときに聞いた話では優勢だと言っていたがついにここまでたどり着いたわけだ。
今はまだ残された魔族や魔物がいるだろうけどそれもきっと殲滅させられることになる。
いや、もしかしたら北の魔術師がいなくなれば魔物は正気に戻るかもしれない。
どちらにしろ人々はもう剣を握る機会はなくなることになるだろう。
喜ばしいことではないか。人々はもう夜に怯える必要はない。
世界中で流れる涙も減ることになるのだ。世界は長い冬を越え、春を迎える。
だがそれは同時に私の剣を握る理由もなくしてしまった。
強力な魔物がいなければ必要以上に腕を磨く必要もない。
湯気の立つお湯をカップに入れてそのまま飲む。体の芯が熱くなっていく。
でも心はいつまでも雪のように冷ややかだった。

得物を元の形に戻す。最近では立派な篭手になってしまった。
そういえばこの散らばった死体はどうするのだろうか。
ハルトシュラーが後から処理するのかそれとも大量殺人としてこの世界の事件になるのか。
どちらにしろ犯人が捕まることはないのだろう。
「そういえば戦争が終わったそうだな」
高所に位置するこの部屋から見える夕焼けはとても綺麗だ。
立ち並ぶ高層ビルの向こう側。遥かかなたの山の影へと沈み行く夕日。
すぐに転送されなかったのも私がこの光景を見ていたからだろう。
「ああ、長い戦いだった」
いつの間にか隣にいたハルトシュラーとその光景を見ている。
こうやって夕日を眺めるのは何回目だろうか。いろんな世界でいろんな夕日を見てきたが
どこの世界のも甲乙つけ難い美しい夕日ばかりだった。
「……もう一箇所行ってみるか」
初めての申し出だ。いつもどんなに早かろうが遅かろうがひとつの世界を終えたら
帰還している。私もそれで満足していたので文句を言うこともなかった。
「歓迎だがどうしたんだ?」
「戦争終結記念だ。安心しろ。戦闘はない。おそらくな」
世界が闇に満たされる。いつもならここで元の世界に戻るのだが闇が晴れると
雪化粧をした小高い丘に立っていた。見下ろす町は火の手が上がっている。なのに悲鳴は聞こえない。
振り向くと城が立っていた。ところどころ壊れている。大きな戦いがあったのだろうか。
「行くぞ」
ハルトシュラーに先導されて開かれた入り口が進入していく。夜だというのに明かりが灯されていないが
壊れた壁や窓から入る月明かりで苦労はしない。かつては豪華絢爛であっただろう内装も今や
見る影もなく、壁は何かでえぐったかのような傷がついていたり床は血で汚れていた。
血の具合から見るとまだ数時間程度しか立っていないはずなのに人の気配は一切無い。
長い廊下に等間隔で並んだ窓から月明かりが差し込む。立ち止まって窓から見上げると
凍るような冷たい空に煌々と満月が輝いていた。
ふと例の感覚がした。でも今までの無限桃花と違い、何かとても知っているような気配がする。
とても他人とは思えないような感覚だ。
「なぁ。ここで何があったんだ」
「私が説明する必要はない。相手が話してくれる」

振り返りもせずそう答え、私を城のより内部へと導いていく。
聞こえるのは私の歩く音と時折崩れる瓦礫の音だけ。とても静かだ。
暗い廊下にひときわ大きな月明かりが差し込むかつての扉を潜る。
広い部屋。とても高い天井。そしてたった一つ設置されている椅子とその背後にある大きな窓。
散らばっている残骸から考えるとここも装飾されていたのだろうけど今はガラスもなくなり
荒れ果てた場所になっている。おそらくは王のいた場所なのだろう。
そして玉座であろう椅子には一人の人間が座っている。
眠るように顔を伏せているので顔が見えない。だがこの感じは。まさかそんなことがあるのか。
「私によく似た気配を感じるから誰かと思ったら」
玉座に座っていた人間が顔を起こす。
「まさか私が来るとはな」
そこには見間違えようの無い私が、シカ・ソーニャがいた。
彼女はそれだけ言うと再び顔を伏せた。先ほど見た顔には疲労が滲んでいた。
「どういうことだ……ハルトシュラー」
「平行世界という言葉を知っているか。
 今までお前が見てきた世界もお前の世界に似ていたが、ここは完全に途中まではお前と同じ世界だった」
「途中までと言う事はあそこにいるのは本当に私なのか」
「この世界のお前。あったかもしれないお前の姿だ」
もう一度目の前の彼女に目を向ける。装備の差異はあれど体つきや顔、髪色などの身体的な特徴は同じだ。
しかしあまりにも私と表情が違う。老齢の人間を彷彿とさせる表情だ。
「なぁ、私。そっちの世界はどうなってんだ?」
疲れきった声で喋る。今にも喋るのをやめてしまいそうだ。
「劣勢であったもののアンドロイドの完成で逆転して戦争は勝利を収めたと聞いている」
「アンドロイド? ……ああ、昔聞いたな。完成していたのか」
話し終えると長く息を吐いた。しかしさっきより声音はよくなっている。
回復したというよりも楽しんでいるような調子だ。
アンドロイドを知らないということは町が壊滅したあの夜まで遡る。
いや、そもそも彼女と私の歴史がどこまで一緒かはわからない。
「私は最果ての村で生まれたが、その後要請により町の自衛団隊長になった。
 しかしその半年後。死者復活の魔法陣により町は壊滅にまで追い込まれた。
 その時の戦いでやられそうになった私をアンドロイドが救ってくれたんだ」
私は自分の歴史を簡単に説明する。狼の襲撃はさほど問題ではないと思い省いた。
アンドロイドの有無だけで考えれば歴史の分岐点となるのはあの戦いになる。
彼女は再び大きく息を吐く。
「そうか。お前はあの時アンドロイドによって助けられたのか。
 それでも町は壊滅とはやはりあの魔術師はそれだけの力があったということか」
どうやら大きな分岐点となったのはここのようだ。
しかし被害に関してはどうやら同じくらいの規模だったみたいだ。
「そうだな。よもや一晩であそこまでの被害が出るとは思わなかった。
 おかげで住人は他の町村に避難して、私は有志と共に町の整備に当たっていたわけだ」
彼女が顔を上げた。意外そうな顔をしている。その後、再び顔を伏せて低く笑いはじめた。
「あまり差異がないと思ったらとんでもないな。そうか。お前の歴史では生存者が他にいたのか」
今度は私が驚いた。生存者が他にいたのか。その言葉の意味するところ。
それはつまり。
「あの戦いの生存者は私だけだ。奇跡的にというべきか。他の人間は皆殺された。
 避難所となっていた大聖堂も跡形なくなっていた。それが私の歴史だ」
彼女の歴史。アンドロイドは助けに来ることが無く、濁流に飲まれ、死を覚悟した。
しかし運よく生き残った彼女を待っていたんは壊滅した町と死体たち。
それに比べて私の状況はどれだけ幸せだったのだろうか。
彼女は静かに、時折大きく深呼吸しながら自分の歴史を語る。

「あの時の衝撃は本当に忘れられない。
 たったの一晩で私は自らの体以外の全てを失ったのだ。
 あれほどの絶望は今まで無かったよ。それでも私は希望を捨てず、港町へ向かった。
 そこも同じように壊滅していた。生存者を一日中探したがいなかった。
 あるだけの食料を船に詰め込み、私は島を出た。もちろん船など扱ったことがない。
 四苦八苦しながらどうにか北へ向かい、本州が見えたときは感動したものだ。
 でも既に手遅れだった。本州は侵略が完了していたんだ。出迎えてくれたのは化け物たちだ。
 私は彼らに問うた。なぜ戦うのか。悲しみを与えながら戦い、何があるのか。
 期待はしていない。人語を理解できる魔物などごくごく少数だ。襲い掛かってくる魔物を
 見て私は仕方なく得物を抜いた。でも決して殺さず戦意を削ぐだけにした。
 殺してしまえば私の気持ちも少しは晴れたかもしれない。でも殺しても私の仲間は戻ってこない。
 それからも生きている人間を探しながら北へ向かった。
 どこもかしこも魔物しかいなかった。ああ、本当にここは侵略されたんだなって改めて思ったよ。
 魔物との戦闘を出来るだけ避け、出会ったら先の言葉を投げかけ。意味なんてほとんどないだろう。
 もしも。万が一にでも魔物の心を私の言葉が動かしたら。そう思って投げ続けた。
 野を越え山を越え海を越え。気づけば北の国にまで来ていた。
 魔物たちはどんどん強くなった。それに従い知能が高い個体も多くなった。
 しかし残念かな。国が違うと言葉が違う。あの魔物たちにとって私の言葉は異国の言葉なのだ。
 魔物たちの会話を聞いて愕然としたものだ。言語が変わるということを頭に入れてなかったからね。
 それからも得物を抜いては相手を殺さず、抵抗が出来なくなる程度に痛めて逃げるのを繰り返した。
 でもたまに話が通じる個体がいることもあった。私の投げかけに暴力ではなく言葉で答えてくれるものが。
 ほとんどの個体が私の言葉を笑ったよ。戦うのは己の快楽のため。主の命令のため。
 ある個体は私に聞いてきた。悲しみを生まない方法があるのかと。
 話し合えばわかりあえる。妥協点が見つかるはずだ。そう言う私を夢見がちな理想論者と笑った。
 誰とも分かり合えず。人に会うこともなく。私はついにここへたどり着いた」
再び顔を上げる。疲れきった表情なのに少しだけ喜んでいるように見える。
「だが私が着いた時には既に彼らの計画は最終段階に入っていた。
 魔界から呼び出した神をこの世界の神にする。魔神が管理する世界を作り出す計画だ。
 この世界の人々が争うのは本来いるべき神が失われてしまったからであり
 空席となった神の座に新たなる神を据えれば世界は安定する。それが彼らの言い分だ。
 この戦争も魔神を呼び出すための生贄となる魂を得るための戦いだったというのだ。
 世界を安定させるために多くの人間の死が必要となる。そんな神が果たして安定した世界を生み出せるのか。
 彼らの語る理想郷はあくまでも彼らにとってだけのものなのではないか。
 話し合いと呼べるものじゃない。ただの言い合い。そして攻撃してきた彼らを私は斬った。
 瀕死になっても魔神によって蘇生される彼らを私は殺した。初めて人を殺した。
 手に伝わる感覚も飛び散る血のにおいも命が失われた瞬間を見るのも本当に不愉快でしかない。
 それでも私は彼らを殺し、そして生まれた魔神をも殺した。そう、私は世界の神を殺したのだ。
 既に世界の隅々まで支配し支えていた神がいなくなったことにより、世界は急変してしまった。
 最初に起きたのは動物の消滅だ。私以外のあらゆる動物がいなくなった。死体も含めてな。
 次に魔力が失われた。今や魔法というのは夢の産物になってしまったんだ。
 今度は何が来るかわからない。ただ月がいつまで経っても沈まないことを考えると
 時間が停止しているのかもしれないな」

彼女の後ろにある窓の外の月。先ほどと変わらぬ位置にある。この短い間に動いたかどうかは
私にはわからない。でもこの城に死体すらなかったというのはそういうことなのだろう。
「世界を救う。なんて大層な目的があったわけではない。戦いを終わらせるために戦ってきた
 というほうが正しい。確かに戦いは終わった。もう争う相手がいないのだから。
 でもその代わりこの世界は滅びる。私がこの世界を滅ぼしたんだ」
話したいことを話して満足したかのように一瞬微笑んだ後、再び顔を伏せた。
同じ人間だというのにちょっとした運命の違いが二人に大きな差を生んだ。
戦いを拒む私と戦いを好む私。状況から考えれば本来我々は逆であるべきだろう。
なぜ仲間を失った彼女がその敵ともいうべき相手と和解しようとするのか。
なぜ仲間を持っている私が平和を捨て、ひたすら戦いに挑み続けるのか。
その答えはここにはない。ただわかるのは私にとっても彼女は理想論者でしかないということだ。
「不思議なものだ。本当に同じ私だとは思えない。
 一方が平和主義者であるというのに一方は戦うことでしか気分を落ち着けない人間とはな」
「そっちの私は好戦的なんだな」
「故にお前の理論はわからん。戦いにおいて妥協点はない。
 奪うもの。奪われるもの。持つ者。持たぬ者。強者。弱者。そのどちらかにしか振り分けは出来ない」
「話し合うことで、分かち合うことでそれらを越える関係になれると思わないか?」
「それが理想論だと言うのだ。その結果が現状だろう。力でねじ伏せるのが最高の説得だ」
得物を剣に変える。この話し合いにも妥協点は存在しない。
所詮分かり合えないのだ。他人となんて。上辺だけの理解者にしかならない。
一歩ずつ近寄る。彼女は私を見て、また大きく息を吐いた。
「疲れた。とても疲れた。最後の最後まで誰とも理解し合えなかった。
 私とならと思ったのにまさか別世界ではこんな狂戦士になってるなんてな」
「私もまさか別世界の私がこんな人間だとは思いもよらなかった。
 さぁ剣を抜け。一人の剣士として死ぬんだ」
よろめきながら椅子から立ち上がる。よく見れば体中ぼろぼろだ。
同じように右手に得物を握る。
「運命の手違いか。我々が逆だったらどれだけ幸福だったか。神様を恨むよ。
 ……いや、殺しちゃったか。そういえば」
両者の体が動きすれ違う。一瞬得物同士がぶつかり合い、片方の体が倒れた。
私は剣の血を払い、振り向く。目の前で死んでいるのも間違いなく私だ。
最も髪は長い間手入れしてなかったのか荒れ放題伸び放題だし鎧も白色とは言いがたい色合いだが。
こんな姿になってもなお最後までほとんど不殺であり続けたのはある意味では賞賛する。
「ハルトシュラー。帰るぞ」
「ご感想は?」
「私は剣を振るってわからせるほうが向いている」
その影響でどのようなことが起きるとしても私にとってはこれが一番わかりやすい。
でももしも私が彼女のように平和主義者であったとしたら。
そんな未来予想図をふと頭で浮かべている自分がいた。



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