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夏へ

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夏へ


吹雪は止み、雪解けの時を向かえ、そして命際立つ春を過ぎた頃。
あの戦いの後、討伐隊が組まれ森の中に住む狼を根こそぎ退治した。
そのおかげかあれ以来満月であっても襲撃が来なくなった。
この島における魔物の最大勢力であった狼を殲滅した影響は思いのほか大きく
他の魔物による被害もなりを潜め、行商は前よりも活発になるという結果に至った。
が、それと同時に気にかかるのは本州での戦いだ。
時折来ていた本州からの行商人がさらに減少し、来るたびに戦場が激化していると言う。
この島は生きるために必要な食物や水は豊富に取れるものの武器や道具に使う鉄鋼などが不足する傾向にある。
魔物の被害が減少したと言っても護衛の武器を外すことは出来ないし、生活必需品はいつか壊れ新しくしなければならない。
こういった問題はこの町だけではなく島全体の問題である。
そこで発案されたのが全島会議だ。
ソーニャはその会議の参加者の名簿とにらめっこしている。
自衛団本部のソーニャにあてられた部屋にはソーニャと亀しかいない。
亀は亀で参加者に向けた書状を書いている。
「権力者を集めた会議か。本当にうまくいくのかな」
「人事みたいに言ってもあんたが参加することには変わりないよ」
参加者にはソーニャの名前も入っているし亀の名前も入っている。
身分上はソーニャは自衛団団長だし亀もこの町の魔術師のまとめ役になっているのだ。
しかしこういった事柄はビゼンとロゼッタ向けなのは言うまでもなく
一応そう訴えたものの
「いい経験になるじゃねぇか。せいぜい緊張して石にでもなってこいや」
と励ましのお言葉をビゼンから頂いたので参加を辞退することはできなくなった。
「別にそんな構える必要もないよ。内容的にも僕たちは話すこともないし。
 主催者側だしこの町で開催するから参加する程度だよ。あと狼討伐の功績かな」
「ほとんど討伐したのは亀じゃないか……。大規模専用魔術が獲物なんてあの時まで聞いてなかったし」
「言ってないからね。あまり自分の能力をぺらぺら喋るものじゃない」
常に身に着けている上に町では知らぬ者がいないほど有名なソーニャの獲物は既に手遅れというわけだ。
亀が筆を置き、手紙を折りたたみ封筒に入れる。
名簿から目線を外し、封筒に視線を向ける。
「西の村だけが未だに連絡なし、か。ちゃんと届いてるのかな」
「配達の人間が届けたと言っている以上は信用するしかないね」
会議についての書状は既に春先には島の全ての町、村に送ってある。
その中で未だに返信が来ないのがこの町から西にある村なのだ。
西の村はこの島でも数少ない鉄鋼などが取れる場所に位置し、そういった意味ではぜひとも参加してほしいところ。
「それともあんたが直接出向いてみる?」
「開催日は夏半ばだしまだそんなに急かすこともないだろう。もう少しのんびり待とう」
「じゃあ今日の訓練でもやるか」
「そうだね」
狼の襲撃がなくなっても魔物がいなくなったわけではない。
自衛団は来るべき時に備え、鍛錬や武具の整備を行っている。しかし実戦がないと感覚が鈍くなってしまう。
そこでソーニャは亀の召喚魔法に目をつけた。
正門前は先の戦いで亀により焼かれ、赤焦げた土がむき出しの土地になっていたが今は元通りほどでないにしろ草原の体を成している。
魔術書を片手に亀が魔法陣を書く。手に持っているのはあの魔術書ではなく普通のものだ。
最初は壁の上で待機していた兵士たちだが今は同じく町の外で待機している。
本来の実戦どおりならば壁の上から迎撃が望ましいのだがそのたびに壁に損害を与えるのもよくないということで
下りて戦闘するということになったのだ。
魔法陣の線を光が走る。今日はどんな魔物が出てくるのか。
「それでは訓練を開始する! 総員武器を持て!」
兵士たちが各々の獲物を手に取り、光の中から現れた四本足の獣に立ち向かう。
草原に刺す陽光は既に暖かいを通りこした。もうすぐ夏が来る。



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