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「カボス」、「巫女」、「こたつ」①

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「カボス」、「巫女」、「こたつ」①




480 名前:創る名無しに見る名無し:2008/12/04(木) 23:06:17 ID:sSQ8F7Rn
「うー、さぶっ」
 まったく、歴史のある神社というのも困ったもんよね。
 別にいいのよ? 正月も巫女装束で、やってくるお客さんを
もてなさなければならない、っていう伝統に関しては。
 そのお陰で、最近のブームにも乗っかれて、参拝客はウナギ昇り。
お守りとか破魔矢の捌ける数も、数年前から比べると数十倍にまで
なったんだから。生活の為に神社をやってる、うちみたいな家から
したら、懐が潤うのは悪い事じゃないってのは、確かにそう。
 けどねぇ……巫女装束しか身につけちゃダメ、ってのはどうなのよ?
しきたりだかなんだか知らないけど、上にも下にも、巫女装束以外の
服を見につける事が、うちでは禁じられている。
 寒風吹きすさぶこの真冬、しかも山上の境内において、ほとんど
シャツ一枚に等しいこの巫女装束は、厳しいとかそういうレベルじゃない。
鍛えてないと死ぬ。いやホントに。
 この為に、秋口から水垢離とかやって寒さになれる訓練はしてるん
だけどねぇ。それでも、やっぱり寒いものは寒いのよ。仕方無いわよね?
 だから、休憩時間になると、部屋に飛んで帰ってこたつに一直線。
「あぁー」
 思わず風呂に入ったおっちゃんみたいな腑抜けた声が出る程温かい。
 まさに生き返るような心地、って奴よね。
 今日はまだ正月に向けての準備だから、このままお昼の流れだ。
しばらくはこの天国に浸っていられる……ああ、幸せ……。
 けど、参拝客が来るわけでもない、正月に向けての準備まで、こんな
薄布一枚でやんなきゃいけないのは、何かこうしきたりに対する理不尽さ
みたいなのをどうしても感じるわね……。
「おーい、和美ぃ」
 あ、何か呼んでる……けど、出たくないのよね、この天国から。
「なぁに、仁樹?」
「今日、冷え込むから、昼は鍋でもしようと思うんだけど、いいかぁ?」
「構わないわよぉー、っていうかむしろ大かんげー!」
 岩沢仁樹は、私の従姉弟だ。料理人志望とやらで、この時期になると、
うちの神社で出店みたいな感じの飲食店をやっている。というわけで、
正月前後になると、うちの料理も彼が作ってくれるんだけど、これがまた
美味しい。彼のお店も、参拝客増加の一因ね、きっと。
「よっしゃ、しばらく待っとけよぉー」
 確か、冷凍庫にはお豆腐があったはず。お鍋にはやっぱり豆腐よね。
あの豆腐も仁樹の手作りで、とっても美味しいのよねぇ……あ、涎出そう。
 それに何より、仁樹が作る鍋と言ったら、自分でカボス搾って作って
くれる、ポン酢の美味さが特筆物。適当に作ったしゃぶしゃぶでも、
アレにつけて食べたらホントにほっぺたが落ちそうなくらい美味しく
感じるんだから。
「あー、ホント幸せー」
 まあ、この幸せもつかの間なんだけどね……。
 昼休み終わったら、父さんや母さんと準備の作業替わってあげないと。
流石に両親働かせっぱなしでコタツでぬくぬく、ってわけにはいかないのさー。
「孝行娘よねぇ、わたしも……えへへ」
 自分で言ってみて、ちょっと照れくさくなっちゃった。あは。
 ま、今はまだわたしの休憩時間。
 ひと時とは言え、この幸せを時間の許す限り味あわせてちょーだい。

                                               終わり


569 名前: ◆91wbDksrrE :2008/12/29(月) 17:37:30 ID:g9y4W+X3
「さっむいなー……」
 軽く鳥肌が浮く腕を見ながら、何となく息を吹きかけてみる。
 これが、しばらく経ったら今度は汗すら出てくる程暑くなるんだから、全く
火の力というものは偉大と言うかはた迷惑というか。
「よいしょ、と」
 大鍋に、一気に水を注ぎ、大型コンロにしかける。
 出汁の素を投入し、コンロに火をつけると、一気に部屋が暖まり始めた。
「ふぅ……あったけ」
 しばらく煮立つまで待っている間に、具材の下準備に取り掛かる。
 そうしていると、朝日も昇り、外が明るくなってきた。
「おはよー」
「おう」
 朝日が昇ると同時に、背後から挨拶の声がする。いつもの事なので、
俺は振り向かずに手だけ挙げて答える。
「仕込み中かー。あったかそー」
「暖かいなんてもんじゃなくなるんだけどな、これから」
 大鍋の水が沸騰するまではそれなりに時間がかかる。俺は手元で具材を
切り揃えながら口を開いた。
「明日から、気の早い連中がもう来始めるだろ? だから、準備は今日から
 しておかないとな。お前もだろ、和美?」
「そうなのよねぇ……まったく、寒いわ混むわで毎年嫌になっちゃう」
 肩越しに振り返って見ると、彼女、天乃江(あまのえ)和美はがっくりと
肩を落とし、大げさにため息などついていた。
「こっそり毛糸のパンツでも履いておいたらどうだ?」
「仁樹ぃー、それセクハラー」
「はは、すまんすまん」
「うむ、許してつかわす!」
 ため息顔が、笑顔に変わる。
 うん、やっぱりこいつはこっちの方がいい。
「学校はもう休みだよな?」
「うん。だから少しは楽なんだけどね」
「ま、継ぐつもりがあるんなら、しっかり頑張れよ。俺も応援するし」
「仁樹の料理は何よりの応援ですよー。今日の昼も楽しみにしてるからね!」
「今日は仕込みと、あと店が少しあるから、賄い飯になるけどいいか?」
「ぜーんぜん。むしろ賄い大好き」
「ははっ、そう言ってくれると助かるな。和美は、これから水浴びか?」
「水垢離と言いなさい水垢離と。冷たくて嫌になるけど、あれやっとかないと
 こんな薄着できないからねぇ」
「大変だな、本物の巫女って奴も」
「ホントよー。うっかりこけたら大変よ。全部見えちゃうんだから」
「……お前、それ逆セクハラだぞ」
「あら、仁樹ったら純情……冗談はともかく、いつかあんたにも着せて
 あげるから、巫女さんの服」
「すね毛生やした女装巫女か……」
「ネタにはなるわよ?」
「……むぅ」
 一瞬悩んでしまった自分。我ながらどうかと思う。
「さて、じゃあ行ってきますか!」
 彼女はパンパンと自分の頬をはたいた。気合を入れたらしい。
「おう、行ってこい。あ、帰ってくるとき忘れずに新聞取ってきてくれよ」
「はいなー」
 彼女は、ひらひらと手を振りながら、冷たい空気の満ちた朝の境内へと
出て行った。
「さて、と」
 丁度頃合よく、大鍋の水が沸騰したようだ。切り分けた具材を投入しながら、
俺は昼飯の事を考えていた。
「今日の賄いはなんにしようっかなぁー」
 何となく、心が弾む。
 今日はいい事がありそうだ。
                                     終わり


570 名前: ◆91wbDksrrE :2008/12/29(月) 17:40:01 ID:g9y4W+X3
一応。
480を書いたのも私です。続きというか、別場面で。


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