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自衛団

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自衛団


再び本部前。
おそらく中で私のことを待っているであろう自衛団の面々。
なんとなく緊張してしまうが隣にいるコユキがこんなのだし案外若いのが多いのかもしれない。
とは言っても第一印象というのは大事だ。ある程度堂々と行くべきだろう。
「本会議室にいるので行きましょうか」
コユキに先導されながら本部の敷居を跨ぐ。
最初に入った部屋には男が一人だけ椅子に座って何かを書いていた。
机の上には短剣や銃などの武器をはじめ、さまざまなものがまとめて置かれている。
在庫の確認をしているようだ。ついでに来客の相手でもするのだろう。
「おはようございます!」
「おはようございます」
コユキに続いて、慌てて挨拶をする。
男はちらっとこちらを見た後、大あくびをしながら手を少し挙げ、再び作業に戻った。
どうやらあれで挨拶を返したつもりらしい。この時、ソーニャは何か嫌な予感を感じた。
入ったところの小さな部屋から廊下に向かい、奥へと歩いていく。
横幅はさしてなかったがどうやら奥行きは結構あるようだ。
コユキが扉の前で止まる。
「ここですね。多分みんな揃っていると思うのでどうぞ」
大丈夫だ。きっとコユキみたいな人がいる。
そう意を決してソーニャはドアノブを捻った。

五秒後、とても残念な気持ちに満ちた。
部屋は大きな部屋に長机と椅子を並べ、壇と黒板が設けられている。
外を向いた壁は一面窓になっていて、とても採光がとれている。
まだ日中ではあるため部屋の中は光に満ちている。
なのになんだ。この集合している自衛団から漂う気は。
なぜそんなに目つきが荒んでいるんだ。
壇上にいた補佐官が私を見ると、こちらにやってきた。
「今丁度ですね。ええ。あなたのことをですね。話していた。ところですよ」
着いて来いと言わんばかりに前を歩いていく。仕方なく着いて行き、壇上に上る。
壇上から部屋を見渡す。なるほど。男ばかりだ。
「えー、この方がですね。『白騎士』シカ・ソーニャさんですね」
補佐官がちらっとこちらを見る。ソーニャは咳払いをしてから挨拶をした。
「最果てにある村から来ました。シカ・ソーニャです」
頭を下げると拍手の代わりに笑い声が上がった。
「おいおい、おっさん。冗談きついぜ? そいつがドラゴンを殺したっていうのか?」
頭を上げると一番奥で手を組んでいた男が笑いながらこちらを見ていた。

男は立ち上がり、こちらに歩いてくる。
大きい。多分この部屋にいる人間の中で一番。
筋骨隆々で短髪。使い古された装備はその男の今までの戦いの歴史と言える。
「全身白ずくめにして『白騎士』か。はっ、おっさん面白い物をありがとう。
 おい、嬢ちゃん。白いドレスのほうが似合ってるんじゃねぇか?」
部屋にいたほかの男たちが一斉に笑い出す。
コユキは出入り口でおろおろしているし補佐官が助け舟を出すとも思えない。
自分でどうにかするかと口を開こうとした時、驚くべきことに補佐官が口火を切った。
「あーえー、副隊長。席には戻らなくてもいいですが話の途中なので壇上から下りてください。ええ」
副隊長は舌打ちをすると壇上から降りて、席の間の通路に座った。
「ええ、すみません。ソーニャさん。この者たちは、えー、少々礼儀知らずなもので」
弱気な中年に見えたがよくもまぁそんなことを本人たちの前で言えるものだ。
こちらに向いている視線は敵意となって自分に注がれていることに気づかないのか。
それともそれを物ともしない何かが補佐官にはあるのか?
「えー、疑問にですね。思う人もいるとは思いますがね・この方は間違いなくシカ・ソーニャです。
 えー、証拠が欲しい人はですね。役所までですね。来てください。ええ」
先ほどと打って変わって誰も何も言わない。補佐官はさらに話を進める。
「えー、今、我々の町はですね。先日のドラゴンの襲来によりですね。
 大変な損失を、ええ、受けました。特に急務とされるのはですね。
 町の修復はもちろんのこと、次回の襲撃に備えての防衛の強化、となります」
この辺は読み通りだろう。町の修復についてはまだ見ていないので
どれほど破壊されたかわからないがいつ来るかもわからない次回に備えるぐらいの程度なのだろう。
「ええ、つきましては、長老会議にて二つの事項が決定しました。
 一つは自衛団の予算の増加。もう一つは『白騎士』シカ・ソーニャさんを隊長に任命すること」
これを聞いた時、補佐官以外の人間が驚きか抗議の声を上げた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 隊長なんて私は聞いていないぞ!」
「おい、おっさんふざけんなよ! なんで今日来たばっかの人間が隊長になるんだよ!」
このときばかりは先ほどソーニャに嫌味を吐いていた副隊長と意見が一致する。
というか補佐官以外はみんなそうであろう。
補佐官は手を挙げて、ソーニャたちに落ち着けと促している。
が、一向に効果は無い。
「私は村でも誰かの上に立ったことが無いんだぞ。
 そんな素人が隊長なんて務まるはずがない。そもそも副隊長がいるのだから繰り上がりでいいではないか」
「その通りだ、嬢ちゃん。むしろ俺ですら兄貴の後釜なんざ恐れ多いっつーのになんだ?
 てめぇは町を守りたいのか? それとも滅ぼしたいのか?」
「お、落ち着いてください。ええ。これは長老会議のですね。決定です。
 抗議のほうは私のほうではなく役所のほうにですね。お願いします。
 もしもですね。これ以上何かを言うようであればそれ相応の手段をですね。取らなければいけませんね」
副隊長の顔が憤怒に満ちる。だが喉まで来ているであろう言葉を口から出さない。
そのまま出入り口のほうへ向くとコユキが扉を開け、そのまま出て行った。
それに続き、部屋に居た男たちが出て行く。みな、怒りに顔を歪ませている。
なぜ何も言わないのだ。こんな大事なことなのに。なぜ。
男たちが全員出て行ったところで補佐官が出入り口に向かう。
「ええ。それでは私は失礼します。コユキ、亀のほうへですね。連れて行きなさい」
「了解しました!」
コユキの敬礼に見送られながら補佐官も出て行く。
一人、ソーニャだけが何も納得出来ずに壇上に取り残されていた。



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