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二回戦 第五試合 クズハ VS 創発亭串子

作者 ◆KazZxBP5Rc

ワーワーワーワー……!

依然歓声の鳴り止まぬ会場。
スピーカーから響く実況者のアンテナさんの声も、普段のクールなイメージに似合わず、興奮の色を増してきている。
「さて、いよいよ二回戦! まずはクズハ選手と創発亭串子選手の試合です! 解説の柏木さん、この試合、どう見ますか?」
「やはり注目したいのは串子君だね。一回戦は不戦勝で実質これが初戦。実力は未知数だ。前回大会からどれほど腕を上げたのか期待したいね。」
「第一回は初戦敗退でしたもんね。一方クズハ選手の方はどうでしょうか。」
「そうだねぇ、回復は十分だろうから、この試合も健闘してくれるだろう。」
「ありがとうございまず。それではそろそろ、両者、入場です!」

さらに激しさを増す声援の中、二つの影が闘技場のフィールドに現れた。
一方からは、大きな三角耳とふさふさの尻尾を持つ銀髪少女が。
他方からは、髪をふたつのおだんごにまとめ、丈の短い戦闘用の中華服をまとった若い女が。
それぞれの思いを秘め、リングに上がる。
(私はもっと匠さんの役に立てるんだってこと、"結果"で示さなくちゃ!)
(ふふ、悪いけど、あなたには創発亭の知名度アップの礎になってもらうよ。)
ほどなくして、審判・よし子の合図。
「試合開始だーっ!」

「っ!」
速い。開始と同時に串子は一跳びでクズハに肉薄する。
クズハの直前で左足を一旦着き、溜めを作って……しかし攻撃を中断する。
串子が大きく後ろに引いたのとクズハが身を翻したのがほぼ同時だった。
一瞬後、二人のいた場所に土槍が鋭く伸びる。
「速いですね。」
「そっちの魔法もね。」

再び串子の跳躍。
しかし魔法の陣は既に組まれていた。
二人の間を阻むように、地面から今度は太い柱がせり上がってくる。
串子は突然現れた柱をとっさに蹴って方向転換。
着地後、クズハの方に向き直って見ると、彼女は二本目の柱を立てているところだった。

「なるほど、障害物を置くことによって相手の速さを制限してるのか。」
「本当にクズハちゃんのセンスには驚かされるばっかりだな。」
クズハの保護者・匠とその友人の彰彦は、応援に全霊を注ぐ観客の中、彼女の動きにただただ感心していた。
「ふむ、それだけではなさそうだの。」
すると、彼らの一団に混じっていた見事な金髪美女が、妖しげな笑みを浮かべながらそう口にした。
「どういうことだ?」
「まあ見ておれば分かる。」
この金髪美女・キッコは、今は人の姿をとっているが、本性は大阪和泉の信太の森の主である狐の異形だ。
それに、クズハと深いつながりのある、母親のような存在でもあった。
「直に……な。」


十数本の柱を立て終えたクズハは、リングの中央付近に陣取った。
「……おかしいですね。」
クズハは途中から串子の姿を見失っていた。
臭いで追おうにも、複数の場所に存在を感じる気がして、はっきりしない。
と、突然柱の陰から串子の顔が覗く。
クズハの耳がピクリと動き、反射的に掌から炎を飛ばす。
するといともあっさり串子はその場に倒れた。
「?」
不思議に思って確認しに行くと、はたしてそれは串子ではなかった。
確かに顔は串子のものであった。
だが、首と言えるものが無く、二足歩行ではあるが腕が無い。

「あれは……カイテンシマスヨ!」
観客席の一角から、アジまるまる一尾という顔を持った筋肉質の男――その名もアジョ中――が叫んだ。
「知っているのか? ミスター鯵クーダ。」
アジョ中に疑問を投げたのは、女性用パンツを顔面に被った男子プロレスラー・SSPだ。
変態も度を過ぎた格好のSSPだが、なぜか会場をSSPコールで埋め尽くさせるほどの人気者である。
しかし今大会の成績は一回戦敗退。人気だけでは勝てないのが勝負の世界なのだ。
「カイテンシマスヨ。串子の使い魔だ。彼女はあれらを使って他の屋台を乗っ取り、創発亭の店舗を増やす。」
アジョ中がSSPに説明する。SSPはその台詞の中のひとつの表現に引っかかりを感じた。
「あれ……ら?」

ピクリ。
クズハの耳が、今度は真後ろからの物音を捉えた。
すかさず振り返り、火の玉を発射する。
「残念。」
「!?」
声と共に強烈な蹴りがクズハの"真横"から襲ってきた。
「くぅ……。」
「おーっと! クズハ選手、とうとう蹴りを食らってしまいました!」
アンテナさんが驚きの声を上げる。
串子は攻撃後すぐにまた柱の陰に引っ込んでしまった。
「まずいです……。」
相手の動きを封じる柱のはずが、逆に相手に利用されてしまった。
(こうなったら、あれを使うしか……。)
今後の策を練りつつ、串子の次の攻撃を待つ。
やがて、三度目のピクリ。
クズハは先の攻撃で学習していた。本体の方が若干体重がある。つまり足音が大きい。
気配は五、六感じる。だが、集中すれば……
「そこですっ!」
「うわっ!」
普通の人間より耳の優れたクズハには聞き分けることができるのだ。
串子がたじろいだ隙に、クズハは一番近い柱に寄る。
そして、その柱に向けて、体内から大量に魔法の源・魔素を注ぎ込んだ。

「あれは……?」
匠はクズハの行動を不審に感じてつぶやく。
するとキッコが答えた。
「あの柱の並びが陣になっているようだの。」
「それがさっき言ってたことか。」
思い出して彰彦が唸る。
「そう。あの陣に魔素を注ぎ込むと、」
ドグヮァァァァァァァン!!
突然の爆発。
轟音にかき消された言いかけの言葉の代わりに、キッコは改めて結ぶ。
「……と、こうなる。」

「すさまじい爆発です!」
アンテナさんが叫ぶ。
硝煙がリングを多い、粉塵は観客席にまで達していた。
「相手がどこにいるのか分からないなら、全部吹き飛ばしてしまおうという判断だね。」
この状況においても、柏木は冷静に自らの仕事を成す。
「まあ、クズハちゃんとしては、なるべくこの手は使いたくなかったみたいだが。」
煙が晴れる。
リングはボロボロの凸凹になっていた。
その上に、無傷のままのクズハの姿があった。
ただ、確かに傷は無いのだが、苦しそうに地に手をついてうずくまっている。
魔素を消費しすぎたせいだ。
一方、リング上にはもう一つ目を引くものがあった。
黒焦げの大きな塊。
しばらくして、それがもぞもぞ動き出した。
かと思うと、中からミドルヘアの女性が、塊を弾き飛ばして姿を現した。
「串子選手! 串子選手です! どうやら爆発でおだんごが解けてしまったようです!」
「とっさにカイテンシマスヨを集めてガードしたようだ。ダメージを殺しきることはできなかったようだがね。」

串子はとどめの蹴りを浴びせようと距離を詰める。
よほど消耗しているのか、クズハが動く様子は無い。
「これで終わ……!」
しかしその脚は、クズハにあと数センチで届こうかというところで止まった。
足元を見ると、クズハの体を囲むように陣が光っている。
「バリアって奴? 往生際の悪い!」
だが、彼女の体力は既に限界のはず。
このまま押して押して消耗させ尽くす!
「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!」

「このままだとあのお姉さんの勝ちのようですね。」
戦いを見守る数多の観客の一人・とある青年が、傍らの少女に話し掛ける。
「ふむ、そうかもしれん。」
外見に似つかわしくない口調で話す少女。
彼女はセラ・ハールマン。齢二百を数える吸血鬼。
……という"設定"。
本名は世田春菜と言い、正真正銘ただの十一歳の少女である。
この大会、一回戦のクズハとの戦いで、謎の人物に"設定"どおりの力を与えられはしたが、それも今は無くなっている。
なぜ彼女がこのような"設定"を演じているかというと、隣にいる青年が原因である。
簡単な話、彼女は青年が好き、青年は"設定"のような女性が好き、ということだ。
「だが、あの小娘の実力は相当なものだ。戦った私が言うのだから間違いない。このままおとなしくやられるのを待つとは思えん。」
繰り返すが、春菜はただの少女である。ゆえに、
(なーんて偉そうに言ってみたけど、間違ってたらどうしよう……。)
などと内心では考えていたりするのだった。

「はぁ……はぁ……。」
串子はなかなか破れない障壁にいらだちを募らせていた。
「このっ!」
力任せに殴ってみるが、やはり割れない。
「こうなったら!」
串子は、その場に思いっきりしゃがみ込んだ。
手も地面につき、体重を出来る限り下へと落とす。
そして、限界までかがめきったところで、空へと、高く跳んだ。
「高い! これは高いです! 十メートルはありましょうか!」
ジャンプの頂点、串子は体を一回転し、姿勢を整える。
その後、右足をピンとまっすぐに伸ばした。
全身の力をつま先の一点に集める。
あとは姿勢を崩さず落下するのみ。
「串刺しキィ――――ック!」
串子の足が見えない障壁を捉えた。
ギリ……ギリ……パリィン!
ガラスの割れるような音がして、その勢いのまま、クズハの体が文字通り串刺しに……。

「クズっ……ハ?」
匠は、叫ぼうとして、中途半端な疑問形になってしまった。
理解しがたい光景が目の前に広がっていたからだ。
クズハと串子の体が、まるごと燃えている。
そして、彼女たちの背後。
片膝をついたまま、二人に右掌を向け、疲れと嬉しさの入り混じった顔をして、もうひとりのクズハがいた。

「狐と化かし合いなんて、百年早いですよ。」
新しく現れたクズハが手を振ると、炎と、串刺しにされたクズハが丸ごと消えた。
この状況には実況のアンテナさんも目を丸くしている。
「これはっ……どういうことでしょう? 柏木さん。」
「うん。爆発が起こってから、見えていたクズハちゃんは実は分身だったようだね。本物は瓦礫の中に潜っていたようだ。」
「それだけの魔法をあの爆発の後に?」
「彼女の尋常じゃない魔素の保有量がなせる業だね。」
リング上ではよし子が倒れた串子の様子を確認していた。
「串子ーっ! 立てるかーっ!?」
返事は、無い。
「試合終了ーっ! 勝者! クズハ選手!」
その声を聞き届けた後、クズハもまた、その場に崩れ落ちた。

串子が医務室で目を覚ました時、傍にいたのはアジョ中だった。
「お前も負けちまったか。」
見回すと、もうひとつのベッドの周りに、クズハの仲間であろう一団が集っているのが見える。
状況を理解した串子は、アジョ中に答える。
「はは、また地道に屋台引いて頑張るよ。」
気分は爽やかだった。
知恵と力、いずれも出し切った上の敗北。
「前回が一回戦落ち、今回が一勝……か。次は二勝を目指そうかな。」
「ん? お前、一回戦は不戦勝じゃなかったのか?」
「あ、いや、ははは……。」
舞台裏の一回戦をバラしそうになって、串子は笑ってごまかした。

反対側のベッド。
「匠もまだまだだの。」
「あんな大がかりな仕掛け、見抜けねえよ。」
と、キッコと匠が言い合ってるうちに、
「お、目を覚ましたようじゃ。」
匠の養父である老人・平賀がクズハの無事を告げた。
「ここは……?」
「医務室じゃよ。」
「デジャブだな。」
一回戦と同じ展開に、彰彦が笑い飛ばす。
対照的に、匠は困り顔だ。
「こう毎回毎回倒れられると心配だよ。」
「すみません……。」
「こりゃ、匠君、クズハ君に気を使わせるな。」
一同がわいわい言っている中、一番後ろで一人寡黙に見守っていた人物・キッコの相棒である明日名が、ここで初めて口を開いた。
「クズハ、次が山場だよ。」
何人かの唾を飲む音が重なった。
次の試合、おそらく相手はあの蒼髪の女だろう。
たしか女神と呼ばれていたか。
そんな称号を持ち出すまでもない。
荒事慣れしている彼らには、一回戦の様子で分かっていた。
彼女が、彼らには及びもつかない力を持っていることが。
それにもし、もしもだが、あの女神をあの少年が倒したとしたら、それはそれで相当やっかいな相手ということになる。
「それでも……。」
クズハは、明日名ではなく、匠の方を見つめた。
「分かってる。」
それでも、クズハは立ち向かうだろう。
匠は、クズハの頑固さを、これまで嫌というほど思い知らされてきた。
だから分かってる。
だけど……。
匠はせめてもの抵抗として、クズハに微笑み返す瞳にほんのちょっとの寂しさを紛れ込ませた。

【二回戦第五試合 勝者 クズハ】

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