創作発表板@wiki

終わりの物語

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

終わりの物語


「もうお昼だな。ヘッセ。休憩しよう」
「了解しました」
懐中時計が十二時を指していたので、瓦礫を運んでいたヘッセに声をかける。
道端に転がっている丁度いい石に腰を下ろす。その横にヘッセが座る。
「だいぶ廃材が溜まってきたな。そろそろ砕く作業もしないと」
「お任せください」
立ち上がろうとするヘッセを掴んで座らせる。
「休憩が終わったらね」
「了解しました」
空を見上げると鳥が鳴きながら飛んでいた。こんな更地に来ても何もないと言うのに。
「もう一ヶ月も経ったのか」
「そうですね」
この町が滅びたあの夜からもう一ヶ月が経った。
激動の一ヶ月だったと言える。
あの日。ヘッセに助けられ、かろうじて生きていた亀とロゼッタを救出し、大聖堂へと向かった。
運よくなのか守護の魔法のおかげなのか大聖堂には被害がなく、犠牲者がほとんど出なかったのは
不幸中の幸いと言えよう。すぐに自衛団の人間で消火活動が行われた。
その作業が一段落し、ヘッセによる今回の襲撃についての説明がされた。

時間は全島会議の開催が決定する少し前まで遡る。
数少ない拠点のひとつであった東北拠点は没落し、北の軍は東京拠点のすぐそばにまで迫っていた。
また別の経路から侵入した北の軍により、日本の拠点は京都、東京の二箇所にまで減っていた。
総力を挙げて防衛するものの住民や兵の気力は限界を迎えつつあった。
だがある日。ついに研究者の一人がアンドロイドの製作に成功。三体の試作機が作られた。
第一世代と呼ばれる三体の試作機は獅子奮迅、八面六臂の大活躍で劣勢であった戦況を均衡にまで持っていった。
続けて作られた第二世代の五体は東京から京都へと応援に向かい、危機から救出。
そして第三世代の五体と共に日本は反撃を始めた。
北の軍はそのまま後退し、ついには本州から撤退させるまで追い詰めることが出来た。
そんな中、不穏な情報が手に入った。
本州より南にある小笠原の地に隕石が存在し、北の軍がそれを手に入れようとしている。
隕石の危険については東京の人間も熟知している。あれを自国に持って帰られたら大きな被害を生む。
何よりも問題なのは北の人間が既に渡っている可能性があるということだ。
すぐさま東京拠点の会議でアンドロイドの派遣を決定。第三世代の一人であるヘッセが送られてきた。
だが時は既に遅く、知っての通り呪文は展開され、町は襲撃されていた。
ヘッセは町のはずれにいた、黒幕と思しき人間たちを殲滅した後、町へと向かった。
そして現在に至った。
死者復活の呪文もこの町の制圧の意味合いよりもファウストの持っていた隕石を目的としたものだったのだろう。
ファウストがおとなしく隕石を渡すかどうかは置いといて、過去の事件によりファウストが持っていたというのは知られている。
本州への拠点の確保と隕石の取得。これが奴らの目的であったということだ。
そしてそれを実行するためにおそらく色々な手回しをしたであろうと思しき人間たちが
今この大聖堂にいない人間。つまりこの町の役場側の人間たちだ。
ヘッセが殲滅したという人間と特徴も一致している。どのような契約が成されたかはわからないが
この町を収める立場の人間が町と住民を売ったという事実は変えようが無い。
この事実を知った他の町村の人間は激昂した。
お前たちはこの計画で我々を殺すことで島全体を混乱させようとした。
裏切り者だ、と。
もちろんこの襲撃計画をソーニャを始め、ほとんどの人間は知らなかった。
そもそもソーニャやビゼン、亀、ロゼッタは役職でありながら身を呈して戦ったのだ。
賛美されることはあれど非難をされる謂れは無い。そう反論した。
論争は一昼夜行われた。自らの命と島が危険に晒されたのだ。仕方の無いことなのかもしれない。
双方が論争に疲れ始めた頃、ソーニャは話に割り込んでこう宣言した。
「わかった。どちらにしろこの町の再起は難しい。
 もしも町の住民をそれぞれの町村で受け入れるというのならば今回の事件の責任は全て私が負おう」
本来であればこんなものは認められやしない。だがこの会議に置いてはこれが承認された。
みなわかっていたのだ。今回の事件における明確な処罰が必要だったのだ。
黒幕はみな死んだ。他との繋がりは無い。もう大丈夫だ。そうだとしても不安は拭い去れない。
それを拭い去るためにソーニャは罪を背負い、罰を与えられた。
かつて町を守るためにあった壁は今やソーニャを隔離するための壁となったのだ。



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー