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霧の社と無限の巫女

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霧の社と無限の巫女


腕で流れる汗を拭き、川に浸していたカゴを陸地に上げる。
キュウリを一本掴み、端をかじりとって捨てた後、その身を口に含む。
季節は夏。見上げた空は雲ひとつ無く、眩しいくらい青い。
歯ごたえを楽しみながら目の前に広がる畑を見る。
この町には畑というのがほとんど無く、外に自生しているものでなければ
他の町村との物資取引が主な入手手段だった。
更地にして畑に変えるときも農具の入手にはかなり苦労をしたがそれ以上に大変だったのは種だ。
農家を家捜ししたり畑があった場所を漁ったりして入手できたのは両手いっぱいの種。
しかし欠けていたり焦げていたりと状態はよくない。これはだめかもしれない。
畑に種を植えながら、育てー育てーと天に祈ること数ヶ月。
育った。否、育ちすぎた。
陸に出来た緑の海。植えられているのはキュウリだのナスだのトマトだのと色々ある。
とりあえず熟れているやつは取ってよしというコユキの言葉に従い収穫をしているのだが多い。多すぎる。
両手いっぱいの種程度でこんなに収穫できるとは思わなかった。
さらに種類を増やそうとコユキは画策しているようだが農家にでもなるつもりなのだろうか。
キュウリの端を川に投げ込む。カゴを水の中に戻し、再び収穫作業が始まる。

石で出来た階段が続いている。道の両端には松が鬱蒼と茂っていて、中を見通すことは出来ない。
その上、霧が出ていて上も下も果てが見えない。太陽は天高く上っているようだが風があり、体を動かしているにも係わらずさほど暑くはない。
「山の天辺にある神社で巫女をしている無限桃花が対象だ」
「前々から聞こうと思っていたのだが対象は無限桃花だけなのか?」
「他にもいるけどそっちはそっちで別の人がやってる。
 無限桃花は波長があって寄生しやすいのかもしれないな」
「他にもいるのか。協力者が」
「あの魔法陣が発動した時、君以外にも人がいただろう」
「……亀か。あっちは苦労しているのだろうか」

一方、亀のほうでは――。
「焼けよ! 燃えよ! 灰になれ!
 寄生まるごと塵となって消えてしまうのだ!」
すごく楽しんでいた。

やがて霧の中からぼんやりと赤い鳥居が見えてきた。
そういえばと町にあった混沌とした教会を思い出す。
祭られたあらゆる信仰の神々。あの時の私には知識がなかったため良し悪しの判断は出来なかったが
今なら胸を張って言える。あれはおかしいと。
最後の石段を登り、鳥居を潜る。風が頬を撫で、後ろへと抜けていく。
シャンとたくさんの鈴が響く音がした。同時に霧が風に流されて晴れていく。
正面に立つのが本殿だろうか。大きな注連縄が入り口上部にかけられている。
左右にも建物があるがこちらは普通の売店のような風情がある。お守りが売っているのだろう。
石畳の道は私の正面から伸びていき、真ん中ほどで左右の建物、本殿に向かって伸びている。
空いている場所は白い石が敷き詰められていて、石畳の白も合わさり、全体的に色が薄い。
その道の中央に紅白の服を着た人間が立っている。右手には小さな鈴がたくさんついた棒を持っている。
「警告する。それ以上我が神社に立ち入るならばその身の安全の保証はしない」
凛とした声だ。強い意志を感じる。しかしここで引き下がるわけには当然いかない。
私は警告を無視して、そのまま彼女の元へと歩み寄る。黒髪のポニーテールにやたら裾などが長い紅白の服。
あれが巫女服というのだろう。動きにくそうだ。剣の間合いまで近づいていく。
彼女が私を睨み、神社全体に響き渡るような大声を出す。
「それが貴様の覚悟ならば相手しよう。我が名は無限桃花。無限の巫女なり」
「私の名はシカ・ソーニャ。白騎士と呼ばれている」

相手の名乗りに答えながらも歩みは止めない。
彼女が右足を一歩踏み出し、右手の棒を前へ突き出す。
鈴の音が響くと同時に突風が私の体を押し戻す。こらえ切れず私はそのまま後ろへと何歩か下がった。
そうしている間にも彼女は動きを止めず、鈴の音を鳴らしながら動いている。
いや、あれは舞っているのか? 私が判断しかねていると彼女の足元から光の線が描かれてきた。
魔法陣だと気づいたときには神社の境内には複雑な模様が書かれており、明滅を繰り返している。
「結界方陣」
その言葉とともに魔法陣の外側の線が半透明の青い壁を作り出し、ドーム状に結界内を囲った。
同様の物が彼女の周囲を囲ってゆく。倒さなければ出られないという奴か。
獲物を剣に変え、彼女の元へと走る。それを見て、彼女の舞が少し形を変えた。
するとそれにあわせて彼女の結界の壁から光の弾が現れ、私めがけて飛んできた。
剣で弾こうが一瞬考えた後、それを剣で受け止める。小さな爆発音と共にそれと釣り合わない衝撃が走り、後ろへと吹っ飛ばされる。
足と剣でブレーキをかけるが止まらず、そのまま外側の結界にぶつかる。しかし壁はやわらかく痛みはない。
あの弾は受け止めたらまずいようだ。体制を立て直し、再び歩き始める再び光の弾が飛んできた。
今度はひとつではない。まっすぐ飛んでくる弾が二つとそれぞれ左右に弧状を描きながら飛んでくる弾がそれぞれひとつ。
それほどスピードはないので寸前で変化しなければ避けれそうだ。
前へと駆け出し、直線状に飛んできた弾を避ける。玉はそのまま私の横を通り過ぎていった。
後ろのほうでちょうど四つ分くらいの爆発音がすると同時に再び光の弾が四つ飛んでくる。
全て直線状だ。横に避けて、さらに進む。彼女の目が合った。舞の形がまた変わった。
剣を振り下ろすと、何の音もなく壁に阻まれる。硬いなどの問題ではなく今の私には壊すことが出来ない。そう直感した。
正面から突風が吹き、後ろへと戻される。体勢を立て直していると光の弾が飛んできたのでそれを避ける。
あの舞にあわせていろいろな攻撃が発動するのはわかったがどのように動くとどんな攻撃が飛んでくるのかまではわからない。
せいぜいさっきと違う舞をしているとわかるぐらいだ。それでも身構える程度のことは出来る。
そう考えていると再び舞が変わった。だが飛んできたのはまたもや光の弾だ。しかしさきほどと大きく異なる点がある。
大きさが先ほどまで頭ぐらいあったのが今度は片手握りこぶしサイズだ。その代わり量が多い。
数え切れないほどの弾が隊列を組んで飛んできた。当たる面積を最小限にして、獲物で盾を作る。
衝撃が連続で襲い掛かってくるのを耐える。威力は先ほどの頭サイズよりもかなり小さいが連続で来るとなかなか辛い。
衝撃が止んだので、盾から頭を除かせると頭サイズが飛んできたので横に飛んで避ける。
近づけば突風で戻され、遠くでは光の玉で攻撃してくる。しかも近づいて攻撃しようにも魔法の結界が破れない。
「困ったな……」
思わず感想を口に出してしまう。隊列を組んだ弾を量が少なそうなところに移動してから防御する。
しかし横を弾が過ぎていくのに一発も当たらない。気が付けば他の弾は全て過ぎていった。
どうやら弾は一度発射されると軌道の修正が利かないようだ。可能であれば私の側面からいくらでも攻撃出来たはず。
舞が変わった。今度は上のほうに玉が現れていく。弾自体は動かず、私の上へと向かっていくつも連なっていく。
最初に出現した玉が真下へと光の柱を放つ。順序良く奥から柱が立っていくので慌てて避ける。
私の頭上の玉が光の柱を作る頃には上空は何列もの光の玉が出来ており、さらに地上は大小の光の弾が飛んでくきていた。
しかし避け方を覚えてしまえば盾を構える必要もない。走りながらそれをかわす。
剣で再び結界を斬ろうとするが音もなく止まる。再び風が吹き、後方へ戻される。
試しに外側の結界を斬ってみるが同じ手応え。光の弾が直撃しても何の意味も無いようだ。
この間も彼女は休みなく動いている。先ほど近づいたときに汗のようなものが出ていた気がした。
突破することの出来ない結界。飛び交う光の弾の嵐。どう考えても不利なこの状況を変える方法。
私がひとつの考えを元に再び彼女に接近する。しかし剣が届くほどではなく、声が届く程度でいい。

近づけば近づくほど弾の発生から到達するまでの時間が短くなるので集中して避けなければならない。
ある程度近づき、彼女を観察する。彼女の額から光る汗が流れていく。
「ひとつ言いたいことがある。君の魔術は君が動き続けなければ維持が出来ないようだが。
 君はあとどのくらいこの結界を維持できる? 一時間か? 二時間か?」
返答はない。それは知ってのことだ。表情も変わりは無い。
「はっきり言っておこう。この程度の攻撃ならば私は眠らずに三日は避けていられる」
彼女の動きが一瞬止まった。変化のなかった表情が強張った。
その一瞬の隙を突こうと、私は間合いを詰めたがすぐに舞が始まり、突風で押し戻された。
だがこれでいい。彼女にかけた言葉は必ず彼女を蝕んでいく。
正直な話こんなの三日も耐えれるはずがない。ぶっちゃけると三時間もすれば疲労して動けなくなる。
問題はそれまで私がいかにこの攻撃を避けるのか楽勝であるか振舞わなければならない。
飛んでくる弾を最小限の動きで避ける。もう近づく必要もない。後は根競べだ。
彼女の反応からすると彼女もまた人間。体力の限界があるのだから。

戦闘を開始してから一時間ほど過ぎた頃。
それまで動きが遅くなりつつもずっと舞い続けた彼女がついに転んでしまった。
私は敷き詰められた石のひとつを獲物で拾い、鈴の付いた棒を弾き飛ばす。
彼女は這いずりながらそれを追いかけるが拾ったところで再び舞うことは出来ないだろう。
歩いて彼女に近づいていき、這いずる彼女の背後をとる。
彼女の動きが止まり、ゆっくりとこちらを見る。唇を震わせ、瞳に涙を浮かべた絶望の表情。
体をこちらに向け、後ずさりしていく。震える唇からは小さくやめてと言う声が漏れている。
私はそれに反応することなく彼女の体を剣で貫いた。
剣を引き抜き、死んでいるのを確認してからいつもどおりハルトシュラーを呼ぶ。
「お疲れ様」
珍しくねぎらいの言葉が飛んできたので手を上げて答える。
せめて少しでも多く眠りこの疲れを現実へ残したくないと私は切に願った、



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