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夜の噴水広場

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夜の噴水広場


夜の町を魔女と歩く。
ソーニャはある程度厚着をしてきたので問題は無いが魔女のほうは相変わらず白衣を羽織っているだけだ。
寒くないのかと聞いたところ魔法で問題ないらしい。つくづく魔法というのは便利なものだと思う。
背の高い魔法を利用した街灯のおかげでずいぶんと道は明るい。松明とは雲泥の差だ。
そのせいか陽は落ちたものの人通りがそこそこある。同時に治安が安定していることも裏付けている。
昼間、子供が多かった噴水広場は今は大人がの酒盛りの場と化していた。
村でもよく酒盛りはしてはいたがさすがに人数が段違いに違う。
夜だというのにこれだけ騒いで問題が無いのか、というくらいうるさい。
横にいた魔女が無言で飲み物を差し出す。お礼を言って受け取る。
ガラスの容器には透明な液体が入っている。水に見えるがまさかこんな場で水は貰うまい。
臭いを嗅ぐと案の定酒の臭いがした。
「この島から北に行ったところに大きな島がある。とは言っても世界の島々に比べれば小さい。
 旧世界の呼び名に従い、今でもその島は本州と呼ばれている。かつて日本と呼ばれた島だ」
「日本……」
「これはそこで生まれたという酒に似せて作ったものだ」
「旧世界の酒か……。とは言っても私は酒が飲めないのだが」
「飲め。今後そういう機会が多いから慣れろ」
仕方なしに少しだけ口に含む。
なるほど。まずい。
「私は牛乳のほうが好きだな」
横を見ると魔女が酒を一気飲みしていた。
全部飲みきるとソーニャの手にあった酒を取り、それも全部飲み干す。
空いた容器を持って、出店に向かう。容器を渡した後、今度は濃厚な紫色をした飲み物を持ってきた。
「葡萄の酒だ。飲んでみろ」
「……ブドウってなんだ」
「紫色の果物」
紫色をした正体不明の果物から作られた酒。しかし臭いは甘めだ。
意を決して口に含んでみるとなかなかおいしい。
「これは飲めるぞ」
「今度から酒盛りの場では葡萄酒を飲むと言えばこれが出てくる」
「覚えておこう。しかし町の案内ってもしかしてここのことだったのか?」
「夜だからこそ案内出来るからね。それと空を見ろ」
魔女が上を指す。見上げると相変わらずの星空がそこにはあった。
「空中からの進入を防ぐための魔法障壁が空には張られている」
目を皿にして見回すがどこにも壁など見えない。ただの綺麗な夜空だ。
「不可視化してるけどね」
「そりゃ見えないわけだな」
葡萄酒を一口飲み、夜空を眺める。なんだかんだで町に来て、最初の夜だ。
色々ありすぎてとても長く感じた。ソーニャは未だに色々と戸惑ってはいるがそれでも得るものは多かったと思う。
明日からは自衛団の一員として頑張らないといけない。その前に団長という地位をどうにかしないといけない。
「そういえば長老会議にはお前も出席しているのか?」
「無論」
「だとしたら私が自衛団の新団長になる会議にもいたはずだ」
魔女は残っていた自分の葡萄酒を飲み干す。
「自分がなぜ団長に選ばれたかが気になると」
「ああ。あと出来れば拒否もしたいのだが……」
「無理だな」
「えっ?」
「おそらく新人団長を理由に補佐官が長老会議に出るためだ。
 役所の人間が増えれば増えるほど多数決の場では強くなる。
 ドラゴン殺しの英雄を頭に据えるためではなく、より自分たちの思うように町を動かすための決定だ」
「そこまでわかっているなら反対意見を出して……」
「一応言っておくがこの町の歴史上、一度可決された事項が反対意見多数により再議されたことは一度も無い」
そう言い残して魔女は再び出店に向かった。真っ向からの否定。
魔女の言葉はソーニャの淡い期待を打ち砕くには十二分の言葉であった。
ほかに手はないのだろうか。そう思案していると後ろから聞き覚えのある声がかかった。



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