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囲われた城と心飲む女王

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囲われた城と心飲む女王


一面を覆っていた雪は解け始め、その合間から草が芽生え始めた。
まだ川の水は冷たいがもうじきここにも生き物たちが戻る。
暖房も片付ける時期が近い。一度ばらばらにして冷房に変えられないだろうか。
「なんかそれ、大きくなってない?」
そんなことを考えていた夜のこと。身を寄せ合って暖房にあたっていた亀が私の右手にはめた腕輪を指して言う。
腕を上げ下げしたりして確認する。重さは変わっていない気がするが確かに大きくなっている。
この町に来た頃はおそらく指三本分ほどの幅と小指程度の厚みしかなかった腕輪が
今では手首から肘の半ばと少しほど大きくなっているし厚みも親指を超えている。
「形を変えてそうしているわけじゃないよね?」
「いや、普段どおりだが……なんで大きくなっているのだろうか」
元からこの腕輪、もとい獲物はよくわからない点が多い。
自由に伸び縮みするのはいいが元の体積を超えて大きくなることもあるし、恐ろしく丈夫だ。
そもそも銃に変えたときどうやって発射しているかもわからない。
これも魔力の何かしらだろうと勝手に納得してはいたが実際そういう問題ではないはず。
「オリハルコンやヒヒイロカネで出来ているのかもしれませんね」
本を読んでいたヘッセが笑いながらそう言う。聞くとどちらも伝記上にのみ存在する物質のようだ。
だがそのどちらも使用者の意思に合わせて、形を変えるなどという特質はなかった。
というかそんな物質はこの世に存在しない。あるいはまだ見つかっていないそうだ。
「東京に持ち帰れば研究者が発狂するかもしれませんね」
私が拾われた時から着けているこの腕輪。もしかしたらここに私の出生の秘密が……いや、ないだろう。きっと。

目の前にそびえ立つ城。白い城壁に赤い屋根と天辺には赤い旗が立てられている。
目線を降ろしていくと橋のない堀があり、この先に門があるのだと思う。
橋が上がっているため門を確認することは出来ない。向こうまでの距離は跳んでいくには少し遠い。
橋が降りてくれれば悠々と中に入れるのだが降ろしてくれるだろうか。
「この城の中にいる無限桃花が対象だ」
「中まで連れて行ってくれると助かるのだが」
「それは自分でどうにかしたまえ」
ふわふわと浮いているハルトシュラーはにやにやと笑っている。悪趣味なやつだ。
「おい、そこのお前。さっきから何やっているんだ」
堀のこちら側には兵士が二人いる。城の前でどうこうしていたらさすがに咎められた。
「えーっと……中に入りたいんだが」
「見たところ旅の者のようだが何用だ」
「この中にいる女性に会いに来たんだ。髪が黒くて後ろで束ねている若い人なんだけど」
「……その女性にどのような用件だ」
「話をしたいんだけど」
さすがに殺しに来ましたと言ったら入れてもらえないだろう。
二人の兵士は顔を見合わせた後、手で追い払うような動作をした。
「帰れ帰れ。本来ならば治安部隊に引き渡すところだが見逃してやろう」
「お前が会えるような人じゃないしそもそもお前のような奴が入れるような場所じゃないぞ。ここは」
はっはっはと笑い始めたのでとりあえず堀に蹴り落とす。上で橋の上げ下げをしている人間がそれを見て、鐘を鳴らす。
橋が下がってくる。本当は獲物を伸ばして、壁を登って侵入しようと思っていたのだがその必要はなさそうだ。
徐々に見えてきた向こう側には兵士が待機していた。橋がこちらに降りきると声を上げて走ってくる。
獲物を長く伸ばし、横に払う。突進してきた何人かの兵士をまとめて堀に叩き落す。
一瞬全体の動きは止まったがすぐにまたこちらに突撃してきた。同じことを繰り返してまた落とす。
しかしこの攻撃は長く出来るものではない。鎧を着た人間をまとめて落としているので腕に大きな負担が掛かる。
相手は怯む様子もなく向かってくる。獲物を少し縮めて、橋を真ん中ほどで斬る。
城側は地面にそのまま置いてあるだけらしくシーソーのように傾き、橋ごと堀に飲まれていった。
一方こっちは橋を上げ下げするのに必要な鎖が付いているため、落ちることはなく振り子の要領で向こう岸までたどり着いた。
多くの兵士を落としたおかげで若干数も少なくなっている。堀があるため、外から応援は来れない。

「引け、お前たちでは私に勝てない。無駄に命を捨てることもなかろう」
目の前で自分の仲間の大半がいなくなったのだ。全員が言葉に従いはしないだろうが少しでも戦力は削れるかもしれない。
右にいた兵士が剣を振りかぶって、走ってくる。右手だけ動かし、手首を切り落とす。
それを皮切りに兵士たちが襲い掛かってきた。誰一人として引かない。
私は容赦なく切り刻む。幸いにもみな剣や槍といった武器なので遠くから攻撃される心配はない。
向かってきた兵士の手を切り落とし、持っていた剣を奪い、構えていた兵士に投げつける。
剣を顔まで上げて防御した隙に胴を切り裂く。鎧のせいで多少切りにくいが力を込めればどうということはない。
立っていた最後の兵士を貫き、血を払う。元は白く美しい床だったと思うが今は血の海だ。
あちらこちらからうめき声が聞こえるがどれも致命傷は与えているので戦う余力はない。
何回か剣を振るったがなかなか血が落ちない。仕方がないのでそのまま持って中を歩くことにした。
あの兵士たちは最後まで怯えというものを見せなかった。勇敢に戦ったと言えば聞こえがいいが何かがおかしい。
どのような軍であっても目の前で仲間が切り刻まれ、血しぶきを浴びれば怯える兵士ぐらい出るはずだ。
だがあいつらにはそれが全くなかった。仲間が斬られても駆け寄る様子はなく、ただひたすら私を攻撃してきた。
悲鳴を上げていたし、斬られると苦悶の表情を浮かべていたから操り人形というわけではない。
何にしろ警戒すべきことだ。私はだんだんと近づいていく気配に警戒を強める。
大きな廊下の突き当たりに、兵士が一人立っていた。先ほどまで戦っていた兵士にも何人か服装の違う兵士がいたが
この兵士はそのどれとも違う格好をしていた。おそらくは兵士団長とかそのような役職の人間だ。
しゃがめば十分に体を隠すことが出来るほどの大きさを持つ盾と一振りの剣。
兜で頭を覆っているため、その表情は伺い知れぬがおそらくは男。私が目標とする場所はこの男の先。
言葉を交わすことなく剣を構える。私は大きく息を吐いて、剣を構える。
最初に兵士が動いた。盾を構えたまま間合いを詰めて来る。相手に合わせて、剣を振るう。
硬い手応えが体を伝わる。予想通り盾で防御された。その隙を狙って兵士が剣を振る。
後ろに飛びのき、相手の様子を伺う。盾には大きな傷をつけることが出来たがそのまま切り裂くことは出来そうにない。
再び相手が間合いを詰める。先ほどと一緒ならばこちらの攻撃を防御してからの攻撃だ。
しかし相手はお互いの剣が届かぬぎりぎりの間合いで止まり、盾を振るった。
一瞬、反応が後れ気づいたときには盾が体に当たる直前だった。咄嗟に剣を横にして防御するが全身に衝撃が走る。
盾が邪魔で視界が遮られる。相手は右手に剣を持っていた。来るとすれば右なのか。
相手が左からすっと出てくる。剣を左手に持って。剣先は私の首。突きを剣で防ぎきれるか。
剣を均等に平たくして板のようにする。相手の剣が獲物に当たる。幸いにも貫かれなかったがそのまま後ろへ飛ばされる。
体制を立て直す暇もなく、相手の追撃が飛んでくる。転がりながら交わす。剣は石の床を叩き、大きく削った。
どうにか体制を立て直し対峙する。最初に対峙したときと剣と盾が入れ替わっている。両利きだということだ。
よもや盾を投げつけてくるとは思わなかった。その上、盾が落ちた音はしていないしすぐさま追撃が来たことから
左手から投げた盾を私が防御して浮いているうちに右手で装着したということになる。
盾にも腕に嵌めて付けるものだとか手で持つだけとかあるようだがどちらにしろそれを瞬間的にやってのけたのだ。
じりじりと間合いが詰まっていく。相手の足が大きく動く。剣先がこちらに向いている。
突きをうまく剣で受け流し、すれ違い様に相手の脇を斬る。先ほどの兵士だって鎧ごと切れたし今のは確実に致命傷だ。
斬る寸前までそう思っていた。現実は鉄をなぞるだけの感覚。傷はつけれたが肉体には攻撃できなかった。
どうやら相手の鎧も剣も一般兵よりもはるかに厚みがあるようだ。このような攻撃では相手にダメージを与えられない。
足に何か当たる。先ほど砕いた床のかけらだ。立ち居地が入れ替わったせいだろう。

獲物でそれを掬い、すぐさま発射する。さすがに想定外だったのか盾が間に合わず、頭に食らってよろけた。
その隙に私は相手に背中を向けて一目散に走り出す。立ち居地が入れ替わったということはつまりあの部屋に近くなったのだ。
後ろから重そうな足音が聞こえる。しかしそれだけの厚みがある鎧で私に追いつけるはずがない。そのうち足音は聞こえなくなった。
扉を切り裂いて中に入る。高い天井だとか豪華な内装を気にしている場合ではない。
正面が階段になっていてその上に大きな椅子があり、私の対象はそこに座っていた。
「よくぞ来たな。剣士よ」
その言葉を聴いた瞬間。体から力が抜けていくのを感じた。
「頭が高いぞ。跪け」
後ろに兵士は来ている。さっさと対象を殺さないといけない。右手に持っている獲物を剣に変えて。
なのに私は片膝を突いて、剣を置き、頭を下げていた。
彼女の言葉一つ一つがまるで天上の言葉のようだ。体を安心が包むような。
「なにやら騒ぎがあったようだが……貴様がやったのだな?」
「はい」
意思とは関係なく言葉が出る。いや、これは私の意思から出たものなのか。
先ほどまでの激しい戦意はどんどんと消えうせていく。
「何ゆえにそのようなことをするのだ」
「あなた様を殺すためであります」
彼女がくっくっくと笑う。階段を下りる音が聞こえる。
その気配がだんだんと近づいてきた。
「ふむ。妙な容姿だな。それに何かを感ずる。面を上げよ」
「失礼します」
私は顔を上げ、彼女の姿を見る。
尊厳たる姿がそこにはあった。私のような人間が傷をつけていいような相手ではない。
光に包まれたその姿は仕えるべき主であり、その頭の冠は王である証であった。
「白い髪に瞳もほのかに白い……。この地の人間ではないな」
「はい。私は世界を超え、寄生生物を駆逐するためにやってきました」
「世界を超え? 一体どのようにして……」
そのとき、背後から足音がした。
先ほどの兵士が追いついたのだ。まともに追いかけなかったのも女王に会えば、戦意を無くすと知っていたからだ。
「団長。賊がここまで到達しているのだがどういうことなのか説明してもらおうか?」
がらんと大きな音が聞こえた。おそらく慌てて跪き、剣と盾を床に落としたのだろう。
女王が私の横を通り過ぎた。
心に何かがこみ上げてくる。つい先ほどまで満たしていたそれが戻ってくる。
王冠。あれこそが彼女が女王たる所以をもたらす物。
あれに次捕まればもう逃げられない。
獲物を手に取り、振り向き様に彼女の体を剣が貫く。
彼女の視線が、言葉が出るよりも早く首を切り落し、頭を砕く。
兵士は兜を外していた。その表情は驚きや怒りではなくただただ呆然といったものだった。
術者がいなくなり、呪いがなくなったのかもしれない。だが。
続けざまに兵士の頭を砕く。血が飛び散ったが赤い絨毯なのでその痕はわからない。
「ハルトシュラー。いるんだろ」
「危なかったな」
振り向くと彼女は椅子に座ってこちらを見下ろしていた。
「相手の心を自らの支配下に置く能力。ただすぐさま置けるわけではないというわけだ。
 視線や言葉がその鍵となると言った所か」
「もしもあのまま私が支配下に置かれていたらお前はどうする気だった?」
「もちろんここに置いていくさ。お前にとってはそれが一番の幸福になっただろうからな」
「冗談じゃない。帰るぞ」
戦闘能力は全くない。必要ないのだ。相手を支配下に置いて使えばいいのだから。
あの時、兵士に怯えがなかったのも一度支配下に置かれかけた今の私なら理解できる。
彼女を命に代えてでも守るというのは息をするのと同じくらい当たり前なことになるからだ。
でもそれはハルトシュラーの言うとおりとても幸せなことなのかもしれない。



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