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二回戦 第三試合 S.ハルトシュラー VS マシロ

作者  ◆KazZxBP5Rc


SSPことニール・アルバート・フロントフィールドは、トイレで用を足していた。
観客用のトイレが混雑していたので、選手用のトイレまで足を運んだ。
ここにいると会場の喧騒がまるで嘘のようだ。
落ち着いた気分で水を流し、洗面台で手を洗う。
そのまま去ろうとしたまさにその時だった。
ガタッ。大きな音が掃除用具入れの方から聞こえてきた。
用具が倒れた音にしては鈍い。もっと大きな質量が動いた音のように聞こえた。
ニールは用心しつつ掃除用具入れに近づき、そっと扉を開いた。
「――!!」

「二回戦も残すところこの一試合となりました! さあ、両選手に登場していただきましょう。
 S.ハルトシュラー・アーンド……あれ?」
アンテナさんの締まらない声を受けて「二人」がリング上に姿を現す。
一方は、一見ドレスを身にまとった少女、されどその実体は『創発の魔王』、ハルトシュラー。
他方は、鍛え上げられた肉体を風に晒しながらも、素顔だけは決して見せない、
「スイカだーっ!」
スイカの皮で顔を覆った男、リザーバーのすいかさんだった。
「マシロ選手はどうしたーっ!」
すかさず審判よし子からのツッコミが入る。
すいかさんは答えた。
「彼女ならもう……来ないと思うよ。」
その発言の纏う空気に、会場が凍りついた。
言い方からして、彼が何かを知っているのは明白だ。
あらゆる方向からの不審、あるいは敵意が彼に向けられる。
しかし彼は(見えていないからかも知れないが)全くひるむ様子を見せない。
そんな中、一番強く殺気を放っていたのは、意外にも目の前の小さな魔王だった。
震える手を抑えながら、ハルトシュラーは審判に声を掛ける。
「よし子、いいな?」
把握していないリザーバーの登場というイレギュラーな事態にしばし呆然としていたよし子だったが、ハルトシュラーの声に我を取り戻し、
「あ……始めっ!」
戦いの幕開けを宣言した。


開始と同時に、弾丸のごとくハルトシュラーが飛び掛かる。
直立不動の相手の腹に、渾身のボディブロー。
「ハルトシュラー選手! いきなりのスマッシュヒットです!」
すいかさんはどストレートに飛ばされ、壁をぶち壊してようやく止まった。
どこかで見たような光景だ。
しかし前回と違い、この場にいる誰もが、これで終わったようには思えなかった。
あれだけ不気味に登場したすいかさんがこの程度でくたばるはずがない。
そもそも、ガードも何もしないというのは明らかにおかしい。
わざと受けたのではないか。その疑問を裏打ちする言葉が、壊れた壁の奥から発せられる。
「良い当たりだね。」
土煙の中から姿を現したその鋼の肉体は、少し汚れはしたものの、かすり傷ひとつ負っていなかった。
「じゃあ、こっちも行くよ。」
言うが早いか、すいかさんはハルトシュラーの元へと駆け寄る。
(身長差から考えて、蹴りがくるだろうな。)
即座に判断し、ハルトシュラーは構える。
すいかさんの一手は、彼女の狙い通り蹴りだった。右脚での回し蹴り。
これを左腕でガードし、右腕で……と、思考途中に顎への衝撃。
「なんとすいか選手! あの体勢から左脚で蹴り上げました!」
「筋力にものを言わせた強引な蹴りだねえ。
アンテナさんの実況を、解説の柏木が補足する。

「ちっ!」
舌打ちするハルトシュラーに、すいかさんは悠然と立ちふさがる。
「もっと本気を出してもいいんだよ。」
「言われなくてもそうする。」
片膝を突き、目は相手を見据えながら、ハルトシュラーは地面に人差し指を走らせる。
「これは、一回戦でも見せた実体化能力ですね!」
ほどなくして石の剣が形成される。
ハルトシュラーはそれを手に、敵へと向かってゆく。


(おかしい……。)
あれから何度か切り結んだはずである。
剣にはそれなりの鋭さをイメージとして与えた。
それなのに。
「すいか選手、未だに無傷です!」
もはや頑丈だとかそういう域を超えている。
彼は明らかに超常の能力の持ち主だろう。
ハルトシュラーの考えがそこまで至った時のことだった。
騒がしい会場にもかかわらず、全くかき消されない力強い声が響き渡った。
「STOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOP!」

その場にいた全員の注目が一斉に声の方へと集まる。
そこには、一人の男を担いだSSPの姿があった。
「その試合、ノーコンテストだ! こいつが本物のウォーターメロンマンだ!」
騒然となる会場に、柏木がとんでもない一言を投げ掛けた。
「ああ、やっぱりね。」
彼の投げやりな言葉によって観客席に火が付き、中には説明を求めて暴れ出す者も出る始末だ。
「皆さん! 落ち着いてください! 落ち着いて!」
アンテナさんが声を張り上げるが、届いているのかいないのか。

対照的に、リング上の二人は冷静だった。
「ここまで早くバレるとは想定してなかったな。」
「道理で開会式で見た時と“気”が違うわけだ。」
ハルトシュラーはそう言いながら観客席を目で探る。
視線はすぐに目標の人物を捉え、彼女は叫んだ。
「倉刀!」
「はいっ!」
弟子は阿吽の呼吸で師匠の望むものを投げつける。
それは、一振りの刀だった。
正式な試合ではないとはっきりした以上、律儀に持ち込み武器禁止のルールを守る必要も無い。
「こいつはさっきの即興モノのようにはいかぬぞ。」
「それは危険そうだ。僕も本気を出すとしよう。」
言葉ほどの危機感を感じさせない態度の偽すいかさん。
彼の影が、にわかに伸び始めた。
「これは!」
それは、一回戦でマシロが見せた影の技そのものだった。
影は形をぐにゃぐにゃとうねらせながら立体的にハルトシュラーの方へと伸びてゆく。
一方のハルトシュラー、これに臆することなく飛び掛かる。
剣先はぶれることなく影を斬り拓いて。
斬られた影がくっつくよりも速く、偽すいかさんの元へたどり着く。
そしてとどめの一撃を加える。

が、その軌道は背後から追いついた影によって逸らされた。
偽すいかさんの肩に一筋の血が流れる。だが、それだけ。
「さすがに今のは焦ったよ。」
ハルトシュラーはそのまま影によって捕まれ、身動きを封じられた。
しかしその表情は悔しさや絶望ではない。むしろ勝ちを確信したかのように笑っている。
「十分だ。」


突然、偽すいかさんの背に何かが飛びついた。
俯瞰していたアンテナさんが真っ先に状況を理解し、叫ぶ。
「ああーっとあれはー! マシロ選手です!」
「なっ……!」
偽すいかさんは初めて本心からの驚きの声を上げる。
まだ彼女が動けたとは。
彼の肩に乗った白髪の少女は、その流れ出る血を一滴も逃すまいとすすっている。
その髪が徐々に銀色味を帯びてゆく。
しばらくして、充電完了。マシロは蹴りを加えつつ、偽すいかさんの傍から離脱する。
「効いてませんの?」
「打撃は無駄だ! 斬れ!」
それを聞いてマシロはスカートの内側から包丁を取り出した。
客席のごく一部が反応する。
「あれは! 加藤先生の!」
「私が彼女に渡したんだ。先生の遺志を……継ぐために……。」
マシロが静かに目を瞑る。
その時、会場にいる誰もが、彼女の背後に浮かぶ鬼の闘気を見た。
次の瞬間には、全てが終わっていた。
「がはっ……!」
マシロと偽すいかさんの姿が重なり、偽すいかさんの胸には包丁が突き刺さっている。
「警備員ーっ! 今だ――っ!!」
よし子の声に警備員が動く。
こうして、偽すいかさんはあえなく御用となった。

「僕は、目立ちたかった。お前達人気キャラみたいに、お前達人気作者みたいに。
 ただ黙々と作品を創ったこともあった。雑談でそれとなく話題を出したこともあった。
 だが結果はどうだ!
 僕は何者にもなれなかった。そう、僕は創作発表板の“カゲ”でしかなかったんだ……。」
場外追放前に偽すいかさんが語った言葉に、ハルトシュラーは思うところがあった。
(私と全く対極の存在、か。その正体に心の奥では気付いていたのかも知れぬ。だから私は奴が許せなかったのか。)
彼に対する怒りはマシロのためのものではなかったのだろう。全く非情な自分に呆れる。
しかし今しばらく、それは胸に秘めておこう。
「よし子、今度こそ本当の試合を始めよう。」
「でっ、でもお前、まださっきの疲れが!」
「それは彼女もお互い様だろう。それに――」
ハルトシュラーはにやりと笑った。
「――これ以上観客を待たせるわけにいくまい。」


「それでは! 邪魔も入りましたが、改めて二回戦最終試合を始めます! 両者、位置へ!」
アンテナさんの声にしばしの静寂。
そして、
「始めっ!」
よし子の合図で会場は再び湧き上がった。

その頃、客席の一角に、女子○学生に膝枕をされている羨……けしからん男がいた。
「う、うーん……。」
「あ、博士っ!」
「あれ? 僕は一体……?」
体を起こし、首をかしげる男に、そばにいた幼女(まったくけしからん)が説明する。
「パパトママ ネテタ!」
男は〇学生の顔を見て、
「君も?」
と問うた。
「ええ、私もさっき起きたところなんです。」
「今の状況は?」
「あ、はい。ちょうど今マシロの二回戦が始まったようですよ。」
「二回戦!?」
ついさっきまで一回戦をやっていたように思うのだが……。
「寝てた」らしいがどうもその直前のことが思い出せない。
だが、彼女たちがそばにいてマシロが普通に戦っているということは、心配するようなことは無かったのだろう。
そう判断して、彼はおとなしく観戦を続けることにした。


(残り二分、といったところでしょうか。)
マシロにとって、ハルトシュラーの「今すぐ試合を始める」という提案はラッキーだった。
彼女は培養が十分でなかったため、ホムンクルス本来の力を発揮できるのは、血を飲んで数分の間だけなのだ。
(とにかく速攻ですわね。)
焦りは禁物だが急ぎはせねば。
とにかくハルトシュラーに向かって飛びつき、猛ラッシュをかける。
「はぁぁぁぁっ!」
「くっ!」
「ハルトシュラー選手、押されています!」
「パワーではやはりマシロ選手に分があるようだねえ。」
ハルトシュラー、苦し紛れに足払いを掛ける。
が、マシロはひょいとかわし、そのまま空中で両足キック。
ハルトシュラーはこの勢いを利用し、大きく後ろに逃れる。
させじと距離を詰めるマシロ。
「ハルトシュラー選手、受けるのは不利と判断したか? 攻撃を避けるように立ち回っています!」
そこからというもの、打てども打てども攻撃が入らない。
舞う葉のように鮮やかに避け続けるハルトシュラーに、マシロはいらだちを覚え始めていた。
(時間がありませんというのに……。)
ここはもう、四の五の考えてられない。攻撃が駄目なら口撃だ。
「逃げてばかりでは勝てませんわよ?」
すると、返ってきたのは意外な言葉だった。
「心配するな、今完成したところだ。」
「!?」
まずい! と、直感で回避しようとしたが間に合わなかった。
ゴゴゴゴ……と大きな音がして、地面からせり上がってきた石造りの巨大な左手がマシロを握り込む。
「右手も創ってやらんとな。」
そう言ったハルトシュラー自身の右手に、リングの石畳がまとわりついてゆく。
みるみるうちにそれは巨大な拳の形を形成していった。
「いくぞ! 春斗――」
(あんなものを食らってしまったら! しかし動けませんわ!)
もがくマシロの耳に、その時、
「――有情――」
「シロぉぉぉぉっ!」
客席のどこからか、男の声が聞こえてきた。
「――覇岩――」
(お父……様……。)
「――拳!!!!」

大量の粉塵が舞っている。客席はかたずを飲んでそれが治まるのを待っていた。
「えー、土煙で中の様子がよく……あっ、晴れてきました!」
その光景を見た瞬間、会場は一気に沸いた。
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
「すげええええええええええええ!!」
マシロは、倒れてはいなかった。
それどころか、巨大な岩の拳を受け止めていたのだ。
腹の底まで響く歓声を受けながら、しかし彼女はぽそりとつぶやいた。
「はぁ……はぁ……ですが……。」
「おっと、マシロ選手! 座り込んでしまいました! どうしたのでしょう!」
「時間切れ、ですわ。」
銀色を帯びていた髪の色が、白へと戻っていく。
ホムンクルスの力を発揮して何とか戦えていた彼女の勝ち目は、これで完全に無くなった。
「審判、ギブアップを申し出ます。」
「なんと! マシロ選手ギブアップ! 準々決勝進出はハルトシュラー選手です!」
これ以上無いと思っていた会場の声量が、またさらに勢いを増した。


【二回戦第三試合 勝者 S.ハルトシュラー】


会場のどこか。一人の女がつぶやく。
「名無しの奴、しくじったか。ま、それほど期待はしてなかったがね。」
怪しい笑みを浮かべながら、彼女はまた人込みに紛れていった。


※偽すいかさんについて、特定のモデルがいるわけではありません。ご了承ください。

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一回戦 第五試合 S.ハルトシュラー 三回戦 第二試合
一回戦 第六試合 マシロ -

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