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決戦場と無限使い

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決戦場と無限使い


この町に来て何度目かの春が来た。
いつか見た景色と同じように緑の絨毯がひかれ、虫や鳥がのどかに飛んでいる。
最近、空を見上げることが多くなった。別に面白いものがあるわけでもない。
いつもどおり青い空に白い雲が浮いているだけだ。
前回見たあの雄大な景色。あれをもう一度見たいのかもしれない。
だが亀に聞いたところあの現象は珍しいものでこの辺では発生しないと断言されてしまった。
それなのに気づけば空を見上げている。なぜだろうか。自分にとって最高の一瞬が空にあると思っているのだろうか。
このことについてはまだ誰にも話していない。亀あたりに聞けばあるはずないと答えられる気がするし
コユキに聞けばうんうんと頭を悩ませることだろう。ヘッセならきっと変な答えを言うに違いない。
こうやってのんびりしていられるのにも理由がある。先日全ての家屋の処理が終わったのだ。
一体何年越しの作業だったのかと指折り数えてみると大体一年半ほどかかったわけだ。
もちろん毎日毎日やってたわけじゃないにしろ想像以上に時間がかかった。
一応無傷のものは残しているが野ざらしにされていればいつかは朽ちるだろう。
大きめの家屋が残っていればそこに移り住もうかという案もあったのだが丁度いいのが残っておらず
今ではこの家を増築しようという案に代わっている。なんと開拓精神旺盛なことか。
魔力汚染地域も随分と少なくなっているのでもしかしたらそう時間がかからずにこの町も
住む分には安全なところになるかもしれない。が、今更戻ってくる町民はいないはずだ。
先日、鳥がロゼッタからの手紙を運んできた。内容は元町民を現住している町村に帰属させるという内容だ。
つまり町は完全に消滅したことになる。今、私たちが住んでいるところは町ではなく跡地になったわけだ。
同時に私たちはどこに町村にも所属しない野良集団となった。私個人は当然として他の連中も気にしていなかった。
ここがなんであれ私たちのいる場所が私たちの町になるだけなのだ。
ちなみに手紙には事務的な内容のみであちらの現状などは一切書いてなかった。彼らしい。
野原を駆けていくウサギが見える。この町を囲っていた壁の一部は崩壊しているのでそこから野生動物が入り込むようだ。
逆に魔物は見かけない。北の国が押され始めているのにも何か関係があるのだろうか。
空を鳥が飛んでいく。全ての汚染区域の清掃が終わったら町の外に出よう。そんなことを思った。

目を開けても閉じてもわからないほどの暗闇。とは言っても自分の前方に無限桃花がいるのはわかる。
「説明は必要ないな」
ハルトシュラーはそう言い残して消えていった。つまり目の前の桃花が相手ということだ。
このまま暗闇のまま攻撃してくるのだろうかと剣を構えていると突然視界が光に満ちた。
思わず目を閉じ、腕で光を遮る。もちろんいざとなったら相手の攻撃を向かえる程度の余裕はある。
しかし相手は攻撃することなく私の視界が回復するまで待っていてくれた。
どうやら円形の闘技場のようなところにいるようだ。上は開いていて、私のいる広場を中心に周りには
観客席のようなものが配置されている。しかしそこに人の姿はなく、照明装置だけが置かれている。
「この世の全ての事象は運命のもと定められている。我々がここで出会うのもまた運命なのだ」
標的は椅子に座っている。長いコートは背丈よりも大きく見え、地面に着いている。
左手にはごてごてとした指輪をそれぞれの指につけ、右手に持った本を捲っている。
他に得物は見えないし見た限りでは魔術師のようだ。
「私は運命というものに感謝したい。この出会いをもたらした運命にだ」
本を捲る手を止め、初めてこちらに目線を向ける。
「シカ・ソーニャ。無限桃花の運命を超えたものよ。我が配下にならないか」
「断る」
いきなり何を言っているのだろうか。ここで「はい」と頷くやつなんていないだろう。
「そうか。なら仕方あるまい」
椅子から立ち上がり、右手に持った本を掲げる。黒に金の刺繍が施された本だ。
「力ずくでいかせてもらおう。
 ――無限の叡智を我にもたらし給え。オムニシエンス」
本が赤色に染まり、彼女の周りを光の渦が包んでいく。
剣を伸ばし、前に出る。彼女が本を開き、左手で撫でた。
突然、彼女と私の間に人が現れた。気にせず突っ切ろうとしたが妙な気配を感じ、立ち止まる。
横から斧が降ってきたのを後ろに飛んでかわす。気配が増えた。目標を含めて六人。
私は出現した彼女たちと対峙する。それぞれの得物を構えた無限桃花たちがそこに立っていた。
「お前が同属殺しであるならば私は同属使いと言った所か。
 我が蔵書に収められた二百を超える無限桃花に勝てるかな?」
立ちはだかる無限桃花は私を攻撃しながら囲うように立つ。
五人の無限桃花によるあらゆる方位からの攻撃を私は致命傷を避けながら反撃する。
だが例え一人を仕留めたところで新たな無限桃花が召還される。これをあと二百以上。
本体を叩こうにも五人に全力で阻止される。私の得物が本体に届くことはない。
何人の無限桃花を斬っただろうか。彼女たちの死体は消えることなくその場に残っている。
新しく召還された無限桃花がそれを見て一瞬怯えたのが見えた。彼女たちは完全に感情がないわけではなさそうだ。
負傷した個体が後ろに退き、攻撃の手を休めることもある。そういった個体は光と共に消え、違う個体が出現する。
もしも強制的に攻撃をさせる能力ならば負傷程度で攻撃を休めるとは思えない。それこそ死ぬまで戦わせるだろう。
この能力には欠点がある。だが、それを分析し利用するにはあまりにも時間が足りない。
雨が降ったかのように血だまりになった床。全方位に気を張り詰め、攻撃を交わし反撃で仕留める。
また一人の無限桃花が地面に崩れ落ちる。私はあと何人の桃花を斬ればいいんだ。
本体までの距離は遠い。ここで全員切り殺しても再召喚が余裕で間に合うほどだ。
私はその時、一瞬絶望というのを感じ、それが気の緩みになった。
何かに足を取られ、体勢を崩したのだ。思わず片膝を着いた。相手はそれを見逃さなかった。
腹に異物が刺さっていく感覚。それは最初ひどく冷たく感じたが、すぐに思わず叫ぶほどの痛みに変わった。
どんどんと深く差し込まれていく。私は痛みに耐えながら剣を持っていた桃花の腕を切り落した。
剣を引き抜き、傷口を押さえる。喉を何かが駆け上がってくる。咳き込むように出たのは血だった。
両膝を着き、腹を押さえる。痛みのおかげで意識ははっきりしている。だから嫌にその考えが頭を過ぎる。
私は。私は、ここで死ぬのか。

桃花の一人が腹部を刺した。腕を飛ばされたのですかさず本に戻す。
この本はいわば宿のようなものだ。桃花はこの中で普通に過ごすことが出来る。
手駒に限りがある以上は怪我をした者はこの中へ戻し、中の桃花に治療に当たらせる。
そもそも即死や大怪我でもない限りは中に入れておくだけでゆっくりではあるものの回復はする。
主であるわたしがこの中に入ったことがないので収録した桃花から話を聞いただけだが
「そんじょそこらの宿よりかはよっぽど過ごしやすいしとても居心地がいい」とのこと。
彼女たちにとっては私に収録されるというのは安定した生活を得るという点ではメリットしかないのだ。
もちろんデメリットもある。どこかへ旅に行くことが出来ないだとか自分と同じ顔と毎日会わなければいけないとか
そういったこともあるが彼女たちのいわゆる能力部分と得物に関してはわたしが管理できるという点だ。
実際に戦っている桃花の持っている得物は本人が一番使いやすいようにカスタムされた得物で
魔力的な要素は一切つぎ込まれていない。また能力に関しても封じられている。
これには理由がある。彼女たちの反乱を防ぐためだ。
わたしには彼女たちを強制的に戦わせると言った洗脳能力はほとんど持っていない。
ただ少しだけ戦闘意識を高める程度だ。意思の強い桃花であればそれに背いてわたしを襲う可能性が十二分にある。
そういった動きをしたらすぐに戻せばいいのだが能力によってはそれが叶わない可能性がある。
例えば自らのコピーを瞬間的に作るとか高速で動いてわたしを仕留めるなどだ。
故に能力を封じることでそういった可能性を削いでいる。最もわたしの能力自体最初から備わっていたし封印能力も
わたしが後から付け足したというわけではない。偶然か、あるいはわたしの創作者がそうしたか。
逆に彼女たちの能力を開放することだって出来る。もちろん普段はそんなことはしない。時折必要になってする程度だ。
その際もわたしが信用している桃花だったり能力開放してもわたしだけで制圧出来る桃花に限っている。
今回の件もわたしは彼女たちの能力を封印した状態でシカ・ソーニャと戦わせることにした。
アレが言うには優秀な剣士と言っていたがよもや五人相手なら簡単に制圧出来るだろうと思ったのだ。
しかしまさか元無限桃花だとは思わなかった。そう、彼女こそがわたしが最も出会いたかった無限桃花なのだ。
わたしは無限桃花の枠を越え、世界のどこかにあるという桃花が集う館へ行き、彼女たちを収録する。
そして次元を超越する力を見つけ出し、わたしを作ったという創作者を殺しに行くのだ。その先の世界を見るために。
彼女を収録することが出来れば戦力にもなるし元無限桃花としての資料にもなる。

そしてもうひとつの誤算は彼女の強さだ。
五人の桃花を前にしても獅子奮迅の動きで次々と無限桃花を切り裂いた。
今まで戦った一番強い相手でも五人同時に戦わせれば両手の指で足る程度の死傷者しか出ない。
数の暴力とはそれほどまでに強いのだ。では目の前のシカ・ソーニャの場合はどうか。
既に彼女の足元に転がる死体は三十は下らないと思われる。負傷した桃花だって相当数だ。
このままではわたしの蔵書が見る見る減らされてしまう。現にページ数が目減りしてしまった。
能力を開放したほうがよかっただろうかと考えている矢先、桃花の一人が彼女の腹を刺した。
血を吐いている彼女はどう見ても重傷だ。後は桃花で押さえ込んで収録の式をすれば終わる。
もしかしたらアレが文句を言うかもしれない。しかし寄生という種の脅威を取り除いたことには変わりない。
わたしは新しい桃花を呼び出し、全員にシカ・ソーニャを押さえ込むように指示した。
取り囲み、獲物でさらに攻撃を加える。反応が少ない。これは仕留めた。
そう確信した瞬間、背中を悪寒が走った。
先ほどまで腹を抱えこむように丸まっていたシカ・ソーニャが顔を上げていた。
その目は焦点があっておらず、口元は禍々しいくらい歪み、そうあれは嗤っていた。
彼女は声を出して低く嗤い始めた。周りにいた桃花が後ずさりをする。
あの顔を見た時、わたしはこの生き物がわたしの手に負えるものじゃないと悟った。
故にわたしが能力を開放したのも理性としてではなく本能としての反応に近かった。
前に出ていた五人は能力開放されるとそれぞれの能力に合わせて立ち位置を変えた。
ある者は少し距離を置き、自らの獲物に魔力を込めたり、あるいは紫電を纏い突撃したり。
シカ・ソーニャは突撃してくる相手のほうを見ることなく桃花の体を二つに切り分けた。
わたしと視線がぶつかる。先ほどまでどこを見ているのかわからなかった目線がわたしに向いている。
走り出したシカ・ソーニャを止めるべくほかの桃花が切りかかるが自分に当たりそうな桃花だけ殺し
走るのに阻害になりそうない桃花の攻撃はそのまま受けた。先ほどまでなら避けるであろう攻撃を。
わたしは全ての桃花を一度戻し、魔術師タイプの桃花を五人召還した。
彼女たちはわたしが指示せずとも向かってくる化け物に対して何をすべきかを瞬時に判断した。
本体であるわたしの防衛。すなわち五人の魔術師による防御魔法。
並んだ五人がそれぞれ呪文を詠い、光の壁が出現する。
直後、その壁にシカ・ソーニャが突撃する。魔法障壁独特の高い音と波紋が広がる。
続けて彼女が得物の形を変えながら何度も何度も繰り返し攻撃してくる。
その間にも彼女の腹部からは血が流れ、命を削っている。
割れないことを悟ったのか彼女が壁から離れていく。距離を置いてくれればこちらは魔法で仕留められる。
しかし少しだけ離れただけで立ち止まり、得物を右手に纏わせる。その手だけが石膏で固めたかのように白くなった。
再び彼女は走り出した。だが何度やっても壁は壊れないはずだ。ただ彼女の体力を消耗するだけ。

彼女は壁に激突すると同時に上へ飛んだ。壁を登り始めたのだ。それを見て魔術師の何人かが壁を消した。
垂直に伸びる障壁を彼女は越えたのだ。壁の内側へと落ちてくる。魔術師が迎撃の魔法を放つ。
空中にいる彼女は回避できない。獲物を盾に魔術師に突っ込んでいく。わたしは咄嗟に危険な位置にいた魔術師を引っ込め
収録されている桃花でも優秀な剣士を呼び出した。床に着地したシカ・ソーニャを幾重もの魔法が襲い掛かる。
着地と魔法により煙が立つ。まだ生きている。煙からシカ・ソーニャが出てきた。
剣士が飛び出る。鋭く細い剣が彼女の心臓を狙う。得物は右手。防御は間に合わない。
彼女は左手を剣に差し出した。手の平から剣が彼女の腕に潜り込んでいく。違う。わざと押し込んでいる。
そして根元まで潜り込ませると桃花の手を握った。必死に逃れようとする桃花を切り裂く。
腹部には刺し傷。左手には手のひらから肩にかけて剣が刺さっている。細かい傷は数え切れないほどだ。
再召喚か。間に合わない。横なぎの剣を本を閉じながら避ける。そして懐の剣を握った。
「いい加減に死ね!」
しゃがんだ体勢から喉を狙った突き。彼女なら避けれたかもしれない。
わたしの剣が差し出した右手を貫き、喉の横を通る。右手を使って軌道を逸らしたのだ。
だがこれで両方の腕が使えない。得物が握れない状態になったのだ。
彼女はそれにも係わらず、わたしに突っ込んできた。刺さった剣を抜くことなく、わたしも巻き添えになって体制を崩す。
その刹那。わたしは獣に成り果てた彼女の言葉を聞いた。
「おまえは ころす」
わたしの首に走る痛み。そして右手から彼女の体を伝って動く血まみれの得物。
これが無限桃花を越えた者の力なのか。激痛はやがて消え、わたしの意識もなくなっていった。

翌朝。夢から覚めた私は左手を撫でた後、服を捲り腹を観察する。
どこにも怪我はない。窓から差し込む陽気も穏やかに感じる。
「まだ生きてはいるな」
私はそう呟いて居間へと向かった。



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