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コトの授業

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コトの授業


コトが二本の筒型の道具を持っている。
それぞれ赤と青の色の違いはあるが、形状は同じものに見える。
穴の開いているほうを上に向け、逆側から出てきている紐を引っ張った。
ポンと気持ちのいい音と共に火球が空へと舞い上がり、速度を失いながら消えていく。
「簡易式の大砲です。距離にもよりますが家の壁に穴も開けることが出来ます」
説明を受けながら、使い終わった筒を手に取り観察する。
火球を発射した割には筒自体は熱くは無い。撃った後にやけどを心配する必要もなさそうだ。
筒の中を覗こうとして、慌てて止められた。
「一応使用後ですが稀に残り火が噴出することがあります。使用後は中に水を入れて、火種を消すのです」
「なるほど。これは使い捨てなのか?」
「いえ、本体自体に破損がなければ何度でも使えます」
コトに魔法工房の見学をしにきたことを伝えたら、自ら案内役を名乗り出てくれた。
店番自体は他の工房の人に任せたので問題は無いようだ。
今は戦闘用で遠隔攻撃が可能な道具の説明をしてもらっている。
「こっちの青い奴は何を発射するんだ?」
「氷塊です。ただこちらは撃った後も残るのでここで撃つと危険です」
先ほどの火球の大きさからすると握り拳二個分ぐらいの氷が出てくるのだろう。
壁上から撃つことを考えると威力は十二分だ。
「こうしてみると結構武器に使えそうな物も置いているな」
「一応魔法工房は最初戦闘補助の道具を製作する目的で設立されてますので。これでもまだゆるいほうですよ」
「というと他の魔法工房はもっとすごいと」
「はい。工房にもそれぞれ特色があります。青は一般人用も戦闘用も扱ってますがどちらかというと一般人用です。
 赤は完全に戦闘に特化した工房ですし、緑は元から存在するものを利用することに特化しています」
「元から存在するものを?」
「そうです。例えば……」
いくつか並んでいた道具の一つを取る。鳥を模った木の置物だ。コトの手のひらに収まる程度の大きさしかない。
「おでこにこれをあててください。その後、両目を瞑ったまま鳥を手のひらに乗せるのです」
言われたとおり渡された鳥をおでこにあてる。体の一部が鳥に流れ込んでいる気がする。
その後、目を瞑ったまま鳥を手のひらに乗せた。すると暗闇のはずであった視界に町の映像が映る。
鳥がソーニャの手のひらから羽ばたく。視界がどんどん上昇していく。
「鳥と視界が共通しているのか」
「正しくはソーニャさんの目が鳥に移っている状態です。とは言っても目を開ければ元の視界に戻ります」
瞼をゆっくりと開ける。一瞬視界が白くなった後、ソーニャの本来の視界が戻ってきた。
空から鳥が降りてきて、伸ばした手のひらに静かに止まり再び木へと戻る。
「主に偵察用に使われる使い魔の一種です。魔術の心得がなくても使用することができ、
 また核が磨り減るまでは再利用も可能なので重宝されますが、高価格で使用時本体が無防備になる欠点があります」
「ということは魔術師は使わないのか」
「はい、少しでも心得があれば使い魔の一匹くらいは簡単に呼び出せますし、本体が無防備になることもありません」
先ほど見た筒も魔術師ならば使わない道具ということだろう。
自衛団には魔術師や魔術が少しだけ使える者もいるがおそらく多くの人間は魔術を扱うことは出来ない。
剣術も魔術も熟練の技を得るには長期間の鍛錬が必要だ。どちらもこなす達人というのはソーニャは見たことが無い。
ただかつてのソーニャの父は好きなときに上空からの視界を望むことが出来るという魔術を体得していた。
剣術はさっぱりであったが弓の達人であった父はその能力を使い、獲物を確実に仕留めることが出来た。
だが父に出来た魔術と言われる類はそれだけで生まれつき得ていたという天賦の才だという。
「話が変わるが魔術というのは生まれつき習得していることはあるのか?」
「はい。あなたのお父様がそうだったように生まれつき強力な魔術能力を持って生まれることが稀にあります」
どうやらソーニャの父は結構有名なようだ。稀な人間のようだし魔術師の間では広く伝わったのかもしれない。
「大抵の方は学習して習得します。ソーニャさんもどうですか? 少しくらいならわたしでも手ほどきできますよ」
「それではお願いしようかな」

魔術というのは未だに実態がよくわからないが使えるものは使えたほうが後々便利に違いない。
今までの振る舞いから見てもコトは子どもながら十分な知識を持っていることはよくわかった。
彼女を信じ、委ねてみよう。
「それではまず、魔法の成り立ちから話しますね」
その後、コユキが迎えに来るまで魔法や魔術についての話を数時間聞くことになった。
実践的なものからやるものと思っていたが最初はこういうもののようだ。
結局、話だけを聞いて宿に戻ることになった。



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