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五時塔
灰色のどんよりとした雲が空を覆っている。雪がちらつくことはあるがまだ積もるほどは降らない。
凍えるような風はこちらが防寒しているにも関らず体を冷やしていく。
もっと着込むべきだっただろうかと考えたがコユキの言うとおり全てを着ていたら身動きが出来なくなりそうだった。
全治一ヶ月程度と診断されていた骨折はロゼッタの計らいにより治療され、今は何の問題もなく動かすことが出来る。
その代わりこの町に関しての資料をどっさり読まされることになった。
資料を読むだけなら骨折をしていても多少不便で済んだのだが町の外の調査などをするには片手では危険と判断されたようだ。
そんな仕事なのか勉強なのかわからないことをしていたら満月まで残り三日となっていた。
前回の満月から今日までにごく少数の散発的な襲撃があったもののいずれもすぐに鎮められた。
前回同様狼の魔物が来るようであれば楽なのだが本州の戦況から考えるともしかしたら援軍が来るかもしれない。
「だから今更地図を片手に町の地理を覚えて来い……というのもねぇ」
ソーニャは一人ごちる。さすがに暮らして一ヶ月以上は経っているのである程度の道や建物の場所はわかる。
だがそれでは不満らしくこの町の抜け道から隠れ家的名店まで全部覚えて来いと指示された。
隠れ家的名店が仕事をする上に役に立つのかどうかは置いておいて抜け道を知っておくのはいいことだろう。
そう思って実際に来たものの。
「この町広い上に抜け道が多すぎる……」
地図上では何も無いはずなのにふと横を見ると建物と建物の間に人の通れる道があったり
その抜け道を通ってたら分かれ道にぶつかったりと作業はかなり難航している。
思い返せば亀の家も地図には載っているもののずいぶんと奥まった場所にあった。
この町は設計段階で色々と問題があったのではないかと疑ってしまう。
地図に抜け道を書き加えながら細い道を歩いていき、やっと地図に載っている大通りにぶつかった。
大通りを外へと向かって歩く。最寄の塔は五時。壁の向こうには森が広がっている。
町の東から南西方面まで大きく広がっている森。五時塔はその様子を特に厳重に見張る役割を持っている。
なぜならばその塔の近くには重要な施設があるからだ。
「ここが……大聖堂か」
前面の部分部分にガラスを加工して作ったというステンドグラスが嵌められた大きな建物が聳え立っていた。
ここは何か一つの宗教のために作られたものではなく、どんな宗教の人間でも祈ることが出来る場所なんだそうだ。
特に何かを信仰しているわけでもないソーニャにとってはあまり縁の無い場所である。
しかし有事の際には住民がここに避難できるように防護の結界が張られていると言っていた。
ソーニャは大聖堂の扉を押して中に入る。
人はちらほらいる。それぞれが椅子に座って祈っているようにも見える。
視線を正面に向け、言葉を失った。
一番目立つのは十字架に掛けられた男だ。旧世界でもとても信者の多かった宗教の神様らしい。
それはいいとしてなぜ彼の足元に阿吽の像が立っているのだろうか。
あちらには明らかに悪魔のような像も立っているし、よく見ると小さな狐の像もちらほら。
確かに色々な宗教の人間が祈れる場所とは聞いた。しかし目の前にあるのはどうみても混沌とした空間である。
もしかしたらソーニャが知らないだけでこれも普通のことなのだろうか。
ソーニャは静かに大聖堂を後にした。
凍えるような風はこちらが防寒しているにも関らず体を冷やしていく。
もっと着込むべきだっただろうかと考えたがコユキの言うとおり全てを着ていたら身動きが出来なくなりそうだった。
全治一ヶ月程度と診断されていた骨折はロゼッタの計らいにより治療され、今は何の問題もなく動かすことが出来る。
その代わりこの町に関しての資料をどっさり読まされることになった。
資料を読むだけなら骨折をしていても多少不便で済んだのだが町の外の調査などをするには片手では危険と判断されたようだ。
そんな仕事なのか勉強なのかわからないことをしていたら満月まで残り三日となっていた。
前回の満月から今日までにごく少数の散発的な襲撃があったもののいずれもすぐに鎮められた。
前回同様狼の魔物が来るようであれば楽なのだが本州の戦況から考えるともしかしたら援軍が来るかもしれない。
「だから今更地図を片手に町の地理を覚えて来い……というのもねぇ」
ソーニャは一人ごちる。さすがに暮らして一ヶ月以上は経っているのである程度の道や建物の場所はわかる。
だがそれでは不満らしくこの町の抜け道から隠れ家的名店まで全部覚えて来いと指示された。
隠れ家的名店が仕事をする上に役に立つのかどうかは置いておいて抜け道を知っておくのはいいことだろう。
そう思って実際に来たものの。
「この町広い上に抜け道が多すぎる……」
地図上では何も無いはずなのにふと横を見ると建物と建物の間に人の通れる道があったり
その抜け道を通ってたら分かれ道にぶつかったりと作業はかなり難航している。
思い返せば亀の家も地図には載っているもののずいぶんと奥まった場所にあった。
この町は設計段階で色々と問題があったのではないかと疑ってしまう。
地図に抜け道を書き加えながら細い道を歩いていき、やっと地図に載っている大通りにぶつかった。
大通りを外へと向かって歩く。最寄の塔は五時。壁の向こうには森が広がっている。
町の東から南西方面まで大きく広がっている森。五時塔はその様子を特に厳重に見張る役割を持っている。
なぜならばその塔の近くには重要な施設があるからだ。
「ここが……大聖堂か」
前面の部分部分にガラスを加工して作ったというステンドグラスが嵌められた大きな建物が聳え立っていた。
ここは何か一つの宗教のために作られたものではなく、どんな宗教の人間でも祈ることが出来る場所なんだそうだ。
特に何かを信仰しているわけでもないソーニャにとってはあまり縁の無い場所である。
しかし有事の際には住民がここに避難できるように防護の結界が張られていると言っていた。
ソーニャは大聖堂の扉を押して中に入る。
人はちらほらいる。それぞれが椅子に座って祈っているようにも見える。
視線を正面に向け、言葉を失った。
一番目立つのは十字架に掛けられた男だ。旧世界でもとても信者の多かった宗教の神様らしい。
それはいいとしてなぜ彼の足元に阿吽の像が立っているのだろうか。
あちらには明らかに悪魔のような像も立っているし、よく見ると小さな狐の像もちらほら。
確かに色々な宗教の人間が祈れる場所とは聞いた。しかし目の前にあるのはどうみても混沌とした空間である。
もしかしたらソーニャが知らないだけでこれも普通のことなのだろうか。
ソーニャは静かに大聖堂を後にした。
近くまで来たのでついでに五時塔を見学する。
階段を登ったところで見張りの男に会った。
「姉御じゃないですか。どうしたんですか」
「近くを通ったもので見学をしに来たんだ」
そう言いながら塔の外に出て、森を眺めた。
「どうっすか?」
「何も……見えないな」
見晴らしのいいように枝を折ったりしているのかと思ったらそんなことはなく
冬だというのに生命を謳歌する木々の枝でとても視界が遮られている。
それを聞いて見張りがちっちっちっと指を振る。
「違うんですよ。見るんじゃなくて聞くんですよ」
「聞く?」
「そうですよ。ほら、耳を澄まして……」
言われたとおり目を閉じ、耳に意識を向ける。
風で木々がざわめく音。鳥の鳴き声。森は思ったよりか音に満ちている。
その中を明らかに違う音が響く。何かが木の葉を踏んで歩く音だ。
「聞えましたか? あれが獣の歩く音です」
「確かに聞えたが……。魔物かどうかわかるのか?」
「なんつうか聞いてればわかるんですけど魔物の歩き方って明らかに異なるんですよね。
魔物のほうが静かに早く移動するんです。だからより耳を済ませないと聞き逃しちゃうんですよ」
森を眺めていると一匹の狼を見つけた。ここからではわかりにくいがおそらくあれは普通の獣なのだろう。
狼はじっとこちらを見ていたがしばらくして森の中へと姿を消した。
階段を登ったところで見張りの男に会った。
「姉御じゃないですか。どうしたんですか」
「近くを通ったもので見学をしに来たんだ」
そう言いながら塔の外に出て、森を眺めた。
「どうっすか?」
「何も……見えないな」
見晴らしのいいように枝を折ったりしているのかと思ったらそんなことはなく
冬だというのに生命を謳歌する木々の枝でとても視界が遮られている。
それを聞いて見張りがちっちっちっと指を振る。
「違うんですよ。見るんじゃなくて聞くんですよ」
「聞く?」
「そうですよ。ほら、耳を澄まして……」
言われたとおり目を閉じ、耳に意識を向ける。
風で木々がざわめく音。鳥の鳴き声。森は思ったよりか音に満ちている。
その中を明らかに違う音が響く。何かが木の葉を踏んで歩く音だ。
「聞えましたか? あれが獣の歩く音です」
「確かに聞えたが……。魔物かどうかわかるのか?」
「なんつうか聞いてればわかるんですけど魔物の歩き方って明らかに異なるんですよね。
魔物のほうが静かに早く移動するんです。だからより耳を済ませないと聞き逃しちゃうんですよ」
森を眺めていると一匹の狼を見つけた。ここからではわかりにくいがおそらくあれは普通の獣なのだろう。
狼はじっとこちらを見ていたがしばらくして森の中へと姿を消した。