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西方の島とギャンブラー

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西方の島とギャンブラー


「最強の無限桃花というのはどういうのだろうか」
「ジャッカルだ」
夏。亀と気だるい野外調査をする午後。蔦が絡んだ家屋を調査していた亀に問うと即答された。
私はあまりの即答ぶりに聞き返す。
「なんだって? 今の個人名か?」
「最強の無限桃花の話だろう?
 ここから西の大海を渡った先にアメリカと呼ばれていた大陸がある。そこにある島にいる奴だ。
 私が知る限りではあいつが最強の無限桃花だ」
「私だってそこそこ強いと自負しているが」
「そうだな。仮に目と鼻の先に立って戦闘を始めたらお前にも勝機がある、と言える。
 それでも十秒で勝てなかったらお前が負けるな」
思わず眉をひそめる。
「随分な評価だな。そのジャッカルとか言う奴はどのくらい強いんだ?」
「そうだな……」
亀はしばし考え込む。
一体どれほど強いのだろうか。でも亀は最近私と戦っていないし全力だって見たことない。
そういえばあれから随分と日が経った。無限桃花たちを大量に殺したあの日から。
いつになったら次が来るのだろうか。実に待ち遠しい。あれは最高の一瞬ではなかったが実に楽しかった。
「わかりやすく言おう。この町が壊滅したとき、大魔法でどのくらいかかったか覚えているか?」
「ん? いや……長くはなかったかな。私と戦闘しながらだったからもっと早く出来たのかもしれんが」
「ジャッカルなら銃弾一発、三秒もあればこの街をこの世から消し去ってくれるだろう」
「……え?」
亀は近くの木陰に腰を下ろす。腰に下げた水筒から水を飲む。
「たまには思い出話でもするか。ジャッカルと呼ばれている銃使いの話だ」

「へっくちっ」
アメリカ大陸西方、かつてカルフォルニアと呼ばれた場所には大きなクレーターが出来ていた。
現在クレーターには海水が流れ込み、湖となっている。そんな湖と海の境目にわずかに残った土地があった。
人々はそこをカルフォルニア島と呼んでいる。
強い風が吹き荒れる土地ではあるが地上からの進入経路は一箇所しかなく、天然の要塞となっていた。
その島の内部、何軒かあるバーのうちの一軒。ヤマネコ亭の薄暗く煙たい店内の奥にくしゃみをした彼女はいた。
「なーんだ、ジャッカル。風邪でもひいたか?」
彼女と同じようにテーブルを取り囲んでいる三人の男の一人が下卑た笑いを浮かべる。
それに答えるように舌打ちをして持っていたトランプを二枚裏向きにテーブルに滑らせる。
「二枚交換だ」
「ジャッカル。ジャッカル。無理はすることはないんだ。今日はここまででいいんだぞ?」
「そうだぞぉ? お前が風邪をひいて困るのはこの島に住む人間全員なんだからな」
配られた二枚のカードを手札に加えて鼻を鳴らす。
「んなこたーてめぇらに聞いてねぇんだよ。さっさと降りるかどうか決めやがれ」
男たちが目配らせしている。そのうちの一人がカードを伏せておく。
その向かいの男も同じようにカードを伏せて置き、鍔の広い帽子を深く被る。
「アタイにとってはうれしくはないがまぁ賢い判断ってとこだろーな」
そして彼女は自分の向かいにいる男を見る。
男は目を見開き、手が震えていた。額から玉の様な汗が落ちていく。
「おい、ジョン。深呼吸をしろ。お前はよくやった。
 見ろ、あのジャッカルからコインを取り返したんだ。プラスだぞ?」
「そうだ。今日はここで引くんだ。この元手があればお前の農具だって新品に出来るぞ?」
二人の男がジョンと呼ばれた男を説得する。
テーブルの上にあるコインは説得する二人はほとんど持っておらず、ジョンは幾分か持っていた。
しかし彼女の前にあるコインはジョンのコインとは比べ物にならない量であった。
彼女はため息をついて頭をかく。
「対戦相手が言うのもなんだけどな。ジョン。ここは降りろ。
 この前お前んとこの子供五歳になったろ。これから学校入れるだとかで金は入用になる。
 いいか。お前が降りたらアタイも降りてやるよ。そんで今日はお開き。いいだろ?」
双方の男がうんうんと頷く。
するとずっと黙っていたジョンが口を開いた。

「俺はよー……ずーっとウチの奴に迷惑かけて来たんだ。
 ちっと金が浮けばすーぐに博打に走っておけらになって戻ってくる。
 そのたびにあいつは俺と離婚だとか言うけどそれでも最後は一緒に居てくれるんだ。
 ここで負けちまったら明日からの飯は水になるかもしれねー……。
 でも勝てれば。もしも勝てれば。俺はあいつに恩返しが出来る気がするんだよぉ……」
ヤマネコ亭の店内は水を打ったかのように静かになっている。
ジョンの独白だけが店内に響く。
「俺だってよー……普段なら降りるぜ?
 でもこんなの引いたら……神様が言ってんだよ。勝てってさー……。
 だから俺は」
自分の目の前にあったコインを全部前に出した。
「上乗せだ」
「後悔しないな」
「てめぇにぶんどられた分を取り返してやる」
彼女は自分の目の前にあったコインのほとんどを間に出す。
ジョンは手札を表向きにテーブルに投げる。
「キング二枚、エース三枚。フルハウスだ」
彼女の眉がぴくりと動き、誰かが口笛を細く吹いた。
ポーカーの役においてフルハウスというのは強い手であり、なおかつその中のキングとエースの組み合わせは最強と言える。
まさしく彼の言うとおり神様は彼に勝てと言ったのかもしれない。
店内の人間が固唾を飲んで彼女の手を待つ。
「おい! ジャッカルはいるか!」
その時、店のドアが開き男が駆け込んできた。
「化け物が出た! 出動してくれ!」
店内にいた男が舌打ちをする。
緊張していた店内の空気が一気に緩んだ。
「タイミング悪いねぇ。ま、この勝負だけやるかな」
彼女はそういって手札を置いて、帽子を被った。
その手札は――。
「あんたが神に愛されたってんならアタイは神を殺したよ」
ハートのストレートフラッシュだった。

このカルフォルニア島は魔物などの襲撃を受けることはさほど多くはない。
だが時には狼の群れを始め、牛の大群などから鳥や海洋生物など様々な種類の魔物が来る。
それに対しこの町の住民のほとんどが拳銃を所持している。
しかしこの銃が火を噴くのは専ら自分たちが野外に出たときの護身用でしかない。
魔物の襲撃に対し使用される火力はたった一つ。ジャッカルのみ。
なぜならそれで十分だからだ。
自警団の人数は五人。構成はジャッカルと島の周囲を交代で監視する魔術師が三人。そして雑用係が一人である。
先ほどジャッカルを呼びに来たのが雑用係のトムだ。
もちろんこれは大事な任務だ。緊急時に迅速に目的を果たせる人間でなくてはいけない。
トムの先導でジャッカルが町の路地を駆ける。ある路地に入るとトムは近くの木箱を踏み台にテントの屋根に飛び移った。
そして反動を利用し、建物の間に渡されたロープを掴み、更に跳んで行く。ジャッカルもこれに続く。
超越的な身体能力。普通の人間では到達出来ない天性の才能。
テントやロープは移動用に置かれているわけではない。それぞれが日々の生活に使われているものだ。
どこを使えばいち早く目的地につけるか。それを計算する能力。これが必要となる。
飛び上がった二人は屋根の上を走り始めた。向かう場所は中央の櫓だ。この町のどんな建物よりも高い。
櫓に飛び移り、登っていく。頂上には魔術師が一人、この町との唯一の陸続きを見ている。
目を凝らしてみると土ぼこりを上げて走って来る生き物が見える。凝らしてやっとわかるほど小さい。
「一匹か。やれやれ、飲みかけの酒があったっていうのによぉ」
この町には防壁というものが存在しない。粗末な柵が立っているだけで子供でも乗り越えられる。
故にたった一匹の魔物でも入ると大惨事になる。もちろんそれをさせないために彼女がいる。
空中に腕を伸ばし、掴む動作をする。すると銃が現れ、彼女の手に収まる。
彼女の能力に名はない。自身が必要ではないと考えているしジャッカルの能力と言えば通じる。
射程範囲は視界内。同時に操作できる銃は千丁を越え、最大威力は湖が出来る大きさのクレーターを作れる程度。
手動で操作する必要もなく、一度手を振り下ろすだけで火の海を作ることが出来る。
銃を掴んだ右手をまっすぐ伸ばす。スコープは付いていない。狙い定めることもなく引き金を引いた。
破裂音と共に弾が飛んでいく。ややあってから土ぼこりを立ててた生き物が文字通り吹き飛んだ。
「討伐完了、っと。さてと飲みなおしに行くかな」
「ジャッカル。報酬」
魔術師が懐からコインを弾く。それを受け取ると彼女は笑いながら櫓から飛び降りていった。
魔物を討伐することに報酬は出される。が、決して量が多いわけではない。慎ましく暮らせる程度だ。
彼女の功績を考えれば酒場に行けば無料で食事できるほどの活躍はしているだろう。
しかし本人はそれでよしとしなかった。店で食事をする以上は客である。代金は支払う。それが礼儀だ。
そう言いのけた。ではジャッカルは慎ましく暮らしているのか? それはノーだ。
時には店の酒を全て飲み干し、時にはさらに積んだ山盛りポテトをかっ食らう。お金が足りるはずがない。
先ほどの酒場に着いたジャッカルは元の席に座る。ジョンの姿は既になく、テーブルには自分のコインと
氷の解けきった酒が置かれていた。席についてそれを一気に飲み干すと店主に同じのを追加注文した。
新しい酒が届く頃、テーブルに先ほどと違う男が三人やってきた。
「ジャッカル。賭けをしないか?」
彼女はにやりと笑う。
最初、彼女が賭けに参加し始めたときあまりの強さに他の人間が辟易し、次第に成立しなくなっていったが
ある日みんなの五倍の額を支払おうと言うと散々負けた男たちが賭けを挑んできた。
今のレートはコイン一個に対してジャッカルの支払いは百七十枚。彼女の年収が二十枚ほどなので一度でも負ければ
八年分近くのお金を失うことになる。ちなみに普通の男性の平均年収は六十枚ほどだ。
外貨としても使えるので金があってもモノがないという状況にはならないし、なによりも一度勝てば三年分の年収だ。
娯楽の乏しいこの町でこれをやらない手がない。
今日もテーブルにトランプが配られる。
町の守護神は今日も酒を呑み、にやりと笑った。



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