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壊乱Ⅱ

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壊乱Ⅱ


今度は獲物を両手持ちの剣に変える。赤いドラゴンが右前足を上げた。
まるで壁が迫ってくるようだった。前足はソーニャの少し前の地面を砕き、周りを揺らす。
この瞬間。ありったけの力で前足を斬る。そして離れて、後ろに回りこむように走り出す。
渾身の一撃は鱗を少し剥ぐ程度の結果で終わったようだ。血すら流れていない。
前方から来る尻尾の払いを内側に入り避ける。腹の下なら鱗はないかもしれない、が押しつぶされる危険がある。
獲物を槍状して、深く中に入らず柔らかそうな場所を狙い刺す。想像通り槍の穂先が腹に食い込んだ。
素早く抜いて、尻尾に注意しながら離れる。見上げると先ほど見たような喉の競りあがり。
強い風が吹き、思わず吹き飛ばされる。ドラゴンの体を見えない刃が切り刻むかのように何個もの傷が出来る。
転がろうとする体を無理やり起こし、ドラゴンの動きの止まった尻尾を狙う。
亀の攻撃でドラゴンの意識があちらへ向く。それを止めるにはこちらもそれ相応の攻撃をしなければならない。
決して太すぎず、細すぎず。獲物を再び大剣に変化させ、狙いを定め振り下ろす。
剣が厚い肉を切り進み、地面を叩く。ドラゴンが悲鳴混じりの叫び声を上げた。
空から光が降って来る。亀の魔法にしてはあまりにも間隔が早すぎる。
構える前に光は地面に落ち、爆発音と共に熱風がソーニャを襲う。
転がりながら身が焼ける痛みに耐える。うめき声を上げながら見上げると熱風の直撃を受けたドラゴンの皮膚が爛れていた。
ドラゴンの影になったおかげで直撃は免れたようだ。それでもこの痛み。他の二人を探すため、周りを見渡す。
先ほど見ていた光景と同じ場所だとは思えない。そこは瓦礫と火の海だった。
その海を見下ろすかのように一人の魔術師が浮いていた。片手には黒い石のようなものを持っている。
「どうやら運命は我輩を見放すことはなかったようだな」
男の声がはっきり聞える。遠くを見ていた男がソーニャを見下ろす。
「前回は調子に乗りすぎて不覚を取ってしまった。故に今回は気をつけねばらならぬ」
そう言って男は浮いたままソーニャの近くまで寄ってくる。
前回とは何のことなのか。前にも町が魔術師によって破壊されたことがあるのか。
ソーニャは思い出した。そうだ、あるのだ。この町は。
「お前は……ファウスト」
「いかにも。世界は我輩の再来を望んでいたようだな」
気づかれないように剣を鞭に変え、間合いを読む。あと少し近寄れば範囲に入るはずだ。
「どうやら我が宿敵であったマゴロクは貴様が殺したようだな。心より感謝したい」
入った。
右手に握った剣を大きく振り上げる。鞭は大きくしなり、ファウストに直撃した。
しかし寸でのところで見えない壁に阻まれる。
「だが死ね」
ぐんと体が後ろに引っ張られ、壁に激突する。
衝撃に視界が歪み、肺が酸素を求めて呼吸を繰り返す。
「面白い獲物を持っているようだがそれでは我輩には勝てない。どれ、復活祝いに少し遊ぶか」
夜だというのに空が明るくなった。咳き込みながら見上げる。
赤く燃える塊が町に向かって落ちてきている。それも一個ではない。数え切れないくらい。
ソーニャは何も出来ずただその光景を見ているだけだった。
塊が魔法の障壁に当たり、波紋をいくつも作り出す。
「ふむ。さすがは我輩が手を加えただけあるな。素晴しい防壁だ」
上空にいくつものの波紋が広がる。塊は障壁にぶつかると壊れるもののすぐに新しいのが降って来る。
そして空にヒビが入り、音を立てて割れた。
次々と壁に阻まれていた塊が町に着弾し、そのたびに地面を揺らす。
「さて、少女よ。これで町は滅びた」
ファウストは楽しそうにこちらを見ている。
あの二人の姿は未だに見えない。ドラゴンたちもさきほどの熱風が効いたのか動かない。
一対一ではある。ファウストを止めればおそらくこの塊も消えるだろう。
ソーニャは獲物を剣に変え、呼吸を整え立ち上がる。
「立ち上がるか。素晴しい」
ファウストが石をドラゴンに向かって差し出す。石から白い光が現れ、ドラゴンたちの傷を覆う。
光が消えると傷もなくなっていた。
「ドラゴンというのは下僕に使うには素晴しい獣であるからな。ここで失うには惜しい」
先ほどまで弱って動かなかったドラゴンが起き上がる。
ファウストの持つあの石。せめてあれさえ壊せば、大幅に呪文を弱らせることが出来る。
出来れば、の話だ。



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