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根底

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根底


ソーニャたちは木で出来た丸い机を囲って座っている。
目の前に置かれた紅茶を手に取り、少し飲む。
「コユキ。感触はどうだった?」
「もっとほかに言うべきことがあるでしょう!」
コユキが立ち上がりながら机を叩く。机の上に載っていた細々としたよくわからないものが
ぐらぐらと揺れる。
「あれは僕が召喚したんだ。戦闘には使えそうにはないが悪戯に使えそうかなと」
「戦闘に使える物を召喚してください!」
不健康そうな少女は大げさにため息をつき、やれやれと頭を振るう。
「つまらないじゃないか」
これにはソーニャも嘆息を漏らした。初めて会う魔法使いがこれというのはあまりにも酷いじゃないか。
しかしながら補佐官がコユキをここに連れて行くように指示をしていたことから
自衛団絡みでなおかつそこそこ重要な人物であることは間違いないはずだ。
コユキはあまりの言い草に言葉を発することが出来ないようだ。
「ぐぬぬ」
と歯を食いしばりながら漏らしている。
一方の魔女の亀は自分の淹れた紅茶を飲んで落ち着いている。
先ほど何があったのか。それを話すのは簡単ではある。
簡単ではあるがそれを話してしまえばコユキの名誉に関わる。
正直もしもソーニャが同じ辱めを受けていたらとてもじゃないが立ち直れない。
「さて、あんたがシカ・ソーニャか」
魔女はソーニャのほうに体を向ける。
おそらく歳は私と変わらない。小食なのか、とても痩せ細っている。
目の下にはクマがはっきり見て取れるほどあるし、第一印象が不健康そうでも仕方ない。
黒髪はぼさぼさで適当に後ろに纏めている。衣服は白衣を着ている。
しかし何よりも気になるのはその目付きだ。何かが引っかかる。眠そうだとかそうではなく何かが。
ソーニャが魔女を観察していたのと同じように魔女もじっくりとソーニャを観察している。
魔女はふんと鼻を鳴らした。
「全身白ずくめだから白騎士。馬には乗れるの?」
「乗ったことすらない」
「今度から白雲剣士とでも名乗ればいい」
何を言っているのかよくわからず相槌が打てない。
魔女は別にソーニャの返事を期待していたわけではないようですぐにコユキのほうを向く。
「コユキ。帰っていいぞ」
「次に言う言葉はそれですか!」
先ほどの再現かのように机を叩く。
「どうせこの白いのの後の予定なんて大したものはないんだろう?
 今日は僕がこいつに飯を食わせておく。だから帰ってろ」
「……それで納得して帰るとでも?」
「お前が納得するかどうか。それを僕が重要視するとでも思ってるのかい」
コユキはとても残念そうな表情を浮かべながらこちらを向く。
「ソーニャさん……。先に宿に戻っていますのでどうか命と貞操と誇りを守って帰ってきてください」
「約束……しよう」
無論約束せずともそれは守り通してみせる。多分。
コユキは一つ頷くと席を立って階下へと降りていった。
扉の閉まる音が遠くでした。これでこの家にはおそらくソーニャと魔女しかいない。
魔女は席を立ち、壁際にあった本棚から本を一冊取り出す。
「いくつか質問する前に自己紹介ぐらいはしておこう。
 僕は亀。この町の魔法使い協会の会長を務めている。が、専らほとんどのことは副長がやるから
 事務的なことは彼に頼んでくれ」
そういえば門番が魔法工房というものがあり、一般向けの魔法道具を製作していると言っていた。
とてもじゃないが目の前の魔女が『一般向けの』魔法道具を製作するとも思えない。
協会を作るほどであるならばそこそこの魔法使いがこの町にいるということになる。
「当然ながら亀は仇名。こんな風に自宅の篭っていることが多いから自分で名づけた。
 なかなか皮肉が利いてていいと思っている。ちなみにこの仇名の前はホーエンと名乗っていた」
「本名はホーエンというのか」
「いや、違う。それはあんただって同じはずだな。シカ・ソーニャ」
何を言っているんだ。先ほどと同じように対して意味のない発言なのか。
魔女の目付きが鋭くなる。今まで目の前にいた人物だとは思えない。
「僕の名もあんたの名も一緒だ。無限桃花」



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