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決闘

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決闘


天を仰いで、星を眺める。幼い頃村の大人に戯れに教えてもらった星の図を思い出す。
図と言っても複雑なものではない。あの星は方角を知るのに役に立つ。あそこに並ぶ一連の星は冬に見られる。
星を指して教えてくれるもののソーニャにはどれかわかりにくく、理解するのには苦労した。
今でもあの時教えてもらった星は空で輝いている。
視点を地上に戻す。置かれていた机と椅子は空間を作るために端に寄せられている。
逆にそれはこの空間を囲む、防壁の役を成すようになった。
その防壁の中には三人の人間がいる。
ソーニャと副隊長ビゼン。そして魔女の亀である。
「安心しな。決闘っつってもそんな命のやり取りなんてしないさ。
 どちらかが降参するか審判が止めるまで。簡単なもんだろ?」
決闘のいうのはやったことはないがそのルールならば村での練習試合と同じものだ。
問題としては村では木刀を利用していたということだ。
「獲物は練習用とかのものはないのか?」
「ガキの遊びじゃねぇんだ。んなもんはない」
そういって副隊長は豪快に笑う。
副隊長の持つ剣は長く、また肉厚だ。撃ち合いなどしようものならすぐに競り負けるだろう。
だがあれだけの物を軽々と振ることは出来まい。故に勝つとしたらうまく大振りをさせて、その隙に付け込む。
副隊長が剣から鞘を取り、刃が光を受け、鈍く光る。
ソーニャも腰の剣を抜く。それと同時に周りがざわめく。
「ずいぶん柔らかそうな剣だな」
形を自由に変えることの出来る白い剣。抜刀するときも速やかに抜けるように剣身は曲がるのだ。
「私の剣は形を自由に変えることが出来る。今回は剣の形に固定して戦うがな」
「ほう。面白いもの持ってんな。いいぜ。別に好きな形に変えて。
 俺の剣だって魔力を打ち込んで威力増加させているんだ。
 お互い力を発揮しあわないと不公平っつーもんだろ?」
そう言って剣を構える。ただでさえ肉厚の長剣なのに威力増加の魔法を仕込んでいるとなると
尚更受けるわけにはいかない。形を変えていいというならば盾にして受けるのはあり……だろうか。
「お言葉に甘えさせてもらおう」
「もういいかい」
魔女が二人の間に入る。
ソーニャは頷き、副隊長は応、と答えた。
「それじゃソーニャ対ビゼンの試合を開始とする。始めっ」
戦いの火蓋が落とされた。周りの団員たちの野次がより一層大きくなる。
彼らにとってはこの試合も余興程度のものなのだ。
今一度正面の敵を見つめる。
背はソーニャよりもかなり高い。鎧は要所を守るだけの簡単なもので装備者の動きを邪魔しないようになっている。
審判がどの程度の攻撃で試合を止めるのかわからない以上、下手に手加減をすれば好機を逃しかねない。
「そう構えるな、お嬢ちゃん。そうだ、あと一つ。場外も負けにしておこうか」
副隊長が構えを解きながら大声で言う。ソーニャは言葉を発さずに頷いて返す。
場外も何も周りは自衛団の人間だ。飛び込もうものなら押し返してくる。
副隊長が再び構え、正面を見据える。先ほどとは違う目付きで。
殺意。その意思をひしひしと感じる。思えばソーニャはこれほど真正面から人間の殺意を受けたことは無い。
ソーニャの考えは甘かったのだ。一度剣を握った剣士が対峙してしまえばそれは殺し合いにしかならないのだ。
試合に負かすのではなく相手を殺す。そうでなければソーニャはここで死ぬ。
そう実感した時、副隊長が動き始めた。

長剣を右肩に乗せた形でそのまま直線に走ってくる。
あそこから出せるのは右からの振り下ろし。もしくは右横からの振り抜き。
ソーニャから見て左側からの攻撃が来るであろう。
しかし相手は副隊長だ。どのような攻撃をしてくるかわからない。
右手に持っていた剣を槍へと変化させる。相手よりも長い射程を持つ武器でけん制するのだ。
その槍を副隊長の進路方向に向ける。他の武器であれば避けられた際に武器を戻す隙が
発生するのだがこの武器の場合、手を動かさずとも高速で形を変えることが出来るのでこれでいい。
槍まで後数歩というところで副隊長は勢いそのまま剣を振り下ろした。
当然のことながらソーニャまではさらに数歩離れている。とてもじゃないが剣は届かない。
槍を払うだけならばあれほど大きな振りをしなくても落とせる。長剣ゆえにあの振りなのか?
獲物をすばやく縮め、小剣程度に戻す。そして剣が振り下ろしている途中で前に出る。
一度完全に振り下ろした剣を戻すには結構な力が必要となる。途中で止めるなら尚更だ。
再び剣を戻す前に小剣を首に寸止めすればそれで終わる。
だがソーニャは後退していた。
前へ出ようとする体を後退させるほどの向かい風。剣を振り下ろした理由。
想定外の攻撃による一瞬の隙。思わず閉じた目を開けたときには既に副隊長の剣は右後方に
大きく引き、構えている。一歩下がっても間合いからは逃げれない。
素早く左手に盾を形成。さらに衝撃を逃がすために逆方向に跳ぶ。
「じゃあな」
副隊長は確かにそう呟き、剣を振り抜いた。
鉄を石に叩きつけるような音。左手に襲う衝撃。
方向的にはそこだけ防壁がなく、噴水そのままが置いてある。おそらくその縁にぶつかる程度で済む。
「えっ?」
その噴水が足元を通過している。戦場は遠のいていく。
ソーニャの身は宙に飛んでいた。
このままでは負ける云々ではない。家屋の屋根に激突する。
盾を右手に戻す。右手を振るうと同時に鞭状に変える。
噴水の天辺あたりの出っ張りに引っ掛けた後、縮小。
戦場から離れていく体を再び、そして前回よりも速度を上げ戻っていく。
さらに勢いが付いたところで鞭から前方を覆う壁にし、さらに槍を生やす。
強度は落ちるが勢いを利用すれば人間ぐらい簡単に貫ける。
ソーニャの目には既に副隊長は映っていない。
そこにいるのは自身が討つべき敵なのだ。
着地の衝撃と同時に土煙が立つ。自衛団の悲鳴が聞こえるがそんなものはソーニャにとってどうでもいい。
獲物を剣に。相手は土煙が立った後も動いている。その動きは風を生み、煙の動きを変える。
剣を振り下ろす。硬い物に当たった。それで位置はつかめた。すばやく連続攻撃を繰り出す。
やがて土煙から抜けて、相手の姿を視認する。長剣を器用に動かし、こちらの攻撃を防御している。
一度攻勢になれば、後は攻撃し続けるのみ。重要なのは相手に攻撃態勢を取らせないほどの速さの攻撃。
相手は後ろへと下がりながら防御している。前に出て、相手の急所を狙う。
足が今までと違う動きをした。下には先ほどの激突でぶつかった時に出来た床の残骸が散らばっている。
剣で突きを放つ。同時に剣身を伸ばす。
突きは腹で止められたが相手との距離を離した。が、蹴り飛ばしてきた石がソーニャの腹に当たる。
苦しんでいる場合ではない。これはこちらの動きを止める一撃。
既に伸ばした剣は相手の横へと弾かれた。剣を縮退させながらさらに後ろへ。
長剣の軌跡が先ほどよりも近い位置で描かれる。同じ攻撃にはかからないように右へと逃げる。
相手の左側。左手に剣を移動させようとしてやめる。先ほどの衝撃で痺れて動かない。
振り下ろした剣からの切り上げから逃げるためにさらに距離を取り、お互いの攻撃が届かない位置へと移動する。
いや、ソーニャにとって距離など関係ない。
相手よりも長く、自分よりもはるかに長大な形に変化させ、右足を軸に回転する。
例え剣身が細くても遠心力を加えることにより威力を増加させる。
剣先が防壁に当たり、切り裂いていく。逃れることの出来ぬ間合い。
防御すればそのまま弾き飛ばせる。しなければ両断。
その攻撃を相手はしゃがみ、剣と床のわずかな隙間に逃れることで回避した。
しゃがみこんだ体勢から一気に床を蹴り、突進してくる。
繰り出せたのは全身を使った突き。だがソーニャの逃げた方向に合わせて、停止して攻撃してくるはずだ。
既に手元に戻った獲物を薄い半月上に延ばす。
あの時ドラゴンの首を切り落とした時のと同じ形に

渾身の力を込めて、全身を使って振り下ろす。剣は相手に当たらず、床を砕いた。
体を無理やり起こし、相手のほうに向ける。相手の体は横に転がるように回避したのでしゃがみこむような体勢を取っていた。
再び剣を振り上げる。右手一本のためわずかに時間がかかる。相手の左手が近くの石を掴んだ。
剣はやはり当たらない。先ほどと同じように床を削る。ソーニャの左側に逃げた相手を目で追う。
転がりながら石をこちらに投げた。先ほどよりも小さいし、無理な体勢から投げたために勢いもない。
ソーニャは剣を槍に変える。意味なきけん制ではなく相手を貫くために。
石はソーニャの左手に当たった。同時に激痛が走る。
体勢を立て直した相手がソーニャの左側に駆け込んでくる。動かない左手からの攻撃。
最初の一撃と同じ方向からの同じ攻撃。だがこれは好機だ。
左手に再び盾を形成。先ほどよりも大きな盾を。
動かない左手を右手で支えながら、体勢を低くし斜めに構える。
うまく剣が受け流すことが出来れば、その間に攻撃出来る。
前回よりも衝撃が少ない。威力の大部分は上方へと逃げた。しかしそれでも体が後退する。
足を立て、後退を止め右手に剣を持つと跳ねるように飛び掛る。
相手の剣とぶつかり、鍔迫り合いになる。離れなければ押しつぶされる。
だがここで退けば、相手の二撃目の攻撃が来るはずだ。これだけ接近した後に来る攻撃を
避けることが出来るのか。剣の向きを変え、力を逃がそうとしても相手はうまく合わせてくる。
徐々に体勢が押し込められていく。剣先を曲げて、相手に向かって伸ばす。
相手が離れ、圧力から開放される。これを使えば鍔迫り合いになっても問題ない。
獲物を槍状にし、床を蹴る。
「もういい。そこまでだ」
誰かの声が聞こえた。同時に足が動かせなくなる。
思わず前につんのめりそうになり、声をしたほうを睨んだ。
「なにをするんだ! まだ降参していないぞ!」
「狂戦士のほうが合ってるね。あんた」
「何を言っているんだ! 早く魔法をっ……!」
左手に何かがぶつかり、言葉を思わず中断する。
正面を見ると長剣を右肩に担いだ相手――副隊長が疲れた顔をしてこちらを見ていた。
「まーだ戦うっつーのか。お嬢ちゃん。右手一本で勝てるとでも思ってんのか?」
「現状戦っていただろ! そもそも左手だって痺れが取れれば動かせるようになる!」
魔女と副隊長が顔を見合わせる。そして指し示したかのようにやれやれと肩を竦めた。
「ソーニャ。それ、骨折って言うんだ」
「……えっ?」



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