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ガンダム総合スレ「第88独立宇宙戦団:4」

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第88独立宇宙戦団:4




202 :第88独立宇宙戦団連邦軍部隊:4:2011/05/05(木) 03:11:44.99 ID:tuOrlVoK

第88独立宇宙戦団とアクシズ残存艦隊の戦いの火蓋は切って落とされた。

民間船舶や資源衛星への海賊行為に走った堕落した軍隊とは思えぬほど、敵の戦意は旺盛で
既に各所で艦隊もしくは個艦同士が戦端を開いていた。

88戦団の眼であり耳である早期警戒機アイザックが、ナハトムジークに接近する機影を捉える。
張り巡らされたレーザー通信中継ブイを介して、直ちに緊急警報が発令される。

「待たせたなあっ、番犬ども、出番だせ!!」

「おっしゃああーーっ、回せーーーっ!!」

既に展開していた直衛のハイザックが隊伍を組み、既に発進した攻撃隊の後詰に母艦に待機していた
GM小隊も、急遽迎撃戦(インターセプト)に投入されることになり、次々に離艦していく。

同時に艦外に繋留されていたサブフライトシステム機シャクルズが同数、舫いを解かれ展開する。
相対速度を合わせ、次々に飛び乗ってブースターに点火するGM小隊、その間僅か2分弱。

「は、早い!!」

船外モニターを確認出来る位置にいたリンとレナードが、その展開速度に絶句した。
過去の経歴はどうであれ、ナハトムジークに集う傭兵たちはいずれもプロ中のプロである。

「アンブレラ1、機種は何だ!?」

「加速力と反応から見てガザ野郎だ、CだかDだかは不明、締めてかかれよ!!」

ガザシリーズは火力に偏重した空間戦闘用TMS(可変モビルスーツ)で、対艦攻撃能力も高い。

作業用を無理やり改造した機体で、量産が容易なC型はグリプス戦役で主力を務めていたが
やはり基本性能の不足は否めず、早々に改良が推し進められた。

主な問題になった機体バランスを改善し、より実戦向きに装甲・火力を強化したタイプがD型で
同クラスの連邦の第2世代主力機にとって、かなりの強敵として生まれ変わっている。

いずれにせよ母艦に肉迫を許せば、その充実した火力で思う存分食い荒らされてしまう。


「こちらハンター1、Tally Hoooooo!!」

宇宙空間を長駆するため、必然的に大量の推進剤や弾薬で機体が重くなる攻撃側に対し迎撃側は
軽快かつ確実に相手の足を止められる装備を選択するのがセオリーである。

「来たぞ、全機散開、攻撃開始(アタックオン)!!」

「イエス、マム!!」

「さあて、一稼ぎするかぁっ!!」

先鋒(フォワード)のハイザック隊の接近に気付いたガザ編隊も、急ぎ散開する。
海賊たちの戦法は、性能的に劣るが実弾系の装備が無く、若干身の軽いC型が敵を引き付ける囮役を
担うことが多い。


「しゃらくさい小兵どもが、どきなっ!!」

ハイザック小隊のリーダーを務めるサラファン=バーンスタインが猛々しく咆える。
傭兵たちの機体は、いずれも自分の得意な戦法に合わせてチューンアップされている。

迎撃機の目的は、敵機の弾薬や推進剤を浪費させて攻撃を断念させれば最低限果たせる。
しかし、戦果によって高額の報酬を得られる傭兵たちは当然ながら、まず撃墜を狙う。

駆動系を強化し、普及型より照準器をワンランク上げたサラ機の両腕にはマシンガンとビームライフルが
各々保持されている。

マシンガンは純正品の通称ザクマシンガン改ではなく、比較的軽量で操作性も良好な旧公国軍のMMP80で
威力よりは装弾数と速射性を重視しており、ガンダリウム合金で被甲されているアクシズ軍のモビルスーツに
対し過度の戦果の期待はされていない、状況に応じ適度に弾を散らし、確実に足を止めるためのものである。

「まずは一機!!」

至近弾の爆圧に揉まれ、変形を解く間も与えられず、ビームライフルで射抜かれ爆散するガザC。


2番機のホプキンス=ウェラーの機体は、サラのものより更に偏った改造が施されている。
手持ち火器は、これもまた純正品ではなく、GMカスタムの主装備だったGMアサルトライフルで、初速が速く
命中精度や集弾率をより重視した設計である。

…だが、ホプキンスの場合も、旧式の実体弾は牽制でしかなく、本命の攻撃は別に在った。

乗機のハイザックは、両肩がスパイクアーマーに変更されており、肘に近い部位に追加され、回転軸が組み込まれた
ハードポイントには、ザクⅡのショルダーシールドが取り付けてある。

そのショルダーシールドにも、かってジオン海兵隊が多用した物と同様、肩部のスパイクが移植されており
反回転させてグリップを両手に1丁ずつ握ると、恰も攻防一体の構えを取るボクサーのような様相になる。

「いっくぞおおおっ!!」

ホプキンス機の駆動系は、ラフな操作にも堪えられるように耐久性重視の強化が施され、ランドセルの両脇には
瞬間的な高加速を可能にする使い捨てのロケットブースターが追加されている。

保身など微塵にも感じさせぬ突進でホプキンス機が間合いを詰める。
変形して迎え撃つか、加速で距離を取るか、僅かな判断の遅れが捕捉されたガザCの命運を分けた。

ここまで接近されれば、アクシズ側の僚機も援護射撃など出来ない。
同士討ちの懸念は元より、敵機が爆発した場合も、仲間が只では済まなくなるからである。

すかさずホプキンスのハイザックが、両手に持ったスパイクシールドで凄まじい連打をかける。
その姿は、まるで古代の拳闘士を彷彿とさせた…、極めて短い間隔で叩き込まれる打撃に、両肩のスパイクでの
ショルダータックルまでが加わり、痛撃が増すに連れ、翻弄されるガザCのフレームが見る見る歪んでいく。

ガザCのガンダリウム装甲は、機体剛性を保ち変形を円滑化する為の意味合いが強く、さして厚くはない。

「とどめえっ!!」

更に簡抜を入れず、肩部にヒートホークが叩き込まれ、続けて、その柄を目掛け苛烈な蹴りが見舞われる。
半ば機体に埋め込まれたヒートホークを中心に亀裂が走り、ガザCの上半身が完全に分断される。


3番手のハンザ=シュトラウス機の武装は、逆に火力を重視したものだった。

カスタムタイプランドセルは、肩部のフィンユニットを取り除き、代わりに多目的兵装ポイントを設置している。
右は4連装のマルチプルランチャー、左はカウンターウェイトを兼ねた中距離仕様の光学系測距システムである。

即座に敵の性能や戦法を推定したガザCは、肉迫し脚部のクロー攻撃で動きを抑え、隙が生じればそのまま
変形して格闘戦に移行しようという腹積もりだった、重装型はウェイトがある分、挙動が鈍くなると踏んでいた。

…だが、ハンザ機の対応は、その算段を呆気なく覆した。

「があぁっ!?」

突然、眼前に広がる閃光に、虚を突かれたガザCのパイロットが絞り出すような悲鳴を漏らしていた。

ランチャーから放たれた初弾は、通常弾ではなく閃光榴弾(フラッシュグレネード)だった。
ハンザ機のマルチプルランチャーは、特殊ロケット弾体を状況に応じて選択して発射する特別仕様である。

旧公国軍のドムタイプが胸部に仕込んでいた拡散ビームに匹敵する光量が、瞬間的にモニター群を役立たずにし、
狼狽えたガザCのパイロットは反射的に機体を変形させた。

機位を見失ったまま、MA形態で高加速を掛ければ、最悪、何かに激突するか、容易く敵の予測射撃の標的になるか
良くても思いも寄らぬ方向に跳んで行き、母艦への帰還は困難になる…、だが、所詮そこまでの判断が限界だった。

放たれた2発目は弾体に散弾を仕込んだもので、一撃で撃破するほどの威力はないものの、その効果は広範囲に及ぶ。
モノアイが潰れ、機体の動力伝導を兼ねた連結パイプが引き千切れ、再変形が不可能になる…、もはや勝敗は決した。

ハンザ機の手にした火器は240ミリもの大口径グレネードマシンランチャーで、連邦軍MSの標準装備ではない。
ブッホ系列社の息のかかった武器ブローカーより回ってきた特注品であり、既製の120ミリザクマシンガンのものより
遥かに分厚いドラムマガジンが特徴的である。

「…運がなかったな」

ハンザの放った止めの一撃で、死に体となったガザCが爆散した。

「ちっ、本命はこっちか!!」

随分と割りを食ったものだと、GM隊を率いるウォーレン=スタフォードが、口元を僅かに歪めた。

彼らの母艦ナハトムジークを狙っているのは、ガザDの3機編隊だった。…確かに撃墜した際の賞金の設定額は高いが
サラのハイザック隊が相手にしたガザCのように組し易く、撃墜スコアを容易く稼げる相手ではなかった。

ティターンズ出身のウォーレンの愛機は、当時の愛機GMクウェルの改造型である。

単純なカタログデータでは、初期生産型をベースにしたGMⅡと同等、もしくはやや劣る部分もあるが、一年戦争後の
制式主力機GM改をベースに、実戦データを元に細やかな改良が続けられたオーガスタ系に連なる名機で、信頼性が高い。

後のフラッグシップ機になるはずだったガンダムMkⅡと同型のGMⅢのランドセルを移植し、推力は充分に補える。
伝導系にも手を加え、ビームライフルもMkⅡと同型のものをドライブ出来るようになっている。

いずれも調達に苦労したが、充分なレスポンスを示し、ウォーレンの技巧を不足なく発揮出来る機体に仕上がっている。
部下の2機のGMⅡも、各々の性格に合わせてチューンされており、本来格上のガザD相手に執拗に食い下がっていた。

何度か牽制のビームを放つと、ついに堪りかねたガザDの一機が、半ば投棄するように搭載したミサイルを撃ち放った。
機体重量のハンデがあるままでは、軽装のウォーレン隊を振り切れないと判断したのである。
程無く残りの2機もそれに倣った。


ウォーレン隊は尚も単機、もしくは連繋での進攻阻止を巧みに続け、幾度かの応酬後、ついにガザD隊は任務を断念した。
機体の変形に伴い、スラスターが一方向に集中し、瞬間的に爆発的な加速力が生じる。

作戦遂行を不可能と判断するや、即座にガザD隊は離脱を敢行した…、敵ながら鮮やかな引き際である。
海賊に身を窶したとはいえ、必ずしも闘争のみを目的とした無法者ばかりではない。

「ちっ、さすがに腐ってもTMSだ、加速じゃかなわねえか」

そして傭兵たちも深追いはしない…、既に迎撃任務は全うされており、より多くの戦果が欲しくとも、状況を冷静に
判断するのがプロだった。

「ようし、送り狼だ、行けーっ!!」

ナハトムジークの双胴船体の下部中央に位置した吊下げ式カタパルトから、大型プロペラントタンクを接続した
MS-21ドラッツェが発進していく。

ザクⅡ後期型をベースにガトル戦闘爆撃機のブースターを接続した哨戒用の古い機体だが、加速力の高いTMSを
追跡出来る機種は数少ない…、まずは、敵主力艦の正確な位置を全て把握することが88戦団の急務なのである。

「では、ウォーレン、後は頼むぞ」

艦隊直衛の任をGM小隊に引き継ぎ、サラのハイザック小隊が帰艦シークエンスに移行する。
機体冷却と消耗した弾薬や推進剤の補給を行う間、パイロット達もそろそろ小休止する必要があった。

「ハンター1よりナハトへ、補給のため一時帰投する」

ナハトとは、彼らの母艦ナハトムジークの略称である。
敵の機影は見当たらず、ガイドビーコンの可視光線帯が、ハイザックの帰還を誘うために展開されていく。
ホプキンスとハンザの機体が収容され、周囲の警戒を解き、最後に着艦しようとするサラ…、だが!!

「待て、ハンター1!!」

「アンブレラ1か、何だ!?」

「12時の方向、えれぇ勢いでナハトに突っ込んで来るヤツがいる、やべえっ、本命はこっちだ!!」

「何だと!?…、ホプキンス、ハンザ!!」

「すまん、機体がもう冷却チェンバーに入っちまった、すぐには出れねえっ!!」

モビルスーツ搭載型の核融合炉は、宇宙空間での稼働に於いて余剰熱対策に限界が有った。
溜まった熱は電子機器や関連補器の熱暴走や誤動作を招き易く、過負荷が高まれば重要な部位の損壊にまで繋がる。

艦内の専用施設に入ったモビルスーツは、整備や保守上の問題からすぐには引き摺り出せなかった。
ナハトムジークの充実した整備システムが、この場合は却って仇となってしまった。

「ちっ、ハンガーっ、何でもいいから武器を放出しろ…、こちとらマガジンもEパックももう無いんだ!!」

サラの要請で、ナハトムジークの軽量物用仮設カタパルトから、ハイパーバズーカが射出された。
予備弾倉やEパックを選り分ける細かな作業の手間を省き、緊急性が優先されたのである。

「すまん、不得手かもしれんが、すぐにはそれしか用意できん…、手持ちの武器は流せ、こちらで回収する!!」

「構わん、ウォーレンたちの古臭いGMだけじゃヤバい、今すぐ行く!!」

しかし、サラは内心の焦りを抑えきれない…、推進剤に余裕が無い上にオーバーヒートの危険まで孕んでいる。

(くそっ、ガザDの逃げた方向とは全然逆じゃないかっ…、敵には、それほどの余剰戦力があるというのか!?)


別働隊が敵艦隊の探索に向かって、既にかなりの時間が経過している。
彼らが帰還するまで、なんとしても現在の手勢でナハトムジークを防衛しなければならなかった。

サラのビームライフルとマシンガンを回収に出たのは、リンのオッゴだった。
正規軍ならそのまま放棄される事も多いが、傭兵の装備の場合、作戦行動中は個人の所有・管理物として扱われる。
中には調達の難しいものや、固有のチューニングを施されているものも在り、可能な限りは回収される。

「持ってきました、弾倉とEパックの装填お願いします」

オッゴの運んだ火器に、船外作業員やプチモビが取り付き、手早く作業を開始する。
いつ必要になるか判らないが、常に万全の備えをしておくのが、戦場で生き残るセオリーである。


一方、ウォーレン隊と合流したサラ機は、臨時のフォーメーションで、敵の侵入コースに接近していた。

「あと0:50で接敵、おい、なんだ…、この反応は!?」

速度はTMSに優に匹敵するが該当機種が特定できない…、単機らしいが油断出来る状況ではなかった。

「あ、あれは!?」

正体は直に知れることとなった…、AMX-01Xジャムル・フィン、それもメガブースターを装着したタイプである。
更に2機のMA形態のAMX-008ガ・ゾウムを牽引している。

「なんてこった、海賊共があんなものまで使っているのか!?」

「まずいっ、ヘタ打ちゃ、すぐに抜かれるぞ!!」

敵もウォーレン隊を発見したらしく、2機のガ・ゾウムが緊急展開する。

「編隊散開(ブレイク)、なんとしても食らい付け!!」

モビルアーマーを運用していたこともだが、更にそれをSFS(サブフライトシステム)代りに使っていたことも
予想を越えていた。…牽引されていたガ・ゾウムは、戦場に至るまで弾薬や推進剤、エネルギーのロスが一切無い。
それに引き換え、味方機はガザ隊と一戦交えたばかりである。

「ままよ、行けえっ!!」

ウォーレンのGMクウェルがジャムル・フィンと、サラのハイザックがガ・ゾウムの一機と相対し、自然とGMⅡ2機が
残ったガ・ゾウムに食い下がる形になる。

だが、今度は、全ての点で傭兵たちにとって不利だった。
新型可変モビルアーマーのジャムル・フィンは元より、ガ・ゾウムも第3世代MSに準ずる性能を有する強敵である。

GMクウェルは可能な限り、ジャムル・フィンの前方に回り込み一直線に突破されるのを懸命に防いでいた。
さすがに2機ものモビルスーツを牽引しての長躯の消耗は大きいはずで、より母艦に近い位置にいるウォーレン隊は
ここに来て推進剤やEパックを惜しむような真似はしなかった。

回避を続けるジャムル・フィンの進行方向に、ナハトムジークを護衛する2隻のサラミス改巡洋艦の姿が在った。
ここに来て、敵パイロットは、纏わり付くGMクウェルに防空警戒線(ピケットライン)に、巧みに誘い込まれた事に
ようやく気付いた。


0083年前後に就航した旧式のサラミスに、何か取り柄があるとすれば、その過剰なまでの重装備であろう。
一年戦争に辛うじて勝利した後、もはやモビルスーツを使用する仮想敵国家は存在しないと踏み、再び大艦巨砲主義に
逆行しようとした時の名残りである

忽ち、無数の90ミリ対空連装機関砲と多連装ミサイルランチャーによる凄まじい弾幕が展開される。
個艦もしくは艦隊防衛に於いて、高機動兵器の肉迫を回避することは、一年戦争以来の鉄則である。

だが、アクシズの最新型モビルアーマーによる反撃は、更に苛烈だった。
本体の腹部のハイメガ粒子砲を、ブースターの機首部メガランチャーに直結させた桁外れの高出力ビームは、ただの一撃で
サラミス改の動力部を撃ち抜き、巨大な火球に変えてしまった。

「ウソだろ…、たった一撃で…」

最新の機動兵器の火力を目の当たりにしたリンは、オッゴのコクピットでただ茫然としていた。
旧式とは言え、重武装のサラミス級巡洋艦が簡単に沈んだのである。

(あ、あんなのが…、ナハトに攻めてきたら…)

多少の装甲やダメージコントロール能力など、気休めにもなるまい。
もし、迎撃に向かった傭兵たちがこのまま敗れれば、ナハトムジークは沈み、アイネやレナードらの仲間もみんな…。
その危惧は、すぐに現実のものとなる。

苦心してガ・ゾウムの背後に付き、サラが手にしたハイパーバズーカを撃ち放つが、予想外の結果に目を剥いた。

「何だ、こりゃ散弾じゃないか!?」

おそらくチームの中で火力支援を担うハンザが用意したものであろう…、牽制や敵弾の迎撃に使用されるもので
一撃で敵モビルスーツを破壊するほどの威力は無い…、こうなったら接近戦で確実に仕留めるしかなかったが
可変モビルスーツのガ・ゾウムと、推進剤の残量に乏しいハイザックの機動力の差は絶望的だった。

続いて、残りのガ・ゾウムと激闘を繰り広げていたウォーレンの部下のGMⅡ隊も、1機が撃墜された。

「くそっ、やりやがったな!!」

憤ったウォーレンにも僅かな隙が生じた…、メガブースターを切り離して直線的な加速力を捨て、運動性を向上させた
ジャムル・フィンの放った高機動ミサイル、その至近爆発が、GMクウェルの右腕をビームライフルごと引き千切った。

「ちっ、ぬかった!!」

(あ、あああ……)

焦燥を募らせるリンの目に映ったものは、味方機の苦戦の光景だった。

(だめだっ…、このままじゃみんな…、みんなやられてしまう!!)

マニュピレータを操り、弾倉の装填作業を終えたサラ機の武器を慌ただしく掴むと、リンは乗機のオッゴに加速を掛けた。

「うわっ、何をしやがる、リン、この馬鹿たれがあっ!!」

「戻れ、戻れえーーっ、そんな年代物のモビルポッドじゃ的になるだけだぞっ!!」

「ハンター1・2、トチ狂った訓練生のバカが一匹、そっちへ行ったぞおおっ!!」

無我夢中でモビルポッド・オッゴを駆るリンの前に、ジャムル・フィンの巨体がすぐ迫って来る。


「うわっ、来るなあああっ!!」

迫り来る死の予感に狼狽するリン…、だが、驚いたのはリンや仲間の傭兵たちばかりではなかった。

「馬鹿なっ!!…な、何で、オレ達のあの機体がこんなところでっ!?」

ジャムル・フィンのパイロットが見たものは、まるで時の流れに置き去りにされたような、かっての同期生の機体だった。

「こ、このおっ!!」

焦ったリンの必要以上に力みかえった操作で、オッゴのマニュピレータが手にしたMMP80のトリガーを僅かに引き絞った。

「くっ!!」

思わぬ形で行く手を阻まれたモビルアーマーが巨躯を翻した…、ガンダリウム合金で被甲された機体ならば命中しても実害は
無かったかもしれないが、オッゴに気を取られすぎたパイロットが、反射的に必要以上の機動を機体に強いた直後!!

ウォーレンの奮うビームサーベルが僅かな隙を見逃さず、ジャムル・フィンの片側のエンジンナセルを切り裂いていた。

「しまった!!」

敵主力機の思わぬ損傷は、あらゆる波紋を戦場に投げ掛けた…、最後のGMⅡを無力化したガ・ゾウムがジャムル・フィンの
救援に向かおうとしたが、変形過程で無防備になった瞬間、GMⅡにしがみ付かれた。

「うおっ、は、放…っ!!」

半端な体勢で大推力スラスターを噴かしたガ・ゾウムは、GMⅡもろとも護衛艦のサラミスのエンジン部に矢のように
突っ込んだ…、再び、巨大な火球が戦場を染め上げ、消え去った時には、巻き込まれた敵も味方も全て姿を消していた。

最後に残ったガ・ゾウムは、リンのオッゴを完全に敵と見做し、怒りと共に高機動ミサイルを放った。

「うわあああっ!!」

回避の間など無く、恐怖で目を見開くリン…、だが、オッゴに殺到するはずのミサイルが何者かに薙ぎ払われた。

「身の程を弁えないヒヨッコが、世話を焼かすんじゃないっ!!」

見るとサラのハイザックが、オッゴを守るために散弾バズーカの弾を全て撃ち放ったところだった。

そのまま空になったハイパーバズーカをガ・ゾウムに投げつけると、サラは機体の右手でヒートホークを…、さらに左手で
ビームサーベルを抜き放った…、サラの戦闘スキルの特色は、射撃と同様、モビルスーツの格闘戦も両手で熟せる点にある。
左右のリーチの差を完全に把握し、ミサイルやナックルバスターを抱えたままのガ・ゾウムを着実に追い詰めていく。

その間にリンは、なんとかMMP80を片腕のウォーレン機に引き渡し、深手を負ったジャムル・フィンの追撃を任せた。

状況はようやく好転したかに見えたが、更に思わぬ事態が待っていた…、サラのハイザックの推進剤が底を尽きかけていた。
残量が乏しい上に、格闘戦の姿勢制御を連続で強いられ、消耗が激しくなっていたのである。

「くそっ、まずっ!!」

急に単調になったハイザックの動きに気付いたガ・ゾウムは、隙を窺いミサイルポッドとナックルバスターをパージして
ビームサーベルを抜き放った。

「うおおおおーーーっ!!」

サラの窮地に、真っ先に反応したのはリンだった!!
手にしたビームライフルを宙に流し、空いた両のマニュピレータで、隙を見せたガ・ゾウムの背後からしがみ付いた。

反撃はすぐに来た…、機体を猛烈に揺さ振り、貧弱なオッゴの腕を振りほどいたガ・ゾウムが、サーベル兼用のビームガンの
狙いをオッゴのコクピットに定めた。


「どこを見てるっ、この間抜けっ!!」

サラのハイザックが、すかさずヒートホークを投擲し、ガ・ゾウムのビームガンを腕ごと切り飛ばした。
続いてリンが放棄したビームライフルを掴み取り、すぐさま撃ち放つと、最後のガ・ゾウムは胸部を貫かれて爆散した。

「あっ、あのバカはどうした!?」

リンのオッゴは機体バランスを失い、回転しながらナハトムジークの方向に流れていった…、サラはすぐハイザックで追おうと
したが、遂に推進剤が無くなり、漂流を防ぐため急制動を掛け、その場に留まるしか出来なくなった。

「うぐっ、ぐうううっ!!」

リンは回り続けるオッゴのコクピットの中で苦しみ呻いていた…。作業用マニュピレータでは、モビルスーツのような重量移動は
出来ずAMBAC効果は期待できない…、緊急制動バーニアを全開させ、幾分緩和はしたものの完全には回転を止められない。

オッゴは一年戦争時の廉価かつ急造の兵器で、現行型モビルスーツでは標準装備になっているリニアシートはおろか、基本的な
ダメージコントロール機構すらもろくに機能していない。

「くそっ、このままじゃ…」

感覚が狂い始め、ヘルメットに溜まった吐瀉物で溺れそうになる、…そして、徐々に意識が遠のいていく。

「な、…んて、ザマだ…よ、いやだ…、まだ…、死にたくない、リョーコ叔母さん!!」

仲間たちが全員死ぬと思い込んだ途端、矢も楯もたまらなくなり飛び出した…、その行動を今更ながら悔いてしまう。

(……して)

何時しか幻聴まで聞こえて来る…、誰の声だろうか…、穏やかで優しい響きは、リョーコの声にも、アイネのものにも感じる。

(…落ち着いて、バランサーをここまで戻して、このレバーを…)

「………くっ!!」

幻聴が何らかの意味を持つことに気付き、半ば無意識で、その言葉に倣うリン。
更に制動の掛かる手応えを感じ、…程無くして、リンは完全に意識を手放した。

配下のガ・ゾウムと自身の継戦能力を失ったジャムル・フィンは、攻撃を断念し、戦線を離脱するしかなかった。

「くそっ、何だって今更、あんなものを見ちまうんだ…、あんなもの…、あんなものをっ!!」

戦闘の流れを変えたオッゴの乱入に、パイロットは湧き上がる複雑な感情を抑え切れずにいた。
昔日のア=バオア=クーの戦い…、カスペン大隊の奮戦とその終焉…、その全てを忘却の彼方に置き去ったはずだった。

「オレたちのあの戦いは…、いったい何だったんだよ…、エルヴィン…」

永い間忘れていた、同じ機体で戦った戦友の名を思い出し…、戦う意義を失いかけた男の目に、何時しか涙が浮かんでいた。

「リン、聞こえるかっ、応答しろっ、応答してくれっ!!」

「リンんんっ、返事するんだよっ、ばかあああっ!!」

リンが気付いた時、自分の乗ったオッゴは、ナハトムジークから発進したハイザック=ワーカーとボールに保持されていた。
ハイザックにはレナードと髭面のグレッグ整備長が馴れぬ二人三脚で、ボールにはいつも通りアイネが搭乗していた。


「………ま、だ…、生きて、いるのか…、ボクは?」

発光信号を受けたナハトムジークから数本の繋留索が放たれ、オッゴとサラのハイザック、満身創痍のGMクウェルが
ハイザック=ワーカーとボールの手を借りて、次々と着艦していった。


「このバカがっ、ヒヨッコの分際で、イキがりやがって!!」

ふらつく足取りで母艦に戻ったリンを待っていたものは、ウォーレンとサラの鉄拳で、特にサラのものは容赦が無かった。
倒れたリンを支え、荒くれ者の傭兵相手に気丈に睨み返すアイネ…、普段は主張を控えるレナードもリンを必死に庇う。

…だが、二人の小隊長は、それ以上の追及はせずに場を辞した。

その後、部隊の服務規律違反に抵触したにも係わらず、リンは懲罰房入りを免れ、至極短い訓戒のみで済んだ。
それがサラとウォーレン、そしてグレッグたち整備班の面々の口利きであることを知ったのは、かなり後になっての事だった。

「本当にもう…、あんな真似はやめてくれよ、リン」

「リンッ、こっち見てっ!!」

アイネの甲高い声に、リンは渋々従い、両頬を同時に挟み込むように叩かれた。

「アイネ…、痛いよ」

心なしか男勝りのサラの鉛の塊のような拳よりも、もっと痛むような気がした。

「その辺にしてあげなよ、アイネ、リンがいなかったら、ボクらも、この船もどうなっていたかわかんなかったじゃない…」

「でもっ、リンが死んじゃうのはダメなのっ!!…、リンは、もっと命を大切にしないといけないのっ!!」

感情の昂ぶりを抑えきれない少女の、自然と拙く幼くなる言葉が、ひどく胸に突き刺さる。

「………、ごめん、アイネ…、ごめん…」

あの時、聞こえた少年のような声は…、もしかしたら、オッゴに乗って命を落としたジオン兵のものだったのかもしれない。
死んだ少年の優しい声と、生きている少女の暖かい叱咤の声が、交互にリンの怯えた心を満たしていった。

「ほほう…、訓練生の中にも、なかなか面白えヤツがいるじゃないか…」

新しい護衛艦と新規の防空システムを積載した補給艦と共に、ナハトムジークに帰還したシャルンホスト=ブッホは
戦況報告と関連した記憶媒体を受け取り、口角を楽しそうに吊り上げた。

「丸腰同然のポッドで、敵の中に突っ込んでいくようなバカは久しぶりに見たぜ…、いやあ、実に面白い」

政財界の名士とも思えぬ伝法な口調は、叩き上げで鍛えられたこの人物の頑強な内面を明確に表していた。

「リン=カンザキか…、こいつも候補に入れておくか」

【 続く 】

ようやく戦闘開始…、登場する機体は、みんな08小隊のEZ8か、「AOZ・刻に抗いし者」に
出てくるワグテイルのようなカスタム化されているものと脳内補完してくれれば有り難いですw




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