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死者たちの夜Ⅴ

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死者たちの夜Ⅴ


敵対しているというのに剣を担いだまま構えようとしない。
余裕があるのかそれともこちらに敵意がないのか。
「あー、そっちのお嬢さん? 自己紹介願えるかな?」
声にも敵意が感じられない。普通に初対面の人間と話す口調だ。
「……私はシカ・ソーニャ。現在の隊長を務めている」
「ソーニャ? あの最果てのソーニャの娘か?」
「父を知っているのか」
「ああ、よく知っている。あいつは……剣と船がさっぱりなやつだった。
 ということはお前はあの拾い子か。俺が会ったときはこーんなちっちゃかったんだがな」
そういって左手の人差し指と親指で僅かな隙間を作る。久しぶりにあったおじさんのようだ。
「剣がさっぱりだったあいつの娘が剣を持っているなんて似てない親子だな。
 しかし悲しいかな。友人の娘と弟分を殺さねばならぬとは」
雰囲気が変わった。和やかさすら感じたあの空気が嘘のように冷たくなる。
「マゴロクさん。やはり戦わなければいけないのか?」
「俺は死者だ。そんなものが現世を漂う権利などないのだ。
 戦場で敵として会えば例え親子友人なんであろうがやることは一つ。殺しあうだけだ」
担いでいた大剣を構える。剣先は震えず、その意思と己の強さを示している。
「ソーニャ。構えろ。全力で送り返すぞ」
「ビゼン! いい面構えだ! どれ、二人まとめて遊んでやろう。退屈させるなよ?」
一歩踏み出した。と、思ったら止まってそのまま倒れている人間を見る。
そして剣を振り下ろした。
「ちゃんとトドメを刺しておかないとな」
動かないものだから既に死んでいるものかと思っていたがどうやら違うようだ。
しかし見ただけで生死など判断出来るものでは……。そこで現在の状況を思い出す。
胴を半分にされた死体からそっくりそのままの人間が生み出された。
しばし自分の手を見て呆然としている。
「お前は死んで生き返った。他のやつにトドメを刺して回れ。この二人は俺がやる」
「あ、ああ……。わかった」
一度死んだ者は蘇らないようだが生きている者なら死ねば即時蘇生される。
生きている人間が敵なら完全に葬りには二回殺す必要があるというわけだ。
「さてと、じゃあ改めて」
彼我の距離は十歩強と言ったところだろうか。一歩で行くには遠すぎる。
相手の出方を見て対応を変えることぐらいは出来る距離。
だが気づけば眼前に迫っていた剣を横に転がって交すことしかソーニャには出来なかった。
音を立てて、剣とマゴロクが通り過ぎる。全身を使った突き。
転がるソーニャを飛び越え、ビゼンがその背中に斬りかかる。
鉄がぶつかり合う大きな音。体勢を立て直し、獲物を短剣に変える。
再び、ビゼンが斬りかかり火花が散る。右側に回りこみ、脇腹を狙う。
マゴロクは両手で剣を持ち横にして、防御している。刃先は反対方向だ。
仮にソーニャを迎撃するために薙ぎ払うように体を大きく動かさなければいけない。
もちろんそんな余裕など与えない。
マゴロクは剣を動かさなかった。ビゼンの剣を受けている状態で左手で剣を持ち
右手でソーニャを見ずに殴ってきた。
想定外の攻撃に思わず回避行動をとり、機会を逃す。受けていた剣を払い、ビゼンも後ろに下がる。
ビゼンが正面を、ソーニャが背後を取りながら動く。
マゴロクはビゼンとソーニャを交互に見やった後、ため息をついた。
「残念だ。ビゼンはあまり成長が見られないし、お嬢ちゃんは覚悟が足らない」
「……人間を殺す覚悟なら私にだって」
「はっはっは。そんな低俗なことじゃない」
笑いながらマゴロクが答える。
視線がビゼンから離れ、ソーニャのほうを向く。



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