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ガンダム総合スレ「第88独立宇宙戦団:3」

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第88独立宇宙戦団:3



168 :第88独立宇宙戦団連邦軍部隊:3:2011/03/14(月) 02:04:28.53 ID:yAXTCePr

…地球より最も遠いコロニー宇宙国家サイド3、ジオン共和国。
第88独立宇宙戦団に合流すべく、傭兵たちを載せた艦隊が慌ただしく出航していく。

「しっかし大丈夫ですかねえ、司令…、申告と違う上に、こんな古い船で」

「バーカ、船の頭数さえ揃ってりゃいいんだよ…、連邦のお役所仕事なんざ」

疑わしげな口調の副官が煩わしくなった、ディラン=マグダエル中佐は首を傾け聞き流した。

帯同予定だった旧式のパゾク級輸送艦が機関トラブルを起し、その代替に調達出来たのは、さらに
ポンコツに磨きのかかったパプア級補給艦という有様である。

かってミサイルキャリアとして就航した艦種だが、ミノフスキー粒子が宇宙空間戦術に組み入れられ
長距離誘導兵器が無用の長物となってからは、広大なペイロードを生かすため全面改修され、以降は
補給艦として運用されている…、いずれにせよ耐用年数をとうに過ぎた老朽艦に違いはなかった。

「どの道、どれひとつ取ってみても、一年戦争の時分から使い倒してるドン亀に代わりはねえだろ…」

チベ改重巡洋艦ジーグリンデの艦橋から外部の僚艦を仰ぎ、そのまま首を一通り巡らせたディランの顔に、
やや自嘲めいた笑みが浮かんだ。

その乗艦を中心にムサイ改軽巡洋艦が3隻、いずれも申し訳程度の近代化改修は施してあるが、対する
アクシズ残党は最新のエンドラ級巡洋艦を中心に艦隊を編成し、強力なモビルスーツを搭載している。
果たして、どの程度渡り合えるものか…、あまり希望を持てる未来予想図には成り得なかった。

「…航海の安全を祈る」

先導していた、これもまた旧式のソドン巡航船第13キバヤシ丸が定番の発光信号を放ち離脱していく。

「安全ねえ…」

ディランのぼやきと共に、ブリッジの全員が今回の航海で最も縁遠い言葉を口中で反芻して苦笑していた。
ともかくも本隊に合流する前に、まず月面都市フォン=ブラウンに寄港しなければならない。

以降の作戦のため、貸与されるモビルスーツや最新式の艦載ミサイル等の物資を受領するためである。
個艦性能差に不安がある以上、せめてモビルスーツや武器くらいは新しくなければ戦いにもならない。
今まで散々使い倒してきたセコハンのゲルググM(マリーネ)やザクⅡFZでは、甚だ心許なかった。

「入港許可でました、ルナツーよりの補給艦の到着まであと0:20…」

艦橋まで報告に来たナイルキア=メルクセス副航海長が、律動的な所作で床を蹴り慣性に身を任せる。

幼さの残る容貌ながら、チョコレート色の肌にしなやかな肢体が魅力的な女性兵士(ウェーブ)を
ヤニ下がった眼で追っていたことに部下に気付かれたディランは、わざとらしい咳払いの後正面を
見据えた。


「司令、こいつが納入品の目録です、目を通しといてくださいよ」

「あー、このやたらとクソ高いミサイル、ちゃんとムサイの発射管から撃てんだろうな?」

「だーから規格統一のための改修のはずですって…、ま、さすがにタム対艦ミサイルみたいな長物に
相当する規格品はないみたいですが…」

「なんだつまらん、ありゃあ景気付けにちょうどいいんだがな…、どこぞの武器ブローカーの在庫に
純正品はねえのかよ…。俺がザンジバル級に乗ってた時はな、こうすれ違いざまにマゼランの……」

「あーもう、どうせ今時、あんなでかいミサイル当たりませんって!!」

ロクでもない法螺込みの自慢話を披露される前に、副官のバクシーは強引に話題を打ち切った。

「くれるってモビルスーツは、やっぱ例のザクもどきが主流か…、ま、どうせ余りすぎたんだろうが
アレならガルバルディのほうがまだマシだな、今時、ビーム兵器がライフルかサーベルの一択なんて
どんだけ半チクな設計してやがる!」

RMS106ハイザックの量産最適化モデルの有名すぎる欠点について、不満が出るのは当然であろう。

せっかく小型高出力のジェネレータを採用したのに、原型機であるMS06ザクⅡの製造工程において
エネルギーバイパス系の改良が巧くいかず、甚だ中途半端なレベルで生産コストとの折り合いをつけて
しまった結果である。

無論、製造工程を組み直してコストを幾分上げれば解決出来る問題であり、事実、後発のカスタム機で
解消されているが、開発当時、ジオン残党相手にはそれで充分と判断されてしまっている。

皮肉にも、旧公国軍の一大プロジェクト=統合整備計画を経たザクⅡの生産性や信頼性は、他には全く
問題が見受けられず、ハイザック量産は至極快調に進み、かなりの数が先行のGMⅡを抑え普及した。

「まったく散々手間や予算をかけた挙句、敵たる連邦に利する結果になるたあ…、つくづく情けねえ」

「アクシズの連中もそれが気に入らないのか、やたら高性能機をザクの後継にでっち上げましたからな。
あとガルバルディの、…β型の話ですか、あんなクセの強い機体貰ったって慣熟飛行が大変ですって…」

「ん?…、面白い機体がありやがる…、オーガスタだかオークランドだかのニタ研が閉鎖された時に
引き揚げてきたらしいぜ、…ったく、ア=バオア=クーの時にこいつが間に合ってりゃなあ」

「………ま、今となっちゃあ、どの道旧式ですがね、まったくもう何の因果で、かってのジオンの
モビルスーツ同士が…」

(そうかもな、…さて、撥ねっ返りどもの技量や性根がどの程度だか知らんが、やるしかあるまいよ)

UC0087…、地球圏外縁部より帰還したハマーン=カーン率いるアクシズ軍、連邦軍の内部抗争に
武力介入、両者の間を立ち回り巧緻の限りを尽くし、遂にスペースノイドの怨敵ティターンズを壊滅。

対するエゥーゴも継戦能力をほぼ失い、機を図り、新たにネオジオンの名を掲げ地球侵攻作戦を開始。

連邦首都ダカールを電撃占拠した手際は見事と言ってよく、かって辛酸を舐めた多くのジオン市民が
快哉の声を上げた…だが、そこまでだった。

結局の所、アクシズの指導者達には、かっての狂熱にも似た信奉や己が命運を預けるに足る求心力に
欠けており、サイド3という国土回復(レコン=キスタ)に拘泥した挙句、連邦の轍を踏み、自らも
内部抗争を引き起こした。

その内包する不穏さや不安定さを敏感に察知したのか、採掘基地コア3を初めとするサボタージュや
造反が続発…、弱体化したはずのエゥーゴの反攻を許し、ハマーンもザビ家の血統による支配を唱え
反乱を起こしたグレミー=トトも次々に落命していった。

(今更、時計の針を元に戻すことはできねえってこった…、もう大概、見極めないといけねえな)

もう充分に破壊し、存分に殺し殺された、それでも世界は変わらない…、否、変えられなかったのだ。

このまま寄る辺とするギリギリの足場すら擦り減らし、喪失してしまえば、もはや宇宙移民に未来は無い。
過去を振り切れず燻っている連中が、なお飽き足らず、ようやく訪れたささやかな静寂や安寧すら乱すと
言うなら…

(そろそろケジメをつけねえとなるまいよ…、オレ達も…、アイツらも、な)

…それが、今次作戦のため召集されたジオン外人部隊を統率するディラン特務中佐の意志だった。

 … … …

同時刻、船籍サイド6、ブッホ=コンツェルン海運部門所属宇宙輸送艦、”ナハトムジーク”。
連邦軍の旧式輸送艦を買い取り、複数の新型試作モビルスーツの運用のために改造したものである。

より正確に表現すると、一年戦争時コロンブス級をベースに、突撃艇やモビルスーツ搭載能力を付加した
アンティータム級宇宙空母に更に手を加えたものであり、艦体構造や装甲材はより堅牢なものとなったが、
建前上、緊急事態の為に民間船を徴用したという形になっているため、武装は排除されている。


「旧公国軍にも、同じような経歴の船があったよなあ…、確か、ヨーツンヘイムとかムスペルヘイムとか
いう縁起でもねえ名前の…」

「気障な言い回しをすりゃ歴史は繰り返すってヤツだ、でも、こっちは妙な縛りで対空砲ひとつねえしな。
…おかげでケツの据わりが悪いったりゃありゃしねえ」

おそらくスペースデブリの回収事業の頃から従事しているであろう、年季の入った甲板員たちの噂話を
耳にしたリン=カンザキは気取られないないよう、彼らの視界の死角に身を隠した。


「護衛って名目で寄越される連邦の軍艦も、旧式のモスボールを片っ端から解除して回してるらしいな」

「そりゃあ、単にオレらの監視役にしかならんだろう…、そいつらを守るのも実質この船の搭載機の役割に
なるわな」

「ティターンズやらジオンやらの戦争犯罪者だった傭兵パイロットに、共に守っていただくワケかよ…。
そりゃあ何とも肝の冷える話だわ」

「この艦のクルーにしたって半数はジャンク屋稼業の時分からの叩き上げだが、もう半分は…、おっと!」

身を潜めていたリンに気付いた甲板員が会話を打ち切って、微妙な表情を浮かべたまま、その場を離れる。
自分や仲間たちを見て、彼らが口を噤む理由など想像するまでもなかった。

(そうだな、…なんだって、こんなことになってしまったんだか)


「あれえっ、あたしのこのポッド、…頭に、て、鉄砲付いてるよおおおっ!!」

艦内作業用に支給されたばかりの作業ポッドを見たアイネ=クライネが、思わず情けない悲鳴を上げた。
武器に疎い民間人の少女には知る由もないが、無論、鉄砲どころではない…、空間仕様120ミリ低反動砲は
旧公国軍のザクタイプなら一撃で撃破出来る代物である。

「そりゃそうだよ、アイネ、そいつは民間のメーカー品じゃなくって昔の軍用ポッドだからね」

今月で16才になったばかりの少女に、同級で軍事マニアのレナード=サモイが訳知り顔で講釈を垂れる。

「星一号作戦で、連邦のGMの火力支援を担っていたモビルポッドでボールっていうんだよ。連邦は徹底した
物量作戦を敷いたからね…、戦後に一部の機体が民間に払い下げられたって聞いたけど、武装が今でもまんま
残ってるのって珍しいよね」

「…ぼーるって、見たまんまじゃない、センスないなあ、もっとマシな呼び方なかったの?」

「えーと、愛称はミスターボールっていってたかな?」

「…………、元より長いし」

「こらっ、アイネ、レナード、何呑気にサボってんだよ、早くこっちのコンテナの搬入を手伝え!!」

アイネとは別の型のモビルポッドに乗ったリンが、手を休めている同期生たちに叫んだ。

「わかってるよ、リン、相変わらず堅っ苦しいヤツだねえ」

サイド6製のリーア35ドラケンEを器用に移動させながら、レナードも物資搬入用のエアロックに向かった。

「ほら、アイネも…、作業用のマシンの形なんか別にどうでもいいだろ」

「あたしのが可愛いもんっ、何よっ、そっちはまるでカビ臭いドラム缶みたいじゃない!」

リンは与えられた道具や機材の見てくれを取り立てて気にする性分ではないが、実の所、自分自身そういう心証を
抱いていたことに違いはなかった…、そこに、期せずして振り返ったレナードがリンの疑問に答えた。

「リン、お前の乗ってるそれ…、オッゴといって一年戦争末期にジオンが作った、いわゆる決戦兵器ってヤツだよ」


「決戦兵器だって?…、ウソだろ、こんな貧相なものが?」

言葉の持つイメージから、有名なリックドムやゲルググ、もしくは、怪獣的な外観で巨大なモビルアーマーのような
メカニックを連想したリンは自分の耳を疑った。

「正確には数合わせの急造品って意味合いだよ…、だから、同程度の物でも大量生産品のボールと違って実機もろくに
現存しないし資料も少ない、当時の軍関係者かよほどの軍事マニアか、でなければアングラ文書でも漁らなきゃ、多分
判らないんじゃないかな」

「じゃあ、これも戦争のための道具ってことか、でも、どうして…?」

確かに今の話から何らかの稀少価値を見出せるものであることはわかる。…しかし、同時にこんなに古い機体に
作業用機材として、特別な重要性や付加価値が生じるわけではない。

「ゼダンの門…、当時はア=バオア=クーって言ってたか…、その傍にデブリの吹き溜まりがあったらしい。
オヤジさんのチームが其処から見つけ出して、何か感じ入るところがあったのか…、何機分か拾い集めてレストア
したって聞いたよ…、確か、2・3機どこかのサイドの航宙博物館に寄贈して…、こいつはその残りだろうね」

おそらくブッホコンツェルンの現C.E.O.であり、この職業訓練プロジェクトの主催者、シャルンホスト=ブッホが
ジャンク屋として荒稼ぎしていた頃の話であろう。

「ぼくらか、それ以下の年回りの少年兵が乗せられたらしいよ…、いやだねえ、戦争ってヤツは…」

モビルスーツやヘビーな軍事知識を興味の対象にしていても、レナードは年相応の良識や分別をきちんと弁えている。
何かとはしゃぎがちなアイネも、その話を聞いた途端、目に見えてしゅんとなる…。

それを見たリンは、精神の根幹で、バランス感覚を充分に保っている仲間を好ましいと素直に感じた。
でなければ、持って生まれた生真面目な性分では、個性的過ぎる彼らと友人付き合いなぞ出来ないであろう。

「さ、いくぞ…、ぼくたちのノルマはまだ山ほどあるんだから」

気分を切り替え仲間を促すリン…、しかし一方で、今まで胸中に抱いていた疑念が徐々に確信に変わりつつあった。


「うわあ、すごい、おっきいっ…、あるぇー、でも今度来るのも作業用重機って言ってなかった?」

アイネがエアロックから続々搬入される巨体に圧倒される。…それらは紛れもなくモビルスーツだった。

「これって連邦軍のハイザックじゃないのか?…、細部がいろいろ違うけど…」

「あたしにはよく判んないなー、ざくとは違うの、ざくとは?」

「一年戦争後に、連邦がザクの生産ラインを接収して近代化改修したモデルだよ、中身はほとんど別物だけど…」

「だけどって何だよレナード、納入リストを見直したけど、これ傭兵用の機体じゃないぞ…、何度見てもやっぱり
空間作業仕様って書いてあるし」

「あっそうか、これは用途廃止になって武装を取り外した機体なんだ、そんなに古くもないのに、もう民生用が
流通してるのか?」

「ふーん、これで民間機なんだ…、こんなお化けみたいな機械買ってどうするのかなあ?」

「世の中、好事家とかモビルスーツ愛好家はたくさんいるしねえ…、ほら、この前サイド6で水陸両用モデルが
何機か暴走した事件があっただろ、あれも有名なマニアが所蔵してた物らしいよ」

「ああ、あのキテレツな海坊主みたいな形したヤツな…」

…よく判らない世界だ、とリンは思う、実際、単なる作業用ならプチモビやモビルポッドで充分なのである。

「贅沢なホビーだよね…、いいなあ、お金持ちは…」

アイネらしくない精彩を欠いた声を聞き、リンたちの表情も曇った。


………そう、彼らが現在ここにいる理由は。


「ん、レナード…、こいつは戦闘に使えないって本当か?」

雰囲気を変えるつもりで、リンは、先程ふと浮かんだ疑問を口にした。

「民間に払い下げるならそうなってるはずだよ、…ほら、肩のアーマーの打突用スパイクひとつ無い…。多分内部の
FCS(火器管制装置)のような電装品も外してあるさ、テロに簡単に転用できたら重大な責任問題だからね」

モビルスーツは人の似姿として徹底した意匠と機能を持たされており、マニピュレータ規格に合わせた重火器ならば
簡単に使いこなす事が出来る。

そして、ただ1機の悪意を持ったモビルスーツが人造の大地であるコロニーにとって、どれほどの脅威に成り得るか。

…モビルスーツを用いた戦闘行為は、そういった危機を常に孕んでいるのである。


(待て、逆に考えるなら…、改造可能な技術や資力を持ってれば、いつでも戦争に使えるってことじゃないのか?)

現にレナードによれば、ハイザックは民間軍産企業でもライセンス生産されており、部品調達も比較的容易という。
加えて、ブッホ=エアロダイナミクス等の高度な技術力を擁するブッホ系列社がその気になれば造作もあるまい。

オッゴやボール等の自分たちの使っているモビルポッドも然り、ドラケンEもサイド6では軍や警察で利用されている。

(…この艦に搭載されてるあらゆる機体は、いざとなったら武装して、戦いに駆り出されるってことか!?)


…丁度、1か月前のことである。

リンたちの集められた施設は、宇宙居住者のうち未成年者を対象にし、コロニー公社等へ宇宙作業従事者の安定した
供給を目的に職業訓練を施すものである。

連邦政府の掲げる戦後復興プログラムの一環で、参画した企業には相応の助成金が出ることになっており、現時点に
於いては、まだ運用試験段階だが、主なスポンサーであるブッホ=コンツェルンは、非常に積極的な姿勢を見せ
正式に宇宙職業訓練校として発足するのも、そう遠い先の事ではないと、マスコミには報じられている。


…ある日、リンたち十数名の学生は、緊急呼集を受け研修室に集められた。

まず目に入ったのは、研修卓の上に置かれた「契約書」の文字だった。

一通り文面に目を通したリンは慄然とした…、そして、改めて一緒に集められた仲間の顔を見回し、ある共通点を
見出して、更に身を強張らせた。

…知る限りにおいて、いずれも実技成績が優秀であると同時に、経済的に少なからず問題を抱える者ばかりだった。

宇宙移民が本格的に始まって、未だ一世紀に満たず、コロニー居住者に富裕層はまだまだ少なく、多くの若者が手に
職を付けるため、ブッホ社の職業訓練プロジェクトの門を叩くのは至極当然の事と言えた…、だが、これは。


「…まさか、ぼくらに戦争をやれと!?」

「君、名前は…?」

「リン=カンザキです、…質問にお答えいただけますか!?」

「君はなかなか想像力が豊かなようだが、些か飛躍が過ぎるようだ…、もう少し適格な判断力を身を付けた方がいい」

「ブッホ=コンツェルンの仕立てた船に乗って、海賊退治のための作戦に参加する…、何か誤解する余地があると!?」

「我々はあくまで後方支援の、そのまた手伝いのようなものだ…、いいかね、敵である海賊の戦力は、ほんの一握りだ。
グリプス戦役や去年のアクシズ戦役のような、コロニーや宇宙都市を股にかけた大掛かりな戦争になるわけじゃあない」

「…そんな、実際に戦いになったら何が起こるか!?」

「連邦宇宙軍からも充分な護衛部隊が出る、慎重なのは結構だが、そこまで生命の心配をする必要はない…、それにだ」

担当官の口調は今や悪魔の囁きに似ていた。…そして、契約書を手に取り、改めて全員の前に提示した。

「君らはこの見返りに魅力は感じないかね?…、無論、何ひとつ危険がないとは言わん、…が、自分らを取り巻く環境を
省みてよく考えることだ」

気圧されたリンはそのまま押し黙ったが、周りの仲間の顔を見ていると、さして迷いの色は見受けられなかった。

レナードは、まずモビルスーツなどの兵器を間近で見れるという期待や知識欲が完全に先立ち…、アイネも愚かな少女
ではないが、若すぎる上に戦争行為や兵器に対する知識にあまりに疎く、その方面に想像力を働かせる下地がなかった。

そして何より明示された報酬、もしくは約束された待遇は、経験の足りぬ若者たちの心を惑わすに、充分なほど破格の
ものだった。

「君たちが首尾よく責務を全うできれば、契約も希望通り履行される…。何、半年間巧くやればいいという話だ」


(リョーコ叔母さん…)

一年戦争で両親を失ったリンを、今まで育ててくれた母の妹で、憧れの女性…、苦労を重ねて、ようやく自分をこの
職業訓練施設まで送り出してくれたが、健康を損ない、職場を辞めざるを得なかった。

リンが、自分の収入で彼女の恩に報いるには一体何年かかることか…。

「…では、一時間後に個別に面談を行う、皆、充分に考えて決めるように」

逡巡を幾度も重ねた末、リンはペンを取った…、そして、それが彼らの熾烈な戦いの始まりだった。


就業時間が終わりアイネたちと別れたものの、モヤモヤした気分の晴れないリンは、また格納庫に逆戻りしていた。
既に歯車は動き出し、抗う余地はない…、契約で生じた責務の放棄は、莫大な違約金を支払わなければならなかった。

(くそっ、なんてぼくは馬鹿だったんだ!!)

都合の悪い核心を暈かし、巧みな心理誘導に長けているのが大人である…、胡乱なものを嗅ぎ取ってはいても
結局は掌の上で踊らされ、まんまと絡め取られてしまっている。

この船は、確かにその運用上、敵の矢面に立つことはない…、だが、戦闘状況において、後方の支援部隊や設備を
積極的に叩くのが戦術の基本中の基本であることは、素人のリンにでも容易に想像がつく。

ブッホの造船部門が技術の粋を凝らして改装した船ではあるが、所詮は丸腰であり、しかも他のスタッフの噂から
判断するに、連邦軍から派遣される護衛艦船は、ほとんど旧式で戦力として期待できないという。

リンたちが、あのハイザックや頼りないモビルポッドで戦いに出る局面が無いと、いったい誰が断言できよう。
生命を賭けた戦いを意識した途端、情けなくも手の震えが止まらなくなる。

だが、今や、半年間生き延びて報酬を掴むか、虚しく宇宙の塵と化すか…、どちらかしか道は無かった。
ふと、自分に与えらえた駆逐モビルポッド・オッゴのコクピットを見上げ、思いを馳せるリン。


(ぼくらか、それ以下の年回りの少年兵が乗せられたらしいよ…、いやだねえ、戦争ってヤツは…)

ふと、レナードの言葉が脳裏に蘇る…、このオッゴに乗っていたジオン兵は、いったいどんな奴だったのだろう?

「なあ、おまえ…、おまえは、いったい…、どんな気持ちで戦ってきたんだ…」

リンは、まるで幻視するかのように眦を向け、コクピットに向かって、名も知らぬ少年の魂にそっと囁いた。

「きっと大切なものがあったんだろうな…、そのために、殺し、殺される決意をして、そこに座ったんだ…」

それに引換え、平和な時代に生きているはずの自分たちは、愚かな選択の末に、ここに来てしまった。

「ぼくは駄目だ、駄目な奴だ…、大切なものがあるのは変わらないけど…、僅かな金に目が眩んで、気がついたら
何の覚悟も決まらないまま、ここにいる…」

自分の両腕を掻き抱き、いつしか力を失った両膝で冷たい床に跪くリン。

(リョーコ叔母さん、ごめん、…、逢いたい、…生きて、また逢いたいよ)


サイド6内のとある商業都市…、ブッホコンツェルンの系列会社が運営する一流ホテルの一室に男たちはいた。
誂えられた調度は重厚で豪華であるが、華美に過ぎず、総支配人の趣味の良さが窺えた。

「ここまで年を経て、なお得難い友人に恵まれるということは実に幸運なことだ…、わしの人生も捨てたもの
ではないと、ようやく思えるようになったよ…」

今だ逞しさを感じさせる初老の男が、ワイングラスを傾けながら言った。

「宇宙世紀きっての名士…、政財界最後の大立者とまで呼ばれる御身に、そこまで買っていただけるとは…
非才かつ若輩の身のとしては、身の引き締まる思いです」

対峙する高級スーツに身を包んだ壮年の男が、それに答える。

「何…、利口なつもりで、ネオジオン相手に愚かな火遊びをしておる、議会に巣食ったあのアホウ共よりは
はるかに好ましい…。ところで、例の案は通りそうかな?」

「宇宙圏外郭新興部隊構想ですな、来期までには予算の目途も付きそうです、小生に出来るのはこのくらいで…」

「判った…、では、88はそこまでの繋ぎとしよう、次期主力機や人員の選定は任せてよいかな?」

「了解しました…、それにしても驚くべき慧眼ですな、改めて感服しました」

「世辞はいい…、アナハイムの連中、他にも欲を掻いて何やら画策しておるらしいが、全ては規定の範囲内だ」

「…ところで、例の件ですが、本当によろしいのですかな?」

「ああ、マイッツァーめの器量に収まるならそれでよし…、そうでなければ」

年を重ねてようやく出来た嫡子の名を口にし、初老の男は一旦言葉を切った。

「このわしが一代で成した財と、せっかく買ったロナ家の名…、他に有効に使いこなせる者がおれば、それで構わぬ」

「…まったく、救世の騎士たちの敵に成り下がりたくはないものですな」

「いやいや、没落貴族の名なぞ虚名にすぎぬよ…、それに、どんなに取り繕おうと結果的に振るわれるのは暴力だ。
ならばいっそ、我らの方こそ、”海賊”とでも名乗るか…」

「なれば、その時が永遠に来ないように祈ることとしましょう、…互いの信じる神の御名に於いて」

「何、これから先も貴君のような硬骨の士がおれば、そうはなるまいて…」

(…逆に言えば、より堕落したその時が、断罪の始まりということですな、…小生も含めて)

壮年の男はしばし瞑目した後、再び口を開いた。

「ところで、御身自ら88に赴かれるというのは本当でしょうか?…、些か剣呑ではありませんかな?」

「もはや、わし自身が事を興す機会はなかろう…、なればこそ次代の旗手たちの見極めを他人任せにはできぬ。
メラニーあたりに知れたら、刺客のひとつも差し向けてくるかも知れぬがな…、何、手は打ってあるさ」

「御身にとって88とは、そのための投資であり、戦力や人材であるわけですか…、ですが、あまりに」

「よい…、これは是非ともやらねばならぬこと…、我らは、ザビ家のように時代を急ぎ過ぎたりもせぬが、あの
ビスト財団のサイアムめのように、己が殻に閉じ籠もるような真似もせぬ…」

「ブッホ一族、いえ、ロナ家百年の計というわけですな、…わかりました、これ以上は申しますまい」

「議会工作が必要な時には言ってくれ…、それでは、しばしの別れになるが息災でな、ジョン=バウアー」

【 続く 】

…とまあ、味方陣営の紹介はここまでになります。
なんか、ハイザックの悪口ばっかり書いてたような気がしますがw





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