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とある少女

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とある少女


とある少女にまつわる話をしよう。
彼女はまだ平和だった頃、最果ての地にある村で捨てられているのが発見された。
齢は三つほどだろうか。肌や髪の色はこの辺りの人々と異なり、また言葉を喋らない。
そして手には白亜色の石のようなもので出来た腕輪をはめていた。
村人は彼女を迎え入れるかどうかで大いに争った。
当時、大国の一つが魔界の門を開き、異界の化け物を引きつれ世界征服をし始めた頃で
この最果ての地にも少ないながらもその魔物たちが進行してきていた。
もしもこの娘が魔物の子供だとしたら?
そういった不安が村人たちに広まっていたのだ。
魔術師がいればわかるかもしれないがそういった類の者はいない。
そんな論争を止めたのはその村の大地主の一人だった。
「こいつは俺が引き受ける。何かがあれば全責任を負う」
大地主の家は歴史も古く、まだ現当主も信頼に厚かったため
村人たちはこの娘を男に任せることにした。
それから時は十年後に移る。
娘は一人の美しく強い剣士へと成長した。
魔物たちの進行により、その世界では村単位で自衛団を持つことが当たり前となっていた。
それゆえに子供たちは小さいころから厳しい剣の修行を受けてきたのだ。
そしてある一定の実力を得たものは正式に自衛団として村を守る仕事を担ってきた。
娘も例外ではなく、明日の試験に合格すれば自衛団入りとなるはずだった。
その事件が起きなければ。
当日。好天に恵まれ、試験は予定通りの時刻より始まることとなった。
期待と不安を感じながらも訓練生は思い思いにその時刻を待っていた。
試験会場の広場ではその準備が整えられている。さほど手の込んだものがあるわけでもないが
これを見に来る村人たちの席を準備しなければいけないのだ。
ふと会場に影が落ち、雲でも出たかと村人が天を仰いだ。
影は何のためらいもなく、その巨体で村人を潰した。
赤い巨体とそれに見合う巨大な翼。鞭のような鋭く長い尻尾と人の腕よりも太い爪が付いた手足。
その生き物はドラゴンと呼ばれる魔物だった。
今までいわゆる下級と呼ばれる魔物しか来ることがなかった村に突如出現した上級魔物に村人たちは
逃げる間もなく殺された。
すぐに自衛団が来るものの前述の通り、この村には下級程度の魔物を相手する装備しかないのだ。
ドラゴンは向かってくる人間たちを少しだけ尻尾を動かし、肉片へと変え
逃げる人間には火の息と建築物の瓦礫を飛ばすことで殺していった。
試験のために待機していた娘は尋常じゃない空気を感じ取り、広場に着いたときには
見る影もないくらい破壊されつくした町並みと血の海、そしてそこに鎮座するドラゴンの姿があった。
ドラゴンは娘を一瞥する。それだけで娘は動けなくなった。
生物としての絶対的な強者が目の前にいる。自分という弱者がどれだけ努力しようとも乗り越えられるほどの。
逃げ出したいはずなのに足が動かない。ドラゴンが長い尻尾をやおら持ち上げる。
確実な死が目の前に迫ってきたとき、娘はあるものを見つける。
自分をここまで育ててくれた当主の死体を。
次の瞬間、振り下ろされた尻尾は宙を舞ったと壊れた家屋に落ちた。
娘が拾われたときから付けて来た白い腕輪は今、彼女の手の中で剣となっている。
その後は一瞬だった。尻尾を切られたことに驚いていたドラゴンは次に首を切り落とされたのだ。
鉄の剣を歪め、魔法すらも通らぬというドラゴンの肌を呆気なく切り裂いたのだ。
村人たちが見たのは、血まみれの広場に佇む赤い少女とそれと混ざることのない白を持つ剣だった。
その娘の名は大地主ソーニャ家の養子、シカという。



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