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木に飲まれた遺跡と暗殺姉妹

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木に飲まれた遺跡と暗殺姉妹


灰色の空を見上げる。風もだいぶ冷たくなってきた。
まだ雪が降るほどではないがあと一月もすれば振り出すだろう。
所々に生えている木々もすっかり葉を落とし、みすぼらしい姿になってしまった。
「川の水も冷たいなぁ……」
かじかんだ手で川に桶を突っ込み、水を掬う。その後、溢れる水を川に戻し家へと戻る。
私たちの家は川の近くにある。炊事だの洗濯だので水は使うだろうということでそうなったのだ。
幸いにも川は魔力による汚染がないので、水源に関しては心配する必要はなくなった。
桶に汲んだ水を家の外にあるタンクに注ぐ。水道管があればこんな苦労はしないのだがそれが出来るのはまだ先のようだ。
そんな作業を何回か繰り返し、十分な量が入っているのを確認したら家に戻る。
暖炉の前ではヘッセと亀が幅を利かせていたので無理やり割り込んでかじかんだ手を温める。
「暖炉もっと増やそうよ。これ小さいよ」
本を読んでいた亀が顔を上げて答える。
「こんな小さいやつでも作るの大変なんだよ。そもそも動力が確保出来ないし」
この暖炉は何かを燃やして動いているわけではない。詳しい仕組みは聞いてないがとりあえず魔法だ。
動力というのはその中核となる魔法を溜め込むためのモノらしい。今となっては他の町と交流もないので廃材から見つけるしかない。
この家も使えそうな廃材を組み立てて出来たものだ。
土地はいくらでもあるのでああしようこうしようなどと語っていたら部屋が余るほど大きな家が出来てしまった。
平屋なので念のためということで見張り台が設置されている。専ら夏の間、涼むのに使われていた。
「この町にある魔術工房の跡地を探せばいいのでは?」
「どこもかしこもひどい有様だったのさ」
質問したヘッセと私は行ってはいないがこの生活が始まった当初、亀も使えるものを探しに工房に行ったそうだ。
だがそもそもにして工房というのが魔力の塊になっているような場所だ。それに例の塊が落ちてきたようで大惨事になっていたらしい。
今はそのあたりはひもで隔離されている。時間が経ってからじゃないと手出しも出来ないと言う。
「まさか三つ全部やられてるなんてね。あの野郎もある程度狙ったんだろうけど」
「後は工房以外で販売されていた場所を回るしかないか」
魔力を利用するような大型の家具には大抵その中核になるモノが必要になる。
現状、暖炉に使っているものしかこの家には存在しない。つまり絶賛品不足中なのだ。
モノさえあれば灯りも電気になるし、お風呂を沸かすのも早くなるし、水道代わりにもなる。
まぁないものをねだっても仕方ない。
「ご飯できたのではこんでくださーい」
調理場からコユキの声が聞えてきた。どうやら夕飯が出来たようだ。
当初は当番制だった食事も
私のへたくそっぷりと亀のゲテモノっぷりとヘッセの味気なさっぷりにコユキが憤慨し
気づけば食事も含めた家事全てが彼女の担当になっている。
もしも彼女がいなかったら今頃我々は栄養失調で死んでいるに違いない。
スープを飲みながら料理の素晴しさに舌鼓を打ち、幸せを感じる。
ゆっくりだがここにも人の営みが生まれてきた。

「久しぶりだな」
そんな幸福な夕飯を過ごした夜のこと。
夢の世界で目を覚ました私は久々にハルトシュラーに出会うことになった。
「二ヶ月、いや三ヶ月ぶりくらいか。あれで終わったのかと思ってたよ」
「あれで終われば苦労しない。こっちも色々忙しいのだ。
 前回のでお前が人を殺すのに躊躇しないこともわかったしな」
「なんだかまるで私が好んで人を殺しているみたいだな」
もちろんそんなことはない。出来るならば剣を取らず話で事を済ませられればそれがいい。
だが話が通じない相手もいれば、聞く耳も持たぬ奴もいる。剣を握るのは仕方の無いことだ。
「これから転送するが……今回は油断すると楽に死ねるからな」
「少しは腕の立つ人間ということか」
「詳しくはわからないがおそらくは暗殺業でも営んでいるのだろう。まぁ頑張れ」
上から闇が降ってきて世界を覆い隠す。上も下もわからない。ただ足が着いている場所だけが世界の接点となった。
慌てることはない。どんな暗闇の中にも音があり、風が生まれる。動かずとも気配というもの存在する。
五秒ほどだろうか。世界に色が戻る。しかしどうにも暗い。夜目は効くので大きな問題はないが地形を把握するのに時間がかかる。
虫や鳥の鳴き声。緑の匂い。光源は空から降る月光。人類がまだ足を踏み入れていないジャングルのようだ。
だがその割には所々にある石が妙に角ばっている。木々に飲まれた遺跡なのだろうか。
「ずいぶんと相手が有利そうな場所だな」
姿は見えないが後方斜め上辺りに浮いているであろう彼女に話しかける。
「仕方あるまい。ここが奴らの寝床なのだ。足元に注意してくれ」
盛り上がった木の根っこを避けながら人の通った形跡のある場所を歩く。
「いや、それは心配することはないが……それよりも今奴らと言わなかったか?」
「ああ、言い忘れてた。相手は無限姉妹で二人だ」
少し開けた場所に着く。部屋の奥には大きな木が壁に食い込むように生えている。
どうやらここは上も開けているようで月光がよく照らしている。
そのおかげで私も相手もお互いにすぐに認識できた。
「何者だ」
「夜分遅くに失礼。私はシカ・ソーニャと言う」
尋ねて来たほうが一歩前に出て、姿を露にする。
薄汚い、そしてぼろい服だ。そういうデザインなのかわからないが端は破れるような形をしていて
所々穴まで開いている。職業から考えればそういうデザインではないだろうけど。
特に装備を隠す気はないらしく右の太ももには短剣が、左の腰には片手サイズの剣がぶら下がっている。
そしてその体を覆うような黒い影。あれが対象だ。
「シカ・ソーニャとやら。知らぬようだから情けをかけてやろう。今すぐ来た道を帰るのだな」
「暗殺者の割りには情は深いみたいだな」
その言葉を聞いて、彼女の目付きが変わった。あれが本業をしているときの目つきに違いない。
彼女の影から何かが飛んできたので腕輪を武器に変えて落とす。どうやら短剣のようだ。
「面白い武器を持っているようですね。姉さま」
影にいた妹が姉の横に並ぶ。格好は姉と同じだ。獲物は腰にある二本の短剣と太ももに装着している投げナイフ。
姉がポニーテールに対して、妹はショートカット。どうでもいいがスタイルは妹のほうがいい。どうでもいいがな。
「我々を知っている上でここを訪れたというのならば情けをかける必要はないな」
「そうだな」

妹が短剣で宙を切った。三歩前に出て、私が入ってきた場所に落ちてきた大樹を避ける。
わかっていたことだ。罠の一つや二つくらい仕掛けている。
どんなものかまではわからないがあれだけ大きな動作をすれば何かが来るぐらいはわかる。
相手までの距離は少々ある。獲物を伸ばせば届かない距離ではないがその後を考えるともう少し詰めたい。
「出入り口を壊されると帰るのに困るな」
白々しいことを言いながら堂々と距離を詰める。姉と妹が短剣を片手に構える。二人とも二刀流をしない。
妹が再びナイフを投げた。それと同時に大きく左足を踏み出し、姿勢を低くする。
剣を右手に持ち、姉に向かって突きを放つ。これを相手が後方に飛びのいて避ける。
代わりに妹が切りかかって来る。お互いがお互いの隙間を埋めるように攻撃してくるようだ。
私も引いて、短剣を避ける。そこに妹が素早く投げナイフを投げてきた。とは言っても所詮直線状の者。
造作もなくかわす。何かが切れる音がした。獲物を薄い膜状に変え、頭上を守る。
一列に並んだ矢が突き刺さる。投げナイフによる二段構え。獲物についた矢を払い、剣に戻す。
「仕方ない。妹、起動するぞ」
姉がそういって腰に下がっていたもう一本の剣を手に持つ。ぱっと見は柄の部分に宝石があしらってある普通の両刃の剣だ。
剣を月明かりにかざす。刃が月光を反射している。
「さぁ剣よ。光を飲み込め」
宝石が怪しく光る。同時に周囲の光が失われていく。先ほどまで射していた月光が闇へと変わっていく。
逃げる間もなく私の体を闇が包み込む。ただ転送時の闇と違い、風はあるし虫の鳴き声は聞える。
あの剣が周囲の光を奪っただけで他は変わらないということだ。
「闇に怯え、死ぬがいい」
今のはどちらが喋ったのだろうか。先ほどの場所的に考えれば姉のほうが確率は高そうだ。
目を開ける必要もないので閉じる。自然の音に紛れて聞える音、流れる風。
相手も視界はゼロのはずだ。しかし魔法というのは油断ならない。術者だけ昼間のようによく見えるなんてこともありえるかもしれない。
最後に喋っていたほうが私の左方に来た時、一歩大きく踏み出した。獲物を左手に持ち替え、長刀に変える。
横薙ぎに一閃。刀が何かを切り裂く感覚。生暖かいものが体に掛かるのを気にせず、振り向いてさらに追撃を加える。
後方からも来る。獲物を棒状に変え、振り向きざまに一撃を加える。
剣が足元に転がっていたのが見えた。そこからだんだんと光が広がっていく。
血溜まりに横たわるソレは胴体が半分に斬られていた。斬ったのは自分だがこうも呆気なく斬れるものなのか。
見た感じもう死んでいるだろう。振り向いてもう一人のほうを見る。
床に蹲ってはいるが生きている。腹部を押さえているし、肋骨の数本は折れたかもしれない。
「勝負ありだ。私の目的はこいつの殺害だけだからお前は好きにするがいい」
獲物についた血を払う。が、さっき獲物を剣から棍棒に変える際に中に取り込んでなかなか落ちない。
染みになったりしないだろうか。でもこれ夢の中だし大丈夫かもしれない。
とりあえず腕輪状にして、嵌めてみるがなんか赤のまだらであまり綺麗じゃない。
「ハルトシュラー。これでいいんだろう。帰還するぞ」
姿が見えないので呼びかける。どうせどこかで高みの見物でもしているに違いない。
と思ったら本当に上から降って来た。戦闘力ないのかもしれないがもう少し手伝え、この野郎。
「あそこにいるのはいいのか?」
「別に無駄に殺生しても仕方ない。私が見た感じでは寄生もされていないようだし。
 お前がもしも見えるというなら首撥ねて置くがどうする?」
「いや……あれは大丈夫だろう」
再び闇が体を包み込む。
暗殺業をやっていると聞いたから闇に包まれたときは少しまずいと思ったが
せいぜい少し隠れるのが得意な野生の獣程度だった。
闇に乗じるならばせめて足音を完全に無くすなり気配をどうにかするなりしないと意味が無かろう。
まぁもう済んだ話だ。少し疲れたし今は眠りたい。
やがて転送の闇が晴れる前に私の意識は睡眠の闇に飲まれた。



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