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準々決勝 第四試合 無限彼方 VS やまなし

作者 ◆KazZxBP5Rc

「あら、今度は一人なのね。」
「……白々しい。」
和服とソムリエエプロン。
互いに闘いに似つかわしくない服装の二人だが、尋常でない闘気を纏ってリングに立っていた。
三回戦の開始を告げる合図が、審判のよし子から下される。
「始めーっ!」
二人共、すぐには動かない。観客がざわめく中、やまなしが笑顔で対戦相手に話し掛ける。
「ありがとう、あなたの試合、とても参考になったわよ。」
それから、振り返ってセコンドの名を呼ぶ。
「しぞーかっ!」
その様子に和服彼方は呆れ顔でコメント。
「お熱いことですね。」
「こやせってぇ!」
思わず方言が出ちゃうやまなし。しょうがないよね。
「何ー?」
呼ばれた方は特に何も考えずについてくる。
「アレ出すわよっ、アレ。」
何かをごまかそうとしているのか、やまなしは心なしか早口だった。

「アレ、ですか?」
実況席で首をかしげるアンテナさん。しかし、解説の柏木はすべてお見通しのご様子。
「あの二人と言ったらアレしか無いでしょう。」

突然、激しい地鳴りが会場を襲った。
かと思いきや、リングが徐々にせり上がってゆく。
やがて、地下闘技場の天井まで覆おうかというところで、ようやく地面が動きを止める。
“本物”のサイズには到底及ばないが、それでもなかなかの大きさである。
「あなたも日本人ならこれが何かくらい知ってるわよね。」
俯瞰するとどうやら山らしい。上部は雪に覆われている。
もうお分かりだろうか。
山梨と静岡の県境にある、日本一の標高を誇る山。
そう、その名は富士山。
「もちろんですが、しかしこんなものを出してどうしようと言うのですか。」
至って冷静な彼方の問いに、やまなしはにやりと笑う。
「富士山はね、活火山なのよ。」
本人はさらりと言い放ったが、鋭い人間ならばその言葉の奥の意味に容易く気付いた。
「そっ、そんなことするために?」
相方も今更びっくり。
「や、やべえぜ!」
「おいおい、どうするんだよあれ!」
「落ち着いてください! 落ち着いてください! 観客席には安全のためになんかすごいバリアが張られています!」
さすがにこれには彼方も一瞬青ざめたが、客席のパニックぶりを見てむしろ我を取り戻した。
例の召喚札を懐から取り出す。
「試合順決めのくじ運に感謝しないといけませんね。」

激しい閃光が札からあふれる。
現れたのは、厚手のコートをまとった女性だった。
「ダイ……じゃない! 氷厳寄生です!」
「さっきの試合の時に回収していたようだね。相変わらずしたたかな子だ。」
実況解説コンビの説明の間にも、氷厳は宙に上がり、これから起きようとすることを阻止する体勢に入る。
「こんな不謹慎なこと、わたくしがこの名に懸けて止めて差し上げますわ!」
火口に極寒の怒涛が押し寄せる。
最初はことごとく融かされるのみだったが、やがて氷の力が上回り、そして火口をすっかり固めてしまった。
氷厳の実力に冷や汗をかきながらも、やまなしは笑みを崩さない。
「やっぱり、ついでに呼んでおいて正解だったわ。」
彼方はハッとしてやまなしの視線をたどる。
「あの雲は!?」
その先に、高い山にはできやすいと言われる積乱雲があった。
積乱雲、となれば次に来るモノは自ずと決まってくる。
まばゆい光と共に、“彼女”はその姿を現した。
「ダイヤは元に戻ったんだ、またお前の影響を受ける前に消えてもらうよ!」
相次ぐ急展開に実況席のアンテナさんは興奮を隠せない。
「ここでなんといかづち選手が参戦です! 両者敗退のため実現しないと思われていた天候対決です!」
リングの上に、積乱雲からの雨が零れはじめた。

まず仕掛けたのはいかづちだ。腕から迸る電撃をそのまま氷厳に向けて飛ばす。対する氷厳は幾重にも張った氷の壁でこれを受ける。
こんなものではやはり小手調べにすらならないか。と、いかづちは電光石火で氷厳に近づき、電気を帯びた拳を氷厳に叩き込む。が、その拳は空を切った。
「速っ!? ……って何だこりゃああああ!」
いかづちが体の感触に違和感を覚えて下を向くと、彼女は先ほどまでの露出の多いスーツではなく、フリフリのドレスを纏っていた。
「あんな破廉恥な恰好より、その方がお似合いですわよ。」

「こはおやににるようですね。」
「誰がお母さんですかっ!」
客席の一角ではそんなやり取りが交わされていた。

一方、いかづちにはのんきな仲間達を気にかけている余裕など無い。
(電磁波を放出して、その反射で奴を捉える!)
そして一秒。氷厳は動かない。
二秒。まだだ。
三秒。時間がやけに長く感じる。
四……反射波!
が、いかづちは気付かぬ間に氷柱の大群に取り囲まれていた。
自然界の最高速度を誇る電磁波で探知したはずなのに。いかづちは驚きを隠せない。
「くっ!」
咄嗟に身を丸めるも、飛んできたいくつかの氷柱が体に突き刺さる。
「おーっほっほっほ! 手も足も出ませんわね。」
挑発に対し、いかづちは体に付いた氷柱を電熱で一気に蒸発させ、笑う。
「残念だったな! お前の攻撃は見破ったぜ!」
「な……いえ、強がりはおよしなさい!」

その頃の地上。
やまなしが軍配を振ると、大量の桃が彼方を襲う。
しかしそれらは上空からの氷のミサイルによっていともたやすく撃ち落される。
「むぅー、なかなか攻撃が通らないわねぇ。」
やっかいなのは、氷厳がいかづちの相手をしながらも更に彼方を守る余裕まであるということだ。
ここは、牽制はしながらも、ただ待つことに徹するのが良さそうだ。
幸い、彼方はあれから一枚も札を使っていない。
「動かざること、山の如し、ね。」

いかづちの周りを迸る電流が勢いを増していく。
「はぁぁぁぁ……!」
「ふん! どうせこけおどしですわ!」
氷厳はまたもや瞬間移動。だが、今度こそはいかづちの手が正確に氷厳のいる方向を捉えていた。
「なっ!」
光が通り過ぎ、轟音がした。
危機一髪、更なる瞬間移動で氷厳はかろうじて脱出していた。
「はぁ……はぁ……。」
「お前はオレ……いや、会場全体をほんの少しの間だけ凍らせて、その間に移動してたんだ。」
いかづちの説明に、解説の柏木が気付く。
「なるほど、我々全員の意識が無いうちに一人だけ移動してたら、我々からは瞬間移動に見えるというわけだね。」
「カラクリさえ分かっちまえば不意を打たれることは無い。攻撃自体は探知より遅いからな。」
氷厳は苦虫を噛み潰したような表情になる。そんな氷厳に、更に追い打ちの言葉が。
「それに今の様子を見るに、この技はそう何度も連発できないようだな。」
「そんなこと……ありませんわっ!」

「あ……れ……?」
彼方は突然、立ちくらみを覚えた。
かと思うと、視界がぼやけ、息遣いも荒くなってくる。
「なに……これ……。」
待った甲斐があったようだ、とやまなしは口元をほころばせた。
「効いてきたようね!」
掌を上向きに広げて雨を受ける。
「これ、何だか分かる?」
「……。」
彼方の方は、もはややまなしが何を言ってるかなんてどうでもよくなってきた。
耐え切れずに膝をつく。
かまわず解説を続けるやまなし。
「ただの雨だと思ってたでしょうけどね、実は――」
やまなしが虚空から一本のボトルを取り出す。
「――白ワインでしたー。」

いかづちは攻撃の手を緩めない。
避けの一手である氷厳の体力も限界に近い。
「これで最後だっ!」
「くっ!」
しかし次の瞬間、いかづちはすんでのところで拳を止めることとなる。
目の前にいたのは、討つべき敵と似て非なる友の姿だった。
「ダイ……」
時間凍結中に自身をダイヤとすり替えた氷厳は、いかづちの真後ろにいた。
いかづちの隙を突き、氷厳は一瞬のうちに大量の氷柱を彼女の背に撃ち込んだ。
それを見たダイヤは青ざめる。
「いかづちっ!? くっ、クロノ・フリ――ズ!」

ダイヤが叫んだ瞬間、すべてのものは静止した。
ただダイヤ自身と氷厳のみを残して。
「あなたは、私が生み出してしまったモノ。ですから私自らの手で倒させてもらいますわ!」
二人はもともと同じ存在である。故に、本来は強さも等しいのだ。
ただ前の試合では氷厳の攻撃的な性格によって潜在能力が引き出されただけなのであった。
(私にも、覚悟が必要ですわ。)
ダイヤはコートの裾を少し破いた。
「それが何になるって言いますの?」
「超低温は静止の世界。静止したものを無理に動かそうとすると必ず“摩擦”が発生しますわ。」
「……待ちなさい、貴女、なぜ濡れて……!」
「空気のほとんどは窒素と酸素。そして酸素の方がわずかに沸点が高いのです。」
ダイヤの服を次第に濡らしているものは“液体の酸素”。
「つまり、こうするのですわ!」
凍らせたコートの切れ端を腕にこすり付ける。
すると、“摩擦”によって起きた火花が“酸素”によって着火。
簡単に言うと、ダイヤの腕が発火した。
「まさか、そんな、自殺行為ですわ!」
「これが、私の覚悟です。」
炎はすぐに勢いを増し、ダイヤの腕を飲み込むほどになる。
氷厳にはもうこれだけの炎を消し飛ばす余力は残っていない。
薄い氷の壁を何重か張るので精一杯だった。
「さあ、今度は貴女が覚悟する番ですわ!」
業火が壁を無慈悲にぶち割ってゆく。
あと三枚、二、一、
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
二人が火だるまに包まれる……。

「さ、さっきの一瞬で何が起こったのでしょう! 突然ダイヤ選手が現れ、いかづち選手が攻撃を食らったかと思えば、氷厳寄生がいなくなって、ダイヤ選手が真っ黒焦げになっております!」
「ダイヤ君も自分の役割を果たしたということかねえ。」
「いや、柏木さん意味が分かりません。何しみじみ言ってるんですか。」
ダイヤは氷厳の消滅を確認した後、吹雪で自らの炎を吹き飛ばしていた。
「ギリギリ……でしたわ。」
あと一瞬でも長く氷厳が耐えていれば……。ダイヤは身震いした。
「はっ! そうですわ! いかづちっ!」
「ああ、何とか生きてるよ。」
彼女も電熱で氷柱を融かしたが、傷まではふさげない。
二人はもはや戦闘続行不能。そもそも、氷厳を倒した今、戦う理由も無くなっていた。

「というわけで、後はあなただけよ。」
やまなしが余裕の表情を浮かべて宣言する。
対して彼方は、
「うにょら~。」
もうべろんべろんである。未成年の飲酒は法律により禁じられていますのでやめましょう。
見ていられなくなったよし子(フルフェイスヘルメット着用)が口を挟む。
「ストップだーっ! これ以上戦わせるわけには」
「だいじょうぶなのら~!」
彼方はよし子の制止を遮って一枚の札を取り出した。
例のごとく寄生が召喚される。
すると彼方は一転、平然とした口調で語りはじめた。
「BOURBON、吸収した酒の分だけ強くなる寄生です。」
ひょうたんを持った身長三メートル程の天狗が、やまなしをにらみつける。
「これは……まずいわね。」
やまなしはただちにワインの雨を止める。
「でも忘れた? アレを止めてた氷厳はもういないのよ。」
「はっ! やべーっ!」
よし子が猛ダッシュで避難したのを、まるで合図かと思ったように火口が煙を吹く。
次いで轟音が、そして赤い液体が噴出する。
「噴火だーっ!」
マグマはものすごい勢いで斜面を駆け降りる。
一分もしないうちにそれは二人の姿を飲み込んでいった。

最初に姿を現したのは彼方とBOURBONの方だった。
「まったく、135枚も使わせないでください。雑魚なんで別にいいですけど。」
彼女たちは召喚した多数の寄生を盾に、マグマをやり過ごした。
「あの女、まさか自分の攻撃でくたばってる訳ないでしょうけど……。」
その時、物音と共に透明のロボットのようなものが姿を現した。
アンテナさんが叫ぶ。
「中にやまなし選手が乗っています!」
「どうやら水晶でできているようだね。」

水晶ロボが虚空からナイフを生成し、右手に持って、間合いを詰める。
そして大天狗の懐に潜り込むと勢いよくナイフを振り上げた。
ひらりとかわすBOURBON。それくらい読んでいると言わんばかりにロボは左手のキャノンを突き出す。
至近距離からの桃の射撃! が、これまたBOURBONははらりとかわす。
「酔拳っ!?」
その独特のリズムは非常に読みにくい。水晶ロボは慌てて距離を取る。
「線が駄目なら……面よ!」
ロボは宙に舞った。照明の光が乱反射して美しく会場を彩る。
それから、ナイフを幾本も生み出したかと思えば、BOURBONめがけてすべて投げつける。
ナイフは光の尾を引きながらバラバラのタイミングで地面に突き刺さってゆく。
彼方は訝しむ。全部外れ?
もちろん、そんなわけがない。
四方逃げ場の無くなったBOURBONに今度こそ照準を合わせ、本命の桃の砲弾が飛んできた。
「ガァアアァッ!」
奇声を発してBOURBONは目をこする。視力をやられたようだ。
「チャンスッ!」
やまなしがここぞとばかりに水晶の巨体を駆る。
止めは右ストレートだ。大きく体をひねって……振り抜く!
が、がっちりと掴まれた。流石、地味~に大量の酒を吸収して強くなっているだけある。
組み合いは水晶ロボの不利。もはやここまでか。
(なーんちゃって。実は自動操縦のチビクォーツくんを背後から忍び込ませていたのよね。……今よっ!)
パリィィン!
「な……! チビクォーツくんがっ!」
やまなしが自信満々で放った小型ロボは、BOURBONの手刀で哀れ粉々に砕け散った。
「見えてなかったし気配も音も無かったはず!」
驚くやまなしに彼方が呆れ顔で伝える。
「あのねえ、あなた私の存在すっかり忘れてたでしょう……。無言でも指示くらい出せるのよ。」
「あ……………………しまったぁぁぁぁ!」
「なんとやまなし選手! 目先の敵の排除に追われ、本来の対戦相手を見過ごすという大失態!」
「ここに来てこんなことになるとはねぇ。」
BOURBONは鼻突きを一発。それだけで見事に水晶ロボは数多の破片へと姿を変えた。
「散々手こずらせてくれましたね。」
「ひっ!」
彼方が宙に踊るやまなしを睨み付けた。次の瞬間、BOURBONがやまなしの鳩尾にキツーい突きをお見舞いする。
すかさずよし子がカウント。
「壁まで吹っ飛んだーっ! ワン! ツー!」
壁にめり込んだやまなしはピクリともしない。
「……ナイン! テン! 試合終了だーっ!」
そして、地鳴りのような歓声が上がる。

「かーなーたっ!」
「……。」
「あれあれー? 何書いてんの? おねーちゃんにも見せなさいっ。」
彼方はペンを放り出して溜息をついた。
訪問者・ももかはパラレルワールドでの彼方の姉らしい。あまり認めたくないが。
幾度となく勝手に控室に入ってきては過剰にスキンシップを求めるももかに、もはや彼方は無視を決め込むことにした。
(それにしても、どうしたものかしら。)
先ほどまで必死にノートに書きつづっていたのは、今後の戦略である。
彼方自身の戦力は札による寄生召喚のみで、今の戦いでかなり消費してしまった。
彼方はこの会場でパラレルワールドでの彼方を何人か見つけてきて味方として使っている。
が、彼女たちは彼女たちで今回の対戦前のいらぬ戦いにより余分に消耗していた。
どこで誰をぶつけるか、それが重要だ。
彼方が采配について悩んでいると、突然肩に重さを感じた。
「かなたっ、そんな難しい顔しないでさ、リラックスリラックス。」
「……。」
案の定抱きついてくるももかに、文句の一つでも言ってやろうかと考える。
が、何故か変なことを口走ってしまいそうな気がしたので、やっぱりももかとは口を利かないことにした。


【準々決勝第四試合 勝者 無限彼方】

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