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日のあたる仄暗い雑居ビルと春を売る少女

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日のあたる仄暗い雑居ビルと春を売る少女


「おぉ……」
最初に出たのは感動の言葉だった。
ぎしぎしとなる梯子を上り、見張り台の天辺にまで来た私を待っていた一面の銀世界。
私たちの家の周りは一番最初に片付けたため何もない更地となっている。
そのため降り積もった雪は一切の歪みなく平らに遠くまで続いていた。
村にいたころでもこんな綺麗な景色はそうそう見なかった。
まだ雪は降り止んでいないので少々寒い。とりあえずの景色は見れたので早々に撤退することにした。
「外、どうだった?」
家に戻り、暖炉の前を陣取っている亀の横に割り込む。
「綺麗な雪景色だったよ」
「そうかい。結構積もってそうだな。嫌だな」
「さすがに作業は出来ないな。ヘッセは?」
「知らぬ。それよりかもっとそっち行ってよ」
仕方ないので場所を譲り渡し、ヘッセを探す。
ヘッセは時折本土の仲間と交信している。詳しい話はよくはわからないが頭にくっ付いている機械を使って
仲間同士なら距離が離れていても会話が出来るそうだ。
私たちは村の外に出ることはないのでヘッセの外部との通信が他の世界と繋がっている唯一の手段なのだ。
ヘッセの自室をノックすると返事が返ってきたので中に入る。
「どうかしましたか?」
「いや、交信してたんだろ? 何かないのか?」
「順調に領土を取り戻しているようです。このまま行けば戦争も終結するかもしれません」
「あれだけ苦戦していたのにあっという間に逆転か。アンドロイド様様だな」
「当然の結果です」
ふふんと胸を張るヘッセ。ちなみに私はヘッセの戦闘しているところを見たことがない。
ただ殴って瓦礫を粉砕している姿は圧巻と言える。コユキほどの細腕なのにどこにそれだけの力があるのか。
「とりあえず警戒するのはこの島に元からいるやつだけってことだな」
「はい。むしろ食料の心配のほうが先かと」
「……貯蓄あったっけ」
「ないですね」
眼前に迫る緊急案件に私はため息をついた。

「浮かない顔をしているな」
「ああ、まったくだ」
目を開けるとどこかの路地裏にいた。じめじめしているし反吐が出るような匂いがする。
鼻を押さえながら周りを見渡す。人はどうやらいないようだ。
「その上こんな場所と来たもんだ。それで誰を相手すればいいんだ?」
「この奥にあるビルにいるやつだ。対象は一人だが今回も対象外の人間を相手することになるだろうな」
「それは構わないが……また無限桃花か」
ハルトシュラーはうなづく。
「そういえば前回言い忘れていたが私はガイドはするが戦闘に関しては一切手出しをしない。
 相手の情報もせいぜい職業と人数程度だ。未知の相手とやったほうが訓練になるだろう」
「ああ。わかっている。現実での戦闘はいつも未知の相手だしな」
「……お前が相手を始末した時点でお前が生きていれば無傷で帰還させることができる。
 逆にお前が戦闘で死ねばお前の言う現実でもお前は死ぬ」
亀も現実と同じように行動しろと言っていたな。夢で死ぬと現実でも死ぬというのはよくわからないが
精神がどうこうで魔法がうんちゃらということだろう。気になるので聞いてみる。
「夢の世界で死ぬとなんで現実の私も死ぬんだ?」
「前に世界について本に例えて説明しただろう。お前がやっているのは紙魚と同じで世界渡りだ。
 お前が寝ているときだけお前はの意識は違う世界で生きているのだからこっちで死ねばそっちでも死ぬ」
「……つまりこれも現実と」
「ああ、そうだ。というかお前、今まで理解してなかったのか……」
呆れたような顔をしている。そんな目で見ないでほしい。
現実でも死ぬとなるともう少し慎重に戦う必要が……いや、ないか。
戦闘というのは常に命がけになるし、今まで通りしっかりと戦えばいい。
ハルトシュラーの後を追いかけて、路地を歩く。
陽の差さないその道はどこか亀の家への道を彷彿とさせる。
道はやがてもう一本の道と混じる。雑居ビルだらけだがそのビルだけ陽が当たっていた。
「そのビルの五階にいる。相手は学生だ。頑張りたまえ」
陽のあたるビルの入り口にはなんだか雰囲気の悪そうな若者が二人喋っている。
いかにも頭の悪そうな感じがして話しかけたくないが入るためには声をかけないといけない。
「すまない。入りたいから通させてもらっていいか?」
男二人が私のほうを見る。人を値踏みする目つきだ。ええい、胸を見てしょんぼりするな。
「嬢ちゃん。ここはあんたみたいなコスプレした人間が来るところじゃないぞ?」
コスプレと言われて自分の格好を見る。なるほど、さすがに鎧姿はこの世界ではそうとられてもおかしくない。
もう一人の男は私の顔を見ながら舌なめずりしてる。
「でもまぁ通りたいっつーなら通してやってもいいけどよぉ……」
「通行料が必要になるよなぁ……。なぁに、金じゃねぇよ。ちょっと体を触らせてくれるだけで」
「ああ、では遠慮なく通るよ」
話を最後まで聞かず、獲物を棍棒状にして顎を叩く。情けない声を上げて、男たちは倒れた。
砕くほど力を入れていないがヒビぐらいは入っているかもしれない。人を馬鹿にした罰だ。
陽が当たっているにも係わらずやたら暗い廊下を歩く。灯りは時折ぶら下がっている裸電球だけだ。
五階に向かう途中にも変な男がいたが全員殴り倒した。
変なにおいがする女もいたが不審な目つきをするだけだったのでとりあえず放って置くことにした。
上階に行くたびに無限の気配が強くなっていく。前回の暗殺姉妹も無限姉妹でなければもう少しいい勝負したのではなかろうか。
ドアの前に立っていた男を同じように殴り、ドアを開ける。
部屋は思ったよりも広い。しかし物が雑然と置かれており、驚くほどせまく感じる。
灯りは相変わらずの裸電球がひとつぶら下がっているだけ。窓には目張りでもしているのか一切の光が差し込まない。
そのせいか部屋の明暗がくっきりしている。
奥のソファーに三人の人間が腰掛けている。おそらくは皆女子。そして真ん中にいるのが目標。
「入社希望者、って感じじゃないわよねぇ」
真ん中の人物が立ち上がり、高めのテーブルに手を置く。
服のことはよくわからないが着飾っているのはよくわかる。青と白を基調とした服はあまりにもこのビルとはかけ離れた存在に見える。
黒い髪は後ろで束ね、その先は肩に掛かっている。
「会社運営か。学生と聞いていたが」
「あら、私のこと知ってるんだ。でもねぇ、学生にしか出来ないことっていうのもあるのよ?」
後ろで控えている女子二人が笑っている。学生にしか出来ない職業とはなんだろうか。

「あなたいくつ? きれいな髪してるし結構若そうだけど」
部屋の中をゆっくりと歩きながら私に質問を投げかける。
彼女たちがどのような職業をしているかわからないがあの男たちを見る限り真っ当なものではない。
そしてその男たちを掻い潜って私がここに来たことも相手は知っている。時間稼ぎかそれとも余裕か。
「答える必要はないな」
「つれないわねぇ。せっかくうちの会社に誘うかと思ったのに」
「あんな護衛をつけているとなると真っ当な職ではないようだな」
「肉体労働よ。汗かいて稼いでいるのよ」
意外だ。とてもそんなことをしているようにはみえない。肌だって白いし腕も細い。
だがそんなことをするのになぜ護衛が必要になるのか。
足音が聞こえる。踏み鳴らすような音だ。獲物は既に棒状になっている。
音がドアの前まで来たと同時に前に出る。少し後ろをドアが横切り、それと同時に振り向いて殴る。
入ってきた男はそのまま倒れた。後ろにまだ三人いる。驚いている隙に顎や頭を殴り、床に転がす。
「悪いが何人呼ぼうがこの程度では私には意味がないよ」
奥にいた女が拍手をする。目標も口笛を鳴らす。
「こういうことやってると警察が来ることもよくあってね。
 ま、あなたもあいつらと同じように八つ裂きになってもらおうかな」
背面から聞こえた物音に反応して前に転がる。テーブルだのなんだのに当たるが気にしてはいられない。
先ほどまで男たちが倒れていただけの場所に人型の黒い影がいた。
普通の人間であれば真後ろにいたら気配でわかる。なのにあの影はいとも簡単に私の背後にいた。
「すっごーい。初めてだよ。しーちゃんの攻撃避けたの」
煙のように影が消えた。振り向いて攻撃を止める。一瞬で移動してきた。
鍔迫り合いになったが力はあまりないようだ。棍棒を剣に変え、相手の獲物を弾いたと同時に本体を切る。
あまりにも薄い手応えで相手は胴体が真っ二つになった。叫び声をあげるような動作をしたと同時に消えた。
次の攻撃は私の側面から飛んできた。剣で払い、今度は二回切るがダメージを受けるような動作をするだけで
本当に与えられているのかわからない。
部屋の壁に背をつけて、見渡す。これがあの無限桃花の力であることには間違いない。問題はその条件だ。
最初の二回は私の背面から攻撃してきた。しかし最後の一回だけは側面からのものだった。
なぜ背面でなかったのか。わざとなのかそれとも攻撃出来なかった理由があるのか。
相手の出方を見る方法として思いついたのがこの背面を壁につけるというものだった。
さすがにこれでは相手も背面からは攻撃できない。その上、私自身注意する範囲が狭いので相手がどこから来るのか見やすい。
「ふーん。そういうことするんだ。ま、いいんだけどね」
テーブルにおいてあったコップを手に取り、こちらに投げた。
このままだと私にぶつかる。獲物で弾けばいいがその隙を攻撃されるかもしれない。
コップが電球を通り過ぎた頃、名案が浮かんだ。とても簡単で冴えたやり方だ。
壁を蹴って、飛び出す。コップを顔を動かし避ける。置物たちは剣で全てなぎ払っていく。
警戒しすぎなのだ。相手がどのような能力であろうがやることはひとつ。
対象を殺せばそれでいい。
相手はあわてて近くの椅子をこちらに投げつけた。こんなもの無意味だ。
飛んでくる椅子の影から人型が飛び出してくる。影から呼び出てくる能力が正解のようだ。
しかし奴が今、いる影は飛来する物の影。そもそも気配がないことが大きなメリットだというのに眼前に現れたら何の意味もない。
飛んでくる椅子ごとまとめて切り払う。そのまま影に突っ込み、その先にいる対象に剣を向ける。
殺せると確信した瞬間、横から椅子が飛んできた。見ると女子の一人が投げたようだ。
もう一人が落ちていたビンを投げた。私には当たらない軌道だ。椅子を切り落とし、ビンは無視しようとする。
が、すぐにその目的に気づく。あのビンは私を狙う気などなかったのだ。本当の目的は――。

派手な音を立てて電球が割れ、部屋に暗闇が満ちる。
「ナーイス! 超助かった!」
対象は目前にいる。例え闇の中でも無限桃花の気配でわかる。一歩踏み出て、剣を突き刺す。
しかし剣は硬い何かに阻まれた。遅かった。すかさず横に斬るが薄い手応えすらない。
再び本体に斬るかかるが阻まれる。連続で斬るも全て阻止される。
どうやら闇がある場所ならどこからでも出てこれるようだ。この状況は分が悪い。
幸運なのは相手が一体しかいないこと。同時に攻撃されたらひとたまりもない。
灯りがあれば相手の動きが制限できる。だが手元にはそんなものはない。
背中に痛みが走る。斬られた。前によろけるがすぐさま立ち上がる。
鎧のおかげで傷が出来ることはないがそれでも痛みはある。その上私の鎧は動きやすさ重視のため、鉄で覆われていない部分が多い。
早く決着をつけなければこのままなぶり殺しにされる。
電気が消える前の状況を思い出す。灯りになりそうなものがあったか? スタンドでも懐中電灯でもなんでもいい。
ふと部屋に入ったときの状態を思い出した。あいつらは外を背にしてソファーに座っていた。
一か八か。二つの気配がするほうに向かう。途中影が攻撃してきたが気にしている場合ではない。致命傷だけ避ければいい。
暗闇に怯え、抱き合っている二人を横目に後ろの壁を獲物で叩く。
壁はあっけなく割れて、光が差し込んだ。
隅のほうであっと声がした。しかしもう遅い。光の中にいる私を攻撃するには私の影から出てくるぐらいだろう。
もちろんそんなことさせる気はない。横に移り、どんどんガラスを割っていく。部屋に陽光が満ちていく。
改めてみると部屋はひどい惨状だ。専ら私が移動する際に邪魔なものを切り払ったせいであるが。
近くにあったものを全て払い、私の周囲のものをなくす。これで周囲の影から攻撃が来ることはない。
窓枠を獲物で取り外し、形を変える。その様子を部屋の端に飛ばされたソファーの陰から見る二人の女子と
頭を抱えて怯えながら見ている無限桃花。
弾は一発。それで十分。影から人型が現れたがもう遅い。放たれた玉は対象を貫き、絶命させるには十分な威力だった。
人型が消滅したのを確認した後、私は少し歩き、倒れていた椅子を起こして腰掛ける。
強い能力だった。もしも本体が十分な戦闘能力を持っていればもっと苦戦していたに違いない。
「ハルトシュラー。帰るぞ」
ふわふわと外からのんびりと飛んできた。観戦もしていなかったようだ。
「ご苦労様。今までよりかは苦戦したみたいだね」
「部屋が真っ暗になったときはどうしようかと思ったがまぁどうにかなった」
転送の闇が私を包んでいく。部屋の端にいる二人がちらりと目に映った。
あの二人がいなければもう少しスマートに終わっていたはずだ。
今後はもっと対象以外が及ぼす影響も考えなければいけない。

余談ではあるがそれから一週間ほど影が気になる病にかかった。



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